伯爵は、友人への想いに大いに悩む
「……とんでもないことになったわね」
私は帝都へ向かう馬車に乗る同乗者に同意を求めた。
「とんでもないっていうかぁ、それをやろうとしたマリニャンがとんでもないよねぇ……」
「なんというかー……マリアベルが可哀想にも思えてきたけどねー」
ため息と苦笑いを混じらせながら、同乗者のミサオとマオは返答してくれる。
急ぎ帝都へ向かう馬車の中。
今回はランページの騎士団から数名同行し、私達とは別の馬車を厳重警護しながらの道中でもある。
もう一つの馬車には、私達が今回行う重要任務の中でも要となる、ドッペルゲンガーを乗せている。
また、ドッペルゲンガーを運び、そしてそれを帝都のカシムール殿下に引き渡すのは、霊峰で捕らえて、今はランページの麾下となった、二人の元特殊部隊の二人。
元々ドッペルゲンガーを確保しに行った部隊の二人には、このままカシムール殿下の許に戻るのか、それともランページに就くのかは、自由に決めていいと伝えてある。
なんとなく。
二人とも、一度捨てられたこともあってか、ランページに戻ることを選択してくれそうな気もしているのだけど、そうなったらランページに優秀な人材が残ってくれることにもなるから嬉しいと思う。
「まー、マリアベルについては自業自得ではあるんだけどもー」
「マリアベル……。数週間経ったけど、何も聞かなくなったわね」
「あー、うん。まーねー。……フィンとエルト殿下が色々動いたから貴族界隈ではもう噂は立ち消えてるようなものだけどねー」
「むしろ、噂でも危険だったんじゃない?」
「危険どころかぁ……処断も考えられたんじゃないかなぁ?」
ムールとマリアベル。
両方とも、平民な二人は、大貴族とも言える私の家を乗っ取ろうと計画していることを大々的に発表しているようなものだった。
本人たちはそんなことを思っていたわけではなく、ただ単純にそうであることが正しいと思っての発言だったんだと思う。
だけど、それは貴族を陥れる行為に他ならない。
私はそこまで貴族の考えをもっているわけでもないけども、そんな私でも対処しなければ危険であると感じるのだから、この噂話を耳にした貴族然たる貴族の耳に入っていれば、二人は即この世から消えていたのだろうとも思えた。
……もっとも、そういう相手の耳に入ってしまっていたからこそ、ここまで大きな噂にもなっていたのだろうと思うのだけども。
そこはフィンとエルト君が押さえ込んだということなんだと思う。
流石の二人。
と褒めたいところだけど、フィンについては、あの一件があってから、素直に褒めることができない。
そう考えると、結構私の中でダメージが大きかったんだな、と思う。
それこそ、ムールに婚約破棄されることや、マリアベルに婚約者を奪われたことよりも。
「……まあ、二人が今どうなっているかなんて。私の知らないところで知らないままに、私とこれ以上関わらないでほしいなってところが本音ね――って、何?」
私が答えるまでにちょっとした間があったようで、二人が訝し気に私を見ていた。
「マリニャン……正直に答えなさい」
「え、え……?」
「フィンとぉ、なにかあったでしょぅ?」
「っ!?」
なぜわかったのこの二人。
「顔に出やすいからねぇ、マリニャンはぁ……」
「そんなに出てる?」
「でてるよぅ。……でぇ? フィンとなにがあったのぅ?」
二人には敵わない。
私も自分の心を少し整理したかったこともあって、二人に何があったかと話すことにした。
「ふーん……フィンがねぇー?」
「……そうじゃない、と思ってはいるんだけども。やっぱり、そういう目で見ていたのかと思ってしまった自分もいて」
「まぁ~、私達からしたらぁ、それはないと言い切れるんだけどねぇ」
「……そうなのかな」
「というか、本人に聞いたらーと思うけど、流石にマリニャンは聞けないかー」
「それもそうだけどぅ。むしろ、マリニャンってぇ……今更自分がフィンのこと好きだって気づいたのぅ?」
気づいた。というわけでもない。
気づかないふりをしていた。というほうが正しい。
学生時代から、あんなにも気の合う男性はいなかったと思う。
じゃなかったら冒険者パーティを一緒に組んで霊峰とかダンジョンを一緒に回ったりしなかったし。それに、本当は、フィンに群がろうとする他家の令嬢を追い払っていたのだって、今更ながら、嫉妬だったのかもしれない、なんて思ったりもしている。
情はあるけど私に興味のない婚約者がいる私が、手に入れることのできない相手。
そして、当時は、帝王家と中立を保たなければならないというしきたりのあるランページの代理当主だったから、フィンへの恋心なんて表に出しちゃだめだと自分に言い聞かせていたんだと思う。
だから、気づいちゃいけない。
自分が気づかないようにするために、フィンに悪い虫がつかないようにと、言い聞かせて護っていた。
周りから見たら、すっごい変な令嬢だったんじゃなかろうか、私。
「……そんなに、分かりやすかった?」
「いやー? 完璧に隠してたと思うけどー?」
「特にぃ、フィンには分からなかったんじゃないかなぁ? 本当にぃ、フィンの親衛隊ぃって感じだったからねぇ」
「まー、しっかし、両片思いなんだけども、報われないってのもなんだかねー」
「ランページ不可侵法がなくなったらぁ、二人は結ばれることもできるわけでしょぅ?」
「なのに、フィンがやらかしているってことが問題よねー」
フィンは悪くないんだと思う。
私がそう思ってしまったことが悪いんだと思う。
「どうせさー。フィンかエルト殿下に、王女様の件を話をしなきゃなんだから。ついでにー、フィンと仲直りしてきなー」
「それもそうよね」
ドッペルゲンガーを帝都内――王城の中へ引き込んだだけでは、今回の話は終わらない。
ドッペルゲンガーを王女様に変化させ成り代わらせ、その間に王女様を逃がさなくてはならない。それだけではなく、私は、王女様を生まれ変わらせるという重要な任務も抱えている。
それには、ランページの強権。そして、それをすぐに帝都内で実行できる、王家の力が必要となる。
すぐに行動に移せるのは、フィンとエルト君。標的の王女様はできないし、カシムール殿下に頼むことなんて、交換条件に婚姻を迫られたりするだろうから、絶対にできるわけがない。
だから二択。
フィンの方が話しやすいし協力もしてくれる。けど、エルト君の方がフィンより権力があるし派閥も強いから、説得できれば何より早く処理もできる。
「しっかり話はしたほうがいいとは思うけどねー」
「話す機会、あったらいいんだけど……」
「むしろぅ、私達としては話をしてもらってぇ、とっととくっついてほしいんだけどぉ」
「ランページ不可侵法だって、カシムール殿下がとっぱらってくれるみたいだしー? 後はフィンがその間にいかにさっとマリニャンをかっさらっていくかよねー」
私はどうやら、二人の中ではフィンに攫われる予定らしい。
ランページ不可侵法。
それがなくなれば、確かに私は想いを伝えることができるのだと思う。
そうなれば、私としても、嬉しい。
政略結婚でいいとは思っていた。だけど、していたら悔いが残っていたんだと思う。例え無理だったとしても、想いを伝えることができるということでも
すっきりできるかもしれない。
流石に、婚約破棄されて数週間で別の男性に恋慕を伝えたり、婚約するなんてこと、マリアベル達より醜聞が悪い気もするけども。
そんな話をしながら、私達は帝都へ向かう。
ドッペルゲンガーを連れて、エスフィ王女を助けるために。




