伯爵は、助けを求める
「やっちゃったもんはしょうがないー……」
まるで連行されるかのように、ミサオとマオに前後を挟まれながら本邸へと戻る。
連行された場所は私の私室兼執務室。
書類に忙殺されているヨモギが、ぎょろりとこちらを睨んできた。
私は本能的にこの執務室という牢獄から逃げようと一歩後ずさる。だけども、後ろにいるミサオに、「逃げちゃだめだよぅ」と背中をごすっと押されてたららを踏むように執務室へとまた戻ることになった。
疑似的に、犯罪を犯した囚人みたいな体験をさせてもらっているんだけど、私、貴方達の上に立ってるはずの領主だってことは忘れてないよね、二人とも?
「……不吉なこと言いながら入ってこないでもらえないかな? マオ姉」
「いやー、だってマリニャンがやらかしてるからー……」
「姉さんがやらかしてるのはいつも通りでしょう?」
そう言うと、ため息をつきながら机にことりと二つの瓶を置くと、二人がその薬を取って品定めする。
「……ぁあ。うんー……そうね。確かに必要よね、これ」
「仮死状態になる薬はぁ必要ないけどねぇ……」
私もそう思う。
仮死状態になる薬は、死を覚悟した時か、本当にドッペルゲンガーしかいなくて、罠を張ってる時にしか使わないかもしれない。
「とりあえずこれは僕が預かっておくけど。……それで? 姉さんは何をやらかしたの?」
もう諦めたかのように高級そうな椅子に深く腰を下ろしては、ひじ掛けにどしっと肘を落として聞いてくるヨモギは、とてもその席に座っているのがよく似合う。
うん。やっぱりヨモギにこの領地をすべて任せたほうがいいに決まっている。
そう思ったので、マオ達から話を聞いているヨモギの隙をついて、机の引き出しにしまっておいたハンコを取り出してすっとヨモギの前に差し出すと、笑顔で引き出しに戻された。解せぬ。
「……いや、国際問題になるでしょう、それやったら」
「だよねー」
「しかも、もう片方が動き出している、と?」
「そうなのよぅ」
「……なにやらかしてるの、姉さん?」
はい、すいません。
でも言わせてほしい。
「ランページの名を穢すべからず」
「猪突猛進のほうの名は、穢してもらって結構」
……最近、みんなの、私へのアタリが、強い。
「はー……」
ヨモギが、ぎしっと、音をたてて深く椅子に沈んで天井を見上げた。
「二つ、ある」
勢いよく戻ってきたヨモギは、机に両肘を置いて、口元を隠すように手を組んで話し出した。
「姉さんの考えた話を元にするなら、本当にエスフィリア王女を殺したことにするのは大前提。ドッペルゲンガーも変化後に殺して。……王女様の居室のベッドに寝かせて死を偽装するのが一番いいかもね。いや、どちらかというと、勇者ややんごとなき殿下たちに被害をだすことと時間稼ぎを考えればそのまま演じてもらい、処罰をなすりつけるべきかな。とんでもない事件になるだろうからそっちのほうがいいか。で。王女様とキュア王子には、その間に身分を捨てて逃避行してもらう」
それが一番いい方法よね。
私もそれが一番だと思う。二人には、身分を無視して幸せになって欲しい。身分のせいで二人は満足に会えなかったんだから。だけど、レンジスタ王国がキュア王子を手放してくれるのかが不安が残る。それに、二人は王族だから、平民になって普段の生活が出来るのかと問われると、そこも不安だったりする。
……うん? 王国のこと云々は置いておいて、エスフィ王女は、メイド服とか着てるし、普段から平民のことを調べて生活してるから、平民事情に詳しい。……それなりになんとかなる? キュア王子は冒険者にでもなればいいんだし。意外といけそうな気がしてきた。
「でもこれだと、エスフィリア王女が生きていることを知られる可能性が高い。それに、キュア王子はどうやって出奔するのかによるけども、多分レンジスタ王国が離さないから、捜索されると思う。結局、王女様が生きてることは知られちゃうだろうから、そうなった時に、確実に王国と帝国の戦争が始まるね」
流石にレンジスタ王国が帝国より大きくないとしても、帝国は苦戦は強いられるだろう。でなければ同盟なんて組まないし。それに帝国は、モロニック王国という王国と常時戦争中だから、左右から攻められるとなると、厳しい。モロニック王国をランページのヴァイスリッターで抑えたとしても、南西側はヴァイスリッターのような軍勢がいるわけでもない。同盟を組んでいるから最低限の兵力しか備えてないから。
「レンジスタが動いたら、ここぞとばかりに北方のナーガ国――五公七王の国が攻めてくるだろうから、南西のレンジスタ、東のモロニック、北のナーガから一斉に攻め込まれて帝国は終わりだろうね」
「エルト殿下が北西を統治しているからー、ナーガはなんとかなるかもしれないけどもー?」
「シアルフィ公国にいるシグル・ド・シアルフィ公子がエルト君と一緒になって戦ってくれるだろうけど、流石に残りの連合公国と王国を抑えきれるとは思えないわね」
「もっとも、そこは五公七王国は水面下では仲良くしてるだけだから、これをきっかけにあっちも戦争になるだろうね。ついにナーガ国を統一できると躍起になると思うよ」
「じゃあぁ……なんとかなりそぅ?」
「そのきっかけとなったのが二人の駆け落ちだった、と歴史に名を刻むことを二人がよしとするなら、かな。というか、二人とも、そうなったら悲しむでしょう?」
……二人とも、国を想う心は誰よりもあるから。
だから、周りが婚姻を遅らせていたにしても、二人も声を出さなかったのよね。
「だとしたら、なしね」
「じゃあもう一つの案。聞く?」
「教えて」
私がヨモギに聞くと、少し前まで戦争になったらどこをどう攻めるかなんて物騒なことを話しているミサオとマオの声がぴたりと止んだ。
というか、あんた達。なんて話してるのよ、とか思ったけど、二人とも、なんだかんだでヴァイスリッターの軍団長なのよね。
ルインを軍団長とした騎馬隊。
マオを軍団長とした魔法師団と弓兵混合の中距離部隊。
ミサオを軍団長とした歩兵部隊。
後方支援と遠距離部隊の部隊と軍を動かす部隊――中郡部隊。
それらを含め統括するのが私。
それらすべてが、ランページが誇る帝国の最強部隊【ヴァイスリッター】。
そう考えると、ここには、中郡部隊軍団長兼ランページ軍参謀のヨモギもいるんだから、この部屋は、もしここが戦場であれば、ある意味軍議の場ともいえるわね。
「最初は一緒だよ」
そう切り出したヨモギの声に、私はまさに作戦を聞くかのように真剣に聞く。
「エスフィリア王女を殺したことにする。ドッペルゲンガーが変化後は、殺すのかそのままにするかはどっちでもいいかな。どちらにしても、王女様の死は偽装する」
それは先の話と一緒である。そこまではもう決定事項。
そうなると、後は――
「エスフィリア王女に、どこか口の堅い伯爵家辺りの養子に入ってもらって、電撃結婚してもらう」
ヨモギはそう言うと、私を指差した。
「口の堅い伯爵家で、且つ今すぐに動けるのはこの伯爵家――つまりは、姉さんのランページに、養子として入ってもらう。これが一番だ。姉さんが直系の当主だから、王女様は年齢詐称の上、妹になってもらう」
ほー。養子。養女として扱って、しかも伯爵家であれば王家とも婚姻できるぎりぎりの位置だから――
「――……え?」
エスフィ王女が、私の養妹に、なるの……?
私、血の繋がらない妹、多くない……?
「要は。分かっていても、外から言えないくらいの強権で事実を作り、誰にもなにも言わせなくすればいいんだよ。噂好きが噂する程度だけに終わらせられるように。それが出来るのは、ランページという、外からあまり知られていない謎のヴェールに包まれた巨大な土地を治める、帝王さえも、不可侵法なんて作っちゃうとんでもない権力をもった伯爵家と、そして、ランページの長である姉さんにしかできないことだよ。将来的なことを考えると、ランページ継承権はない、と書類にしっかり書いて置くのが理想。継承権も養子でもないどこぞの食客みたいに、乗っ取るなんて言い出しかねないからね」
この話に出てきた、ナーガ国のエルト君の親友扱いのシグル公子ですが、シアルフィ公国という国名を近いうちに変更しようと思います。本編にまったく参戦しない近隣諸国なんですけどね(^_^;)
とはいえ、とあるゲームのキャラクター名と国名がぴったりと一致してしまっておりました。
深く、お詫び申し上げます。m(_ _)m
なお、何のゲームか分かった方いましたら、読み専の方でもぜひぜひコメントやお星さまを^^
私、その作品、だいっすきです!(笑




