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【完結】伯爵様は帝国から抜け出したい  作者: ともはっと
伯爵の悩みは尽きない

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伯爵は、不利を悟る


 ランページ伯爵家は、インテンス帝国に古くからある伯爵家だ。


 インテンス帝国は、常に戦争を起こしていた。

 それは今は隣国――東に広がる霊峰と森に阻まれたシンボリック教国と、目下戦争中の、モロニック王国との領地争いである。

 何百年と続く戦争。小康状態を何度も繰り返しながら、互いの領地を取り合う争いを今も続ける。



 はるか過去。インテンス帝国がすべてを統べる。そう帝国が信じて疑わなかったフォールセティ統一戦争においては、


 シンボリック教国に突如現れた英雄王【英皇】

 モロニック王国を救わんと立ち上がった、モロニック第二王子【勇王】

 そして、王国と教国を結びつけることとなる教国の【聖女】


 彼らの登場により、圧倒的国力を持つ帝国は、風前の灯まで陥ったことがあった。

 その時の死者は、三国合わせて何万、何十万にも上るとも言われる、ナニイット大陸最大級の戦争である。


 インテンス帝国 対 教国・王国連合国の戦い。


 帝国を導く【帝王】の起死回生の采配により元の領地まで取り戻した、世に【英勇帝の戯れ】と呼ばれることになる領地の奪い合いは、どの国の学園の教育書物にも掲載されて熱く今も語られる。


 そんな歴史として語られる彼らが存命時――つまりは、今以上に争いの絶えなかった、まさに領地争いの全盛。


 戦時中に、【勇王】と【英皇】の喉元まで食らいつき、彼らを恐怖せしめてはライバルとまで言わしめた帝国騎士がいた。獲物に向かって猪突猛進する様から、【ランページ】と名付けられた帝国騎士は、のちの初代ランページ伯爵である。


 初代ランページ伯爵当主は、当時は、皇帝である【帝王】の護衛騎士。

 戦功による授爵と、度重なる戦争によって低下した国益と帝国の食糧難を、一領地でカバーしたことで更に名を馳せ、一代で帝国の東南辺境一帯を所領とした、成り上がりを絵に描いたかのような、稀代の英雄である。


 四世代前の皇帝の時は帝妃の父としても戦争の英雄としても信を置く皇帝派の筆頭であったが、以降は煙たがられて政争から撤退し中立派となる。政権に極力関わらないようになったことで、皇帝の発言力低下の要因ともなった。


 現在の帝国は、現皇帝派と帝弟派、各王子派と中立派に分かれており、ランページ伯爵家が身を引いたことにより、皇帝そのものの発言力は低下の一途を辿っている。いまでは決定権は帝弟派閥が持ち得、今にも帝国は内部から潰れてしまいそうであった。

 皇帝自身の弟によって大々的に乗っ取られかねない状況を打破し、過去の皇帝一強とも言える体制を確立するために、皇帝は自身の子さえも使い、ランページ伯爵家の後ろ盾とその類稀なる手腕を政権に戻そうと画策していた。


 そんな時に、伯爵家に訃報が訪れる。


 ランページ伯爵当主

 ミリアルド・ランページの死。


 帝都から領地に戻る際に暴漢に襲われて亡くなってしまったのだ。

 あわせ、後妻と言われていた、伯爵家の財政を担っていたシャリア・ベリーも共に死亡している。結果、伯爵家当主筋には、伯爵領地の仔細を把握している成人がいなくなってしまった。


 伯爵家関係筋と帝国皇帝は、まだ成人していなかった唯一の後継者マリーニャ・ランページを、後見人にランページの大叔父を立てて代理当主として伯爵家を存続させることにした。


 そして三年の月日が経ち、成人したマリーニャは代理当主から正統当主として帝国に受理され今に至る。大叔父も、その姿を見届けて天寿を全うした。

 二十二歳となり、もう行き遅れとなりかねない歳になったマリーニャ。代理当主として活躍してから当主となってからの七年間のマリーニャの快進撃により、伯爵領地は、豊かに、まさに過去の栄光を彷彿とさせるかのような、全盛期を迎えていた。


 あらゆる領地から、伯爵のノウハウを吸収しようと訪れる有権者や学者が絶えず。

 そんな伯爵家を創り出した伯爵女当主こと、マリーニャ・ランページは、自領が安定し、文官たちにほぼほぼ任せても大丈夫な経営状況になったことを確信し、そろそろ身を固めて後継者を、と、思い、久方ぶりに、婚約者とデートの約束をした。


 元々こちらが忙しいことは理解している優しい婚約者である。

 不必要な要件でやり取りすることもないものの、手紙のやり取りは常に行い愛を築いていた。

 ここ数ヶ月……――いや、一年は手紙のやり取りをしていなかったことはさておきではある。


 そんな、一世一代、とも言えるその日に、帝国最大の街、帝都で見せられたのは――









「お姉さま……」

「マリーニャ、すまない」

「……」



 最近領地で見かけないと思っていたら、帝都のタウンハウスを我が物顔で住んでいた、父の後妻と言われているも、正しくは伯爵家のお客様であり、代官扱いのシャリア・ベリーの連れ子――きらきらと光るような金髪と美貌の、我が愛する妹扱いのマリアベル・ベリーと、同じく金髪の整った優しい顔をした私の婚約者、ランジュ伯爵家三男のムール・ランジュが待ち合わせ場所に顔を出す。


 見せられたのは、帝都のデートスポットで有名なカフェテラスで、その二人の、目の前での仲睦まじい光景である。


 待ち合わせ場所として指定されたカフェテラスで待っていた私と出会った、久方ぶりにみる優しい面持ちの記憶しかないムールの顔は、今日はとても険しく悲し気に歪んでいる。その手は常にマリアベルの手を握り肩を抱き、互いを慈しみ庇いあうような雰囲気を醸し出していた。



 それこそ私を見て怯えるように。

 その、マリアベルの、膨らむお腹を、私に見せつけるように。

 私が、悪者かのような状況を創り出す二人に。



「……つまり、浮気をして責任を取らなければならない状況になったので、婚約破棄してほしい、と。そういうことですね?」



 やりおった。

 と。


 この場で、このようにすることで、巷で人気の悲劇によって引き裂かれた恋人達かのように悲哀を演じる二人に。

 その浅はかな考えに、ほとほと愛想が尽きてしまうのであった。

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