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バニラの香り

「…ったく」


確かにほっとくわけにはいかないよな


悠理も渋々といったふうに席から立ち上がり金髪の男がいる方向を見つめた。


新汰…あいつは少々やばい。


悠理の心の隅で警報が鳴り響いている。


あいつは何をしてくるか予測が難しく先手が打てない。



金髪の男は口元に笑みをこぼしていた。両端が軽く上げられた唇はまるで猛禽のくちばしのように獰猛でいびつにみえた。


しかしかなりタチの悪い奴と同じクラスになったものだと悠理は思った。新汰と同じクラスなのは嬉しいがあの金髪は。

あれは喧嘩を心の奥底から楽しんでいる風体だ。

どのクラスでもいえることは千里小学校出身者があまりに少なかった。知らない顔が多くつまりは千覚寺小出身者となる。絶対的不利な状況で初めから揉め事は避けたいなと悠理は思っていた。下手をするとこのクラス千里小出身者全てが排除の対象となってしまう。さて空手の指導者である渡辺ならいまどうするか、今現在を対象にしますか?それとも先を考えいまは動くべきではない?どちらを考え決断しますか?悠理はそれをまず考える。


結論はやはり渡辺先輩でもいま行きますよね。

だった。


同じ小学校出身者が二人に一方的にやられている。


もしこれが1対1ならば新汰も静観していたのかもしれない。



しかしきっとこれから何度も目撃する光景になるはずだ。



千覚寺は明らかに千里を目の敵にしている。千里出身の男=弱い奴とレッテルを貼っているのが悠理にはわかっていた。




新汰。いま行ったらあの金髪は必ず動くよ。これからキリがない戦いに巻き込まれていくことになるぞ。


仕方ないか。まあ…それが新汰の魅力の一つなんだ。


悠理はリクと呼ばれた金髪の男から目を離さない。


あれは本格的なワルだ。



悠理は喧嘩が始まったらすぐに仲裁に入るのを目的にゆっくりと歩きだした。



いまは授業と授業の合間。

生徒たちは個々になにかをしている時間だった。不良たちの凄む姿を横目に小声で話し込む男子生徒や机を囲む三人の女子生徒。


通称荒れ小。   




他の街でも有名になってしまっている千覚寺小の生徒たちにしてみればもしかしたら見慣れた光景なのかもしれない。助け船なんて誰も出さないのだ。目を付けられたら不良に一発殴られて泣いて終わり。そう皆が予想していた結末をすべて裏切るように一人の男が肩を怒らせて歩いていった。


少しずつ教室にいる全生徒から視線を浴び注目されていく須和新汰の巨漢といえる体躯。彼は坊主頭で眉は濃く顎は大きい。すでに男としての壮観さが備わっている男が不良の肩を後ろから掴みあげた。


その力は異常なほどに強い。


「なぁ、おい」



新汰の発した低い声に肩を掴まれた不良は驚いた表情で振り返った。この状況下で話しかけてくる奴なんてまずいないという先入観があった。いままでに喧嘩やイジメの最中に仲裁に入ってくる奴など皆無だった。しかしなんなんだ…この肩を掴む力の強さは。


男は新汰を睨みつける。


「なんだおまえ?肩放せ!」



最高なガン付けだと男は思った。いままでこれで何人もびびらせてきた。

多少びびらせばこちらの勝ちになる。


だが今回ばかりは違っていた。

新汰はまったく意に介さない表情のままだった。


「あのな、二人でやるな。かっこわりいぜ。やるなら一人でやれよ」


後ろから近づいていく悠理にも新汰の声が聞こえてきた。


正々堂々。


新汰のこだわりだな。



悠理は少し近づいていくスピードを緩めた。なにかあったらすぐに飛び込める場所で待機をする形だった。


「じゃあこれで終わりだな」



新汰がそう言って掴む相手の肩から手を離したときだった。


悠理の背後から一筋の閃光が走っていった。

 


悠理はまったく動けなかった。あまりの速さでありかろうじて気配を感じただけだった。新汰の後頭部に目がけてなにかが一直線に飛んでいく。


「新汰!避けろ!」


悠理の言葉は遅かった。



ガチンと鈍い音が響き渡り新汰は後頭部に衝撃を受け床に倒れこんだ。


金髪の男の飛び蹴りが巨体を薙ぎ倒していたのだ。


地面に着地した金髪の男は蹴る前に脱いだピンクのスリッパに悠然と足を入れてから、そのまま机を蹴って倒れた新汰のもとへ近付き顔面に向けて拳を振りかざした。

そこに悠理が自らの身体を捻り入れるように隙間に入り、新汰の顔面に向けて繰り出された拳を寸前のところで払い除け

た。


「なんだお前?」


リクが悠理を睨みつける。


二人の乱入によって喧嘩の規模はこの教室におさまらないほどに拡大していく。


リクの拳を掴んだままの悠理。

二人は睨み合いを続けた。



先にリクが動いた。膝を思い切り上げて悠理の腹に入れようとした。


「いい加減にやめて!」



一人の女子生徒が大声で叫んでいた。


「先生呼んでくる!」



眼鏡をかけた背の高い女子生徒が後ろ髪をなびかせて廊下を走っていった。


この生徒の名前は水樹椎奈。




悠理は金髪の男の膝蹴りを見事に受け流していた。そしてこの時、漂うのはなんだか甘い香りだった。


「え?バニラの香り?」


悠理はリクの甘い香りを何度か嗅いだ。










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