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一年A組 悠理と新汰と理玖

悠理と新汰は中学生になった。

中学校がある場所は自宅から徒歩で15分ほどの距離になる。

クリーム色のマンションから中学校までは北東にほぼ直線に延びる高速道路の高架下の側道を行けば北門への一番の近道になるのだが、そこは登下校の決められた道路ではなく多少遠回りをする形で南門から入っていくことになる。


この地域の公立中学校は二校の小学校が合流する。


悠理と新汰が通っていた千里小学校はこの街の西側にあり学区が狭く生徒も少ないために1学年で2クラスしかなかった。


中学校は7クラスあった。もう一つの街の東側にある千覚寺小学校の卒業生は千里小の倍以上の生徒がいた。そのために新たに友達を作ろうと思っても出身小学の流れがあり多少の戸惑いが生じる。最初は同じ小学校卒業生同士で固まってしまうのだ。


悠理と新汰は偶然にも同じクラスになった。7分の1の確率に二人は喜びを分かちあった。


「悠理!俺たち同じクラスだ、しかもA組だぞ、なんでも1番はいいもんだよな」



入学式の日、新汰が体育館横に貼り出されたクラス分けの掲示板を見て悠理の肩を掴んでから抱き着いた。


部活動も2か月後には決めなければいけない。悠理はぎりぎりまで悩んだ挙げ句陸上部に決めた。新汰には一緒に剣道部に入ろうぜ、空手と剣道極めてみろよと何度も誘われたが、元剣士だった父親とわだかまりが続く悠理はどうしてもやる気になれなかった。

昔の父はよく剣道二段の腕前を見せてくれた。それは悠理にはとってもかっこよくて眩しかった。

そんな人がいまは酒に浸り時々母親に暴力を振るう始末だ。

竹刀を見れば父の良き姿を思い浮かべてしまうと思った。竹刀を持つ父親はすでに消え入る寸前の残像かもしれないが、巨大な愛の裏返しのごとく苦痛の刃がきりきりと悠理の心に攻め入ってくるのがわかった。


中学校生活が始まって三日目の朝だった。


まだ気慣れぬ学生服を纏った二人はマンション入口で葉月と会った。


葉月は二年生になっていた。右手に鞄、左手には大きな黒いケースを持っていた。

元々、葉月の体型は細いほうだったが最近はより細くなったように感じた。猫背で覇気がない印象も受ける。


「あ、おはよう葉月」


新汰が少しぎこちなく挨拶をして、どうだ?みたいに着る学生服を指差した。


「おはよう。うん、二人とも学生服似合ってる」


葉月はちらっと笑顔を見せた。


悠理はなんだかほっとした。久しぶりにみた葉月の笑顔だ、そんな気がした。

また以前会ったときより少し頬がこけたように見えた。悠理は痩せていく葉月が心配だった。


「あ、わたしは一応は先輩になるね」


葉月はまた少し笑顔をみせた。


「いまから一緒に学校まで行こうぜ」


新汰が訊くと葉月は急に平静さを失うように鞄を持つ手を小刻みに振り出した。


「一緒にはごめん。行けないかな。朝の部活あるから急がないと…」



「そっか。残念だな」


新汰が呟いた。



「じゃあ葉月また学校で」


悠理が葉月に向けて手を挙げると葉月は少し困ったように顔を伏せてから「うん」と小さく頷いた。




@

その日学校の教室で嫌なものを見ることになった。

2時間目の授業が終わって休憩時間になったときだった。同じ小学出身の男子生徒がもう一つの小学校出身の不良グループに因縁をつけられていた。



「おい、おまえ。さっきこの俺にガン飛ばしたよな?は?黙ってないでなんか言えよ」


二人連れの男は机を左右から囲んで一人の男を挑発していた。



「い…いえ…君を睨んでなんかないよ…」



「うるせえ。早く謝れ。よし、土下座しろ土下座!」



一人が俯いたまま座る男子生徒の椅子を強く蹴る。



「あ…」


男子生徒はビクッと肩を震わしてから蛇に睨まれた蛙のように下を向いたまま固まった。


「あ、じゃねえよ。聞こえてないのかよ?土下座だよ土下座。早くしろゃ!」


不良の二人組はちらちらと後ろを振り返る。悠理はその行動を見逃さなかった。

振り返る先。一番後ろの席には短く刈り込んだ髪を明るい茶色に染めた男がいた。

足を机の上に投げ出し鋭い目つきのまま無言のまま睨みつけていた。


「早く土下座しろ!」



「リク。ちょっとこいついまからトイレ連れてってボコしてきていい?」




「す…すいません。でも土下座は…」



あの金髪男はリクという名前なのか。窓際に座る悠理は冷静に状況を見続けていた。



そして一人の男が男子生徒の後頭部をぱちんと平手打ちしたときに、ガタンと椅子と机が当たる音がした。悠理がその音が鳴ったほうを見ると新汰が貧乏ゆすりのように右足を強く揺り動かしていた。



リクと呼ばれた男は切るような瞳のまま睨みつけている。


この教室にいる生徒たちは皆が目を逸らし黙り込み見て見ぬふりを決め込んでいた。


教室の窓際の席に座る悠理は舌打ちをした。


「ったく…」



いま行くなよ新汰。


きっとあの金髪の男はお前が立ち上がるのを待っているいま動いたら大事になる。


悠理は窓の外に目を移して青く煌めく空を覗いた。


新汰。動くなよ。これは順位付けの仕方ないことだから。


と、悠理がそう思ったときに聞き慣れた荒い鼻息が耳に届いた。



「おいおい。やっぱり行くのか…だよな新汰だもんな」


新汰はバンッと椅子を蹴るように立ち上がると肩を怒らせながら二人の男のほうへと向かっていった。












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