第24話 戦いと未来への鼓動②
――放課後の教室
クラスメイトと作った新パーティー『奇跡のF級』のメンバーと攻略の準備を終えると、教室の扉が開いた。
前回、校庭で出会った一年の藤堂我胡とその後ろに例の黒石葉鳥が見える。
「木元達也。お前を殺しに来た。」
『「「「【鑑定】」」」』
使い方を説明して後だったため、全員が端末を操作し、鑑定結果が表示される。
『藤堂我胡 15才
人: 変身 狼男 男性
【A3】Aランク三類覚醒者
種類 剣[♠︎]
【拳王の一撃】
【閃光銃】
種類 貨幣[♢]
【獣王の威圧】 』
ステータスにより聴覚が鋭い俺には、楓雅、龍之介、璃音の男子三人でヒソヒソと会話している声が聞こえていた。
「強いのは知ってたけど、高校一年生なのに三類覚醒者なのか。」
「でも、達也に比べたら常識の 範囲内だぞ。」
「だよね。達也くんが負けるとは思えない。」
藤堂我胡に恨みはない。興味が無さすぎて今まで気にしてもいなかった。
「なんだよその生意気なツラは。反応しろよ。俺はお前を殺しに来た。」
「構うなと言ったはずだぞ。」
だが攻撃されるなら全力で対処するまでだ。藤堂が必死の形相で俺の前に立ち、睨んでいる。
「【 変身】 狼男」
「【進化形態】龍 天使 」
ふと違和感に気づいた。人間なのに必死さが、まるでモンスターみたいだ。藤堂我胡の目に映っているのは、本当は俺ではなく、その先にある何かのような気がした。
「ちっ。余裕の意味がやっと分かった。なるほど。尾上ごときでは敵わないはずだ。貴様も三類なのか。」
「なあ。お前はずっと、何に怯えてるんだ。」
俺は質問には答えなかった。それよりもひとつの疑問が自然と言葉になった。そして、はじめて藤堂我胡の事が気になってしまう。
「怯えているだと。この俺が? 笑わせるな。」
「お前は、人から奪うだけの奴等とは少し違う気がする。最初から仲間の敵討ちって感じだったしな。教えてくれ。お前は何に怯えている。」
「てめっー! いい加減にしやがれっ。ふざけるなよ。俺を侮るな。同じ三類でも覚醒値に雲泥の差があることを思い知れ。【拳王の――」
「【 溜聖】――」
一触即発の緊張は第三者の介入によって遮られた。
その瞬間、黒石葉鳥が二人の間合いに立ち、俺達の利き手に刃を向けたのだ。
「――坊ちゃん。もはや時間切れです。三類同士の戦いなら、郷右近の時以上に長引くことになるでしょう。塔の攻略が終わってからにして下さい。」
「葉鳥。何の真似だ。俺に命令するなっ。」
「無理矢理引っ張って行く事をお望みですか?」
「ちっ。命拾いしたな奇跡のFランク。必ず、お前の無能を証明してやる。帰るぞ。」
こうして、予期せぬ侵入者は自分のギルドに引き返した。
「聞いたか。あの藤堂我胡が捨て台詞だぜ。貴重過ぎるだろ。あと、それを言うなら『奇跡のF級』だ。なっ。達也。」
「……龍之介。藤堂の事を何か知らないか。」
例えば、それがどうしようもなく、彼が生きるために必要な事だったなら。
叔父さんや叔母さんは心を持たない俺を導いてくれた。もし藤堂の心が、今も暗い闇の深淵にあったのなら。
俺は拳を握りしめる。
ただの思い上がりかもしれない。でもはっきりと俺の中にあいつと戦う意志が湧き上がっていく。
――郷右近 乃重流は人を殺した
彼にとっては、それが初めてではない。
「はい。不審者が子供を人質にして学校に潜入しました。ええ。子供に被害が出る前に始末しましたよ。はあ。遺体はそのままですよ。俺は塔の攻略に急ぐので学校で処理をして下さい。」
郷右近はスマホをポケットにしまうと、ニヤニヤと笑っている。
「黒石葉鳥。考えてみれば奴は黒石紅葉の双子の妹だ。弱いはずがなかった。我胡の後、あの一瞬、俺にも残像しか見えなかった。そんなに強いなら先に言えよ。興奮して思わず部外者殺しちまったじゃねーか。」
―― 塔攻略 国内ランキング四位伝令使の杖 側
「切り抜き動画、見たか? 親父。生放送で盛大にやってんぞ。」
「何だそれ?」
「知らねーのか。これだよ。」
―― スマホ動画 ――
『党型ダンジョン攻略討論会 冒険者の最前線を走るギルドのトップ達 【 王権の象徴 切り抜きチャンネル】』
今では国民的人気の冒険者MCが司会を進行している。
「アメリカでの塔型ダンジョン20階制覇を皮切りに、世界各国が塔の攻略を開始しました。
日本でも、もうすぐ冒険者協会の調査が完了し、四大ギルドでの攻略が開始されます。
そして、本日は 王権の象徴の四天星の皆様にお越し頂きました。塔の攻略について、いろいろとお聞かせ願いたいと思います。
神御座のマスター『氷神』四天星の雷神 宗介 さんから、意気込みをお願いします。」
王権の象徴筆頭の《ディバイン 》御座は、二人の四天星を持つ元国内最強ギルド。九条美玲が現れるまで、雷神宗介は日本の冒険者の顔役を担っていた。
「日本は世界最多である四つもの塔に恵まれました。我々神御座は、いち早く攻略を進め、他の塔の攻略にも力を貸すつもりでいます。と、ここまでが世間の反応を加味した意見です。実際は三ヶ月以内に攻略しなければ人類は窮地に陥ります。だからこそ、トップとしてまずは危険を取り払わなくてはならない。塔型ダンジョンのモンスターブレイクは最も危険な災害になるでしょう。我々は、いち早く攻略し、最強のギルドとして他の塔の攻略も視野に入れ活動します。」
番組MCは少し焦っていた。国民の不安を煽ってはいけない。政府の指示により番組制作ではもはや常識だ。しかし、スルーするのもおかしい。
「さすが雷神さんです。国民が注目しているメリットよりもそのリスクに重点を置いていらっしゃるのですね。模範とするべき トップの回答だと思います。ですが、我々、国民としては心配するには及びませんね。何と言っても攻略する皆さんが日本屈指のスタープレイヤーなのですから。同じギルドの四天星、『粉砕女王』天翔 詩音さんは、塔型ダンジョンをどう思いますか?」
その雷神宗介が再覚醒するまで、マスターの地位についていたのが天翔詩音だ。仲間である雷神の力に魅入られ、彼を頭に据えた事で今の神御座が出来上がった。
「雷神と一緒です。報酬に浮かれる気持ちはありません。国が危機から目を逸らし一部地方の国民を見捨てている。ですが今は声を上げると捕まるような社会です。我々はトップギルドとして、あらゆる危機を想定し、国民の安全を最優――」
天翔の言葉は、常に個人より全体を優先する。彼女の清廉潔白な志は、それとは真逆である現在の日本を憂いていた。
しかし、権力を持つ大手ギルドとは違い番組を制作している側は大慌てだった。生放送での放送事故と言っても過言ではない。それはMCも同様で、人気とはいえ政府の意向ですぐに業界から干される事になる。だから、すぐに反応し天翔の発言に被せる形で注意していた。
「――天翔さん。政治批判はおやめください。すみません。四天星の皆様、次からは番組の事も考えてお話し下さい。黄金の 冠ギルドマスター『創成王』四天星、月山 拓海さん。塔攻略の意気込みをお願いします。」
ここで質問は月山 拓海に移る。
「みんなー見てるー。僕はクリエイターだから、塔の攻略には間接的に関わる意味の方が大きいかな。でもうちのメンバーは強いから、安心して任せてよ。」
月山が画面で営業スマイルを徹底しているのには理由もある。短いコメントは単に疲れるからだ。しかし、塔を危険と見做された後で、間接的関与を宣言するなど、またしても国民の不安を煽る行為ではないかとMCは月山の事も危険視する。
だからこそ、たまに二人で対談し、番組制作の表も裏もよく知っている藤堂夢幻に大きめのバトンを渡した。これから、この番組は藤堂と自分のいつもの対談風にしようとさえ思った。
「では、最後に。伝令使の杖ギルドマスター。四天星『雷帝』藤堂 夢幻さん。一部てはボーナスステージとも言われる塔に対して、意気込みや意見などをお聞かせください。いつもの感じで藤堂さんの言葉をお願いします。」
MCは、安全な藤堂に任せて、今後の進行を確認する。その油断が命取りになるとも知らずに。
「ええ。分かりました。 王権の象徴とは国のトップギルド3つの名から国民に定着した元三大ギルドの総称てした。だが一位が『戦女神』のギルドに変わった以上、 王権の象徴という呼び名は時代遅れだと思う。四天星なんてもっと有り得ねー。神御座が一位の時ならまだしも、四天星が同じギルドに二人いるなんておかしいだろう。四大ギルドから一名ずつ選べば良いじゃねーか。だいたい、雷神も天翔も、国の方針に歯向かう発言が気に入らねー。貴様ら常識あんのかよ。緊急事態の中、政府への批判はタブーだよな。
おいっ。何すっとぼけてんだよ雷神宗介っ!!! 貴様に言ってんだぞ! 貴様はもうトップでもなんでもねーん――」
考えに集中していたMCは、藤堂が声を張り上げた所でやっと気づいた。しかし、それは遅すぎた。
「ちょ――」
―― しばらくお待ちください ――
『ふわふわ冒険おやつタイム。はじまるよ〜。』
「ぱくぱくちゃん。みんなでいっしょがいいよね。」
「モフモフくん。そんなの当たり前さ。おやつは平等だよ~!」
結果的にこの討論番組は討論に移らず、別のアニメ放送に差し替えられた。切り抜き動画はSNSで拡散される。――
「ただでさえ、親父は、雷神の名前のせいで『雷神』を降ろされたからな。裏社会はうちの専売だ。闇堕ちした政府や役人も表担当の神御座が言及したら、喧嘩を売ってると思って当然。」
「大丈夫なのかよ? 親父の性格上、ここから戦争になってもおかしくねーぞ。」
「逆だよ。恐ろしいのは雷神の圧倒的な力の方だ。親父はわざわざ公共の電波にのせて怒りをぶつけたんだよ。本当に戦争になったら負けは確定してる。戦争するなら、せめて若の力が親父に追いつくまで待たないとな。」
「親父が若に厳しいのは、そういう事情もあるんだな。」
「しっ。若達が来たぞ。」
塔攻略は緊急で行う可能性があると釘を刺されていた我胡だったが、学校で一悶着あったせいで集合に遅れていた。
「若。どういうつもりだ。遅刻だぞ。連絡があったらすぐにとあれほど言っただろ。殺されるぞ。」
「……すみません。」
本部長の熊谷 当麻は、若頭である我胡を叱った。形上ギルドマスターへの配慮である。
「みんな集まったようだな。静まれ。会長がいらっしゃる。本城っ。」
「会長。どうぞっ。」「おうっ。」
本城が扉を開けると塔専用の仮設から不機嫌そうな藤堂 夢幻が現れる。舞台に上がる前に、先程、夢幻の話をしていた三軍構成員二人の横を通り立ち止まる。
「口は災いの元だな。」
二人の頭を掴み地面に叩きつけた。
ボシュッ
夢幻にはスイカ割りのような感覚だが、ここでは簡単に人が死ぬ。緊張感が高まる中、夢幻は用意された簡易舞台に上がった。
「野郎ども。今から塔の攻略を始める。協会の調査により、このダンジョンの難易度はずっと測定不能だった。
しかし、世界の進行度を鑑み、ようやく協会からの許可が降りた。
おかしいだろっ!
俺たち日本人は一番最初にこの塔に挑むべきだった。世界で一番、覚醒者が強えーのは日本なんだぞっ!
俺たちは恐れを知らねー。誰もが認める日本一凶悪なギルドだ。
分かってるよな?
尻込みする奴はこの場から立ち去れっ!
燃える闘志で、怪物共を蹂躙する。
その意志がある奴だけ、俺について来いっ!
野郎共っ!!!
宝は俺たちのもんだっ。目の前のものを殺し尽くせっ。」
「「「「おおー。」」」」
―― 俺には最初から選択肢なんてねーだろうが。
なんで兄貴にとって命はこんなに軽いんだ。
いらつくよ。お前が死ねばいいのに。 ――
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