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季節外れの風鈴が鳴る

 …チリン


 隣の家から聞こえる風鈴の音。

 軒先に吊るされたまま、無人となった今は誰もその音色を楽しむ人はいない。


 季節はもう12月。

 あの風鈴を買ったのは7月の縁日だから、もう5ヶ月も経ったんだ。


「…政志」 


「なんでもない」


 母さんが呟く。

 風鈴の音に、僕が傷ついたりしないか心配なのだろう。


「そう…」


 言葉少なく母さんは食べ終わった食器を片付ける。

 本当に心配しなくて大丈夫、僕はもう乗り越えたんだから。


「政志君、準備出来た?」


 玄関から聞こえる清水美愛の声。

 あの事があって以来、毎日迎えに来てくれる。


「美愛ちゃんが来たわよ」


「うん、分かった」


 通学鞄を肩に掛け、ゆっくりと立ち上がる。

 美愛の家と僕の家は、歩いて20分も離れているのに、なんだか悪い。


「お待たせ」


「ううん」


 僕の顔を見た美愛は安心した表情を浮かべた。

 そんなに心配しないで、僕は乗り越えたんだよ、史佳との別れをね。


 チリン…


 外に出ると再び風鈴が鳴った。

『行ってらっしゃい』そう史佳が言ってるようだ。


「あの風鈴、外せないの?」


「無理だよ、勝手に入れないから」


「そうだよね…」


 あの風鈴を買った時、美愛達も一緒に居たっけ。


「誰か戻って来たら、お願い出来るだろうけど」


 史佳の家族が姿を消してから、誰も顔を見てない。

 売ったという話も聞いてない。

 ただ無人のまま、家は放置されている。


「隆史の家もなの」


「そっか…」


 僕と隆史、史佳と美愛、4人一緒の時間を過ごして来た。

 保育園から高校3年までの15年間ずっと、みんな家族ぐるみの付き合いだった。


 僕が中2から史佳と付き合いだして、隆史も祝福してくれたのに。


「史佳、どうしたかな?」


「さあ…な」


 きっと子供の事を言ったのだろう。

 隆史と史佳の子供か…


 チリン…


 また風鈴が鳴る。

『言わないで!』そう史佳が言ってるかのように。


「バカだ」


「本当ね」


 隆史は史佳の事がずっと好きだったなら、ちゃんと言えばよかったんだ。

 僕は隆史みたいな、上辺だけの祝福なんかしないのに。


 史佳も僕に不満があったなら、ちゃんと伝えなきゃ。

 あんな激しい後悔をするくらいなら。


「済んだ事よ」


 僕の考える事が美愛は分かるみたいだ。

 それは3ヶ月前に発覚した史佳の妊娠。

 異変に気づいた史佳の家族が問い詰めると、相手は隆史だと白状した。

 最近やっと、あれは現実だったんだと受け入れられるようになった。


「行こ」


「ああ」


 差し出された手を握る。

 その温かさに、また救われた気がした。

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