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恋する魔女は星の精霊と暮らしながら悪魔を待つ  作者: 山本いちじく
悪魔ディエゴ
5/12

5

 その日の夜は、一際大きな満月が明るく館を照らし出し、静寂が広がっていた。

 身体が火照るしょうこは、ひとり、館の前で夜空を見つめてしゃがみ、切ない自らを自分で慰めて、小刻みに震えていた。


 館から出てきたリオは、しょうこの乳白色の肩にストールをかけ、シナモンの香りがするマグカップを渡した。


「だめですよ。夜風は、冷えます。か弱い人間の生身なのですから。生乳を温めましたよ。あなたには、この僕がいます」


「そうね、リオ。でも、もう少し我慢してから行くわ。星を見ていたいの。あぁ、かつて巡った星々のほうが、よほど近く感じるなんて」


 リオが、広い庭にひらひらと光る見慣れない蝶を見つけた。


「しょうこ様、珍しい....あれは月虹蝶....初めて見ました。満月の下で月虹蝶に祝福された恋人たちは、運命を共にするそうですよ」


 大きな月虹蝶がキラキラ光りながら、星空を見上げるしょうこのほのかに赤らむ手の甲にとまって、羽化して間も無い柔らかな羽根を休めた。

 しょうこの手の甲は、虹色の鱗粉で美しくキラキラしている。


 一方、ディエゴは、仕事を終え、思わずしょうこの館へと足を運んでいた。彼女の優雅さ、不思議な強さ、そして微笑みが彼の心を捉えて離さない。


「くそ、あの女…何を考えているんだ…頭が痛いぞ」


 彼が頭を抱えながら歩いていると、突然彼の前に現れたのは、しょうこの館だった。その瞬間、彼の心は奇妙な安堵感で満たされた。


「…何だ、もうついてしまったのか」


 そう呟きながら、彼は、寝静まった館の門をくぐった。その背中には、再びしょうこと出会うという期待と、それと同時に芽生えた不安があった。温かく湧き上がってくる感情の名前を彼は、知らなかった。その時、彼の自慢の角がポロリと抜け落ちた。


 ディエゴは、月光に鮮やかな花々の中から特別に色や形が美しいものを集めて、心を込めて、できるだけ丁寧に花冠を作りはじめた。

 ディエゴの感性は、驚くほど研ぎ澄まされていて、集中していた。彼の肩や背中に大きな月虹蝶がとまったことにも気づかないほどに。彼は、花の色や大きさ、香り、その組み合わせなど、まるで理想の形へ向かうパズルを組み立てるように、繊細で緻密な手作業を黙々と続けて、美しい花冠を完成させた。

 そして、抜け落ちた自分の黒い角を愛おしそうに見つめた。

 それからディエゴは、自分の分身のような大切な黒い角を館のドアの割れ目に差し込み、全身全霊をかけて作った花冠を引っ掛けた。


「…69点は、超えたな。しかし、ここにいると、どんどん力が失われてしまうようだ。しょうこ、お前のいう希望とやらを、待ってみるか」


 そうつぶやきながら、ディエゴは、次の仕事へと飛び立っていった。月明かりの下、月虹蝶が黒い角にとまり、花冠が穏やかな夜風で静かに揺れていた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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明日、続編を更新いたします。

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