第3話 妖怪と神様
さらに約一月後・・。
「ほう・・わしは神であったか・・。」
「初耳じゃ。」
まぁ・・予想はしていたが・・。
「自分では妖怪と言ってましたもんね・・。」
「まぁ、どちらでも大して変わらぬがの。」
「いやいや、神様と妖怪では、全く別物じゃないですか。」
「そうかの? 人が勝手にそう呼んでいるだけじゃ。」
「そもそも、神の定義も妖怪の定義も明確ではなかろう。」
「神や妖怪と呼ばれる人もおるでな。」
「人が神と呼べば神、妖怪と呼べば妖怪、それだけじゃ。」
そんなものだろうか?
確かに当人は、勝手に呼ばれて迷惑・・とでもいいたげな様子だが。
「でも、神様ならご利益があるのでは・・。」
「そんなものはありゃせん。」
「たとえ神だったとしてもな。」
「そうなんですか?」
「人の人生には、不用意に関わらんようにしておるでな。」
「時には例外もないとはいえんがの・・。」
「では、神様に祈るのは・・・。」
「無駄じゃな。」
えぇ・・・。
なんだか身も蓋もない話に・・。
「もし神が助けれくれたら、人は神に頼るばかりになってしまうじゃろ。」
「それは、人のためによくないのじゃ。」
まぁ、一理ある・・。
「おぬしら人にも、野生動物に干渉してはいかんという考え方があるはずじゃ。」
「ああ、確かに・・。」
「野生動物にエサをやってはいかん・・。 それと同じく、人にもエサをやってはいかんのじゃ。」
妙に納得されそうになる。
「ならば、お賽銭とかも無駄なんですね・・。」
「わしらは賽銭なんぞ受け取らん。」
「供え物はカラスが取っていくし、賽銭は坊主や神主が取っていくでの。」
「そもそもわしらの世界では、現金は使えん。」
ああ・・聞かなきゃよかったかも・・。
銀子さんの言っていることは正しい気がするけど、
これまで信じてきたことがいろいろ壊れてしまったような・・。
「ところで、彼女はまだかの?」
唐突すぎる。
「今は見習い仕事が忙しくて、そんな時間ありませんよ。」
「時間とは、自ら作るものじゃと聞いておるぞ。」
「簡単に言わないでください。できるならとっくにやってます。」
「ふむ・・。努力はしておるのじゃな。」
いや、してないけど・・。
だんだん答えるのがめんどくさくなってきた。
「俺、まだ18ですよ?」
「十分ではないか。」
「つい数百年前は、12歳で元服じゃったぞ。」
いや、年齢の感覚がずれてますって・・。
「早く赤子の顔を見てみたいのう・・。」
もはや、どう答えたらいいのか見当がつかない。
「仕事に戻りますので。」
「なんじゃ、もう少しよいではないか。」
「遅くなると父さんに怒られます。」
「働き過ぎではないかのう・・。」
「父親に似ておるな・・。」
独り言のように聞こえた。
「父さんと知り合いなんですか?」
「いや、知らぬ。」
本当だろうか・・。
「仕事に戻ります。」
「次の満月の日を楽しみにしておるぞ。」
何を楽しみにしているんだか・・。
銀子さんと話をしている限り、悪い人ではないように思える。
いや、人じゃないけど。
しかし、父や母の様子は尋常ではなかった。
銀子さんと何があったんだろう・・。
はたして聞いてよいものか。
なぜか、聞くと後悔するような気がする。
いまはまだ、勇気が出ない。
- 第4話に続く -