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英雄のとばっちり とある貴族邸宅にて

「お館様。」

「なんだ?」

執務室にて執務中の我が主人が私、筆頭執事の声掛けに顔をあげられました。

「お館様にお手紙でございます。」

「誰からだ?」

「アーサー殿からです。」


執務室の時が停まる。

お館様はその端麗な容姿、身分さに関係なく平等で慈愛に溢れたお方。

為政者としての能力が高いだけではなく、魔法騎士として北冥戦争でも第一線でご活躍。

貴族の婚礼時期としてはとうに過ぎて30代も後半になろうかという年齢ですが、加齢もまた彼の美貌を引き立てており、妻になりたいという女性が未だに殺到するほどです。

そんな文武ともに国内トップクラスの我が主人ですが、英雄殿とは若い頃からの因縁があるようで、冷静沈着な我が主人が路地裏のチンピラのような変顔で青筋を立ててこちらを睨んでおります。

ですが、

「内容は?」

「まだ開けておりませんゆえ。」

「ではよこせ。」

律儀にも読まれるようです。

厳格な我が主人も仕える身としては大変な名誉ですが、英雄殿と関わっている際の子供っぽい一面を微笑ましく見ている古株は私以外にも多いと思われます。


おや?

イライラしていた我が主人が手紙を読み始めてから真剣な顔になられましたね。


そして手紙を読み終わると、手紙は蒼い焔に焼かれて消失しました。

「あの糞野郎め、なんという厄介事を。読むんじゃなかった。」

我が主人が頭を抱えております。


頭を抱えて5分ほど経ったころ、

「爺や、弟を呼んでくれ。今すぐにだ。」

「かしこまりました。」


我が主人の弟君も大変優秀な方で、兄さえいなければ領主として一流の手腕を誇ったであろうと言われております。

諸事情により兄君との年齢差が20歳ほどありますが、現在は王宮の官僚として重用されており、過剰な欲もなく兄弟仲も良好です。

今週はたまたま里帰りで屋敷に5日ほど滞在されております。


「兄さん、どうしたんだい?」

弟君も兄君同様、その美貌から乙女の視線を集めておりますが、まだ婚約者もおりません。

「とりあえず座れ。」


室内に重い空気が流れています。


「兄さん?大丈夫?」

「ふぅ、落ち着いて聞いて欲しい。これは決定事項だ。」

我が主人が満面の笑みを浮かべております。

「家督をお前に譲る。私にはやらねばならんことが出来た。よって、明日この家を出る。何かあった時はいつもの緊急手段で連絡しろ。以上だ。」

「「は?」」

あまりの出来事に言葉が出てきません。

「いや、ちょっと待ってよ!?何?どういうこと!?」

「言った通りだ、今日からお前がこの領地の主人だ。領民を大切にしてきちんと面倒を見てくれ。」

「その台詞こっちの台詞だよ!!領地経営とか爵位とかいきなり放り出していいものじゃないでしょう!!」

「やむを得ないのだ!!悪いのはアーサーの野郎だ!!」

「英雄殿ですか?領主の仕事と何の関係が!?」

「詳しくは話せない。だが必要な事なのだ、不愉快なことに。」

「そんな」


弟君は困り果てた顔で立ち尽くしています。

「お前にも迷惑をかけるが、協力してくれ。全てが終わって、もし私が生きていれば、その時全てを話そう。」

私達はハッと顔をあげる。


(もし私が生きていれば)


何かが起きている。

話すことは出来ない。

英雄殿が関係してくるとなると只事ではない。


英雄アーサー殿は行方知れずとなっているが、戦時中に親交のあった一部の人間はどこかの田舎に隠遁している事を知っている。

風の噂によれば二人の子宝を授かったという話もある。


そんな英雄殿からの頼み事があろうことか我が主人に多大な影響を及ぼしている。


「事情は分かりました。弟君を新たな主人として、領地を盛り上げて参ります。」

「爺や!?」

「すまん。いつも苦労をかけるな。明日出発する。食糧は3日分用意してくれ。あとはこちらでどうにかする。」

「かしこまりました。」

「ハァ、分かりました兄さん。でも一時的に代行としてお預かりするだけです。必ず戻って来て下さい。」

「努力しよう。ありがとう二人とも。」


我が主人が決めた事を全力でお支えするのも臣下の務め。

臣下一同、お館様のご無事のご帰還をお祈りしております。

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