婚約者はいない2
クーンがカトリーヌとレインと出会ったのは、母と父と共に参加した同盟国間で行われているお茶会の席だった。
同盟国最大の規模を誇るパール国の城内で行われる交流会は、数年に一度開催される同盟国間では重要な催しであり
その内容は王や女王のみ、王妃や王配のみ、そして子供達のみの三つの会場に分かれているのが特徴だった。
会場事に出されている茶菓子や茶葉、クロスの質感や色、セッティングされた花や茶器など全てが異なり、またその内容は毎年変わるものだった。
幼い頃はお祭りのようで楽しかったそのお茶会も、年を取れば恐ろしさを理解する。
会場事に決められた暗黙のルール。
茶葉の原産地、食器のデザインやクロスの色、昼食にと出された食材の品質。全てが問いかけであり、その回答を次の茶会の席で提示する必要がある。
例えば、ある日の茶会で出された茶葉と果物のタルトが暑さに強い南の国で良く採れる物である場合、同盟国の中でその茶葉と果物を特産としている国を連想できる色や布、装飾品を身に纏う必要がある。
例えば、会場の入り口から席までの道を様々な白い花が彩り、薄緑色のカップに描かれた黄色の花を咲かせるアキノキリンソウが目を楽しませ、昼食に出た白身魚のムニエルが絶品だった場合、カップの薄緑が指す『南や南東』、アキノキリンソウの花言葉の『警戒、用心』、同盟国では獲れない白身魚から『白身魚が特産である同盟ではない国』を読み取らなくてはならない。
同盟国ではない、南にある国を調べる必要がある。
自国や同盟を守る為に暗号を読み解き、次回にはその調査結果や懸念点などを報告しあうためだ。
そして情報戦に常に勝利しているパール国を敵に回してはいけないと再認識させられる瞬間だ。
そんな高度の暗号をすぐに読み解けるわけがないため、その練習として次代の王や女王候補になる子供達だけの茶会でわかりやすい物から慣れていく。
暗号の解読は自分で解くしか無い。王が王妃の会場の様子を確認することは出来ない、王配が女王に相談した所で会場の全てを覚え、茶会での話題を全て伝える事は難しい。
そのため子供達は様々な知識を得る。
王族としての基本的な教育から、大陸の地図や国同士の関係性や特産品、花言葉、石言葉など
一般的な貴族では不要とされる小さな知識も全て必要とされるのだ。それが身につくかどうかは本人次第だが。
茶会では、クーンは浮いた存在だった。
母親もお世話になったという老婆に専属で勉強を教えてもらっているが、老婆から教わった事などこの茶会では何も活かせない。
大陸の地図も大まかに自国の場所とその周辺しか覚えていないし、花言葉や国の特産などはまったく知らなかった。
目の前で近い年頃の少年や少女が、茶葉はどこ産だ、ケーキに使われている果物はフェイクで、クロスの方が暗号だ、と話し合っている状況に入る事は出来ない。
茶葉の違いなんて分からない。色が違う、苦みがある、その程度しか分からない。
正直美味しければ良いと思う。
果物がフェイクでクロスが本物だという考えが分からない。これは練習なのだからそこまで考える必要はないと思う。
会話に参加しないクーンは、誰も相手にしない。
話しかけてもわかりません、そうなんですか、そう言われるだけだと誰もが知っているから。