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婚約破棄をした

婚約破棄をした王子サイド。

ちょっと気持ち悪い人だと思うので、さらっとお読みください。


婚約破棄をした。

国を代表する慶事の一つである、歴代の王族も通った歴史ある学園の卒業式で。


歌うように祝辞を述べていた在校生から舞台を奪い、

愛する女性と共に、自分を縛りつけていたつまらない人形に人生の絶縁を告げてやった。


あの日、あの瞬間から始まった愛する人との幸福な日々。

愛する一人息子と愛する妻。誰からも祝福され、皆王家に敬意を抱き忠義を惜しまない素晴らしい日々が死ぬまで、いや、死んだ後も続いていくのだと信じていた。


なのに、気がつけば王宮から遠く、国の端にひっそりと佇む忘れられた古城に、最低限の人数の侍女と護衛。そして愛する妻だけが隣にいる。愛おしい存在が欠けた晩年になろうと、どうして想像できようか。


何が誤っていたのだろうか。

父王のように愛する者と幸せに生き、死にたかった。父王から教わった幸せになるための方法を

自分なりに考え、より良い方向へと導いているだったのに。


母は大人しく控えめだった。

父王より前に立つことも、横に立つことも良しとせず、父王に守られるように、父王を頼るようにいつも静かに微笑み、瞳を伏せ、父王の後ろに控えていた。

父王はそんな母が美しいと言った。

母のように儚く可憐で、男性を肯定し男性に頼り、男性を否定することなど考えることもせず、ただひたすらに夫に笑顔を向け、夫の心を癒し、夫に愛される存在。それこそが素晴らしい女性なのだと。


母の美しく長い蜂蜜のような艶髪を撫で、白く細く繊細な美術品のような指先に口づけながら、私にそう教えてくれた。母はその教えを父王の横で静かに聞いていた。


その美しい二人は私の理想となった。

私もそうありたいと望んでいたのに、私の婚約者となった娘は、父が憎む王妃のようになっていく。


姿は美しく可憐だが毅然とした空気を纏い、その瞳には静かに強い光を宿し、

意味ありげに微笑む。肯定と否定の言葉の告げ、こちらを試すように見下すように曖昧な表現で

物事を捉え、私の後ろに大人しく控えることもなく、目の前に、横に当然のように居る。


父王と母の最大の障害だったという王妃。

父王が苦労して取り除いたと思われたその障害は、周囲をあっという間に絡めとり父王の最大の宝石を妾妃という影の存在とし、自分は王妃として玉座を奪ったという王妃。


父王の正妻という立場に我が物顔で居座り、父王が妻にしたいと熱望する女性には、愛妾がお似合いだと言うように王宮の奥に閉じ込めたという王妃。


父王は母への愛を語った後は、流れるように王妃への呪詛を吐く。

未だ取り除けぬ最大の障害。王妃さえ消えれば全てが美しい世界へとなると、母の部屋から一歩も出ることなく、母の傍を片時も離れることない父王はそう私に語っていた。


だから、私が次期王になると決まった時、この婚約者では無理だとわかったのだ。


思春期を迎え、父王と母から離れ、大人へと成長すると分かるようになった。

父の障害(王妃)は王妃として素晴らしい人だと。しかし、女性としてはとてもでは無いが男性に愛される存在になる事はないことを。


母の傍を離れない、政も国の動きも国民も興味がないような父王に代わり、常に国を守ってきた王妃には感謝するが、そのような女性を誰が守ろうと思えるだろう。慈しむ気持ちも庇護欲も必感じない。一人でも生きていける女性だ。そんな王妃を師と崇め、王妃のような女になろうと研鑽している婚約者など愛せるはずもない。


そんな時に、私は私の愛を見つけたのだ。

母のように美しく可憐で、しかし母よりも婚約者よりも王妃よりも溌剌とした空気を纏い、私を頼り、私を肯定し私と共に国を背負う者として覚悟を決めると言いつつも、私が居なければ頑張れないと私に縋る、なんと愛おしい存在。


母よりも気丈さと意思の強さを持ち、王妃や婚約者よりも私を必要とするその心根の弱さ。


彼女だ。

彼女こそが私に相応しい女性であり、共に国を支えていける真なる妻となる王妃と呼ぶに相応しい女性だと、そう信じて、私は彼女と共に婚約者と絶縁した。


父王は感情的になった私に呆れたようだったが、理想の夫婦を追い求める私達の姿に感動したように賛成してくれた。父王のように彼女を愛妾とし、王妃教育を完遂した婚約者を王妃にという声は、彼女が王妃教育を頑張る、婚約者よりも素晴らしい王妃になってみせる、と誓ったことで消えた。


その後は何も言われなかった。何も、言われなかったのに、どうして今になって。


何が間違っていたのかわからない。どこで間違えたのかわからない。

間違えていないのかもしれない。何もかも分からない。


愛しい息子に捨てられたのだと、わかりたくもない。

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