はじまりは3(短編と同じ内容)
「母上。私は、女性達の探るような目が怖く、意味がわかりませんでした。どんなに努力しても、
称えられても、女性達の視線は冷たいままだった。自分が何をしたのだろうと、ずっと不安だった。」
「何を言うの!誰がそんなことを!貴方は素晴らしいわ!!」
「私の気持ちがわかりますか?
『いかに素晴らし王子だろうと、あの二人の子供である限り、王子もいつか心変わりをする』と。
そう思われていたことを、どうせと蔑まれていた事を。母上『子供は私の思う通りに育てる、誰にも口出しさせない』とおっしゃっていたと聞きました。何故ですか。褒めるだけが教育だと思ったのですか。確かに感情は豊になるでしょう、しかしそれは王族としての教育だと、言えるのでしょうか。」
私の子供よ!どんな風に育て、何を素晴らしいと感じるか、私が判断してこの子に教えます。
貴族的な育て方では、この子の感情が育たない、この子も人形になってしまう。
私はこの子に喜怒哀楽をもって欲しいの。
貴方たちの子供のような心ない、人形のような人間にはさせませんから。
王子の誕生を祝う舞踏会。
縁起担ぎのため、子宝に恵まれた家人を招待し、今後の参考にとすでに母親としてキャリアを持つ女性達が教えてくれた内容を切り捨て、叫んだ言葉が思い浮かぶ。
王と王妃が断罪した元婚約者は、当時の女性の憧れで目標だった。
心から慕っていた人が一方的に罵られたばかりか、女性すべてを罵るようなその言葉を、同じく学生として、あの卒業パーティーに参加していた令嬢達が忘れるだろうか。
彼女こそ淑女の鑑だと、彼女はどこも悪くないと、口々に彼女を擁護し彼女への謝罪を王家に求めてほしいと夫や父親、兄へ嘆願書を差し出しても、誰もが王家には逆らえない、王家に睨まれたくないと彼女達の訴えを切り捨てた。
これから生まれる子供に罪はないのだと、心の中のわだかまりを抑え、
慕う人を追い出し、王妃という椅子に臆面もなく座る女を、王妃様と呼び、慕っているように振る舞いながら、折り合いをつけようとした女性達に、かの王妃はなんと言ったのか。
彼女達は忘れない。
人形と蔑みながら、家柄や容姿を気にする王族やその意識に共感する男達を。
女を玩具や子供を産み育てる道具、家のための歯車だと考え、各々の立場や感情、意志を尊重しない者達を。
だから彼女達は互いに協力した。
王子の婚約者探しが始まる前に、知り合い同士で婚約を結んだ。知り合いの知り合いという伝手も全て使った。
後から解消することも出来るように細かな内容ではなく、とりあえず婚約者という形でという雑な物であったが、「婚約者がいる」その言葉だけで、王家は何もできないはずだと。
婚約者が見つからない家は、伝手を辿り留学や長期の旅行として国外に身を隠した。
「私達のせいで…ごめんなさい。こんな、事になるなんて……。」
「こんな大事になるなんて、思わなかったんだ。すまない…。」
土気色の顔で、愕然とした表情のまま、涙を流す父と母を慰めるべきか、世の中を混乱させたまま放置していたことを裁くべきか、王子は迷う。
このまま二人を国の代表とすれば、力ある女性達との溝は広がる一方だろう。
今はまだ母親と娘の代までだが、その娘が母親となりその娘にも同様に騒動を伝えれば、国外にも誇れる立派な淑女というのはこの国から消えてしまうことだろう。
王子はいずれ王となる。
国を守り、民を公平に判断し、子供を作り、他国とのやり取りを重ね繁栄させ続ける使命がある。
それには隣国や遠い国々との王族や高位貴族との交流が不可欠だ。
そんな場に、淑女教育を満足に終えていない娘を連れていけるわけがない。
未来に不安しか残らないが、王子は覚悟を決めて声を紡いだ。