忠義も愛も
宰相夫人側の小話。飛ばしても問題ないですが、軽く目を通してもらえると世界観とかがわかりやすいかもしれないかなと思います。
※鬱々していて読んでいて腹がたってくると思うので、ご注意ください。
やっと夫と離婚できた。
疲れた。それが最初に呟いた言葉だったと思う。
よくある貴族同士の家を繁栄させるための政略結婚。
私もよくある話の一つとして年上の婚約者と結婚した。
愛情も友愛もない政略結婚だけど、私の意志を認めてくれるとそう言ってくれたから、穏やかな結婚生活を過ごしていけると思っていたのに。
王子と娘を婚約させることにした。心して準備するように。
なんという非道な言葉。
王命として賜った名誉な事だと、嬉しそうに満足そうに自分だけで理解して、肝心の娘や準備を任された私の事はどうでも良いと思っているそんな態度。
誉れだ栄誉だとそんな言葉だけで、こちらの意見なども無視で無理やりにでも婚約を成立させようとする血も涙もない、目の前の男。
私の意見や生き方を認めてくれると言っていたあの婚約者は、いまはもう妻も娘も家の道具だと思う独裁者になっていた。互いに男女の愛は無くとも、良き家庭を作り互いの家も繁栄させようと笑いあっていたあの頃の婚約者は、自分のことだけを考える夫になっていた。
王子。彼には何も問題はない。
そうわかっていても、彼の父親や母親に私がどれほどの憎しみを感じているか夫は分かっていると思っていた。まさかすっかりさっぱり忘れているとは思いもしなかった。
信じていたの。彼女の輝かしい未来を。彼女が導いてくれることを。彼女がくれるだろう沢山の希望を。そのために茨の道も山岳の道も、山道も、深海もどんな所でも希望があれば行くであろう彼女を一人にさせないため、彼女の手足となるために、私と親友で国の外と中から、愛する友を支えようと誓いあった。彼女を一人にさせない。彼女が私達の名前を呼んで、私達に笑ってくれるならその幸せを守ろうと誓いあった。僅かでも必要かと思う知識や人脈、思いつく限りを手中に収めてその日を待っていた。
全て、未来の王妃になるはずだった彼女の為。
彼女の治世が眩しい程に輝き、皆に愛され、彼女の長年の苦労が実る瞬間を共に支えるために。
なのに、彼女は深い森のさらに奥。
隣国との境界線に建つ、人知れず立つ教会に身を寄せ、そこから出て来ようとはしない。
彼女をそんなところに追いやった男の、本来であれば彼女を愛し、慈しみ、彼女を支える存在であるべきあの男の、憎い憎いあの二人の息子なんかと、私の愛おしい愛娘の婚約など許せるはずがない。
それなのに相談も何もなく、自分の道具のようなあの言動。
この子は夫の子供と同時に私の子供。夫よりも長い時間をともに過ごしている宝物。
あの茶番劇を諫められる立場に居ながらも、諫めきれなかった夫。婚約破棄を考えていた私に、自分のために国を見守って欲しい、という彼女の願いのために嫁いだ私に対しての非道な言葉。
絶対に許さない。
絶対に許せるわけがない。
幼い頃からの王を補佐するための王妃教育と淑女教育。自分だけではなく大事な所で詰めが甘い王子をフォローするためという理由で追加されていく帝王学。他同盟の教育よりもはるかに厳しいとされる、我が国が属している同盟の統治国が主催する茶会へ問題なく参加するための教育。
国土も小さく絶対的に優位になれる特産品もない、小国である我が国が平和でいられるのは
その同盟に参加しているから。長い年月をかけ、大国の意図を読み取り、大国に気に入られるよう日々を励んでいるから。
一朝一夕では習得できない。
王族になる者としての知識や礼儀、帝王学にも加え、偵察や密偵が使うような暗号に使われる雑学や遠すぎて地図に載るかどうかの国々の特産品や文化、女性として習得すべき言葉遣いや立ち居振る舞い。
彼女が長い時間をかけて習得した全ては、輝かしい未来のためだったはずなのに。
あの男が愚王になることなど、分かっていたからこそ、彼女がその全てを凌駕するようにと
誰よりも厳しく、膨大な時間をかけて学びその過程で増えていく不安という影は日々彼女の体を蝕んでいたというのに。
その事にも気づけず、気付こうともせず、見目が良いだけの子供に惹かれた屑と
想像だけで自分にも出来ると思い込んで彼女に成り替わろうとした阿婆擦れの子供などと。
子供に恨みはない。
むしろ、親が引き起こした暗闇が今後この子に襲い掛かる事が分かっているからこそ、彼には申し訳ないと思う。
遠いところから、私の気持ちが落ち着いた頃にでも手助けできればと思っていた矢先。
有り得ない。
有り得るわけがない。
私も娘も、意志のない道具。便利な人形だと思っているその言動。
コレは私の人生には不要なモノだと理解した。




