忠義か情か
宰相側の小話。飛ばしても問題ないですが、軽く目を通してもらえると世界観とかがわかりやすいかもしれないかなと思います。
※自分勝手すぎて読んでいてこいつマジ…と思うの可能性があるので、ご注意ください。
妻と離婚した。一人になった。
神殿長のサインが記された離婚証明書を受け取った後、それしか思いつかなかった。
互いの家の利益のために成された結婚。珍しくもない政略結婚で、大人と少女の境目である特有の空気を纏った美少女を妻としてから何年たったのだろうか。
学園で当たり前のように成績上位者の中に名を連ねる程の頭脳、先を見据えた完璧な人脈づくり。
結婚後は宰相夫人として、伯爵夫人として、その知識や人脈を惜しみなく発揮し、愛は無くとも円満な宰相夫婦として評判も良く、情熱は無くとも信頼関係と呼べるくらいの絆を結べていると思っていたのに、妻は出て行った。
まだ、十にも満たない一人娘の手を引いて忽然と。
煙のように消えてしまった妻と娘を当然捜索したが、その足取りは掴めなかった。
当然だろう。彼女には伝手も知恵も、恐らく私に秘密にしている資金源も豊潤に保持しているはずなのだ。なのに、どうしてあの日妻が家を出たと執事長から聞いた時に、捕まえられるから問題ない、ワガママを起しているだけだろうと思っていたのだろうか。
彼女は素晴らしい女性だ、唯一無二の妻だと世間に自慢していながらも、所詮は女だと無意識に侮っていたのだろう。
いかに才色兼備な女性であろうと、女と子供で国を出奔できるはずもないと、男には夫には勝てないのだと、そう高を括っていたのだろう。
数代前の王妃が整えたとされる離婚法。
穏便に互いの名前が記載された書類に離婚申請とするのが一般的である中、どちらかが一方的に離婚を要求する強引な方法もある。そのやり方で離婚が成立したことなど、長い歴史の中でも僅か一握り。
その方法さえ知らない者すらいるかもしれない、そんな奇策。
夫や妻の手から逃れ、他国での永住証明書と名前入りの離婚証明書を、婚姻関係を管理する神殿へと問題なく届けた後その承認証を受け取る事。
簡単なようで、一時でも夫や妻の手の追手にその身柄や書類が渡れば、その奇策は通じない上、
他国の永住証明書となるとおいそれと発行されることはない。
その奇策を成し遂げ、そこまでの労力を出してまでも離婚したいのかと、思考が荒れていく。
もう何を言っても、何を考えても後の祭りなのだ。
後悔しようが、反省しようが、妻は他人となり、一人娘は娘ではなくなり他国に住む少女となった。
当然のように親権は妻が所持した。
今更別の女性と仲を深める為の交流を重ね、跡取りを作ろうなどと気力も無ければ、仕事に追われそんな時間も体力も皆無。
最後には許してくれるだろうと、了承してくれるだろうと。
そう決め付け、家族との最後の晩餐はおざなりだった事を思いだす。
あの日の妻の怒る顔、妻の荒げた声、椅子を倒すように荒々しく席を立ち、体全体で拒絶していたというのに、それは今だけだと、時間をおけば妻も冷静になり、納得してくれるとそう信じ、懸命に意志を伝えてくる妻を晩餐の席に置き去り、私室で持ち帰りの仕事に没頭していたあの時。
彼女の中で私は切り捨てるべきモノへとなり下がったに違いない。
少し考えればすぐにわかることなのに、彼女の学生時代の親友の一人を思い出せばすぐにでも。
彼女の人脈の広さや知識の深さ、宰相夫人という立場を求めた理由。
彼女の全ては未来の彼女のためだと言っていたじゃないか、彼女は自分の信念のために生きていたいと言っていた、知っていたはずなのに。
円満な夫婦生活という泡のような偶像に胡坐をかいていた私への当然の罰なのだろう。




