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未来のお嫁さん2

「エリヌの…それは、つまり…」


クーンの婚約者として強制的に決められることに憤慨した夫人が、人知れず出国した後に夫である伯爵に離婚届を送り付けたことにより、世間を多いに騒がせたあの時の人の娘。


それは、さぞ、原因となった男を憎んでいるだろう。

まだ幼かった少女から両親を奪ってしまった。国を捨てさせてしまった。

それなのに、また権力で彼女は逃げたはずの男の元へ戻されてしまった。


先ほどまでの高揚した気持ちも、どう思っているんだろうなどという淡い青春の不安も、太刀打ちできない程の絶望がクーンを襲う。

何も言えない。どんな顔をしてどんな言葉をかけたらいいのかわからない。


口から出るのは意味をなさない言葉の羅列ばかりで、しっかりと見ていたリンティナの顔を見ていられず視線は首へ手へカップへと移動し、視線につられるようにクーンの顔も気持ちも下に向いていく。


これではダメだ今日この国の王となったのだから、しっかりせねば。そう思っていてもなかなか顔も気持ちも浮上しない。

容易に頭を下げることも謝罪することもできないが、胡坐をかいて生きていくことはできない。

クーンはやっと王に成れたが産まれた時から、何かと周りで問題があったためか高感度や支持率は高いとは言えない。これから良き王として国を率いていくためには、誠実な王でなくてならない…


なんて心の中で自分に言い聞かせる。





「陛下」

「なっ、何かな!?」


どの面下げて顔を見せたらいいのかなどと考えていたというのに、リンティナに呼ばれたら反射的に顔を上げてしまう自分にちょっとだけ泣きたくなった。


「陛下、私は陛下に負の感情はもっておりませんわ」


反射的に見たリンティナの表情は先ほど浮かべていた笑顔のままで、その声音も先ほどのまま。

優しそうにふんわりとした空気を纏い、少し呆れたような色を瞳には浮かべていたが。


「本当だろうか…」

「ええ。それに陛下は当時私よりも幼い子供だったでありませんか。私同様に親に決められたまま過ごすことしかできないというのに、何を恨めと言うのでしょうか」

「そうだとしても、貴方が私のせいで国を出てたのも事実だろう」

「そうですわね。そこからまずはお話しいたしましょう。陛下まずご理解いただきたいのですが、私はこの国に愛着などはございません」

「…」

「当時の私がいくつだったと思われますの?この国の思い出など、屋敷の中でのお母様や侍女達との記憶ばかりですわ。エリヌ伯爵は仕事ばかりで屋敷には年に一度戻れば良い方だとお母様達が口にしていた位に関りも薄かったのです」


確かに。当時エリヌ伯爵はまだまだ未熟な父王を支え、より未熟な母后を支え、将来クーンを支えるための下準備を行うために城に寝泊まりしていた。クーンは毎朝、父王のそばにいる宰相に挨拶をしていた覚えがある。


「そもそも屋敷に居ても邪魔だったそうなので、居ない方が良いとお母様が喜んでおりましたので、その事についてお顔を曇らせる必要はございませんわ」

「そう、か。…その、当時貴方はどのように思っていたのであろうか…」

「そうですわね。正直に申し上げれば何も思っておりませんでしたわ。伯爵に将来夫となる人が決まったと言われましたが、夫や夫婦というのは理解していても、だから何なんだろうというような…キチンと理解していなかったと思います。その状態で母が伯爵を許せないので、隣国に行きたいと言うのでわかりました、とついていった。という感じでしょうか」

「なるほど…もっともだな」


当時、クーンよりも少し年上だったとしてもまだ親の傍から離れられないような幼子に、婚約だの伴侶だのとわかるはずもない。クーンだってそうだったのだ。誰よりも慕っている母親に従って、何も思う事も無く母親の手を取り国を出たのだろう。


「…失礼ながら陛下があの時のことをここまで気にされているのは…その、意外でしたわ」

「私も当時は何もわかっていなかったんだ。帝王学と呼ばれる類の勉強が始まって、それに関わる官僚達と話すようになって、実は宰相が離婚していたと聞いたんだ。その理由を聞いたら私との婚約関係で揉めたからだと知って…私はそこまでその……女性に嫌われる存在なのだと…」

「まぁ!そのようなことはございませんわ、陛下はとても素敵な方です!」

「ありがとう。今は理由も分かったからか、子供の頃よりは気にしていないよ」


それでも子供の頃から抱えていたトラウマとも呼べるものはなかなか払拭できないものだ。

リンティナの表情や空気、声など全てでクーンは悪くないのだと伝えてくれる。

それだけでクーンの中にあった絶望は許されたような気がして、またちょっとだけ泣きそうになった。


「陛下、お辛い子供時代を過ごさせてしまったこと、お詫び申し上げます」

「いや、貴方のせいではないから」

「いいえ。直接ではないとしても私達のせいですわ。本当に私達のせいですの…」

「それは…どういうことか説明してくれる?」


空気が変わっていく。

この席についたあの瞬間よりもはるかにピンとした糸が張られた緊張感が二人を包む。

リンティナの表情も声も固く緊張した声で言い難そうに言葉を探しているようだった。そんな彼女の姿につられてクーンは落ち着いていく。ここからは王として話を聞く方が良いのか、クーンという男して聞くべきなのか、正しい立場で聞き、適切な対応を取らねばと意識を引き締める。


「…陛下はご存じなかったと思いますが…その陛下と将来婚姻を結ぶということは私達、女性陣の中ではほぼ決定でしたの…。隣国で母が高位貴族の方と再婚したのも、見初められたというのは本当なのですが…そのための見合いをしておりました…王の名のもとに」


本人や本人に近しい者、遠すぎる者が知らないだけで、その計画は着々と進められていたらしい。


「母が父に見切りをつけた際にできた計画だと聞いています。母と当時の王妃であるローザンヌ様と……そのご友人のリィリィ・ヴァリィ様の三名で決めたと」


リィリィ・ヴァリィ。その名は最近クーンは何度も見た名前だ。

何度も調べた。何度も何度も。だから間違えようもない。元エリヌ伯爵夫人であるダリア・フリルドと、この国から大国の王家へ嫁入りしたローザンヌ・ロドンの親友というべき女性。


その女性は、父王や母后とは切り離せない程の重要人物でもある、父王の当時の婚約者の名前だった。



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