#6 欠陥品の邂逅
「──」
──ただでさえ静かな校舎裏に、沈黙が落ちる。
それもそのはず、この場にはたった二人の人間しかいないのだ。
私と、一年生君。
そう言えば、まだ彼の名前を聞いてなかった……違う、聞いたけど答えてくれなかったんだっけ。
勿論、正確には二人きりじゃない。他にももっといる──だけど、そこかしこに倒れちゃってるし。
彼らは、しばらくの間は目を覚まさないだろう。
この場に「立って」いる人間は、だからたったの二人しかいないのだ。
……相手がプロだって分かったとき、不謹慎にも実はちょっとだけ期待してたんだけどなあ。
こんな言い方はあんまり良くないかもだけど、楽しい戦いになるんじゃないか、とかさ。
そういう意味では、この襲撃は期待外れだった。
追跡や尾行のプロが戦闘のプロとは限らないから、仕方ないのかもしれないけれど。
でも追跡や尾行にしたって、私に気付かれてるんだから意味ないよね。この一件を誰が仕組んだのかは分かんないけど、この連中が下っ端だってことだけははっきりと分かる。
本気じゃなく、様子見って感じ?
まあ下っ端だろうと、誰に依頼されたてやったのかぐらいはきっと教えてくれるだろう。懇切丁寧に質問すればきっと。
だから今のところは、彼らから色々と話を聞くためにも、取り敢えず目を覚ますのを待つ感じか。
それまでどう過ごしたものかねえ。
暇潰しに彼らを拘束しようにも、紐とか使えそうなものは持ってないし。ヘアゴムすらない。制服のリボンならあるけど、乙女として使ってたまるか。
「……拘束は暇潰しですか。状況的には、むしろそれが最優先すべき普通の行動だと思いますけど」
「いかんよ少年。いついかなるときも、暴力は最後の手段であるべきなんだよ。使わずに済むのなら、可能な限り穏便な方法を取らなきゃ」
「通りすがりの後輩から剣をぶん取った人が言うと説得力が違いますね」
人聞きの悪いことを言う。
戦闘を終えて疲弊した先輩を労ろうとか思わないのかな。
「文字通り瞬間、瞬く間に戦闘を終えた先輩は、少しも疲弊してないでしょう。何が起きたのか理解できなくて、俺はいまだに混乱してますよ」
「ふうん、そうなんだ。ところで一年生君、暇だから何か面白いこと言ってよ」
「人の話を聞いてましたか? 落ち着くための時間をください。しかも何ですか、その雑な無茶振り」
おや、突っ込みにさっきまでの勢いがない?
疲れちゃったのかな、ずっと走ってたから。
それとも私に呆れちゃったかな? うんざりしちゃった?
「それは結構、初期段階からずっとです」
正直な子だねえ。この流れで、思ってること全部言っちゃえばいいんじゃない?
君が相手なら、失礼な物言いでも大抵のことは許してあげるよ。
「一体、俺の何をそんなに気に入ったんですか? まあお言葉に甘えて言うと……取り敢えず先輩、めちゃくちゃ強いっすね……」
「意外そうだね」
「言動や態度が、とても強そうじゃなかったので」
「失礼な」
何でも正直に言えば許されると思ってるのかね。
だとしたら先輩の怖さを教えてやらなくては。
「大抵のことは許すんじゃなかったんですか……それに多分ですけど、先輩も自覚はあるでしょうに」
あるよ。そうじゃなくても、よく言われるし。
「ところで、名前、まだ聞いてなかったと思うんだけど。いい加減名乗ってくれるかな?」
「あなたも名乗ってはいないんですが」
「そうだっけ?」
そう言われれば、そんな気がしなくもない。
「でも、後輩が先に名乗るのが礼儀じゃない?」
「あなたが礼儀を説きますか……いえ、突っ込んだところで俺が疲れるだけだと気付きました」
後輩の成長が素直に喜ばしいね。
これが年をとる楽しみってやつなのかな。
「そんな年でもなければ、成長を喜ぶほどの関係でもないでしょう。巻き込み事故……巻き込み故意でしかないんですから」
突っ込んでも疲れるだけだと悟りつつも、新しい言葉を生み出してまでちゃんと突っ込みを入れてくれる心優しい後輩に微笑ましいものを感じるよ。
こんな楽しい出会いが、果たして偶然なのか。
「──いや、この出会いはきっと運命だね」
「願い下げです」
言葉選びが段々と刺々しいものになっていく。
……って、ああ、そうだ。
「剣ありがと。覚えてる内に返しておくね」
「そのまま忘れてしまう可能性があるということが何より恐ろしいですし、そもそも俺、貸したことになってるんですね……」
え、私は借りたつもりだったよ?
「犯罪者の発想ですって、それ。しかもかなりタチが悪い部類の──って、剣はあの人たちが目覚めたときにも必要になるんじゃないですか? まだ返さない方が良いんじゃ……」
ん。今、このまま返さなくても良いって?
「この剣をもう二度と手放さないと決めました」
ちぇっ。
まあ、少年君(また名前を聞けなかったことに気付いた)の言うことにも一理ある。意識を取り戻した彼らが素直に話してくれなかった場合や、逃げようとした場合には武器が必要になるかも。
「でもあの連中、抵抗するかなあ?」
「その気力が湧かないくらいの力量差は、確かにありますけど……」
「──」
「……どうしました?」
急に黙り込んだ私に、彼から怪訝そうな顔が向けられる。
しかし直後、私が黙り込むことの異常性に気付いたのか(こんなにうるさい先輩が突然黙るだなんて、余程の非常事態だろう。って、それを自分で言うか)、彼も警戒するように周囲を見渡す。
場合によっては、再び彼から剣を借りるべきなのかもしれないと思って──しかしすぐに、それがほとんど無駄でしかないのだと気付いた。
「──まずい」
思わず溢れたのは、そんな絶望的な言葉。
──危険を感じたのは、ただの直感だった。
ただ単に、胸に降りてきた感触に従っただけのこと。
それから周囲に警戒を向けて──今も自分を狙っている「敵」の存在に、気付いたのだ。
しかし、もしもこれが「敵に狙われている」というだけなら、単純な話で済んだ。それだけだったなら、どんなに良かったことか──いや、狙われてる時点で良くはないけど。
まあそれでも、ともかくマシではあった。
だけど──「敵」がいる位置と、その手に構えている武器が大問題。
──学院の広大な敷地、その中央に威風堂々とそびえ立つ大時計塔。学院のシンボルとして有名な、歴史あるレンガ造りの建築物。
ここからだと、直線距離で三十メートルほどだろう。四方をほとんど建物に囲まれたこの校舎裏で、唯一遮蔽物の無い方向に見える。
十階建て、高さおよそ八十メートルのその時計塔の、恐らくは三階に「敵」が陣取っている。確か、それより上へと登るには鍵が必要になるのだ。
手段を選ばなければもっと高い場所へ行ける、つまりもっと広い視野を得られて有利になる訳だが、「敵」はこの一件を大事にしたくはないのだろう。
或いは、高さ二十メートル少々でも充分だと判断したのかもしれない。
そんな場所で「敵」が構えているのは、長距離用の銃。
いわゆる狙撃銃だ。冷徹に向けられた無機質な銃口が、ギリギリ見えた。
魔法銃か実弾銃かは、遠くて判別できない。魔法銃なら放つはずのライトエフェクトも、この距離では分からないし。
そして──言うまでもなく、剣の届かない間合。
「敵」が私の様子を逃さず見ているなら、私がその存在に気付いたということだって分かっているだろう。
それでもまだ撃ってこないのは、何か狙いがあるのか、それとも遊んでいるのか。
だが、はっきりと分かる。
──下手に動けば、撃たれる。
そんな酷くシンプルなルールだけが、この場を取り仕切っている。
少年君も私の視線を追って、一足遅れで「敵」の存在と場所、そして危機に気付いたらしい。
──完全に、巻き込んじゃったなあ。
今更だけど、素直に反省しなきゃね。
私が狙われてる理由がはっきりと分かっているわけじゃないとはいえ、関係ない人を巻き込んだのは事実。
本命じゃない少年君のことは見逃してくれるかもしれない、なんて淡い期待過ぎるかな。
一人だったら今からでも走れば逃げ切れるかもだけど、リスキーだから推奨はできない感じ。
──そこに、ゆっくりと近付く足音が聴こえた。
私と少年君が驚いて、思わず音の方向に視線を向ける。
本来なら狙撃手から意識を外すべきじゃない状況なのは分かってるけど、この闖入者が新たな刺客じゃなくって、全く関係のない一般生徒だったら、と思うと無視もできない。
──そして、その不安は的中した。
現れたのは一人の学院生。
男子で、少し身長は小さいけれど、ネクタイの色は二年生だ。
短くも長くもない中途半端な長さの黒髪に、いまいち感情の読み取れない表情と黒の瞳。失礼な話だが、一目で「変な奴」だと直感した。
……私が大概失礼な奴だって自覚はあるけど、初対面の人間にここまで言うって珍しい気がした。
前世からのロクでもない因縁とかあったりして。
──しかし、見た目や佇まいなんてものは、彼の「変な奴」っぷりの片鱗ですらなかった。
──彼が何の前触れもなく、私と少年君を置き去りにしてしでかしたことこそが、「変」どころでは済まされないような、彼の「彼」たる所以。
手に提げていた短距離用の魔法銃の銃を、彼がそっと上げる。
しかし、彼が視線を向けたその先には虚空しかないはずだ。一体何を見て、何を狙っているのか。何に照準を合わせているつもりなのか、と疑問に思って視線を動かし──気付いた。
彼が銃口を向けているのは、今も視線を逸らさず睨み付けている先は、他でもない時計塔の三階。
つまり、狙いは「敵」だった。
瞬間、私は圧倒的な無理解に襲われる。
私の視線は「彼」に釘付けになってしまっているので分からないが、きっと少年君も同じ思いだろう。
その矛先に気付いたところで、意味や意図は全くもって分からないままなのだ。いや、むしろ疑問符は増えすらしたかもしれない。
というか率直に、馬鹿なのかな、と思った。
中距離用の銃ですら射程ギリギリ、長距離用の銃が無ければ狙う気すら起きないような距離だよ?
そんな短距離用の銃なんかで狙える訳がない。そもそも弾丸が届くことさえないだろう。
何だろうな。少年君を巻き込んだことを珍しく少し後悔した私だけど、仮にこいつが巻き込まれて死んだとしても、私は絶対に反省しないな。
だって、これは自己責任じゃない?
しかし、そんなことを考えている内に、彼の銃がスカイブルーの光に包まれた。彼が銃に魔法力を注いだこと、そして何より、あの銃が発砲の準備段階にあることの証左だ。
──だがしかし注目すべきなのは、あり得ないほどのその眩さ。
魔法剣や魔法銃が放つ光の強さは、使用者が込める魔法力の量にそのまま比例する。
その光が眩いことは、そのまま「彼」の保有する魔法力の多さを表しているのだが──にわかには信じられない量だ。
そして魔法銃において、込めた魔法力の量は弾丸の射出の勢い、つまりは飛距離と威力に影響する。
普通に考えれば届くはずのない弾丸も、これなら届くかもしれない。まだ五分五分だけど。
もっとも銃を握る「彼」の表情には、弾丸が確実に届く未来しか見えていないように思える。
感情の見えない表情だが、少なくとも不安よりは自信が多く含まれている気がする。
この光の眩しさなら、「敵」からも余裕で見えているかもしれない。それでも動きが無いのは、どんなに底上げしたところで所詮は短距離用だから、と思っているからだろう。
私も同感だ。
そんなことは全く意に介さず──彼がただ、何てことのないような軽さで引き金を引いた。
放たれた弾丸は、想像通りに異常なほどの勢いで邁進していく──いや、想像以上だ。これほどまでに魔法力を込められた弾丸を見たことがなかったから、予想外でも不思議はないけれど。
その小さな弾丸が、強い光を空へと撒き散らしながら、重力に逆らって斜め上方向へと、速度をほとんど落とすことなく直進していく。
さながらそれは、一羽の鳥のようだった。
弾丸が己の意思を持って目標へと突き進んで行くような、現実離れした光景に見えた。
そして難無く、目標の地点である時計塔の三階へと到達する。ここからだと着弾の様子はよく見えないが、それだけははっきりと分かった。
無謀にしか思えないような、けれど充分過ぎるほどに圧倒的な技巧を、「彼」は見せつけた──
それから、十秒程の沈黙がその場に落ちて。
「──いなくなった?」
──「敵」が、忽然と気配を消した。
思わず漏れた呟きに、「彼」が淡々と応える。
「あいつが構えてた銃を撃ったから、使えなくなったんだろ。予備の用意が無かったか、持ってたけど使うべきじゃねえと思ったか。どっちかだろうな」
良かった。どうやら普通に会話はできるらしい。
いや冗談じゃなく。
違う世界の人みたいな空気感が漂ってたから、ちょっとだけ不安でした。
……って、待て待て待て待て待て待て待て待て。
私はしれっと、八回も「待て」と言った。一度にこんなに「待て」を繰り返したのは、たぶん初めての経験だ。
経験しなくていいわ、こんなの。
え、いや、今あんた何て言った? 聞き間違いかと思ったわ。どう考えても絶対に、そんな傍点も付けずにさらっと言うことじゃないでしょうが。
「敵」が構えてた銃を撃った?
驚きのあまり、私が代わりに傍点を付けたわ。
え、馬鹿なの? 何なの?
それはもう圧倒的な技巧どころじゃない、神業と呼ぶ他ない能力じゃんか。圧倒的が過ぎて、もはや嫉妬すら抱かせないほどの超絶技巧じゃん。
「あの、」「待て」
いや、今度はあんたが「待て」って言うのかよ。
しかも、状況に戸惑いつつも「取り敢えずお礼はちゃんと言った方が良いよね」と道徳心を発揮して話し掛けた私に対して。
いくら助けてもらったとはいえ、人間なんだからムカつくことをされたら腹は立つんだよ?
私は彼にその意図を問い質そうとして──だが、それは叶わなかった。
その場に突如として撒き散らされた濃い白の煙幕に、視界の全てを防がれてしまったからだ。
自分の存在の他には、もはや足元の地面くらいしか認識できない無明の世界に追い込まれる。
「彼」どころか、すぐ近くにいたはずの少年君の居場所さえ包み隠されてしまって、何もかもが分からない無理解に覆われた。
声を出して互いの無事を確かめようとして、そんな単純なことすら叶わないという事実に気付く。
周囲の音だけじゃない、自分の声すら聴こえなくなっているのだ。
正真正銘、掛け値なしの無理解。
その最中でも唯一分かるのは、この煙幕が魔道具によって生み出されたものだということ。そして、それが設置型の魔道具だということ。
恐らくは私たちが来る前から、ずっと物陰にでも隠してあったのだ。考えるまでもなく、その犯人は「敵」だろう。
「私が場所をここに移すことすら、予想済みだった……」
自分にすら聴こえない声で、相手のあまりの周到さに感心して呟く。
一体どこまでが相手の掌の上での出来事だったのか分からないが、とにかく背筋が凍る思いだ。
この場を直接「敵」が襲撃してくる可能性を考えて、周囲を必死に警戒する。
しかし視覚と聴覚を奪われた状態じゃあ、「敵」の接近に気付けないどころか、現れたところで対処の仕様もない。
この周到さからして、相手からも私を狙えませんでした、なんて馬鹿なオチではないだろうし。
見えない敵への不安で、神経が摩耗していく。
そんな時間が三分ほど続いてから、視界が緩やかに色を取り戻していった。魔道具の効果が切れて、失われていた感覚が戻って来つつあるのだ。
とうとう全ての感覚を取り戻して、懐かしい世界の光と音が、やけに眩しくうるさく感じた。
そんな開かれた視界には、特にこれといった変化は見られない。さっきまでと何も変わらない、平凡な校舎裏の風景でしかない、ように見える。
次に視界に入った少年君と「彼」、そして私自身でもそれは同じで、少なくともぱっと見た感じでは何の変化も起きていない。
この三人には。
「……やられた」
この煙幕の目的は、私たちとは別にあったのだ。
刺客たち、七人の男が。私に気絶させられて倒れていた彼らの姿が、ここから全て消えていた。
私が彼らから情報を聞き出すのを防ぐために。
そして、何よりも厄介な事実が一つ。
──どうして私は、無事で済んでいる?
これだけ綿密なことを仕組んでいた「敵」がみすみす私を討ち逃すことなど、あるはずがない。確かに「彼」の存在は「敵」にとっても想定外だったかもしれないが、その程度の歯車のズレで狂うような計画でもないだろう。
つまり……見逃してくれた、のか。
残念ながらこの戦いは、私の敗北──いや、完敗と言っても過言じゃない──に終わってしまった。
だが、だ。
それはともかく──ともかくなんて言葉で片付けていいかどうかも含めて「ともかく」、今ここで重視すべき事柄は他にある。
突然の闖入者、超絶技巧の銃使い。彼の話だ。
魔法銃を扱う男というだけでも、この世界では相当以上に珍しい。
なのにその上、あれほどの腕前まで兼ね備えているとなると、今後の人生でも二度と巡り会うことのない類だろう。
それが私にとって、どんな意味を持つか──
「──助けてくれて、どうもありがとう」
取り敢えず彼に、さっき言いそびれてしまった感謝を告げる。礼儀として、できる限りの笑顔だ。
ちょっとした打算を胸に。
きっと私だって、他はさておくとしても、笑顔くらいは可愛く見えるんじゃないかと思う。
だって、姉様の妹でリラの姉だもん。期待はできるはず。
しかしそんな乙女チック(?)な内心に対して、彼の反応は淡白だった(傷付かなくもない)。
淡白と言うより、無関心かな。彼は感情の見えない表情を崩さないままで、
「別に、お前のためじゃねえよ」
とベタな悪態をつく。ちょっと不機嫌そうだ。
台詞がベタすぎてちょっと笑いそうなくらいだったけど、それはそれとして腹が立ったので、論破を試みてみる。
「いや、偶然って言うには無理があるんじゃない? 理由がなきゃ誰もこんな場所に来ないし、しかもあんた、来たときから事情は把握してたでしょ?」
私が狙われてることとか、相手の位置とかさ。
なんて言ってみると、さっきから一人だけ置いてけぼりを食らっていた少年君が、露骨に「うわあ」って視線を向けてきた。
無視するのも何なので、ウィンクを返しておく。
苦い顔をされた。失礼な。
そして、失礼といえば。
「照れ隠しだか何だか知らないけど、人がこうやって感謝してるんだから、ちゃんと受け取っときなさいよ。めちゃくちゃ感じ悪いから」
「感謝してるとはとても思えない発言だな」
「ええ。それとこれとは話が別だもの……ところで、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
「感謝してるとはとても思えない厚かましさだな」
……私も大概だって自覚は流石にあるんだけど、それにしてもムカつくなあ、こいつ。
こんなに腹の立つ奴に出会ったのは、ひょっとしたら生まれて初めてかもしれない。
何でこんな奴に、こんなこと頼まなきゃいけないんだろう……なんて、世界を呪いたくなってくる。
仕方ないから諦めるけどさあ。
せめてもの抵抗で露骨に溜息を一つ溢して、私はその「頼み」を口にする。
「私の相棒になって──」
「断る」
せめて最後まで聞けや。
私は思わず、彼の腹を殴りつけていた。
プロローグ以来ご無沙汰だった「彼」がようやく出てきましたよー……って、まだ名乗ってないからこれってネタバレなの?
まあ、みんな分かってるだろうからネタバレじゃないはず!と自分に言い聞かせて正当化しちゃいますね。
そして名前の問題と言えば、少年君もまだ名前が出てませんね。
でもテルミラはきっと、名前が判明したところで「少年君」って呼ぶ気がします。僕もそうですし(名前自体は、最初から考えてますからね。思い付いてないから出してないって訳じゃない)。
ちなみに、第1幕がこれにて終幕です。我ながらぶつ切りですねえ。