#1 大嘘つきの造主様
第二章開幕! 一週間振りの更新だあ!
(その間、ずっと新作を書いてました……一段落して予約投稿しまくったから、またしばらくはデュアれる(動詞)はず)
とりあえず第二章プロローグとして、これから3話(あくまでも予定。ここまで読んでくれた人なら言わなくても分かるよね?)はダークサイドのストーリーが展開されます。
今回は新キャラ2人……2人? うん2人。が、登場。
──嘘が嫌いだ。
そりゃあもう大嫌いだ。
自分の為に吐く汚い嘘が嫌いなのは当たり前だが、誰かの為に吐く綺麗な嘘とやらも大嫌いだ。
この世から嘘という概念が消えればいいのに。
この世から嘘つきが消え失せればいいのに。
というか、いっそ嘘つきを駆逐して回ろうか?
つい、そんなことを考えてしまう。
(それは、『自分も含めて』なのかしら? 世界から嘘を、そして嘘つきを駆逐し尽くした後に、自殺でもするつもりなのかしら? ──世紀の大嘘つきちゃん)
「? そりゃあね」
そこで自分だけ特別扱いというのも変な話だし。
世の嘘つきを例外なく憎むのであれば、その対象に自分自身を含まないのは筋が通らない──嘘が大嫌いだと言いながらも平気な顔で四方八方に嘘を吐く存在を、許してなるものか。
だから、もしも本当に世界の嘘を駆逐してまわるとすれば、彼女の言うとおり──
(その名前で呼ばないで)
「呼んでなかったんだけどにゃー……」
そう言われるのが分かってたから「彼女」ってぼかしたのになあ。
文句は、せめて呼んでから言ってほしい──と苦笑しかけたが、しかしその責を彼女に求めるのは酷か。
だって、これは彼女の台詞ではないのだから。
彼女はもうどこにもいないのだから──彼女のいうところの「世紀の大嘘つきちゃん」の心の中を除いて、どこにもいないのだから。
言ってしまえば、これは独り言である。
自分と、「自分の中の彼女」との会話。
ケルト・アヌマス・マラストと、セリュア・オリジナルとの会話である。
もっとも、セリュア・オリジナルというのは彼女の本名ではない──正確に言うと、半分が本名で半分が偽名だ。
まあそう言うと、彼女は強固に否定するだろうけれど(偽名じゃないわ。今となっては、それがれっきとした私の本名なんだから)しかし今はその突っ込みは無視。
自分の中にいる彼女を無視って、マッチポンプというか何というか、かなり間抜けなことをやってる気がするけど……そこも含めて無視しておこう。
簡単に言えば、セリュアというのは本名だ。
オリジナルが本名じゃないのは、なんとなく分かる?
(だから本名よ。既にそれは、私の名前なのよ)
ああもう、しつこいなあ。空気読んでよ。
(それは私の台詞でしょ? 空気を読むのはケルトの方でしょ? 誰にだって呼ばれたくない呼称の一つや二つはあるものなんだから。それをわざわざ声に出す必要がどこかにある? ──『造主』さん)
ごはっ。
ああ……これは確かにキツいにゃー。ケルトちゃんが呼ばれたくない呼称ナンバーワンだもの。
何だよ造主って。ケルトちゃんがあの子達にとっての「造った主」なのは事実だけど、でも決してそう呼ばれたいわけではないからね! つーか呼ぶな!
……自分から元の名前を捨てたオリちゃんと、勝手にその呼び方が定着しちゃったケルトちゃんじゃあ、かなり話が変わってくる気もするけれどね。
んー。ここで「そうだねごめんね──『先生』」ってカウンターを決めることはできるか……いや、無理そう。
なんせオリちゃんは口では何だかんだといいながら、成功例にそう呼ばれることを内心じゃ喜んでる節があるからなあ。
何ならケルトちゃんもそう呼ばれたかったな。
あー、今頃ターちゃんは元気にやってるかなあ? ヴィルファ皇国に行ってから、一切連絡とかとってないからなあ……友達出来たのかな? ご飯とかちゃんと食べてるのかな?
(なんで心配の仕方が親目線なのよ。それに、気になるなら視ればいいでしょうが──『造主』として)
だから造主って呼ぶなって言ってんじゃん。
あと親っていう表現も、別にそこまで的外れじゃあないと思うんだよね。
ターちゃん含め、セリュア達はみんな、ケルトちゃんとオリちゃんが造ったわけだし?
(何言ってるの。私は単に自分の遺伝子情報を提供しただけでしょう──そこから複製個体を造ったのはケルトでしょう)
えー、ケルトちゃんが全部悪くてオリちゃんが一切悪くないみたいな言い方はやめてほしいなあ。
「複製個体作りたいなあ」
「私のでよかったら、遺伝子情報あげるよ?」
──って感じだったんだから、同罪だよ。
ケルトちゃんの数少ない、というか唯一の共犯者なくせに。
(ケルトの数少ない、というか唯一の友人だってことは認めてあげるけどね)
友人は唯一じゃないよ。失礼な。
自慢だけど、人脈は国内外にいっぱい持ってるからね。
つまり友達も多いと言える、はず。
(弱味を握って脅してる相手は、ケルトのことを友人だと思ってるわけないでしょう)
人聞きが悪いオリちゃんだなあ。
誠意を込めて頼めば言うこと聞いてくれるんだから、これはもう立派な友情でしょ?
「──でもさー、いくら心配でも、ターちゃんのプライベートを覗いちゃうのは、人としてちょっとどうかと思うじゃん?」
(ケルトこそ、ケルトに良識があるみたいな言い方はやめてほしいな。何を言ったところで、奴隷みたいに扱ってる時点で今更すぎるんだから)
「んなっ!? ケルトちゃんがいつターちゃんを奴隷扱いしたと? そんなのしたことないもん! ケルトちゃんが奴隷扱いしてるのなんて、不完全体だけだし! 成功例は別だし!」
(それこそ、ターナイトからすれば一緒でしょうが──ケルトがターナイトに吐いた、一つ目の噓でしょうが)
……さすが、オリちゃんの言葉は鋭い。
ケルトちゃんに厳しそうに見えて、しかし結局甘々な彼女ですら、ケルトちゃんのこの噓を許してはくれないってことなのかもしれない。
──そんなオリちゃんを自分の心に住まわせているのは、誰よりもケルトちゃん自身がケルトちゃんの行いを許してないからなのかもしれない。
思えば、いくつも嘘を重ねてきたものだ。
許されることだとは、到底思えないほどに。
許されていいことだとは、到底思えないほどに。
──そのときだった。
『造主』として『奴隷たち』と交わした魔術契約によって、ケルトちゃんはそれらの大まかな状態を掴むことができる。
言わなくても大体分かる気がするけど、それらっていうのは『奴隷たち』のこと。
あんなのの表現には「それら」で充分──間違っても「彼女たち」だなんて呼びたくない。
あの中で私が「彼女」と呼んでいいと思えるのは、ターちゃんだけなのだから。
ともあれ、その多数の不完全体については、その身に何かが起きれば、ケルトちゃんのもとに情報が入るようになっている。
一部を損傷した(怪我した、ではなく)とか、電源が切れた(意識を失った、ではなく)とか、壊れた(死んだ、ではなく)とか、そういうの。
ケルトちゃんがプライバシーを考慮するのはターちゃんだけだ──否、あんな「もの」にはプライバシーなどという言葉が既に似つかわしくない。
──その『奴隷たち』のうちの一体の電源が、突然に切れた。
(つまり、意識が途絶えたってこと?)
違う。電源が切れた、だ。
相手がオリちゃんでも、そこは譲れない。
(まあ私も、どっちでもいいと言えばそれまでなんだけどね……でも、だからこそ──それがどうかしたの?)
どうもしない──普段なら。
しばらくすればまた電源が入って(目が覚めて)、それだけでおしまいだ。
というか、そもそもたかが奴隷一体の話なのだから、ケルトちゃんが意識を割くようなことですらない。
(じゃあ何? ひょっとして、割と重大な命令を出してた子がやられちゃったとか?)
「あれのことを『子』っていうな──そして違う」
確かに、重要な任務に就けている奴隷の電源が落ちたのであれば無視はできないだろう。
少なくとも、意識を向けてやる程度の価値はある。
もっとも、今重要な任務に就けているのはターちゃんだけだから、その心配はなかった。
ターちゃんの身に何かあったとしても、ケルトちゃんには伝わらないからだ──それはそれで、ある意味心配の種とも言えるのだけれど。
『造主』として、そりゃあターちゃんと魔術的な契約自体は交わしている。表面上は、他の『奴隷たち』と交わしているものとそっくりな契約を。
その理由は簡単で、ケルトちゃんにとって「そういう意味で」ターちゃんが特別なのだと、ターちゃんに気付かれたくないからだ。
『造主』にとっては自分も他の奴隷も変わらない、ただの道具に過ぎないのだ──と、ターちゃんには思っておいてほしいからだ。
けれど、実際は違う。
ターちゃんだけが特別なのだ。
ケルトちゃんにとって、ターちゃんだけは「人間」なのだ──他の「もの」とは違って。
だからプライバシーを認めている、という話。
それでも権限を使えば、他の奴隷と同じように「覗き視る」ことはできるのだけれど──それはしない。
できるけどしない。
(それじゃあ本当に何なのよ? ターナイトでもなくって、重要な命令に当たってる他の個体でもないなら、ケルトがわざわざ気を割くことなんてないじゃない)
「それが、むしろ逆みたいなんだよねえ……」
ケルトちゃんは敢えて軽めの口調で言ってみた。
どうもケルトちゃんは、状況が深刻なときほど明るく振る舞う傾向にあるらしい。
事態のシリアスさを打ち消して、場を和ませようとしているのかもしれない。
だとしたら、我ながらなんとまあ健気なことだろう。
(そういうのいいから。状況とか関係なく、ケルトの口調も態度も常に軽いから)
心の中にいられると、心の声が筒抜けでやだなあ。
私が勝手に「いてもらってる」んだけどさ。
いや、これが真面目な話、さっき言った「むしろ逆」ってのがもう、ほとんど答えなんだよね。
ケルトちゃんが今は命令を出してない個体の電池が切れたのが大問題なんだ、って話だから。
ね? 「むしろ逆」だったでしょ?
(えっと……つまり?)
頭の回転が遅いねえ、オリちゃん。
というか本当にオリちゃんなの? ケルトちゃんの知ってるオリちゃんはもっと頭が良かったのになあ。
さてはオリちゃんの偽物か?
(ある意味その通りでしょ。身も蓋もないことを言っちゃえば、ここにいる私はケルトの妄想なんだから)
本当に身も蓋もないね。妄想って。
もうちょっとオブラートに包めないもんかね。
「ケルトちゃんが命令を出してないってことは、つまり──今はケルトちゃんの手元にあるってことだよ?」
例えば「どこそこに行って何々して来て」ってな具合に命令を出せば、その個体は言われた通りに行動するだろう。つまり、ケルトちゃんの元を離れるだろう。
「皇国に行って、三姉妹の最低一角を無力化してきて」と命令されたターちゃんが、今はここにいないように。
命令に従って出払っている個体の電池が切れた(意識が途切れた)場合、まあそれで困るか困らないかと言われれば微妙なんだけど──ともあれ、電池切れになってしまった理由については簡単に分かる。
あ、しくじっちゃったんだな、って。
更にいうと、それでも壊されてない(殺されてない)ってことから、じゃあ生け捕りにでもされたのかな? って感じの想像はできる。
そして対処も楽ちん。
あれをケルトちゃんとの取引材料にされようが、あれが悲痛な拷問を受けようが──ケルトちゃんがすべきことはたった一つだ。
普通に無視すればいい。
ケルトちゃんにとって不完全体は、所詮代えの効く奴隷たちのうちの一人でしかない。あんなものはケルトちゃんを動かす餌にはなりえない。
それにどんなに拷問されたところで、感情を持たない不完全体は僅かな苦しみも痛みも感じないのだから──それこそ、あれが「あれ」たる所以なのだから。
その拷問の過程で「あれ」に感情が宿った、なんてことになったら助けに行くけどね。
仮にそんなことになったならば、もの扱いを止めて、一人の人間として扱ってやる。
……しかし、そんな奇跡は起きないのだけれど。
まあともあれ、出払ってる個体の電池が切れたのなら無視すればいいだけ、という話である。
だが今回は違う──電池が切れた個体は、まさに今ケルトちゃんの元にある(いる)個体なのだ。
この場合、電池切れになってしまった理由が全くもって分からない──いや、「全くもって」は言い過ぎだ。
可能性は二つ思い付く──ただし、そのどちらが正しかったとしても、或いは想定外な第三の可能性だったとしても、あまり喜ばしくはない。
(──つまり、ケルトが襲撃を受けてるってこと?)
「いや、違うけど」
──確かに、第一の可能性はそれだ。
ここにいる個体がダメージを受けたのだから、ケルトちゃんと敵対する何者かがここに襲撃を掛けたというのが自然な考えだろう。
一番ありえそう、と言ってもいいかもしれない。
──だがそれは、「一番ありえそう」でありながら、「一番ありえない」可能性なのだった。
はっはっは。このケルトちゃんが、まさか襲撃への対策を怠ってるわけがないじゃんか。
後ろ暗いことやってる自覚はあるんだから。
ケルトちゃんの中にいるオリちゃんは、そんなことも分からないほどにお馬鹿さんなのかなあ?
──或いはそれは、「オリちゃんにはケルトちゃんよりも馬鹿でいてほしい」ってコンプレックスから来てるものかもしれないけど。
ともあれケルトちゃんがここにいるときには、常に大規模な結界が展開されている。
その術式の内容は簡単──ケルトちゃんが許可を出してない相手は通れない。以上。
どうしても入りたかったら結界を壊すんだな!
壊せるように作ってないけど!
仮に壊せたとしても、「壊された」ってことがケルトちゃんにバレる時点で終わりだけど!
──ちなみに、想定外な第三の可能性でもなかった。
こう言っちゃ何だけど、ケルトちゃんにとっての予想外って、ほとんど世界中の誰にとっても予想外みたいなもんだよ?
どんな達人も、存在しない隙は突けない──
あ、いいなコレ。忘れる前にちゃんと記録しとこう。
(……いや、記録してどうするの?)
「そのうちケルトちゃん語録として出版したい」
(誰も読まないわよ)
「きっと友達がいっぱい買ってくれる」
(脅して買わせるって、もはや何がしたいの?)
第一の可能性でもなければ、存在しない第三の可能性でもない──つまり、第二の可能性が正解だ。
ケルトちゃんにとっては、それこそが一番嫌な可能性といっても過言じゃないんだけど。
(──『奴隷たち』を連結するネットワークに介入されてる、ってこと?)
「そうみたいだねえ……」
ケルトちゃんと『奴隷たち』が契約によって魔法的に繋がっているのは、さっきも言った通り。
謂わば、『奴隷たち』それぞれに、ケルトちゃんへと通じる見えない糸みたいなものがあるんだと思えばいい──ケルトちゃんが命令を出したり、ケルトちゃんに個体の状況を知らせるための糸。
つまり、『奴隷たち』には常に、ケルトちゃんを中心とした魔術ネットワークが展開されているのだ。
それを逆手に取れば──『奴隷』のうちの一体から、ケルトちゃんを経由して他の『奴隷』と連結することができるというわけだ。
分かりやすくいうと、ある『奴隷』が負った損傷を、他の『奴隷』に肩代わりさせることができるというわけだ。
ん? そんなネットワークの中心にいるなら、ケルトちゃんにそのダメージが飛んでくる可能性もあるんじゃないかって思ってる?
そんなわけないじゃん。
ケルトちゃんを舐めちゃいけないよ。
まあそんな風に考えれば、ケルトちゃんの元にある(いる)個体が電池切れになった(意識を失った)理由についての謎は解ける──本当に電池切れになったのは、外に出ている個体の一つなのだ。
それを肩代わりする形で、電池が切れたのだ。
よって、謎は全て解けた!
──なんてことはない。
というか、むしろ謎が増えたくらいだ。
簡単に言ったので簡単に聞こえるけれど、そんな芸当ができる輩はそうそういない。
なので、「誰が何の為にそんなことを」って大きな謎が新しく生まれちゃったわけだ。
──とか何とか思ってる間に、また別の個体の電池が切れた。今度は立て続けに二体も。
その両方が、やっぱりケルトちゃんの元にいるやつだった。
「こうなっちゃうと、さすがに無視もできないかなあ」
ケルトちゃんの重い腰を上げさせるとは、誰だか知らないけど憎い敵だよ。本当に。
まだ腰は上げてないけどね。腰は趣味の悪い玉座にばっちり付けたままだから。
(「趣味の悪い」は余計じゃない? それ、生前の私がケルトにあげたやつでしょ?)
知ってるよ。だから使ってるわけだし。
ただ、形見だから大切にしてるってだけで、別に意匠が好きなわけじゃないからねえ。
もっと可愛いの残しといてほしかったよ。
「さてと、おふざけはこのくらいにしておいて。じゃあまずは、『奴隷』ネットワークの解析からかな? ネットワークを介して損傷を他の個体に肩代わりさせたのなら、そもそもその損傷を負ったのはどの個体かってのを調べなきゃね──」
(その「おふざけ」の最中に終わらせてたくせに……だから有能な奴って嫌なのよ。遊びながらでも仕事ができるから、結果的に遊びの割合が増えていくし)
「辛辣……でも、どっちかと言えばオリちゃんもそっち系だよね?」
──って、あれ?
(どうかした?)
「他の個体に損傷を肩代わりさせてるの、不完全体の識別番号287なんだけど……これって、今は何してるはずのやつだっけ?」
なんだか、妙に嫌な予感──否、直感がした。
ケルトちゃんにとっては、オリちゃんとターちゃん以外のセリュア、つまり不完全体なんてどうでもいい存在なのに。
直接的に関わることもなければ、実際に目にしたところで区別すら付かない、取るに足らない存在なのに。
なのに──「識別番号287」という文字を頭に思い浮かべた瞬間、背筋が凍り付きそうになった。
ケルトちゃんの内心を反映してだろう。オリちゃんが返した言葉も、どこか重たかった。
(……ターナイトと共に、皇国へ向かっていたはずよ。ターナイトの監視と、それから失敗したときの保険って名目で)
それを聞いて、予感と直感は確信に変わる。
──ターちゃんが失敗したときの保険という名目で遣わした個体がいたのは覚えていた。
それもまた、ターちゃんに「造主にとって、自分は他の奴隷と同等でしかない」と思わせるため。
けれど、そのコード287が電池切れに陥るような状況ということは、ターちゃんの身にも何かが──
そんな可能性が浮かんでしまっては、もはやなりふり構っていられない──絶対にしないと決めていたはずのことでも、躊躇なくする。
ターちゃんのプライバシーを侵害する。
言葉にすると最低だけど、それでもやる。
『造主』としての権限を使って、ターちゃんの今の状態を覗き視る──しかし、失敗した。
失敗?
ケルトちゃんが失敗?
その事実に、焦燥感が急激に加速していく──
さっきは「ケルトちゃんにとっての予想外は誰にとっても予想外」なんてことを言っていたのに(いやまあ、あれもオーバーに言ってたけどさ)、そんな予想外の事態が今まさにケルトちゃんの身に──いや、ターちゃんの身に起こっているというなら──
(落ち着きなさい。ターナイトの状態が分からないのなら、代わりにコード287の状態を確認すればいいでしょ)
──心の中から冷静に響くそんな声で、ケルトちゃんはちょっとだけ落ち着きを取り戻した。
オリちゃん、ありがと。
そんなオリちゃんも私なのだと思うと、どうしてもマッチポンプ感が拭えないけど。
ケルトちゃんは『奴隷』ネットワークを辿りながら、そのコード287の状態を確認する。
──異常事態が起きていた。