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#27 可愛くしてあげる(暴力)

テルミラsideで、「vs.姉妹」篇その1(?)

今日は3話一気に投稿して、「vs.姉妹」篇を終わらせます

 これまでのあらすじ。

 ──紆余曲折うよきょくせつ色々あったけれど、何はともあれ最終的に、私とディルの馬鹿二人で、姉様とリラに挑むことを決意した。


「……だけど、まさかこんなに早く見付けちゃうとは」

 ちょっとカッコつけて「行くわよ」なんて言ったものの「でもあの二人ってどこにいるんだろう?」ってオチになるだろうって、みんな思ってたでしょ?

 私も思ってた。

「俺もだよ。どうせテルミラのことだから、考え無しに歩き回るんだろうなって思ってた」

 隣からも賛同の声が寄せられました。


 いや、考え無しって言い方は悪くない? そんなの、考え無しに歩くしかないじゃん。出会えるかどうかなんて、完全に運任せにするしかないわけだし。

 お互いに勝ち残れたら、まあきっとそのうちどこかで会えるよね、みたいな感じじゃんか。

 進む道筋は指運なんとなくで決めるしかないよ。リラみたいに、棒を倒して決めても良いくらいだ。


 なのに、

「こう簡単に見付けちゃうと、逆に困るんだけど……」


 ──頭の中を整理する意味も込めて、今の状況ってやつを丁寧に説明してみよう。

 ディルに悪口を言われて私が立ち直った後、私とディルが皮肉を言い合ったよね?

 なんとあれ、今から十秒前の出来事です。ばばーん。


 ……はい。私達二人、あれからまだ一歩たりとも足を動かしていません。

 私達が話してた場所って、ちょっと小高い丘みたいになってたんだけど……何の気無しに周りを見渡したら、あの二人が歩いてる姿が普通に見えましたよ。

 何でだ。


 いや、まだ心の準備ができてないんだとか、そこまでのことは言わないけどさ。

 でも、何だかなー……理由は説明しにくいんだけど、ちょい複雑な気分になっちゃうよね。

 この感覚、分かってくれる?


「そうか? むしろ幸運だと思うがな。今なら、気づかれる前に奇襲を仕掛けることだってできるぞ」

 ディルは分かってくれなかった。

 やれやれ、そんなんだから君はディルなんだよ。

「何だよその言い草……いや別に俺も、テルミラの言ってる意味が全く分からねえとは言わねえよ? だが、そんなことを考えるよりも、ここは素直にその幸運を享受しといた方が良いんじゃねえのって話だ」

 ま、それは確かにその通りだ。


 ふむ。じゃあ襲うとしますか。

「──そうね、まずはディルがリラを狙って。戦力のことを考えると、奇襲で先にリラを倒しておきたい」

「実の姉妹を相手に奇襲を掛けるんだな、お前……」

 その人でなしを見るような目を止めなさい。

 奇襲だって立派な戦略でしょうが。

 それにこの競技の場合、奇襲はする方じゃなくて受ける方が悪いのよ。ちゃんと周囲を警戒してたなら、奇襲なんてされないはずなんだから。


 ってか、そもそも奇襲できるって最初に言い出したのはディルの方でしょ?

「いや、言い出しておいて何だが、どうせお前に断られると思ってたんだよ。『実の姉妹を相手に奇襲なんてできない。正々堂々と正面から戦う』とか言うって」

「何よ。私が悪いって言いたいの?」

 ことあるごとに私のせいみたいに言いやがって。そんなのばっかか、こいつ……人のことは言えないけどね。

 私も大概ディルのせいにするわけだし(ディル以外のせいにもする。先輩とか少年君とか)。


 しかし、ディルは少し考えるように黙り込んでから、首を横に大きく振った。

「……ま、お前の行った通り、奇襲も戦術だからな。やるだけやってみても良いだろ」

 結局認めるんかい。だったら最初から文句なんて言うなっての。


 でも作戦の続きは……うーん。例えばこれが普通の相手だったなら、姉様が隣にいたリラが突然撃たれたことに戸惑うだろうから、その隙に姉様も狙う、とかの単純な作戦で良いと思うんだけどなあ。

 ただし、そんな簡単な策で倒されちゃうような連中って、大抵の場合はそもそも策なんて講じなくても倒せちゃえますよ。

 策にかかってくれるような相手はそもそも策が必要じゃなくって、策を必要とする強力な相手はなかなか策にかかってくれないってパラドックス。


 だって姉様、その程度じゃ戸惑わないんだもん。

 私とは対照的に、メンタルの強い人だから。

 ……実の妹が目の前で倒れたらちょっとはショックを受けてほしいと、妹の一人としては思う。命に全く別状は無いわけだけど、それでもさ。

 迷いなく「敵」を探して倒しに行くんだろうなあ。

 それが一番正しい選択なんだけどね。


「あ、でも、『弾丸が飛んできた方向を確認して、私達を見付けて、距離を詰めて』ってしてる間に、そこそことまではいかなくても、多少の時間は掛かるか」

 だったら、その間に狙えたりするかな?


 あれあれ? 案外楽勝ムードじゃない?

 さっき色々言いはしたけど、あの二人を先に見付けられたのはかなりラッキーじゃん。


「──調子に乗るなっての」

 痛い痛い。この男、また女子をつねりやがった。

 くそう、これで何度目だ。

「まだ二度目だっつーの。お前が俺を殴った回数に比べたら、たったの半分くらいじゃねえか?」

 あっれー、そんなに殴ってたっけ?

「とぼけるな。普通に躊躇なく殴ってたよ」

 ふうん。残念ながら私の記憶は、自分にとって都合の悪いことは思い出せないようになってるのよ。


 それで、今度はどうして女子に暴力を振るったのかしら? 被害者が満足できるように、合理的で理路整然とした説明をお願いね。

「何でそんな上からなんだよ……てか、理由についてはちゃんと言っただろうが。『調子に乗るな』って」

「随分と漠然とした言い方ね。ディルが何を言いたいのか、まるで伝わって来ないわ。まさか『あの二人をその程度の策で止められると、本気で思ってるのか?』ってわけでもあるまいし」

「ちゃんと分かってんじゃねえか」

 まあ、そりゃあねえ。姉妹として、あの二人の実力は人並み以上に理解してるつもりだし。


 ただ、そんな絶望的な状況でもめげずに、無理にでもテンションを上げていこうとしているわけだよ。

 この涙ぐましい努力は買ってほしいな。

「その弁明まで含めて、いつものふざけてるテルミラにしか見えないんだが……」

 あらあら。ここでも日頃の行いが。



「──テルミラ!」

「──!」

 この相棒パートナーにまた皮肉の一つでも言ってやろうか、なんて考えていた私は──唐突に、その正面の男から激しく名前を呼ばれた。

 ふざけた会話を交わしていたさっきまでとは実は別人なんじゃないかと疑ってしまいそうなほどに温度が異なる、真剣な響きの声。

 そしてその声の主は私の背中に左腕を回して、自分の胸に抱き寄せるように強引に力を加える。


 え? な、何何?

 状況変化があまりにも突然過ぎて付いていけなくて、っていうかちょっとしたパニックになってしまって、私はさしたる抵抗もできずに、つまりなされるがままにディルの胸に飛び込んだ形になった。

 一人の乙女として、それはどうなの。


 って、いやいやいやいや。

 問題なのはそこじゃなくて(そこもだけど)。

 な、マジで何してんのコイツ……。


 だが、その疑問と呆れの中間みたいな台詞が私の口から飛び出すよりも前に、ディルが一体何をしたかったのかは分かった。

 分からされた、と言うべきかもしれない。


 強く抱き寄せられたことで、私は少し前に動いた。

 そして──刹那前まで私がいた座標を、小さくとも存在感のある物体が、音とほぼ同じ速度で駆け抜ける。

 視界には捉えられなかったが、その熱と風圧だけは、間違えようがないほど確かに背中で感じた。


 それが何だったのか、考えるまでもない。

 ──弾丸だ。


 ディルが私を抱き寄せたのはつまり、私に迫って来ていた弾丸の存在に気付いたから。その脅威から私を守るために、こんなことをしたってことね。

 確かに、ディルがいなかったらヤバかった。

 弾丸の接近に気付けないまま、或いは気付いたときにはもう手遅れで、普通に射抜かれていただろう。

 ディルのおかげで、服の背中が一直線に破けるだけの被害で済んだってわけだ。

 あ、あと、ブラも一部が破れちゃった。もう使い物にならないから、邪魔だし外すしかなさそうだ。

 首の皮一枚繋がったって感じかしらね。

 選手としても、乙女としても。


 しかし、ディルとのお喋りに夢中になってたせいで、弾丸の接近に気付けなかったとは。

 戦場にいるってのに、いくらなんでも油断しすぎ──いや、違う。

 ……全く違うわけじゃないけど。

 油断してたのは事実です、はい。


 だけど、あの弾丸は完璧に無音・・だった。

 それこそ、接近に気付けないほどに。


 そこから導き出される結論は──


「……あ、ありがと」

「──礼を言うにはまだ早いな」


 何とか気を持ち直して、ひとまずは助けてくれたディルに礼を言う。すぐに彼の胸から離れて、自分の足でちゃんと立ち直った。

 返ってきたのはそんなぶっきらぼうな声だったけれど──その内容は、確かにその通り。


 ディルはいつの間にか、右手で銃を構えていた。当然ながら、銃口が向く先は弾丸が飛んできた方向──さっきまで姉様とリラがいた方向だった。

 左腕で私を抱き寄せたとき、同時に反対側の手で腰の銃を抜いていたらしい。


 ──あの無音射撃は、リラによるものだ。


 見た目に似合わず機械いじりが好きなリラは、自分の魔法銃を好き勝手に改造したりするのが趣味。

 姉様の銃だったりかつての私の銃だったりのメンテナンスも、実は全部リラがやっていたほどだ。

 ただまあ魔法銃の構造ってめちゃくちゃ複雑だから、単なる分解整備メンテナンスならともかく、素人が改造アレンジなんかしたところでそうそう上手くいかない。

 玄人くろうとでもほぼ上手くいかないらしいし。


 私は専門外過ぎてよく分かってないんだけど、リラが言うには、

「例えばリラの銃の射撃性能を上げる方法をどうにか見付けたとしても、それと全く同じ方法でお姉ちゃんの銃を強化できるってわけじゃないの……全ての銃に適用できるやり方(マニュアル)が無いんだよね」

とのことらしい。


 公式なデュエッティング・オルターの大会ルールでは一応「『自分で』改造した魔法剣や魔法銃の使用」自体は認められている。

 たぶんだけど、これは「戦闘が始まるまでにしておく準備も戦闘のうち」って考えなんだと思う。

 ただ勿論、そんなものを実際に使う(使える)人なんてまずいない。

 少なくとも、私が知ってる中ではリラだけだ(学院全体で十人もいないって噂だから、ここでは私の交友関係の狭さはあまり関係ない)。


 ──『無音射撃機構』は、リラが行った改造アレンジの数少ない成功例の一つだった。

 効果はその名の通り、射撃時の発砲音だったりが一切出なくなるというもの。


「くっ……実の姉を相手に、問答無用で発砲してくるとかどんな妹よ」

「実の姉妹を相手に奇襲しようとしてた奴が言うな」

 その通り過ぎて反論の余地も無かったわ。


 ディルの銃口が、迷うように大きく動く。聞こえた舌打ちの音に、標的が動いていて狙いを定めることができないのだと分かった。

 距離はそこそこ空いているけれど、ディルならば普通に狙えるだろう──だがそれは、ちゃんと精確に狙いを付けられたらの話。

 リラがそんな隙を与えてくれるはずもない──そしてディルが引き金を引けるようになるよりも早く、ディルがまたもや私に叫んだ。


「──もう一発来るぞ!」

「分かってる! ディルは周囲の警戒してて!」


 だが、同じ手は通用しない。

 無音機構は奇襲にはうってつけだが、二発目以降はそこまで厄介でもない(あくまでも比較的)。

 弾丸が来るって分かってれば、対応もできる。


 けれど、それはリラ達も分かっているはずだ。

 ──だからきっと、姉様が狙うとしたらここだ。


 私は剣を抜いて、魔力を込める。

 白い光を纏った剣をタイミングよく斜め下から右手で振り上げて、ピンク色に光る弾丸を二つに切り裂いた。


 そうして、私の背中に隙が生まれる──そのタイミングを待っていたかのように、今度はワインレッドに輝く弾丸が背後から刺すように飛んできた。

 最適なタイミングで放たれた一撃は、通常なら振り返って対処なんてできずに私の背中を貫いていただろう。


 だが、そうはならない。

 リラが作ったこの隙を、姉様が無為に見過ごすはずがないと分かっていれば──つまり、狙い澄ました弾丸が来ると分かっていれば、対処は不可能でもない。

 リラからの弾丸を両断するために振り上げていた細剣レイピアの刃を、足を引いて振り返って、そのままの勢いで振り下ろす。

 白の刃に触れた紅の弾丸が辿る運命は、さっき桃色の弾丸が辿った末路と同じ。二つに砕けた後に軌道を横にずらし、誰もいない地面を軽く穿つ。


 ──ただし、その二発で終わるわけもない。


 次に接近してきたのは、弾丸ではなくリラ本人。

 一発目の発砲の後からずっと、足音を抑えながら、それでも素早くこちらとの距離を詰めて来ていたのだ。

 二発の弾丸を凌いだ頃には、既にリラは十メートルほどの距離にまで近付いてきていた──いや、今もその距離は縮み続けている。


 おそらく、銃弾での戦いから、近接格闘に切り替えるつもりなのだろう。

 自分で言うのも何だけど、遠くからいくら銃弾を飛ばしたところで、私を簡単に倒せるとは思えない。

 だから、私が苦手な格闘戦に持ち込むつもりなのだ。

 それに、ディルもどちらかといえば遠距離型だし。

 あとリラも姉様も、安全圏から一方的にって戦い方は大嫌いだからね。


 しかし、二発の弾丸に対処してすぐの状態で、今から体勢を立て直してリラと直接戦うのは、私には無理だ。

 ──だからここは、相棒に任せる。


「周囲の警戒してて」の言葉を守ってくれていたディルは(言わなくてもしてた気もするけど)、私よりも早い段階からリラの接近には気付いていた。

 素早く距離を詰めることを優先したリラは、まっすぐ直線的にこちらへ向かっている──動きが不規則じゃないから、狙いを定めやすい。

 角度的に顔は見えないけど、ディルが淡々とした様子で一発だけ発砲した。


 その弾丸が目指す場所は寸分の狂いも無く、次の刹那にリラが移動していたであろう座標──しかし流石の反射神経で、リラはすかさず横への跳躍で回避。

 ただし、勢いは削がれる。

 幼い頃の私と一緒だ。


 そうなれば、ディルは二発目を放つだけ。

 動きが僅かでも止まった内に畳み掛けたい。

 その程度でリラが倒れてくれるとは思えないけど、しかし足止めくらいにはなるはずだと信じる。


 リラの相手はディルに任せよう。

 ──私は、私の戦いを任されてあげる。


「おいおい、フェアリラの相手を相棒パートナーに丸投げかよ……お前も加勢した方が良いんじゃねえか?」

 私が受け持つべき相手が、顔に楽しそうな笑顔を貼り付けて正面から悠然と歩きながら、そんな声を掛けてくる。

「確かにそうね。ディルなんかじゃ頼りないし、できることなら加勢に行きたいから──だから姉様、空気を読んで手早く倒されてくれる?」

 警戒しながらも不敵な笑みを浮かべて、私は応えた。額に汗が薄く滲むけれど、無視する。

「は。そりゃあ無理な相談だな。実はアタシ、フェアリラから頼まれてんだよ。テルミラを抑えてろって」

「……私を?」


 どういうこと?

 ──と疑問に思って、しかし深く考えるよりも先に答えは出た。


 リラの目的は、ディルとの決着を付けること。彼が私に相応しい相棒パートナーでないと証明すること。

 だからその戦闘に余計な邪魔が入らないように、私の相手を姉様に任せておくつもりなのだ。

 ……邪魔って。いや、自分で言ったことだけど。


 しかもこれ、相棒パートナーがグランから姉様に代わったからできることじゃん。

 グランのことを「お姉ちゃんを相手に十五秒くらいは保つ」って言ってたくらいだし、そのままだったら頼んでもないでしょ。

 あいつ、さてはこの状況を楽しんでやがるな。


「リラが楽しんでるかどうかはともかく、理由についてはその通りだよ。テルミラにしては察しが良いな」

 そりゃどうも。お褒め頂き光栄だよ、とでも言っておきましょうかね。


 ──ってか、よく考えたら姉様も姉様だよ。

 何を「妹のワガママを聞いてやった」みたいな口振りで話してるのよ。姉様の目的も私の粛清でしょうが。

 二人の目的を考えたら、最初からそもそもこの組み合わせしかないじゃんか。

 ディルとリラ、私と姉様がそれぞれ戦うって。


 そう言うと、姉様は鼻で笑う。

「はっ。珍しく察しが良いと思ったら、気付かなくていい余計なことまで気付きやがる。そんなんだからお前はテルミラなんだよ」

「図星を指されたからってこの理不尽さ、さすがは私の姉様って感じ……」

「てか、気付いても言うんじゃねえよ。仕方ねえだろ? アタシだって姉として、たまには可愛い妹に良い顔してえんだよ」

 そして開き直る。まさしく私の姉様だった。


「だったら、私にも優しくしてくれないかな? 大人しくやられてくれるとかさ」

「何言ってんだ。アタシが良い顔したいのは可愛い妹だっつったろ」

 可愛い妹=リラ。

 ってことは、私=?


「──え、私って可愛くない?」

 あ、いや、別に自分のことを可愛いだなんて思ってたわけじゃないよ? そこで自惚れてはいません。

 でも、実の姉から面と向かってそう言われると、女の子としても妹としてもちょっとショックだわ。

 姉様とリラが美形なんだから、私にも可能性だけはあるはずだって思ってたのに。

 だって、胸の大きさ(小さ──慎ましさ)はこんなにも姉妹で似通ってるんだよ?


 しかし、姉様は「こいつは何を言ってるんだ」とでも言いたげな態度だ。

「別に可愛い妹じゃないだけで、お前が可愛くないとまでは言ってねえよ……反応に困るからそんなに凹むな。って言うかリラはともかく、アタシも別に可愛くはねえだろうが……」

 ……あーはいはい。そんなこと言うんだ。へー。

 持つ者には持たざる者の苦しみは分かんないってね。

 そういう自虐が一番ムカつくんだからね!


 温厚な私にしては珍しく、カチンと来ましたよ。

「お前のどこが温厚なんだよ」

 突っ込みは黙殺する。

「──こうなったら姉様を徹底的に倒して、可愛げに溢れた負けざまを記録してあげる。姉様が可愛いってことを、姉様に知らしめてやる」

 自信と自虐に溢れたその立ち姿を崩して、気を失って地面に倒れたところを「かーわいいっ」と煽ってやる。


「何だそれ。そして、ブーメランって言葉をお前に教えてやりたくなってきたが……ま、良いか」

 姉様は呆れたように首を振って、そして銃を構える。

 このくらいの戯言たわごとには、いちいち突っ込む気力も起きないのかもしれない。

「望むところだ──アタシも、お前を徹底的にいたぶって倒して、可愛くない妹の可愛い無様な寝顔を、消えないように記憶に焼き付けてやるさ」

 そして姉様も、私に強く言い放った。


「……ちょっと何言ってるかよくわかんないんだけど」

「待て、お前が先に言い出したんだぞ。ここで梯子はしごを外すのは止めろ」

「じゃあ、負けた方が可愛いってことで」


 ──そして私達は、同時に地面を強く蹴り出した。

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