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#21 予定外の予定調和

今回は全部テルミラ視点です。

っていうか、(後書きに続く)

「ディルが、いない……」


 ──現状を認識すると同時に、勢いで「またかよ」って素直な感想を溢してしまったけれど、しかし前回(今朝)とは何かと様相が違うのも確かだ。

 まあ、今朝は「ディルが『来ない』」だったし。

 約束の場所に来なかったディルを探して、色々と苦労させられたことは、今でも記憶に新しい。今朝だから新しくて当然だけど。

 ただ前回とは違って、今回は少なくとも、こんな事態になってしまった原因だけははっきりしている。

 原因以外には何にも分かんないけどね。


「取り敢えず、あの光の紋章だよね……」

 理由は、あれ以外には考えられない。あれが原因じゃなかったら、じゃあ何だって話だし。

 光に包まれて、気付いたら違う場所にいた。

 それで光が関係なかったらビックリだよ。


 よく分かんないけど、あの光は「光に呑み込まれた人間が、別の場所に転移する」って効果だったのかな。

 本で見たことある、瞬間移動ってやつ。

 ん? でもそれって、魔法じゃない?


 魔法って、昔はみんな普通に使ってたけど、長い歴史の中で失われたんじゃなかったっけ?

 少なくとも私はそう聞いてるし、何なら教科書にだって書いてあるような常識だ。

 だったら普通に考えて、そんなの使える人とかいないんじゃ?


 ……じゃああれは魔法じゃなく、魔道具だったのかな。

 魔道具を使えば、たとえ素人であっても魔法に近い効果は出せるし。一度使っただけで壊れるけど。

 数に限りがあるから、ヴィルファでは皇族とか上級貴族が独占してるような逸品。だが、私も一度だけなら見たことがある(忘れてるかもしれないけど、私って一応は貴族令嬢だから)。


 幼い頃に一度(あと、セリュアの襲撃を受けた一週間前にもう一度)見たのは、魔道具の中でも希少度の低い『白煙幕』だったけれど……相手の視覚と聴覚を奪う、嫌がらせでしかない魔法のやつ。

 作った奴は性格が捻じくれてるとしか思えない。


 ただ魔道具の効果って、どうしても実際の魔法よりは劣ってしまうらしいんだよね。

 白煙幕の場合は、三分くらいしか保たないわけで。

 ……実際の魔法はもっと長いって、恐怖しかないけど。


 だから、この大きな山をすっぽりと覆い尽くすような効果が、魔道具に期待できるのかって問題がある。

 でもそうなると、さっきと同じ疑問に戻っちゃうんだよね──魔法なんて使える人がいるのか、って。


 っていうかそもそも、あれって、転移とかそんな平和なのものだったの?

 あの禍々しさは完全に「俺はヤバイぜ気を付けな。まあ気を付けても無駄だがな」だったし。

 でも実際、体感的には私はなんともなってないし。

 んー……謎だわ。


 ──まあ良いや。


 いや、絶対に良くはないよ?

 それは分かってるんだよ?

 だけど残念ながら、私がここでごちゃごちゃと考えてみたところで、満足な結論なんか出るわけないし。

 私はそこまで私を過信してませんとも、ええ。


 それにほら、めちゃくちゃポジティブに考えれば、これは決してそう悪い話でもないと思うんだよ。

 私とディルって、大会が始まったらすぐに場所を移すつもりだったでしょ?

 つまり、過程を丸ごと無視して起こったことの結果だけを見てしまえば、状況的には「単に移動しただけ」とも言えるわけで。


 見てよ、この何もない一面の草原地帯を。遮蔽物が一つも無いから、水平線の果てすら見えそうなくらい。さっきまでの密林とはえらい違いだわ。

 敵に狙われたときとか、この場所なら簡単に気付けるんじゃない?

 私は狙撃なんてしたことないから(だって、銃を使ってた頃でも「超短距離用」だったもの)想像でしかないけど、ここならディルだって、少なくとも森の中よりは狙撃しやすいでしょう。たぶん。

 まあ、そのディルはここにはいないわけだけど。

 ……気分が沈まないように無理矢理にでもポジティブなことを考えようって思ってたんだけど、ポジティブってよりかは我ながら単に馬鹿っぽいな。


 ──って、そうだよ。そんな馬鹿なこと言ってる場合じゃないじゃんか。

 あの光は山全体を包んでたんだから、巻き込まれたのは私だけじゃないはず。

 もしも私だけだったら運が無さすぎ。或いはもともと狙い撃ちだったのか、どっちかだ。

 でも、狙われるような覚えなんてないしー?

 ……そういや、一週間前にセリュアに狙われてたっけ。

 じゃあ、これもセリュアの仕業だったり?


 クロが抑えてるはずとは言っても、例えば事前にセリュアが仕掛けた罠だったとか……。

 いや、考えても仕方ないことをうだうだ考えるのは止めにするって、さっき決めたんだった。

 我ながら酷い決意だけど、決めたことは決めたこと。


 あーでも現実問題として、普通に考えたら、私だけを狙うのにあんな大規模な仕掛けはいらないじゃんか。

 つまり、あれは私を狙ったものじゃない。

 この山にいた全員が標的でした。きっとそう。


 でも、だとしたら他のみんなはどこに行っちゃったんだろうなって疑問が湧いてくる。

 ここから見える限りは誰もいないんだけど、この山って広いからなあ。


 ってか、学院はどう対処するんだろう。

 大会の様子は学院内外の大勢に知られるんだから、この異変に学院側はもう気付いてると思う。

 こうなっちゃえば、大会なんてどうせ中止だし。

 学院が対処療法を示すだろうから、私はそれに従って行動するとしよう。長いものには巻かれよですよ。


 なんて思ってみたところで、タイミングよくアナウンスの音声が鳴り響いた。ほらほら来た来た。

 にしても、木々のざわめきとかが無いから、さっきの場所より格段に聞き取りやすいね。

 うん、ここに来て正解だったね(おい)。


 ──ただ何て言うか……流れたアナウンスの内容は、おそらく誰にとっても予想外かつ衝撃的だった。

 ただし、その衝撃には二種類あったと思うけれど。


 結論から言おう。

 学院はまともに対処なんかしなかった。


 ──いわく、競技の開幕と同時に、参加している全ての選手は同じ山の中のどこかに転移させられた。二人組さえも分断される形で。


 それは良いよ。身を以て分かってることだし。

 やっぱりみんなもそうだったんだなあ、とかその程度の感想しかない。後はせいぜい、ここがあの山の中だって認識は合ってたんだなあ、くらいかな。


 大問題だったのは、その次に続いた言葉だ。


 ──いわく、この集団転移は学院が用意したサプライズよ演出である。選手たちは果たして、この広い山の中から自分の相棒ペアを見付け、そして戦い抜くことができるのか!


 おい待てふざけんな。

 絶対に嘘じゃんか。

 こんなん、どう考えても学院側にとっても想定外の事態に決まってんだろうが。

 策略だったことにすんな。

 あのヤバそうな奴のこととか諸々、完全に全部揉み消すつもりじゃんか。

 やべーよ、学院マジやべーよ。


 ……まあ、今日は学院内外の多くの人間が一堂に会する日なわけで。

 まさかそんな時に「想定外の事態が起きてしまったので、大会は中止とします。皆さんの安全も、ぶっちゃけ保証できません」なんて言えないよね。

 ここも観覧席も大混乱になるだろうし、場合によっては学院の信頼性や権威も失墜してしまうだろう。

 だから、揉み消す誤魔化すってのも、公的な組織としては間違っちゃいない手法なのかもしれない。

 ──いや、そんな風に色々と理屈っぽく考えてみたところで、全く納得なんかしてないからね?


 と言うか何よりヤバいのは、大半の選手だったり観衆だったりはきっと、この説明アナウンスに何の疑いも持たずに納得しちゃうだろうってことだよ。

 だって、この山の中にいる、光に直接呑まれた大多数でさえ、一体何が起こったのかなんて微塵も分かってないと思うよ?

 私もちゃんと分かってるわけじゃないけど。

 それでも、貴族令嬢の教養として魔法や魔道具についての簡単な知識を持っていたぶん、私って何気にまだ状況を認識できてる部類だと思う。


 参加者も観衆もみんな「何が起こったんだ?」ってパニックになりかけてるようなところに、権威ある(笑)学院からの説明放送。

 そんなことされたら、みんな納得しちゃうよ。

 とうなるか分からないって不安でずっと震えてるよりかは、「ああ、だったら大丈夫なんだな」って思いたいじゃん?

 だからその心の安寧を得るために、深く考えることを止めにして、盲目的に権威に従っておく。


「それは別に悪いことじゃないし、っていうかいっそ普通のことなんだけどね」

 先の見えない不安を抱えたままでいられるほど、人の心は強くはないのだから。実態はどうあれ、目の前に救いの手が差し伸べられれば縋りたくもなる。

「そもそも、そこらへんをちゃんと分かった上で騙してる学院こそが、考えるまでもなく一番悪いわけだし」

 リラとセリュアの部屋にいたときに、ディルとクロが「学院の上層部は真っ黒だ」って言ってたけど、これもその片鱗だったりするのかもしれない。


「でもそれを理解してる──できてる人間なんてのは少数派なんだよね……辛いわー」

 どうやら学院の黒い部分を知ってるらしいクロやディルは、学院の説明放送なんて当然のように鵜呑みにしないだろうし。むしろ勘繰りそうなくらい。

 それでもあとは精々、姉様とリラくらいかな。他にもいるかもしれないけど、パッとは思い付かない。

 私の姉妹なんだから、あの二人も一応は貴族令嬢なんだよ。とてもそうは見えないだろうけど。

 姉様たちだって私と同じく魔法とか魔道具とかの知識があるはずだから、異変に気付けるんじゃなかろうか。少なくとも、これが異変だってことには。


 ──ただ。

「──これがただ事じゃないんだってことを認識できたところで、かと言って何か具体的な行動が出来るようになるわけでもないってのが困りものよね」

 そもそも「ただ事じゃない」以上のことは何一つ分かってないわけだし。


 それに、ここで私が「分からないなら調べよう」的な行動を取るのは、あらゆる意味で危険すぎる。

 一つは、純粋で目に見えた危険さ。

 あんな魔法(たぶん。だけど、ほぼ確定)を使えるような奴と対峙しかねないってことだもん。

 そんな相手に剣なんか通じるかって話。


 次に、純粋じゃなくて目に見えない、その分ヤバい真っ黒な危険さ。

 私を含めた出場選手は、おそらく学院側に監視(言い方は悪いが、でも体感的には事実だ)されている。

 その理由は簡単で、突飛な行動を取っている人間を見逃さないためだ。

 突飛な行動。つまり「学院の説明は嘘っぱち。実際に何が起きてるのか調べなくちゃ」って行動。

 学院はこの一件を完全に揉み消すつもりだ──そのためには、学院の言い分に納得しない人間を野放しにするわけにはいかない。

 ディルやクロに言われたことを踏まえて考えると、そんなの避けた方が良いに決まってる。

 私が危険なのは言うまでもないけれど、それだけじゃなく周囲までその危険に巻き込んでしまう。


 ──あの二人が「学院の闇」なんて話をしたとき、私は正直に言って半信半疑だった。

 勿論、あの二人が信用に足りないってわけじゃない。クロのことは、これ以上なく信用も信頼もしてる。

 ディルは別。嫌いだし信用もしてない。

 あのときの状況的には、ほとんどそれは真実確定って感じだった。何しろ、あのクロがディルの発言に賛同したんだから。

 ただそれでも、「学院がそんなことする?」っていう常識的な判断基準が私の中にはあった。

 だからこその半信半疑、だった。


 ──だけどその天秤の均衡は、もはや崩れ去った。


 何しろ、私は今まさに、内外の全てに向けて学院が盛大に嘘をついている現場に出くわしたのだから。

 その事実はそのまま、天秤がディルとクロの方に傾いていくに足るきっかけになる。



 学院の言うことは信用できない。

 あの魔法の発動は、学院にとっても完全に予定外イレギュラーだったはずだ。

 本音では、すぐにでもその調査に向かいたいところ。

 しかし、その内心を表に出すことはできない。

 そんな想いを、行動に移すことはできない。


 つまり、導かれる結論は一つ。

 私は結局、当初の想定通りに動くしかない。

 予定外に気付かない、予定調和の振りをするしか。


 細かいことは何も考えずに、ただこの大会を勝ち抜くために戦場を駆け抜けるしか──できない。


「──()()()()


 ──私はそう呟いて、歩き出した。



「んー……私ってば、こんなに運、無かったっけ?」

 鬱屈した気分で、溜息と共に口から愚痴が漏れる。


 いやまあ、そうは言ってみたものの、私が幸運な人間だなんてことは微塵も思ってないんだよ?

 って言うか一般的に考えたら、むしろ運は悪い方なんだと思う。

 だってもしも私の運が良かったのなら、そもそも「銃が使えない」なんて状態になってないしね。

 大抵の人は出会わないレベルの不幸に、私はちゃっかり遭遇しちゃってるわけだ。


「でも、あれ以外には特に何もないんだけどね」

 私の人生で一番の不幸が何かって訊かれたら、一瞬たりとも迷わず、間違いなくあれを答える。

 しかし、それ以外の点では私は恵まれている。

 周囲の人間も、暮らす環境も、何もかも。

「──何だか勝手に、私ってば結構運の良い奴なんだと思ってたかも」


 ──色んなことを諦めて歩き出してから、もう既にかなりの時間が過ぎた。

 大会の開幕から一時間が経過したことを知らせる鐘の音を聞いたのすら、もう随分と前の話。

 まさか学院も、そんな些細なところまで嘘はつかないでしょうし。

 ……まさか、ね。


 問題は、それだけの時間が経ったにも関わらず、私がまだ一人の知り合いにも出くわしてないことである。

 何よこれ。こんだけ歩いてるんだから、普通に考えたら確率的に誰かしらと出くわすでしょ。

 リラとか少年君とか、姉様とか先輩とか、ミーシャとかマルアとか、ディルとかさあ。


 大体、この山が広すぎるのよ。

 この中から相棒を搜すとか、馬鹿じゃないの? そんなの、見付かりっこないじゃない。

 知り合いの無事とか確かめたいのに……ままならない。


 これだけやって見付からないって、ひょっとして、みんなして私をハブったりとかしてないよね?

 あっははー。我ながら面白い冗談だわー。笑えるー。

 いやいや、ないない。あるはずないじゃん。

 みんな大好きテルミラさんだよ? ハブられる理由が一つも思い付かないっすわー。

 ……ありえる(泣)。


 しかも、よ。

 そんなわけでガンガンと気が滅入っていくのに、さらにそれに拍車をかける要因すらあるんだよね。


 私が言ったことを、よく思い出してごらんなさい。

 知り合いには出くわしてない。

 知り合いには。

 もう言わなくても分かると思うけど、知り合い以外にはかなり遭遇してるってことですよ。


 予想通りだけど、学院のアナウンスに何の疑いも持たずに鵜呑みにして、そのまま普通に大会に参加してる一般生徒は多かった。

 そんな連中が、根性またはチームワークで、ちゃんと自分の相棒と合流してるんですよ。

 そして私を見付けては、「あいつは一人だぞ! 今だ狙え!」って感じに襲い掛かって来るんですよ。


 ってか、君らはなんで相方と普通に合流できてるの?

 見付けられない私が馬鹿だとでも言いたいわけ?


 そいつらを一掃するのは別に簡単なんだけど、でも立て続けに来られると面倒くさい。

 あー、やだやだ。

今回、テルミラの他に誰も出てきませんでした。

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