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シャワー  作者: さち
1/7

彼女の場合。




最近、お風呂に入っていると視線を感じる。

なんでかな?誰もいないはずなのに…。



「私、下を向いて目を閉じながらシャワー使うの苦手なんです。」


「……」


「なんでって?

いや、目を瞑ってる時に誰かが見ている気がしません?子供の頃からずっとそんな妄想に取り憑かれてて、いつも上を向いて目を開けてシャワー使うんですよ。」


「……」


「も〜首痛くなっちゃうから大変ですよ?髪の毛結構長いですからね。」


「……」


「そうそう!こないだ新発売のシャンプー買ったんですよ〜!早く帰って試そうと思ってて!良い香りするのかなぁ?」


「……」


「あぁ〜。シャワー中に目を瞑るのは苦手だけどお風呂に入るのは好きなんですよ〜!シャンプー使ってみて良かったら教えますね!」


「……」


「それじゃあ、お疲れ様でした!また明日〜!」


「……」




…次の日、彼女は出社しなかった。

上司が連絡を取ろうと何度も電話するが、一向に出る気配はない。

上司からの指示で、同じ部署の先輩で尚且つ彼女の教育係だった私が様子を見に行く事になった。


大家さんに事情を説明して鍵を持ってきてもらった。

「一応、一緒に確認して頂いてもいいでしょうか?」

と聞くと、大家さんも「心配ですから…」と了承してくれた。


ガチャッ

キィー


鍵を開けてもらいドアを開ける。


「お邪魔します…。いるのー?大丈夫?」

…返事はない。


「入るよー?……」

大家さんと顔を見合わせる。

言葉なく頷き、今度は様子を伺うように部屋の中を見る。


カーテンは閉まっていて、部屋の中は暗い。

どうしたんだろ?…人の気配がない。



靴を脱ぎ、そーっと部屋へ入る。


嫌な予感が消えない。

胸の辺りがザワザワしていた。今朝からずっとだ。



奥の部屋へ行こうとお風呂の前を通ると、シャーッとお湯の出る音がしていた。

「なぁんだ。シャワー入ってるんじゃない!音で気づかなかったのね。」

言ってから思った。


いくらお風呂好きでもこんなに長く入るものなの?


朝に上司が連絡したのが8時過ぎ。

私は家へ様子を見に行くように言われてさっきここへ到着。今は10時半。


上司が連絡した時点で電話を取らなかったから、その前に入っていたとしてすでに2時間半以上が経っていた。



お風呂のドアをノックする。

トントン…返事はない。


トントントン!

少し強めに叩き、声をかける。

「ねぇっ!大丈夫!?」


…それでも返事は返ってこない。



いよいよ、これはおかしいぞと疑う。

普通じゃない。


「…開けてみますか?」

大家さんが後ろから声をかける。

70歳前後の男性。

相手が若い女性だから遠慮がちに言ったのだろう。

なんとも言えない表情だった。


「いえ。私が開けますから少し下がっていてください。」

もし中で倒れているなら当たり前だが全裸な訳で、自分ならきっと見られたくないだろうな…と考えての事だった。


大家さんもそう答えて欲しかったのだろう。

ホッとした事が表情から見てとれた。



「開けるよー?いい?開けるからねー!」

大きめに声をかけて、ドアを開ける。


ギィー。






「キャァーーーーーッ!!」





思わず叫ばずにはいられなかった。






彼女は浴槽の中でこちらに背を向けて座っていた…出しっぱなしのシャワーにうたれて。

浴槽から流れ続けるお湯に彼女の自慢の髪が揺れている。


ふちにもたれかかった頭がおかしな角度で洗い場を向いていた。


…何故、逆さまでこちらを向いているんだ?


私は浴槽の外へ長い髪を垂らし、首がボッキリと折れ逆向きになった彼女の顔と対面したのだった。




私の悲鳴を聞き、慌ててお風呂場を覗いた大家さんも

「ウ、ウワァ!」と声を上げて腰を抜かした。



「け、警察に連絡…きゅ、救急車?」

大家さんはアワアワしながら対応を考えているようだ。

私は彼女と合った目を逸らせず、洗い場に座り込んだまま動けなかった。


ただただ流れ続けるお湯が私の足を温めた。

けれど、温かいはずなのに寒気は止まらず手足はガタガタと震えていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] サチ様のホラー、ディープすぎるんですよ! 浴槽の死角の視線は、リンス、ジャンプー時、出番待ちのリンスさんです。でないと怖いもん。
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