Unsustainable
本当に長らくお待たせしました。次話が完成しました。
「本部がさ、QSTと統合させたいみたいなの。」
それは突然、”レイレイ”の口からでた衝撃的な話だった。QST、クワトロ・セゾン・タイランドとの統合。
統合とは言うが、”レイレイ”の話では、”レイレイ”のいるQSV、クワトロ・セゾン・ベトナムがQSTに吸収合併され、最終的にQSVのメンバーがリストラされる可能性があると言いうことだった。
「北島とか、東海トレーディングの連中に相談とかした?」
「してもね・・・。」
「でも、あいつらだったら何かしらのアイデアがあると思うけど。スポンサーを探すとか。だって、モチの姉さんもいるしさ。」
兎に角、オレは北島達に頼るべきだと言い続けた。それが唯一QSVを生き残させる方法だと。
オレが北島に頼み込むとも伝えたが、”レイレイ”は乗って来ない。
「これはね。いくらスポンサーを見つけて貰っても、運営にやる気が無かったら前に進まないと思うの。それに・・・既にQSTのスタッフがバンコクからホーチミンに来て、QSVの運営・・・と、言っても吉田さんだけだけど一緒に清算を始めているの。」
その後だった。”ノブ”が”レイレイ”に直接的な言い方をした。
「キミさあ。もう卒業しなよ。もうアイドルとして十分やってきたじゃない?10年QSにいたんだから、立派だよ。」
「おい、”ノブ”!」
オレは”ノブ”に食って掛かろうした。いい加減にしろ!どれだけ、”レイレイ”がクワトロセゾンで血のにじむ思いで苦労して来たか知らない奴が言うなと・・・・・・。
だが、その瞬間”レイレイ”が言った。
「今が一番良い引き際かな・・・」と、一言いい。微笑んだ。
「レイレイ、正気なの?」
「正気も何も、それが私に突き付けられた現実よ。」
「でも・・・、でも、違うだろ!今までだってヤバい時期は沢山あったじゃない。そんな時、俺たちオタも必死に応援したし、レイレイは必死に答えてくれたじゃない。まだまだ行けるよ!やろうよ!”レイレイ”オタも今まで以上に結集して応援するからさ。」
オレは必死だった。ここで”レイレイ”がQSを卒業されたら、オレは何で仕事を辞めたか判らなくなる。折角・・・、折角ベトナムでチャンスを得たのに、ここで卒業って。
「ヤブさん。彼女は十分アイドルとして生きてきたんだよ。このままボロボロになるまでアイドルをやることが将来の彼女のためになると思う?」
と、”ノブ”言うと、”レイレイ”は、
「10代からさ、ずっとQSに居れたことは本当に誇りよ。きつかったけど、ダンスもそれなりに上手くなったし、大学にも通えた。最後はベトナムまで行けたんだよね。QSに入っても何も出来なく、出来てもスキャンダルで潰されたメンバーを沢山みてきたんだよ。それに比べれば私は未だ・・・いや、ずっと幸せだったんだよ。」
「キミ賢いから、卒業後行く道いくらでもあるよ。バラドルや歌手やダンスパフォーマー。今以上に輝けると思う。早く決断した方がいい。このままQSにいても”泥船”に乗っているのと変わらないぜ。」
オレに取っては全く納得のいかない話だ・・・。だが、決めるのは結局”レイレイ”なのだ。
業界にいた”ノブ”の話は説得力がある。そして、オレ自身も実は心の中で”ノブ”の話は正しいと思っているかもしれない・・・いや、そう思っている。客観的にみても、この先”レイレイ”がクワトロセゾンで選抜に入りし、センターで新曲を出すことは”超押し”のオレでも不可能だと思っている。であれば、卒業し新たな道を歩んでもらい、それをまたオレ達が押していく。それが最善であることは間違いない。
「いずれにしてもね・・・。いずれにしても、明日ホーチミンに戻って運営やメンバーと話し合って決めるわ。」
「この話って、日本の本部は放置なの?」と、”ノブ”が”レイレイ”に尋ねた。
「まあ」と”レイレイ”は言い、ため息付くと話を続けた。
「”クワマイ”の誕生日を理由に帰国したんだけど、本当はQS運営にQSV存続を嘆願にしに来たんだ。私のことより、今QSVで頑張っているメンバーを救うためにね。でももう難しいね。」
”レイレイ”は気が強い。それが売りでもある。でも、今夜の”レイレイ”の目には涙が光っていた。初めてだった。彼女が涙を見せるなんて今までなかった。
「焼肉、ご馳走様でした。結構食べたよ、支払い大丈夫?」
と、笑いながら“レイレイ”がオレに声を掛けてきた。少し元気になったみたいだ。
「心配するなよ。推しメンに飯奢れるって最高の幸せだよ。また、一緒に行こうよ。」
オレがそう言うと”レイレイ”はサングラスを掛けタクシーを止めた。そして、微笑みながら手を振りタクシーの中へ消えていった。
「どうなるんだろうな。」
「彼女なら大丈夫だよ、ヤブさん。しっかりしてるし。」
”レイレイ”と別れたオレと”ノブ”は、新宿駅近くの居酒屋で飲みなおしていた。
推しメンと食事が出来たのに嬉しさというもの全くなくなっていた。
「ヤブさん。彼女のことは暫く忘れた方がいいよ。1人のオタとして今まで通り距離を持って考えた方がいい。彼女はアイドルだよ。自分の身の振り方は自分で決める。だから、それが決まるまで関わらないほうがいい。いや、ファンがアイドルの真の姿に関わっちゃいけないんだよ。」
最もだ。”ノブ”の言うことは本当に最もだ。オレは多少引っかかるものがあったが、”ノブ”言う通り、暫く”レイレイ”を忘れること決めた。
その後もこの年は暑い夏が続いた。
オレは”アイドルオタ”を封印し、”ノブ”と共に建設現場で警備員を続け、”ノブ”と2人で酒を飲む日が続いた。
何時しか日は流れ、季節は冬。年も押し詰まっていた。