不思議で不気味な恐ろしかった話2
怪談話など苦手な方はお気を付け下さい。
重ねてお知らせしますが、実話と言う事もあり明確なオチや
歴史的な背景や原因など殆どが不明のままです。
スッキリする事は出来ないと思いますので、その点は十分にお気を付け下さい。
ファンタジー物も投稿しています。
そちらの方も併せてよろしくお願いします。
私が中学二年生の時の話です。
当時私にはとても仲の良い友人が居り、お互いの家に泊まったりして家族ぐるみの付き合いをしていました。
そんな付き合いを続けていた春の事です。
仲の良い友人の祖父が亡くなり、遺産として土地を相続した為、古い家は取り壊して新築で建てる事になったのでした。
それまでは賃貸のアパートで、友人の両親・友人の姉・友人の四人で生活をしていたのですが、一つの部屋を姉とカーテンの様な物で仕切りをするなど工夫しており、私の友人は自分の個室と言う物が無い状態でした。
その為、とても喜んでいた事を鮮明に覚えています。
場所としても現住所からさほど離れても居らず、転校する必要もありませんでした。
それまで友人の祖父が暮らしていた平屋の一軒家はあっさりと取り壊され、真新しい鉄筋コンクリート製の綺麗な二階建ての家が建ったのは、夏の暑さと言うよりは『残暑』と呼ばれる頃の事でした。
私も引っ越しの手伝いの時にお邪魔しましたが、十畳ほどの洋室に真新しいベッドや二人掛けほどのソ
ファー、広いクローゼット等々とても羨ましく感じた物でした。
自分の部屋がようやく手に入ったと喜ぶ友人だったのですが、その割には我が家へ泊まる回数が前よりも増えていたのです。
私は軽い嫉妬と冗談を交えて、
「また今日も泊まんのかよ。自分の部屋が出来たんだろ。自分の住処へ帰れよ。」
などと言うと、いつも飄々として掴みどころのない様な性格の友人が真面目な顔をして、
「何がって訳でも無いんだけど、何となく居心地が悪い気がするんだよな。匂いのせいかな?」
なんて事を言うのです。
新築の家の、『木の香り』って言うんですかね?
独特な匂いありますよね。
私個人的に言えば好きな匂いなんですが、苦手な人も勿論居るんだろう。
そんな風に受け止めたのでした。
「贅沢な奴だな。よし、そこまで言うなら俺の部屋と交換してやろうじゃないか!ありがたく思え。」
そんな冗談を重ね、今度は私が友人宅に泊まりに行く約束をしたのでした。
仲の良い友人であり、家族同士も仲が良くしょっちゅう泊まる事もある間柄ともなれば、遠慮なんて物や、前もって『何月何日に泊まりに行くから』なんて連絡もありません。
休みの前の日だけではなく、平日に学校の用意をして泊まりに行き、そのまま相手の家で朝ご飯を食べて登校、なんてのも当たり前でした。
そんな話をしてから数日たったある日、その友人を含めた数人で集まり、ゲームセンター・カラオケなどで遊び、解散した後そのままの流れで泊まりに行ったのでした。
新築の友人宅の玄関を入った瞬間に、何となく妙な匂いがしたのです。
何が、と言う程にはっきりと分かった訳ではありませんが、強い『木の香り』の中に『黴臭さ』とも違う、何とも表現しにくい匂い。
でも、確かにそんな匂いを感じた事を後になって思い出しました。
ですが、その時はちょうど玄関を入ってすぐの仕事部屋に居た、友人のお父さんが顔を出したので、
「お邪魔しまーす。泊まりに来ましたー。」
「おう。あんま夜更かしすんなよ。」
そんな感じの会話を交わした為そっちに気を取られたので、すぐにそんな事は気にならなくなっていました。
相手もこちらも色んな意味で『いつもの事』
さっさと友人の部屋へと行き、二人ともTシャツとトランクスと言う『ラフ』なんて言葉もおこがましい様な格好になり、それぞれベッドとソファーに陣取りました。
友人宅が完成し、引越しの手伝いの時に見た時のまま、殆ど荷物も増えていませんでした。
部屋のドアを開けると、正面にベランダの付いた広い窓があり、ベランダへの行き来を遮るように置かれたベッドとソファーがありました。
つまり、ベランダに出る為にはベッドの乗らなければならず、ベッドに乗る為にはソファーの背もたれ部分を跨ぐ必要があったのでした。
本来であれば、洗濯物を干したりする為のベランダなのでしょうが、そう言った家具の配置や思春期真っただ中で反抗期の真っ最中でもある友人の部屋にあるベランダは、一家の家事を司る母親の侵入を拒み、本来の役割を果たしていませんでした。
本来ではない使い方と言えば良いのか……。
真面目では無い使い方と言うのか……。
おいしいとは感じる事の無い、むしろまずいとさえ感じていたタバコを吸う為の場所、となってしまったのでした。
二人でベランダに出ると、お互いに隠し持っていたタバコに火を点けました。
周りを見ると古い住宅が多いのか平屋ばかりだった為、二階建てとは言え友人宅のベランダはかなり高い位置にある様に感じました。
友人宅から細い道を挟んだ反対側にはお寺があり、土壁って言うんですかね?
引っ越しの手伝いの時には見えていなかったのですが、ベランダから見下ろすとお寺の敷地にある墓地が丸見えになっていました。
正直な所、内心『怖っ!』なんて思っていましたが、そこはお年頃の男の子。
「なんか出るんじゃねぇの。」
「はははは。」
なんて、冗談を言い合っていました。
それなりの広さの墓地。
広さの割には、小さな街灯の様な物が一つ点いているだけ。
その弱々しい光は、私の恐怖心を抑えてくれるどころか、むしろ恐怖を助長する様に闇の深さを増す為に設置されている様でした。
「まだまだ暑いな。文明の利器の元へ戻ろう。」
なんて事を言いながら部屋に入り、それぞれの定位置へと戻ったのです。
ゲームセンターやカラオケなどで遊び、それなりに遅い時間まで遊び歩いていた、決して真面目な学生とは言えない二人。
そんな二人ですから、零時を過ぎているからと言って明日の学校に備えて眠ろうなんて気は更々無くて、そこからは読書の時間です。
私達二人の共通の友人に借りたと言う、大長編の漫画。
三国時代を題材とした、有名漫画家の作品を読み耽っている時にソレに気付きました。
最初の内は、ソファーの肘置き部分に頭を乗せていた私ですが、微妙に高さが合わなかった為にフローリングに横になり、ソファーに頭をもたれさせるような形で漫画を読んで居ました。
形としては、アルファベットの『T』の字の様な感じですね。
ベッドに横になっている友人は、枕を背中に当てて壁に頭をもたれさせていました。
その状態で漫画を読んでいると、ちょうど右目の視界の隅っこの方に、うっすらとしたモヤの様な物がかかって居る事に気が付いたのです。
部屋の出入り口の右上辺り。
そして、天井の角よりは少し下。
その辺りに、本当にうっすらとモヤの様な物が見えたのです。
流石に何か変だな?と思い、その正体を確かめようとした時に、自分の体の異変が分かりました。
漫画を持っている手を動かす事も出来ず、膝を立てようにも足も動かない。
唯一動くのは、まぶたと眼球のみ。
人生初の金縛りと言う物でした。
普通であれば、……まぁ何が普通と呼べる物なのかは分かりませんが、そんな状況に陥れば多少のパニックだったり、恐怖だったり感じる物かもしれませんが不思議とそんな事は感じませんでした。
むしろ、そんな状態になった事に感動すらしていたように思います。
しかし、いくら金縛りと呼ばれる現象に生まれて初めて遭遇したとは言え、いつまでもそんな状況で放置されるのも、困る物です。
何とかして、動く方法は無い物かと試行錯誤してみましたが、私の体は微動だにしませんでした。
どうにかして動こうとしている時に気付いたのですが、ふと見るとモヤの形が先程までより変化しているような気がします。
モヤの色も少しだけ濃くなっている様な気がしますし、最初の形を正確に覚えていた訳ではありませんが、何となく変化している様な気がしました。
じーっと見ていると、そのモヤはある法則に沿って徐々に変化が起きている事に気付きました。
瞬きです。
まぶたを閉じ、開く。
たったそれだけの間に、モヤの色は濃くなり形も微妙に変化します。
そして、瞬きを我慢していると勝手に変化したりはしませんでした。
恐怖心と言う物は一切感じていませんでしたが、漠然とこれはこのままではまずいのでは?
そんな思いがありました。
それは当然でしょう。
身動きは取れずに、動かせるのは眼球と瞬きのまぶただけなのですから……。
ゆっくりと変化していくモヤ。
そして動かない体。
そんな中でもう一つの変化が訪れました。
『ゴンッ。ゴンッ。』
決して大きな音ではありませんでしたが、小さくも無い音。それに響く様な鈍い音。
一定のリズムで、そんな音が聞こえ始めました。
自分の頭の方向、見えない場所から聞こえ続けていましたが、それでも恐怖は感じないのです。
むしろ、どんどんとこれからどうなるのか?
そんな興味の方が強くなって来てしまいました。
後になって考えれば、自分がなぜそんな事を考えたのか。
未だに意味は分かりません。
そしてその後の行動も……。
瞬きのたびに変化するモヤ。
つまり、瞬きだけに関して言えば私の自由にできる部分でもあったのです。
ゴンッゴンッ、と言う鈍い音を聞きながら連続で瞬きを繰り返し、モヤに注目していくと渦を巻く様にグルグルと動き始め、中心部分に徐々に集まって来始めるのが分かりました。
中心に集まるにつれてモヤは色濃くなり、もうすぐ何かの形になる。
これが最後の瞬きになる。
そんな確信的な予感を感じた瞬間。
一切の周囲の音が消え、温度が一気に下がったような感覚に陥ったのだ。
そして何より、この目を開けてはいけない。
それまでの好奇心や興味など、どこかへ吹き飛んでしまった。
目を閉じたままで、時間だけが過ぎていく。
感覚が麻痺してしまっていて、一時間以上が過ぎたのかそれとも1分も時間が経っていないのか。
目を開けてみれば、案外普通の光景が広がっているのではないか?
もしかして、今までの事は夢だったのではないか?
目を閉じたまま、目が覚めてしまい妙な恐怖感を覚えてしまっているだけではないか?
そんな言い訳を頭の中で幾つも思い浮かべながら、覚悟を決めて一気に目を開いた。
目を開けた私の目の前、文字通りの目の前にあったのは、老人の顔だった。
ほんの数センチ先に、半透明と言うべきかモヤが凝縮したようなお爺さんの顔が存在していた。
ほんの数瞬、何が起きているのか理解できなかったが、自分の身に何が起きているのか理解出来た瞬間、友人と同時に叫び声を上げた。
叫び声を上げたお陰なのか、驚愕や恐怖の反動で力を入れた結果なのかは分からないが、自由に体を動かせるようになっていた。
すぐに、その老人の姿は空気に溶ける様に消えて無くなっていた様だった。
友人に、今体験した出来事の話をしようと振り返ると、私と友人が同時に声に出す。
「「やばい。やばい。やばい。やばい。」」
語彙力の無さに情けなくもなりますが、人間慌てた時はこんなものなのでしょう。
そして恐らく、私も友人と似た様な表情をしていた事だろうと思う。
お互いに驚いて喚き合っていると、友人の両親が部屋に入って来たのだ。
私や友人の話を聞く為に、部屋から出てリビングに移動する。
その時の話を纏めると、こう言う事になる。
私が金縛りになっていた時間、友人自身もベッドで金縛りにあっていたと言うのだ。
ただ私と違い、多少は動かせる部分があったらしい。
それが頭と言うか首だった訳だ。
声も出せず、普段通りに動くとはとても言えない状態だったが、それでも必死に首を前後へ揺らして壁に頭をぶつけ、すぐ隣に居た私や隣の部屋で眠っているであろう両親に必死に助けを求めたと、言うのだ。
何故、そんなに必死だったのか。
金縛りにかかった瞬間、読んで居た本を取り落とした友人は、自分の足元からゆっくりと這うように、進んでくるお爺さんの姿を見ていたからだ。
徐々に足元からふくらはぎ、太腿から腰へとゆっくりと這い進んでくる老人に言い知れぬ恐怖を感じ、命の危険すら感じた友人は助けを求める為に必死に壁に頭を打ち付け続けていたと言うのだった。
友人の両親も居り、私はようやく少しずつ冷静になれたのだが、友人はどうにも家に居る事が我慢できないようで何とか離れようと訴え続け、少し離れたファミレスへと全員で移動した。
そこまで行ってようやく落ち着くことが出来た友人。
そして未だに事態が飲み込めない友人の両親。
起こった事を始めから説明しましたが、やはり信用はされていないようでした。
しかし尋常ならざる事態が起き、息子とその友人が怯えていると言う事は分かってもらえたようで、最後まで話を聞いてもらえることが出来ました。
友人以外の全員が考えていた事だと思うのですが、私達の前に現れた老人が先日亡くなったと言う友人の祖父かとも考えましたが、友人曰く『別人だった』との事。
結局は、何が原因だったのか?
友人の両親や姉は今までそういった体験をした事は一切無いと言う。
残念ながら、これ以降の情報は殆ど無いです。
なぜなら、その友人は中学校を卒業し海外留学をするまでの期間、殆どその家には戻らず私の家に居候する様に、ほぼ毎日泊まりに来ていたからです。
自宅に帰るのは昼間だけ。
しかも、翌日の学校の準備などを済ませるとそのまま家を出ると言う徹底ぶりだった。
友人の両親も始めの内は注意していたが、そのうちに諦めたのだろう。
私の親と話し合い、いくらかの食費などを支払う事で落ち着いたようだった。
周囲の者は『大袈裟な』など色々な意見があったが、実際に体験してしまった私達以外には本当の意味で理解できる者は居ないだろう。
ましてや、友人からすれば毎日眠る部屋で起きた出来事だったのだ。
それを責める事は私には出来なかった。
あれから十数年以上経ったが、友人は未だに実家には寄りついていない。
海外留学後は、一度は日本に戻って来たがそのまま海外で就職し、今ではとある東南アジアの国で生活して居る。
『好奇心、猫を殺す』
そこまで物騒な事にはなっていないが、この事から私が得た教訓はこれだった。
皆さんも、安易に好奇心に身を任せる事には御注意下さい……。
読んで頂いてありがとうございます。
感想など頂けるとありがたいです。
こう言うのが原因じゃないか?や、
こうしておけばよかったんじゃ?など、
教えて頂けると嬉しいです。
機会があれば短い物など投稿しようと思いますので、
どうぞよろしくお付き合いください。