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異世界冒険記 勇者になんてなりたくなかった  作者: リョウ
第3章 エルフとの会談
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会談の前夜


 歓迎の儀式、とやらは透明度の高い橋を超えた辺りで行われた。

 橋を渡った、ファムソーの家がある側には食事が並べられ、バイキングのようになっている。

 だが、いくらファムソーたちが食べるといってもバイキングでは、いつ刺客に毒を漏られるか分からない。ルーストがそんな危惧を口にすると、サーニャたちには、毒などを浄化させる魔法が付与された食器で食事するようになっていた。


 そして、その反対側にはエルフ領での名産品のようなものが沢山売られていた。

 コータはその中の一つ、角笛のネックレスを購入していた。

 別段、アクセサリーが欲しいわけではなかった。だがコータの鑑定が、角笛に成長促進の効果があることを捉えたからだ。


 一連の出来事は、儀式というよりは歓迎会と言わざるを得なかった。

 そして、その夜。コータたち三人はファムソーの家から数分離れた所にあるキノコのような傘を持つ木に建てられた家にいた。

 宿屋のように滞在日を取られることはない。与えられた部屋は、エルフの家らしい造りであった。畳に、襖に、障子。


「和風だな」


 ファムソーの家で分かってはいたが、不気味なほどの和風感に少し驚くコータ。


「ワフウ?」


「あぁ、いや。なんでもないです」


 聞き覚えのない言葉に、サーニャは首を傾げる。

 洋風や和風などといった概念がないのだろう。そう判断したコータは、笑って誤魔化すとルーストの方を向く。


「俺は外で監視をしていればいいんですか?」


「お願いします。ですが、1日通して、というのも大変なことなので、半分は私が見ます」


 そう言うと、ルーストは手のひらの先に闇の歪みを作り出す。空間魔法だ。


「こちらをどうぞ」


 そして取り出したのは、寝袋だ。それをコータに手渡す。


「外が寒いかもしれませんので。それと、いくら護衛者としても、サーニャ様と同じ部屋で寝かせるわけにはいかないので、ご了承ください」


 ルーストの言い分はもちろんだ。コータが女ならまだしも、男である以上何が起こるかわからない。信頼している、とはいえやはりそこまで不用心にはなれない。


「分かりました」


 コータは素早く答える。というか、コータにも無理だった。ただでさえ、サーニャの顔が瑞希の顔とそっくりだと言うのに。

 同室で眠れるはずがない。


 受け取った寝袋に、有り難さを感じながらコータは外へと出た。

 すっかりと静まり返った夜。エルフには魔力を媒介とし、声を発さずに会話をする念話というものがあるらしい。夜は基本的にそれで話すことが多く、静まり返ると言う。


「それにしても、静かすぎだろ」


 物音一つ届いてこない。あまりの静かさに逆に恐怖を覚える。

 周囲に警戒の目をやりながら、コータはドア付近に腰を下ろす。


「こんなに静かだと、物音にすぐ気づくだろうな」


 その呟きですら異様に大きく聞こえ、虚空へと消え去っていく。

 誰もいない世界に紛れ込んだような気になった時だ。


「サーニャ様、明日の準備は整っているのですか?」


「大丈夫だ」


「では、眠ってください」


 と、サーニャとルーストの会話が耳朶を打った。

 いつもと変わらない2人の会話に安心を覚えたかのように、コータの顔には朗らかな笑みが零れていた。

 しばらくすると、室内からすやすやと寝息が聞こえた。


「眠ったんだな」


 独りごち、コータは空に視線を向けた。

 紫の真ん丸な月が漆黒の空に浮かんでいる。今にも空に溶けだしてしまいそうな月。周囲に星なんてものは見えない。

 月しかない夜空に寂しさを覚えながら、コータは視線を戻した。


 * * * *


「ハイエルフ族か」


 不意に口をついて出た。到着した時にネーロスタから聞いたエルフ種についてのことが脳裏に過ぎった。

 何だか妙な胸騒ぎがしている。この正体が一体何なのかは分からないが、何かはある気がする。


「にしても、どうしてファムソーさんはエルフ種のことについて何も言わないんだ?」


 ネーロスタさんが話しているのを遮ってまで。話したくない理由があるのか?

 俺は腰にある愛剣、月の宝刀の柄に手を当てる。


 会談相手には知られたくないということは、言う必要がないほどに些細なことなのか。

 でも、それなら話を遮る必要があるのか。


「言うことが出来ないほど大事なのか?」


「何か言いましたか?」


 俺が呟いた瞬間、不意に女性の声が届いた。慌ててそちらに視線を向けると、そこにはネーロスタがいた。

 宵闇に映える金色の髪に、夜に光る碧眼。

 それからエルフらしい、尖った耳。

 何度見ても、思わず見とれてしまう。


「あれ? 聞こえてなかったかな」


「あ、いえ。聞こえてますよ」


 困惑顔で首を傾げるネーロスタに、俺は慌てて言葉を紡ぐ。すると、ネーロスタはよかった、と笑顔をこぼす。


「それで、ネーロスタさんはどうしてこちらに?」


「いえ、少しお話ししたいなと思いまして」


「それは構いませんが、明日でも良かったのではないのですか?」


「それもそうなんだけどね」


 苦笑を浮かべ、ネーロスタは頬を掻く。


「でも、明日ならお父さんがいてちゃんと話せないような気がして」


 お昼のことを思い返すと、言わんとすることは分かる。少しでも負になるようなことは言わんとしていたからな。だが、これは人とエルフの外交。マイナスになる情報を与えれば、外交に問題をきたすだろう。


「そうですか」


「うん。改めて自己紹介するね。私はネーロスタで、何歳に見えるかな?」


「エルフ種のそれはずるいような気がします」


 気を取り直し、話し始めたネーロスタの質問。それはずるい、と言うしか他ない。エルフ種は若い時期が長く、人の10倍近く生きることができると聞いた。

 そんなエルフ種からの何歳に思う、は当てられるわけが無い。


「あはは、そうだよね。私はこう見えても268歳なんだよ」


「そうなんですか」


 乾いた笑みを浮かべる。というか、どんな反応をすればいいか分からん。268歳が若いのか、歳をとっているのかすら分からない。


「人で言うと、26歳と8ヶ月って感じかな」


「あ、じゃあ若いんですね」


 そう言う表現をされると、一気に親近感湧くよな。ということは、百の位と十の位が年齢で、一の位が何ヶ月目かを表すということか。


「俺はコータ。17歳です」


「うへぇー、すっごく若いね」


「まぁ、ネーロスタさんからすれば赤子も同然でしょ」


 俺の言葉にネーロスタさんは少し複雑な表情を浮かべた。

 あれ? なんか変なこと言ったかな。


「それよりもどうしてコータくんが来てるの? どこからどう見ても王族じゃないよね?」


「何だか見た目が悪いと言われてる気分ですよ」


「あ、ごめん。そんなつもりじゃないんだけど」


「いえ、いいですよ。それに、俺は本当に王族じゃないんで。と言うか、正直予想はついてるでしょ?」


「まぁーね。護衛、とかかなって」


 腰にさしてある月の宝刀に視線を送ってから、ネーロスタは言う。俺はそれに静かに頷く。


「その通りです」


「じゃあ、強いんだ」


「それはどうかな。俺にも分からないです」


 自嘲気味な笑顔を浮かべ、俺は言う。その時、急にネーロスタの表情が曇った。


「どうかしましたか?」


「家を抜け出しのがバレちゃったみたいで」


 ネーロスタは頭を指さして言う。念話、というやつが響いているのだろう。頭が痛いような表情を浮かべている。


「それじゃあ――あっ」


 戻ろうと、この場から立ち去ろうとしたネーロスタ。その瞬間、何かを思い出しかのように振り返り、俺をじっと見る。


「サーニャ様をしっかり守らないとダメだよ。今はそういう状況だよ」


 それだけ言うと、ネーロスタは本当に家へと帰って行った。



 ネーロスタの最後の言葉。

 今はそういう状況って、どういう意味だ?


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