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異世界冒険記 勇者になんてなりたくなかった  作者: リョウ
第2章 国立キャルメット学院の悲劇
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始まりのオーガ

令和になり、はじめての更新です。


今年号も、楽しく面白い物語を紡げていければな、と思っております。


何卒、よろしくお願い致します


 部屋全体を囲むようにして配置してある多くの本棚。床に敷かれるは、豪華な赤いカーペット。ここは、この学院の長がいるべき部屋――学院長室だ。



「上々の仕上がりですね」


 そんな部屋で、オーガの姿になったインタルに話しかける。


「イグニティ、お前はよくやってくれた」


「お、おう……」


 突然褒められことに戸惑いを隠せないイグニティは、何度か瞬きをする。


「これでようやく……ようやく私の……」


「インタル様?」


「イグニティ、どうして私がこんな面倒やり方をしていると思う?」


「さ、さぁ。てか、面倒くさいと思ってるんですね」


「そりゃあそうでしょ。わざわざこんな人間くさいところに赴き、魔物化をさせているのですから」


 インタルの言葉に、イグニティは少し俯き考える素振りを見せる。インタルが訊いた質問に答えるために。

 しかし、イグニティが答えを出すよりも早くに、インタルが口を開いた。


「簡単ですよ。魔王様を殺すため」


「……えっ?」


「魔王様は魔族中心に考えてくれてますよ」


「だったら、なぜ殺すのですか?」


「簡単だよ、復讐さ」


「ふ、復讐……」


 学院の長がいるべきこの部屋に、二体のオーガしかいない。そして、長が座るべき椅子にインタルが腰をかけた。


「そうだ。私は元々人間だった」


「……っ!?」


 * * * *


 200年前――。


 初代勇者、ファニストン=ホソイ=ライゾイが人間国を造り上げてからおおよそ800年の月日がすぎた頃。

 人族同士での細かな諍いはあれど、大きな問題が起きることは無かった。一言で表すならば、平和だったのだ。


 だが、そんな日はある日突然に消え去る。


「魔族が復活したぞー!!」


 誰がそんなことを言った。

 800年前の大戦で暴虐の限りを尽くしたとされる魔族は、どの種族からも忌み嫌われる存在となっていた。その結果、ライゾウ氏は争っていた魔族以外の種族と手を取り合い、魔族を大陸から離れたところにある孤島に封じたと言う。


「まさか、封印が解かれたのか!?」


「あの勇者様の封印が解かれるはずがないわ!」


 封印解除の一報は瞬く間に大陸全土に伝わった。しかし、それでも遅かった。魔族は全てが伝わる前に、大陸に侵攻を始めたのだ。

 手始めに、孤島からまだ比較的近い距離にあるエルフ領と人領に侵攻をした。

 エルフは人よりも魔力が多く、魔法適性も強く長寿である。そのため、大戦を経験した戦士も残っており、魔族の迎撃に成功する。だが、魔力も魔法適性も少なく、その上寿命も短い人族にはたまったものではなかった。


「あれが……魔族」


 恐怖は次から次へと広がり、魔族は人の命を奪っていった。


「こんな辺鄙な街、ササッと落としてしまえ」


 金色の瞳が強く印象に残る少女が告げた。長く伸びた碧の髪は妖しさを醸し出していた。


「に、逃げろー!」


 200年後の世界には残っていない、かつての人領"アバルトハイト"に轟く悲鳴。

 私は声に従い逃げるしかなかった。


 アバルトハイトは、人領の中でも大きな港町であり、研究施設の揃った街だった。

 私はそこでとある研究を任されていた。

 表沙汰に出来ない、秘密裏に行われていた研究。

 それは当時、外交官として各種族と外交を行っていたルーベスト=ハイノールを筆頭にした禁断魔法の一つ《人体蘇生魔法》。

 歴戦の猛者が残るエルフや、エルフほど長寿ではないが、それでも人間よりかは遥かに長生きをする獣人族の狐種と渡りあう為に必要だと、ハイノールは言っていた。


 私はそれを信じて、研究に打ち込んでいた。だが、それも完成することはなかった。

 碧髪金眼の少女たった一人によって、街は既に壊滅状態なのだ。


「魔王様の領地を侵害する害虫を駆除するわ」


 妖しく色っぽい声は、嫌なほど耳に触れる。

 そして次の瞬間、私の眼前に閃光が走った。

 閃光は一瞬で爆発を引き起こし、爆風となり周囲を吹き飛ばす。家も、人も、船も。全てを地へと還した。


「嘘……だろ」


 それ以上の言葉が出なかった。圧倒的な力を前に、蹂躙される未来しか見えない。

 そんなことを考えているうちに、爆発の第2波が起こる。あの少女の一撃だ。

 同時に瓦礫が全身を襲い掛かってくる。


「うぅ……痛っ!!」


 大きいものから小さいものまで。次から次へと礫が襲うなか、時折生暖かい何かを感じた。

 砂埃が巻き起こり、それが一体何か分からないまま数分が過ぎた。巻き上がっていた砂埃は鳴りをひそめたとき、視界に飛び込んできた。


「あァ……」


 感情が言葉にならない。どうすれば、この思いが……。

 眼前に広がる同僚の死体。それを目にするだけで、涙と怒りが込み上げる。

 何者かも分からない一人の少女に奪われた命。一体、なんの権利があってこの人たちを殺すことができるのだ……。

 ふつふつと湧き上がる怒りに拳を握る。

 掌からはくい込んだ爪が皮膚を突き破り、血が流れ出している。


「なんで……殺されなきゃ……」


 禁忌の魔法を研究をしていた。でもそれは言われたから。自発的にやったものじゃない。だったら、私たちは殺される謂れがないだろう。


 喉の奥が痛い。渇ききっており、言葉が出ない。

 例の魔族の少女は、未だに宙を闊歩している。どういった原理で空を歩けているのか、私には分からない。だが、分かっていることもある。彼女が、私たちの同僚を殺した奴だと言うことだ。


 怒りは収まらない。だが、私はその場を後にした。

 近くには我が家があるのだ。家には妻と、3歳の娘がいる。

 研究のため、毎日朝早くに出ていき、夜遅くに帰るという生活をしていた。そのため、娘にはあまり好かれていない。


「頼む……、どうか……」


 祈る気持ちで走り、我が家と向かった。だが、そこに広がるのは瓦礫の海だった。

 どこが我が家だったのか、分からない程に分解されてしまっている。


「うわぁァァァ」


 喉が裂ける勢いで叫んだ。瓦礫にはあちこちに血痕が付着している。

 這うようにして瓦礫を除けていく。

 どれほどそれを続けただろう。

 正確な時間こそ分からないが、手の皮が剥がれ血まみれになるほどには、瓦礫を除けていた。

 そしてようやく、ようやく見つけた。


 ――妻と娘の無残な遺体を。


 どれほど意識しようとも涙が止まらず、全身の力が抜けていく。言葉すらも出ず、生きる活力すら見いだせない。


「もう私なんて……」


 舌を噛み切り、死んだ方がマシだ。


 そう思った時だ。不意に、自分のポケットに入っている硬いものに意識が移った。


「なんだ」


 死んだ声色で呟き、私はポケットからそれを取り出した。それは紫色の鉱石――魔石だった。

 人体蘇生魔法を発動するための触媒として必須のものだ。

 どうして魔石がポケットにあるのか、自分でも分からないが、それでもこれがあれば人体蘇生魔法を使う条件は整う。


 まだ未完成で、論理を考えるだけで実践をしたことがない。だが、何もしないよりマシだ。


「やってやる」


 そう呟き、私は魔石を妻の上に置く。そして、両手を彼女に向けて瞳を伏せる。


「生と死、光と闇、表と裏。対を背反し、黎明を剥離し給う。人の摂理、世界の理を超越せよ。

 "人体蘇生リザクレーション"」


 瞬間、私の体から魔力がどんどんと無くなっていくのが実感出来た。

 目には見えず、分からないはずの魔力。それが無くなっていくのが分かるのだけでも異常だ。だが、今度はそれ以上のことが起こった。

 魔力の逆流だ。

 人体蘇生魔法の発動に伴い無くなっていった魔力が、体内に流れ込んで来るのだ。

 ぐわんぐわんと頭が揺れ、今にも吐き出しそうだ。それをぐっと堪え、逆流してきた魔力をも注ぐ。瞬間、体に激痛が走った。


「ウグッ」


 魔力を注ぐことが出来なくなるほどの激痛で、私は思わずその場で崩れた。

 口内から血が溢れ、その場から一歩も動けなくなる。


「なんだ、この魔力は」


 瞬間、そんな声が耳朶を打った。声の主は言うまでもなく、宙を闊歩していた魔族の少女。かなり離れているため、声など聞こえるはずがない。それでも、

私の耳にはしっかりと届いた。


 頭などは動かすことができなくなっており、私は決死の力で目だけを動かす。

 やはり距離はかなり離れている。そう思った瞬間、奴は私の眼前に来ていた。移動手段など、微塵も理解が出来ない。

 ただ、少女が空から私の前まで一瞬で移動してきたという事実があるだけ。


「魔物化しかかっている」


 魔物化……?


 有り得るわけのない単語が耳をつく。私は必死の力で彼女を睨んだ。だが、彼女はそんなことで怖気るはずがない。

 それどころか、楽しそうに微笑みをうかべた。


「これでお前も魔族の仲間入りだ」


 そう言うや、彼女は私の頭に手を置き、私の体内に彼女の魔力を流し込んだ。

 瞬間、体内から体が破裂しそうな程の衝撃波が襲いかかってきた。そしてその瞬間、私が私で無くなったように感じた。

 先程まで覚えていたはずの痛みが消え去り、涙も枯れたように止まる。


「これは……何という魔物だ?」


 少女は形のいい眉を顰め、怪訝げな顔を見せた。それに対し、私は静かに答えた。


「分からない」


 と。


 すると、少女は少し考える素振りを見せてからこう言った。


「あなたはオーガと名乗りなさい」



 悲しみは薄れ、目の前で転がる妻と娘の遺体を見ても涙が溢れることは無い。だが、代わりに怒りが湧き上がり、破壊衝動が自身を襲った。


 そしてそれに抗うこともせず、隣に立つ少女に襲いかかる。だが、使い勝手の分からない魔物の体で戦うのは無理があった。私は完膚なきまでに少女に叩きのめされた。


「これで分かったでしょ? あなたは私には勝てない」


「なら、私を殺すがいい!」


「それは無理よ。今は魔王様が仲間を集めてるところだもの。人が魔物化する秘密を解き明かすためにも、あなたには私と一緒に来てもらうわ」


「嫌だと言ったら」


「それこそありえない話だわ。魔族七天将が一人ヴァンパイア種のウルアルネに失態はないのよ」


 瞬間、目にも止まらぬ速度で動いたウルアルネは私の妻と娘を持ち上げた。


「とりあえずこの人たちは人質ね。どうせ死んでいるけど、魔物化の方法が判明すれば魔物化させてあなたの部下にしてあげる」


「巫山戯るな」


「なんで? どうせ生き返るなんてありえないんだし、嫌ならいまから焼くけど?」


 ウルアルネは人差し指の上に焔を浮かべ、何気なく言う。


「貴様はどこまでオレサマの家族を侮辱する!!」


 怒りに任せた咆哮が空気を裂く。だが、それにも平然な様子のウルアルネ。


 次の瞬間、私の意識は刈り取られた。何が起きたかを理解するよりも速く、視界がブラックアウトした。






 そして、これは後から聞いた話だが、どうやら魔族の封印解除をしたのは人族の貴族が関わっているらしい。

 それを知った私は、恨みの矛先が魔族から人族の貴族へと変化した。だからと言って魔族への恨みが消える訳では無い。だが、人族の貴族にも報いを受けさせなければ気が済まない。

 そう決意した時には、既に私の地位は魔族七天将の一角を担うようになっていた。



 * * * *


「そんなことが……」


「こんな私でも、イグニティ。君は付いてきてくれるか?」


 インタルの表情には陰りが見えた。断られた時を不安に感じているのだろう。


「当たり前です。オレサマの命は貴方に預けていますから」


 イグニティは頭を垂れ、しっかりと言い切った。それを聞いたインタルは嬉しそうに小さく微笑んだ。


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