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異世界冒険記 勇者になんてなりたくなかった  作者: リョウ
第2章 国立キャルメット学院の悲劇
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バニラの奮戦


 特別目立った出来事などなく対抗戦は進み、第1種目である剣術対戦ソードデュエルが始まった。


「第1試合の結果はA組の勝利です! 続きまして第2試合、B組代表パイロス対C組代表バニラです!」


 グラウンドの中心に用意された戦闘場。一辺が10メートル程の正方形の舞台の上に、名を呼ばれた二人が上がる。


「頑張って!」


 リゼッタは自身の従者であるバニラに声をかける。石が敷き詰められ造られた舞台上で、バニラは振り返り小さく微笑む。

 絶対に勝つ。いや、勝つことが分かっているような笑みだ。


「相手って強いのか?」


 コータはちょうど隣に立っていたマレアに訊く。マレアは、少し考える素振りを見せてから頭を振る。


「私は知らない名前だね。リゼッタは?」


「私も知らないわ。モモリッタは?」


「マレア様とリゼッタ様が聞いた事のないのなら私と同じで平民じゃないかな」


 最初に比べて、多少砕けては来た。だが、モモリッタだけは未だに様をつけて呼ぶ。貴族である2人がいらない、と言ってもだ。

 貴族には感じられない何か、が平民であるモモリッタにはあるのかもしれない。


「そっか。バニラなら余裕かな?」


 傲慢や、怠慢といったものでは無い。自分の従者だからこそ、リゼッタはバニラの実力を誰よりも知っている。そのうえで、バニラなら勝てる、そう判断したのだ。


「そうだな」


 その考えはあながち間違っていないだろう。模擬戦をしたコータも、バニラの力に及ぶものはそうそういないと思う。


「あれ見て」


 ガースはバニラと対峙する、銀髪の中性的な顔立ちをしたパイロスを指さす。

 コータたちはガースに言われるまま、バニラの対戦相手であるパイロスに視線をやる。


「何?」


 パイロスには特別変わった所がない。それなのに見るように言ったガースに、疑問を抱いたリゼッタが訊く。


「別に。でも、服装見たらさ」


 パイロスの服装は学院の制服。普通の日ならば別段変ではない。しかし、今日の対抗戦という日に限っては違和感を覚える。


「そう言えば、対抗戦の時はどんな装備をしてもいいんだっけ?」


「そう。だから装備のない彼は平民ってことだろうね」


 コータの言葉に、ガースは頷きながら答えた。制服だけのパイロスに対し、バニラは全身にプレートアーマーを纏っている。


「正々堂々で戦え、なんて言ってたけど。装備の時点で優劣出てるよな」


 コータは二人の圧倒的なまでに違う装備に、ため息を零した。それと同時に、戦闘開始の鐘が鳴った。


 瞬間、バニラは石畳を強く蹴りパイロスに詰め寄った。目にも止まらぬスピードに対応出来ないのか、パイロスはその場から1歩も動くことが出来ていない。


「もらった」


 居合斬りをするかの如く、バニラは抜刀し、パイロスの首元めがけて剣を振る。誰もが勝負は決したと思った。だが、それは甲高い金属音によってかき消された。


「なにっ!?」


 バニラの攻撃は、パイロスの首に触れる前にパイロスが抜刀した剣によって防がれていたのだ。

 眼前にいながら捉えきれなかったパイロスの動きに、思わず声を洩らすバニラ。


「ちょっ、ちょっとどういうこと!?」


 勝つと確信してやまなかったリゼッタは、あまりの出来事に目を白黒させている。


「わたくしにも……」


 ガースはリゼッタ同様に、驚きを隠せない様子で喘ぐように声を洩らした。


 このまま硬直していても意味が無い。そう判断したのか、バニラは一度後方へと下がろうと試みる。だが、下がろうとした瞬間パイロスの剣がバニラに襲いかかる。

 目を見開いたバニラは、間一髪のところでその攻撃を防ぎきることが出来る。


「パイロスって人、本当に平民なの?」


 王宮剣術でさえ使いこなすバニラ相手に、互角以上の戦いを見せるパイロス。その生い立ちに不審を抱いたマレアが言葉を放つ。

 コータは目に意識を集中させ、パイロスをじっと見る。


 パイロス Lv3

 バニラ Lv5


 苗字が無い、ということは貴族であるという線は消えた。


「レベルもバニラのが高いのに」


「え、そうなの?」


 コータの小さなつぶやきに、リゼッタが素早く反応を見せた。


「ああ」


「じゃあどうして……」


 眼前で繰り広げられる戦闘。防戦一方のバニラを見つめるリゼッタが弱々しくこぼす。


 剣と剣が交錯し、金属音が鳴る。一撃、一撃が重いのか、バニラの表情は交錯する度に歪む。だが、パイロスの方は平然としおり、それどころか意気揚々としているようにすら見える。


「降参って言わないよね?」


 不安そうな表情を浮かべるリゼッタは、剣術対戦での敗北となる降参宣言をしてしまうのでは、と吐露する。


「さ、流石に勝てるでしょ?」


 その言葉に、ガースは引き攣った笑顔を浮かべた。まだ貴族が平民に負けるわけがない、という思考があるらしい。


「このままじゃまずいかもね」


 一方で、貴族だ平民だということにあまり興味が無いマレアは、冷静に分析をした。

 先程までは受けきれていたパイロスの攻撃を、バニラが受けきれなくなっている。


「くッ」


 避けきれた、そう思った剣先が頬を掠める。掠めた箇所からは血が垂れ流れる。

 ツー、と熱いものを感じ、バニラはそれをプレートアーマーで覆われている手の甲で拭い去る。

 

「疲れてるね」


 対峙する二人。パイロスは最初と変わりがないように思える。だが、バニラは大きく肩で息をしており、プレートアーマーにも傷がついている。


「負けるかよッ!!」


 怒号のような咆哮をあげたバニラは、姿勢を低くし、その体勢のままパイロスへと向かう。そして、パイロスの前まで行くと、バニラは剣を振り上げた。


 ――王宮剣術 振上スカイアッパー


 しかし、パイロスはそれすらも華麗に避けてみせた。


「まだまだ!!」


 声を荒らげたバニラ。避けられた威力をそのままに、突き技へと移行する。

 真正面にくる剣先。普通ならば、それを防ぐか避けるかをするだろう。だが、パイロスは右側からの攻撃を防ぐように構えた。


 ――王宮剣術 残像剣


 突き技と見せかけた右サイドからの攻撃。しかし、それすらも読まれていたらしく、バニラの攻撃は不発に終わる。

 剣と剣の交錯を素早く解くと、パイロスはそのまま柄でバニラの腹部を強打する。



「うっ……」


 バニラが予想だにしていなかった1発。それはバニラをその場にうずくませるには十分だった。

 腹部を抑え、片膝をつき、小さな嗚咽をこぼすバニラ。


「貴族に勝てる力……、本当だったんだ」


 銀髪を靡かせながら、パイロスは剣を振り上げる。赤紫色の刀身が陽の光に当てられ、妖艶に光輝く。パイロスは口角を釣り上げ、不敵に微笑み、剣を振り下ろす。その瞬間――


「やめっ!!」


 審判をしていた人の声が高々に響く。




 ――バニラはパイロスに負けた、のだ。

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