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地球爆破作戦

作者: 阿部昭三

なんと言ったらいいか、

そのとき彼が考えていたのは非常に漠然とした

形の無い思考なのでうまく文章にすることはできない。


だがしかしミスター・アンブレイカブル将軍が

地球を爆破したとき、彼がおそらく極度の郷愁に打ちのめされており

だからこそあのブルー・スイッチを押せたのだという推論は

あまりにもロマンチックというか、

どこか彼だってイイ人だったんだと思いたい的な妄執を

伴っていると思う。


彼はそんな人間ではなかった。

3046年、大宇宙アメリカの第138スペースコロニーで

生まれた彼は幼いときから延々といじめられ続けたおかげで

前任のアルカディオ将軍の補佐官に任命されたときにはすでに

歪みまくったテルミンの放つ怪電波音のようなあやしげな

近寄りがたいオーラをビンビンに発していたし、

暇つぶしだとか言って数百年前に突然誕生した人類の新カラーで、

ようやく差別撤廃運動が始まりかけている

青色人種のコロニーを遠距離放射能光線で爆破し散らすときの

恍惚とした表情には倫理観の壊滅的な無さが伺われた。

それに将軍に任命されたのだって、そんな底知れぬ冷徹さが買われてのことだった。



将軍がなぜ地球を爆破することになったのか。

地球の爆破は将軍の少年のころからの夢だった。

数百年前、青色人種が誕生する少し前、

まだ大宇宙アメリカのコロニーが建設途中で、

誰もがスターウォーズのデススター以上のコロニーを

現実に創り上げるなんで不可能だ、それこそバベルの塔だ、

といった議論を交わしていたころ

突如地球内のすべての核弾頭がいっせいに爆発するという

あの忌まわしき「8月10日」事件がおきた。

それ以降地球は有毒放射能を放射するだけのただのガイガー管泣かせ惑星の

ひとつになってしまった。

青色人種という突然変異もこの放射能が原因だとされているぐらい

地球の発する放射能は有害で、

およそすべてなくなるまでに1億年かかるとされていた。

ならいっそ爆破してしまえばいいではないか、

というのが将軍が子どものころからずっと引っ掛かっていた疑問で、

将軍はその引っ掛かりを解消したいがためだけに

地球を爆破したのである。



「しかし将軍、これは一種のテロ行為ですよ。

誰だっていまだに、かつて地球に人が暮らしていたことを教育されているし、

あそこに郷愁を抱くべきだ、という考え方は非常に有力です。

彼らも無論、あそこを人が住めるまでに回復すべきだ、なんていいだしはしませんが

−もっとも一部の婦人会連中は声高にそう訴えていますが−

それでも心のどこかに、地球という存在は色を残しているのです。

だから、地球を爆破するなんてことは、多くの人の心を痛めつける、

恐ろしい事なのですよ。

"地球信仰"は人類の歴史上初めて、世界中の全ての人間が一律に何の疑いもなく

信じている、唯一の宗教なのですから・・。」


「それはそうと君、では青色人種に宇宙アメリカが制圧されていいとでも言うのかね?

やつらは生命力も繁殖力もゴキブリ並で、精子は空中を漂い空気受精する始末だ。

さらにやつらときたらどいつもこいつも雌雄同体で、

やつらの中から二人集めてそこらへんに置いておくだけで、1、2週間もすればそれが

30人にはなってる。

それだけならまだしも、君も嗅いだことがあるだろうが、

やつらの放つ臭気はすさまじいものがある。あの世の臭いと言ってもいい。

それに目つきも卑しいし、とにかくそんなやつらをこれ以上のさばらせるわけにはいかない。

そして地球がやつらののさばらせの原因であることは明らかだ。

ならふっ飛ばせばいいじゃないか?

それとも君は青色人種女がある日突然君の前に赤子を連れて現れて

『この子はあなたの子ですだ。空気受精しましただ。』

なんて言われて、死体みたいな顔色をした皺くちゃの赤ん坊を手渡されたいのかい?

そんな日は今着々と近づいている。

もっとも私の生きている間は大丈夫だろうがね。

しかし自殺でもしない限り、君の幸せの絶頂ぐらいにその青色女は君の前に現れるはずだ。」



かくて爆破の手はずが整えられた。

爆破は青色人種の殲滅の意味もかねて、6000億人の青色人種奴隷に

1人ずつ爆弾を1つ渡し、設置しろと命令を出して地球に放り込み、

設置が完了しタイマーが正確に秒読みを始めたころに

彼らをつれてきた宇宙船−実はこれが起爆装置で、帰還時のエンジン噴射で

すべての爆弾が一斉に起爆する−を二度と宇宙に出れないモードに切り替える。

こうして不慮の事故は発生し、6000億の尊い命とともに地球がふっ飛ぶ。

それから狼狽する残りの青色人種に戦争をしかけ全員殺せば、それで万事オーライだ。

郷愁を語って最後を見届けたいとか言い出したコロニー人は皆

その爆発に立会い帰らぬ人となるだろう。なんという美しい粛清。



しかしここでまた彼の若い補佐官が口を挟んできた。


「けれど将軍、あなたは自身の名声がどうなってもかまわないのですか?

地に堕ちますよ。そして・・」


「補佐官くん、もはや"地"などどこにもないことをお忘れかな?

それともそれは君の内面にある、大地を直に踏みしめたいという欲求の漏れなのか?

よければ君も地球へ・・」



補佐官は何も言わずにびくつき、部屋の隅っこで震えて小便を漏らし始めた。


補佐官の小便が無重力空間に漂う・・・。


その黄色い液体を見つめながら、将軍のなかで何かのスイッチがかちりと入る。

やっぱりやってしまおう。

ただでさえこの白人小僧にも、黄色人種にもうんざりしているのだから。



こうして黒人将軍の指揮のもと、爆破の手はずは整えられた。

そして運命の爆破タイム。

大宇宙アメリカ中の野次馬が地球の周りに群がって、安全ラインぎりぎりまで

宇宙船を近づけていた。


しかし彼らは知らない−不慮の事故に安全ラインもへったくれもないことを・・

そして将軍が彼らのような卑しい人種にも我慢ならんと思っていることを・・



ブルー・ボタンが押された。素晴らしい閃光とともに一瞬で消し飛ぶ太陽系一端。

宇宙の無限の暗黒に凝縮された地球の60億年が緑色のすさまじい輝きとなって

すぐに粉々になった。


将軍執務室の窓辺に残響する数千年前の黄金色小麦畑の香り・・さらば地球。


最近ウィリアム・バロウズにハマっているのでパクってSFにしてみました。

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