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スーパーノヴァ 4


 レイナの部屋で夜までわいわいと騒ぎまくった。

 夕凪は退屈そうに右手と左手を戦わせていたが、途中で飽きたらしく寝始めていた。

 

 ベルとユウナに話を聞いて、この世界の事情について、全容が見えてきた。


 百年前。


 世界中を巻き込んだ戦争が十年続き、疲弊したとある国が邪教の神を崇め始めた。

 信仰は爆発的に広がり、人々の想いは強く重なり、ついには次元すら異なる神を呼び出した。それが魔王。


 魔王を産み出した国の民は妖魔に代わり、近隣諸国を次々と滅ぼしていった。いつしか国は魔界と呼ばれ、強大な力をつけた魔界に対応すべく、世界中が一致団結したのが、三十年ほど前の話。


「魔界が生まれると同時に異変が起こったんです」


 レイナが透き通る声で教えてくれた。

 世界各地に超技術(オーバーテクノロジー)建物(ダンジョン)が現れ始めたのだ。

 なんというか、……藪から(スティック)な事情だ。


 おそらく魔王が次元の壁を突き破って現れたことで、磁場が狂ってしまったのだという。

 強大な魔王や妖魔を相手取るには、内部にあるアイテムが非常に有効であり、そのため平民や農民はダンジョンを荒らし、中のアイテムを国に売りさばいた。だが、ダンジョン内部は危険なモンスターや罠が大量にあり、攻略は生半可なものではないらしい。

 いつしかダンジョンにチャレンジするものを、冒険者と呼ぶようになった。


「勇者というのは?」


「かつて七つのダンジョンを攻略し、魔王討伐に王手をかけた者のことです」

 

 夕凪の好きなゲームみたいな話になってきたな、と健やかな寝息をたてる少女を見る。

 現実感が乏しい空想みたいな話ばかりだ。



 次の日の早朝。俺を含めた16人の子供が昨日と同じ平原に集められ、点呼が行われた。

 表情は一様に固く、高校受験の時の会場を思い出した。


 朝礼のあと列になって、ぞろぞろと連れだって歩き始めた。着いた先に、ピラミッドのような三角形の建物があった。田園風景に建てられたラブホテルのように異質だった。


「これより武器を支給する!」


 ピラミッドの前で止まって、先生は大きな皮袋から、武器をポンポンと取り出して地面に並べていった。


「今回の支給武器は実際のダンジョンで入手した特殊武器が多く含まれている。心して選択するように」


 サンタクロースみたいに背負っていたので、気にはなっていたが、武器をくれるとは随分と親切だ。


「それではレベル上位から選択するように。レイナ・ネイ」


「はい!」


 レイナは細く湾曲した剣を選んだ。カットラスというらしい。海賊映画に出てくるような剣だった。


「ベル・シグル」


「はい」


 ベルは杖を選んでいた。柄の端っ子に赤い宝石があしらわれたおしゃれなデザインだった。

 昨日教えてくれたが、ベルは魔法使い志望らしい。公務員を目指した方がいいよ、とアドバイスしてあげたが。


「フリット・プリモス」


「俺はAK47でお願いします!」


「!?」


 見るからにゴツい銃を手に取る少年。

 別の少年はハンドガンを手にした。

 なんだなんだ突然不穏な雰囲気になってきたぞ。


「CZ75をお願いします!」


 まさかこんなところで中東の少年兵の旅立ちみたいなドキュメンタリーを見させられると思わなかったが、強力そうな武器はどんどんと選ばれていって、最後らへんはハリセンとかフォークなどになっていた。孤島で殺し合いさせられる中学生のハズレ武器みたいだ。


「キヌゴシ・ドーフ」


「はい」


 最後に名前を呼ばれたのは俺だった。


「すまない、人数分武器を用意していたはずなんだが、なぜだか数が一つ合わなくて」


 たぶん、夕凪が無理やり俺を捩じ込んだ歪みがここに現れているのだろう。


「あ、そうだ。よかったらこれを使ってくれ」


 渡されたのは大量の支給武器をいれてあった大きな皮袋だった。正直言うといらなかったが、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる先生を見ていたら突き返すこともできなかった。

 とりあえず袋を小さく降り立たんで支給されたリュックにしまう。


 おかしい。どうも昨日から運が無いような気がする。やっぱり半分にしたのはよくなかったのだろうか。もう一度振り分けが出来るなら運に全力一択だ。


「それでは4チーム。試験は四人一組(フォーマンセル)で行う。チームはこっちで決めさせてもらった。ダンジョン最深部のモンスターを退治し、戻ってきたものが合格だ」


 俺とレイナとベルと歯抜けの少年ことフリットが一つのチームになった。

 合計四チームがそれぞれ四つの入り口からダンジョン最深部のボスモンスターの討伐に臨む。

 ダンジョン自体は未踏であり、攻略されていないが、外部から内部にいるモンスターの魔力を測定し、危険のない水準だということは確認しているらしい。

「がんばりましょう!」

 と気合いを入れるレイナたちから「ちょっと用を足してくる」と一時的に離れる。ユウナと話がしたかったからだ。


「危険のないダンジョンっていってるけど……」


「んー、ユウナはよくわかんないや。でも、あの中に入った子はみんな死ぬ予定みたいだよ」


「どうすれば回避できるんだ」


「入らなければいいんじゃないかな」


「そりゃそうだけど」


 至極真っ当な意見をユウナが言った瞬間、競うように他のチームがピラミッドに入っていった。「ちんたらうんこしてんじゃねぇ!」とフリットが繁みにいる俺を怒鳴りつけた。


「全員が生き残るにはどうしたらいい?」


「それは無理って話だよん。例えば予知夢で大事故を回避しても、死の運命からは逃れられないようにできてるのさ」


 好きなホラー映画の話はしていない。


「まあキヌゴシは持ち前のラッキーパワーで死ぬことはないと思うし、あとはレイナちゃんを生き残らせればミッションはクリアだよ」


「し、失敗したらどうなるの?」


「んー、キヌゴシは家に帰るだけだけど、ユウナは神様にメッされるよ」


「なんだ。意外と緩いんだな」


 ほっと一安心した俺に夕凪は頬を膨らませた。


「緩くないよ! 魂ごと消滅させられちゃうんだから」


「めっ?」


「メッ!」


 滅ッ?

 嘘だろ。


「ともかく全滅の未来を変えたいなら、キヌゴシが頑張るしかないよ」


「お前が言うような特別な力なんて俺にはないぞ」


「もの凄く運がいいんだから、他人にもラッキパワーを分けてあげれば、全部解決だよ。今日は一日快晴だから幸運の星も曇ることないし」


 夕凪は興味無さそうにその場にしゃがみこむと、地面を人差し指でツンツンとつつき始めた。

 突然の不審行動に覗き込んで見てみると,蟻を一匹一匹指の腹の部分で押し潰していた。


「なにしてんねん……」


 思わず関西弁で突っ込んでしまった。

 子供姿とはいえ夕凪は自称天使だ。


「べつにぃ。暇だからさぁ」


「暇って……何不貞腐れてんだよ」


 唇を夕凪が尖らせたとき、「いい加減にしろよ、このウンコマンが!」とフリットが物凄く不名誉な称号を叫んできた。


「……とりあえずダンジョン行くか」


 どうすべきかは内部で考えることにしよう。


「ユウナはいかなーい」


「はっ? 行かないじゃないだろ。来いよ」


「ぜったい行かないもんね。ダンジョン暗くてジメジメしてて嫌いだもん」


「嫌いとかの話じゃないだろ。レイナとか他のみんなが死んじゃうかも知れないんだぞ」


「キヌゴシが頑張ればいいじゃん」


 ちらりと横目で俺を見てから人差し指と親指で蟻を挟み潰していた。誉められた行為ではない。


「なにワガママ言ってるんだよ」


「だって、キヌゴシ誰かと一緒のときユウナのこと無視するじゃん」


 むすっとしたふくれ面のまま彼女はぼそりと呟いた。


「仕方ないだろ。他の人にお前は見えてないんだから」


「ふんだ。知らないもんね、キヌゴシなんか。レイナやベルと結婚しちゃえば良いんだ」


 もしかしてこいつ、嫉妬してるのか。

 たしかに昨日は夕凪にかまってあげる時間も余裕もなかった。


「おい、夕凪、誤解すんなよ、俺だって本当はお前とたくさんお喋り……」


 と言いかけたところで辛抱切らしたらしいフリットが茂みをかき分けてあらわれた。


「早く行くぞ!」


 イライラがピークらしい。


「あ、ああ」


 夕凪のことは気になったが、ベルもフリットがフリットとレイナと共に共にピラミッドに足を踏みいれた。




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