表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏空  作者: 片岡徒之
5/31

 それにしても教室は蒸し暑いな。モヤモヤする。先生の言葉を聞くたびに、頭の隅に広がる神経の弦の一本が、カチカチっていうボールペンの音と一緒に、授業の何気ない風景の中をよろめきながら、ダンスする。足と指と手が一つのリズムの中に重なり合って、密着しだし、最後にはお互いがお互いを押し合って、リズミカルなドミノ倒しになる。ドドドって、勢いよくペンから滑り出したインクと音が、先生の言葉を無視してノートの空きスペースの上を突っ走る。私はノートを見開いてなにを書いているのかと思えば、


 えーと、なになに………


 類人猿と中新世類人猿………


 ま、書いてあることは間違いではないんですけど(苦笑)


 うーん、これじゃあ、どこからが中新世で、どこまでがただの類人猿なのかさっぱりわからないし、第一にそれが、突拍子もなく書き殴られたいたずらな落書きにしか見えなくて、とても人に見せられるものじゃないし。


 せめて年代を書こう。年代を。


 赤ペンでぎっしり「中新世」という部分を塗りつぶして、大きなマルを描いてやろう。うーん、いや、結局中新世という部分を囲ってマルを書いただけじゃあ、「中新世類人猿」がノートの中で得別扱いされているみたいに見えて、さぞかし待遇のいい上流階級の貴族にしか見えないし、困ったな。


 もう少し類人猿に対して、先生の言う通り詳しくその生態についてを調べながら、あなたの生まれは?とか、好きな食べ物は?とか聞きつつ、優しく頭を撫でたりしてやるのがいいかもしれない。友好的に、ほんのもう少しだけ友好的に、机の上で教科書を広げて、どれどれと目を見開きながら親身になって接してあげるのも、なんだか悪くない気はする。そうだな、とりあえず一段落は、赤いペンでその顔を塗りつぶしてあげて、そのあとにボールペンで、インクの限りその毛深い全身に陰気な飾りつけをしてあげよう。平成生まれの女子高生と、類人猿が、皮一枚のノートの中に、息を合わせてぴったりくっつきながら二人三脚をするのも、悪くない。多少の歩幅の違いは気にしない、気にしない。きっとなにかあったら、類人猿の方からいっせーのーで右足をあげて、私の短い左足の付け根を、思いっきり引っ張っていってくれる…はず。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ