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夏空  作者: 片岡徒之
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 もうすぐ五限目の授業が終わる。

 

 ーーー五限目か、と思って私は不意に外を見る。グラウンドの砂ぼこりの上に、きれいにうずくまった小鳥のさえずりを観て、案外、私の隣にある世界も、静かな時間が流れているんだなと思った。べつに、しんと静まり返っているというほどでもないけど、それでも、この耳に打つ、例えばあの道路わきのコンビニの被写体、ガラス越しに乱反射する通行人の影、ブロック。目にするものどれも皆、それぞれの時間を持って動いて踊る、社交ダンスのメロディーのよう。


 穏やかに、ゆるやかに、さりげない日常の中に砕けて散って、飛び去る光とその影は、どこまでも続いているように見える。ほら!あっと思った瞬間には、グラウンドのあの土の上で、一羽の鳥がその羽を広げて、私たちの授業を退屈そうに眺めているんですもの。また一羽、今にも飛び去りそうな鳥が、その重たい首を傾げているのは、穏やかな日常の上に落ちる時間が、この暑い夏の日にも生き生きとして、伸びやかに成長し、その先で静かに眠りに落ちようとしているからかもしれない。ダンスのリズムに乗って。小気味の好い音符を世界中に飛ばしていきながら……。最後にはうたた寝をして、深い眠りにつくことを忘れない。


 ねえそこの鳥さん。私と握手しようよ。その羽でこっちに飛んできて、お互いの言語を使ってみよう。退屈な日常の中から、パッと明るいものを出してみてよ。そんなに難しい顔しなくても大丈夫だよ?人間の言うことなんて聞きたくないって?そりゃあ、このガラス越しに見える世界の半分は(半分は言いすぎかもしれない)、きっと、人間が食い尽くしたあとに残るでこぼこな風景の輪郭が、ところどころにちぎれて落ちてしまって、粗雑に粗雑に散らかっているかもしれないけれど。私はあなたの味方だ。きっと、多分ね。だから魔法を使ってみてよ。私の知らない魔法を。私とあなたが、この世界のどこかできっと笑顔でいられるように。この晴天日和の空の下で、あなたがもし羽を広げて勢いよく飛び立てば、私はその瞬間を忘れない。永遠に。だから飛べ!どこまでも高く。優雅に空に飛び立つその被写体が切り取られた一つの影を、太陽はぐっと手で鷲掴み、午後の世界を明るく照らして、夏が始まる音が聞こえる。その日差しの下に伸びる校舎裏の杉の木は、花粉を飛ばして枝を揺らす。枝が落ちて、花が咲く。それをついばむカラスやネズミが、今日もどこかで、さぞかし美しい心電図を際立たせていることでしょう。


 太陽がかすむ。チカチカする。摂氏32度の日に焼ける肌。それをあざ笑うかのように転がるセミの亡骸。かび臭いカーテンと被写体。モノローグ。

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