15
更年期…じゃないよね。15の私が、そんなことになるはずないか。でもどこか、もぞもぞするような、へんな違和感。くたびれた首よりも重い、肩のコリ。ウーン。
考えても考えても思い当てるフシはない。しかも、その感覚よりもずっと昔にあるようなむず痒さが、首の奥に貼り付いて離れない。
…まさか、類人猿が、私が汚しちゃったギガントピテクスが怒って、遠い過去から、私の後頭部に向かってどデカい岩石を放り投げてきているのだろうか。遠すぎて直撃はしないにしても、その破片が現代にも残り続けて、私が知らない間に衝突でもしたのだろうか。
いやいや、…まさかね。
それにしても、すごく窮屈だ。心の中が、どこか肌寒い。そう思うような雑音の音量が、耳の中に振動して、静かに揺らめく水面になる。ほんの少しの振動が、またたく間に波紋となって広がって、小さな波をせり上げていく。この真夏に、日の光が充満しているこの日に、心の熱中症かなにか、危険な症状にかかっているということも、考えられなくはない。ただ私が考えるよりも、ずっと薄着でそこら中を徘徊している心の中の様子は、いつもと変わらず穏やかだ。こうして度々、甘いスイーツについても考える時間があるくらい、落ち着いてはいられるのだから、なにも問題はないはずなんだけど。
さては好きな人ができた?…フッ。
私は一旦心のうちをなだめ、何事もなかったかのように足を前に出して、歩みを続けた。
『好きな人好きな人好きな人好きな人好きな人』
その文字の亀裂の中ににじみ出るインクの太さは、気高く薄い。頼りないフォルムが、その輪郭を濃くして、まどろむ心の内側の礎になる。
私に限って、そんな青春ありきのご当地プランは、スケジュール帳のどこにもなく、陰気に沈む大海原の波の高さとなって、転がり落ちていく青である。コード・ブルー。まさしくその通りの、緊急指令が、日本の各地から飛んできて、本日はいかがですか?調子はいかがですか?といった具合に、ちゃちゃを入れてくる声しかない。その他の物音なんて、今の私の社会的な立場に於いても、環境に於いても、何もなく、逆にすがすがしい。
じゃあ一体なんなんだろうね?
好きな人でもなければ、熱中症でもないなんて。
そんなの知るか。私は自分の背中を蹴りたくなった。反り上がったつま先の一番先で、強烈な一撃を背中に食いこませたくなった。
相変わらず私は、遠ざかる学校の様子を見ながら、どこか、もの寂しい、日常の中の、小さな歪みを、それらしく頭の中に捉えて、モヤモヤする曇り空となる。
もしかしたら、ーーーあるいはもしかしたら、
9月。夏、空、ーーー巨大な積乱雲の峰々。
それらが一帯になって立体的な形を築いて、そこら中が私の身を焦がす赤になる。いつもは感じない身体の微熱が、小さな心臓の鼓動になって、大きく後ろに逸れていこうとする。まだ、少しだけ余韻が残る授業の片隅から、この学校の帰り道に聳える私の小さな影の方角に向かって、そっと手招きしながら、素敵なメッセージを発信しているのかもしれない。類人猿や、テナガザルたちが。そうしてその場所に躍り出た、「猿から、人間の」というあのダーウィン様様のリズミカルなステップでもって。歴史的1ページの、見事なトーンが。
世界と私のステップターンが、一段と険しく迎え撃つ音を鳴らすーーー。
その時間は果てしなく低く続く、きりきり舞い上がるノイズに乗る。私はその隅で耳を押さえて縮こまる、一人のか弱い女子高生なのかもしれない。




