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教室の前方に設置されたアナログ時計は、もうすぐ授業の終わりを伝える。あと一限頑張れば今日は終わって、家に帰れる。せっちゃんはすっかり眠たそうに目を落ち窪ませ、先生の話を聞いているのか、聞いていないのか、わからない姿勢を保ちながら。
私はちゃんと先生に言われた通りのページを開いて、若干うつ向き加減に、首をしならせているけれど、決して退屈になって、教科書の上に散歩するテナガザルと手を繋いで、2000万年前のジャングルや海の中に、迷子になっているわけじゃない。
私だって現代に生きる女子高生ですから、やることはやるし、できることはできる。
私の一日の業務は、この薄明るい午後の時間がキラキラと差し込む中で、きちんと上履きを履いて、ブラウスのボタンを閉め、滑りやすい床に気をつけながら、背すじを伸ばして歩けるかどうか、に集中しているその心にあります!
180度伸びたぶ厚い教科書の背表紙に隣接する美しい文字の被写体と、学校生活に対する「誠実さ」のナナメ右から、急接近する上空からのパラシュートの降下が、不時着することなく綺麗に地面の上に降り立つ。何があっても、動じないその心、スムーズさ。それらの流れと一緒になって、私が学校の門をくぐった瞬間に、ぎこちなくせり曲がることなくスッと伸びた背筋の緊張が、いつも崩れることなく頑丈な心臓の音を形作ってくれているのは、二本の足のカカトがちゃんと地面に着いているから。それがいつも変わることなく、私の日常の界隈に綺麗に降り立つ。朝飛び起きて玄関を出て「行ってきます!」という軽快な言葉とリズムが、女子高生としての生活の芯にある、生き生きとした私の中のプラットフォームになり、一つの巨大なインデックスになっています。
先生!私の決め球はカーブではなく、ストレート。キャッチャーミットがぴったりと真ん中に留まるような、真っ直ぐな軌道を描いている、ーーーそのイメージの渦中にある、そつなくキメの整ったオフィシャルノートが、教室の窓辺で、いつも真っすぐなえんぴつの影を追っている。
(あるいはそのノートの真上に乗り、正座するセーラー服の可憐な姿が、画面いっぱいに日常を動かして、小さく小さく息を潜めているのです。)
高校一年生の夏は、思ったよりも暑く、思ったよりも気怠く、例外的にも鬱な気分に苛まれないから、きちんと前を向いて歩くことができる。体力のある限り、マジメに、黒板とチョークを見つめることができます。
机とイスに取り付けられたネジは私の身体を揺らそうともせず、少しも緩みがなく、頑丈で、ちょっと錆び付いている部分がある。でも私はそんなのは気にしないから、大丈夫だよ。今日もあと一限頑張って、太陽が校舎の上に傾きかけたら、そのあとにはきちんとホコリを拭き取り、ネジの緩みや故障はないかこまめにチェックをする。ガタガタ音を立てないか耳を澄ませる。私の中のアルゴリズムは、そう決まっている。目をこすりつつ、まぶたを閉めて、視界にカーテンをしている場合じゃない。今日はちょっと、教室にうず高く積もる錆びついたホコリを吸いすぎて、酸素が十分に脳に行き届いていないので、その点はあしからずと言いつつも…。
ああ、眠い。…いやいや、ダメダメ。全然、ダメ。もうすぐ5限目が終わろうとしているのに、先生の話を今聞かずして、いつ聞くんだ。類人猿についてはもうお腹いっぱいだけど、もう少しマジメに、ちゃんと鼻筋を伸ばして、先生の麗しい声を聞こう。ホットで明るい、社会や歴史についての自然科学を、できるだけ心の近くに受け止めて、永久に私のモノにしてやろう。そういう意気込みはすごく大事だから、あとは黒板とチョークの、文字と文字の間を慎重に歩いていき…。
私は時計が進むに連れて外を見る。反射的に。ほとんど無意識の中で。
授業の途中までは、明るかった一部のグラウンドの土地も、太陽が動くに連れて、少しだけ影が濃くなり暗くなる。グラウンドの土を持ち上げる薄明るい茶色の流砂は、風を帯びて鳥を掴み、鳥はまたその空間の外へと、急ぎ足で逃げていく一本の葦になる。一羽、また一羽と羽を広げて空高く飛んでいく姿は、2000万年前のジャングルよりも、その類人猿たちの化石よりも、ずっと鋭い爪痕を、現代の時間の中に残していきそうで、私は思わず口を開いて、サーッと過ぎていく鳥達の素早い飛行の軌道を、目で追いかけようとする。
その中で鳥たちは、高く飛びすぎて見えなくなったり、窓の外のすぐ近くまで通過していったり、パタパタと羽を靡かせては何かと忙しい。世界は広いんだなっていうのを目の当たりにして、同時に、この限られた教室と外の空間のスペースの中で、エサ、風、空、大地、それらのなにかを上空から探しているのを、狭く狭く、心の中で同情しないでもなくて。
教室の中は一段と静まり返り、反響する音の一つは、エアコン。その轟音と、あと一つ。騒がしいノートや教科書の上の文字の一つが、授業の端から悲鳴を上げて、私の耳から溢れていく水になり、その中から少しずつ歪みができていく小さな波の紋様が、時間を追うごとに乾いていく音、それだけだ。消しゴムを手に持ち、ノートに書きなぐられた文字の被写体を高く高く持ち上げようと試みても、屍のように動かない。くたびれた斜線の何本かの束が、綺麗に一つにまとまりつつ、私の頭の中のがらんどうを、徐々に丁寧に揃えて、愉快な色調の波動を、確率的に狭めてきている。
ぎこちない、それとは真反対の、スムーズなタイミングの一致が、少しずつその輪郭を帯びながら、時計の針を一層速く、追い立てる。
もうすぐ今日が終わる。今日の一日の業務が終わって、疲れた腰をさすり、乾いた喉を、思いっきり潤して癒やすことができたら。
私はその感情を横目に、類人猿と握手しながら、教室の窓の下でフェードアウトしていく影になる。そしてそのリズムは、世界の一番低いところで、重たく響く巨大な振動と波になる。
空の向こう側に走り去っていく一本の雲。飛行機。それらはきっとおそらく、太陽に近づきすぎて死んだ、イカロスの末裔に違いない!




