表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

騒音

作者: CLIP

暑いなあ~」

ショートにしてた髪も、だいぶ伸びて余計に暑く感じるし

「少し切ってスッキリしよう」

そう思うと、どこかに美容院はないかな~と辺りを見回した

あいにく、良い感じの美容院はない…けど

床屋さんはあった。「女性客も歓迎」と

手書きのポスターが貼ってあって、それが安心なのか

逆に不安材料なのか、微妙だけど

この暑さには代えられないっ!と店に入る事にした

「何もイメチェンする訳でもないし、すっきり梳くくらいなら平気でしょ」


店に入る前から気が付いてはいたけど

隣の店が、工事中らしく、その音がすごい

「いらっしゃいませ~」と言う声も、聞き取れないほど…

でも、時折、その音も静まるし、カットだけだから我慢しよう

「カットをお願いしたいんですけど…」

そう言うと、店主らしいオジサンは、ハイハイ、とイスを指して

私がそこに座ると、さっとカットクロスを付けた。

「暑いですねえ~それに音がうるさくて、すいませんね~」

愛想の良いオジサンは、そう言いながら、もう私の髪を霧吹きで濡らしている。

「どれくらい切りますか?」

鏡に映った私の髪は、しっとりと濡らされて、ようやく肩に付くくらいになっている

「もう前回切って、だいぶ経つので、ずいぶん伸びたし、量が多くなってしまって…

暑苦しいので、すっきり薄くしたいんですけど…」

そう言うと、くしで全体を梳かしながら

「すっきりね…じゃあ・・・・・・・・・・・しちゃっても良いのかな?」

工事の音が激しくなり、オジサンの声がかき消される程だった。

「え?ああ、はいはい、お願いします」

良く聞こえなかったけど、すっきり…と言ったのは伝わったみたいだし

適当に、返事をして、任せる事にした


「じゃあ、思い切って…」

後ろで何やら支度をしていたオジサンが、そう言ったけれど、それも聞こえず

次の瞬間、何やら冷たい感触が、うなじに伝わり、それが上にあがってきた

「えっ、何?何?」

ちょっと下を向かされていた頭を、慌てて起こして、何が起きたのか見ようとすると

「あっ、動かないで…ほら~下の方だけのつもりだったのに、上まで行っちゃったよ…」

鏡に、オジサンが持っている物が映っていた…大きなバリカン…

「なっ、何でバリカンなんかで…!」

皮肉にも、工事の音は止んで、今は、バリカンの音がジージーと聞こえている。

「だって…すっきりって言うから『じゃあ、この際刈り上げにしちゃっても良いのかな?』って

聞いたら、お願いします、って言うから…」

オジサンはそう言うと、呆れたように、私を見ている。

「聞こえなかったんですっ!」と言っても、聞こえないのに、返事をしたのは私…

「今更、聞こえなかった、と言われても…もう真ん中、かなり上まで刈り上げにしちゃったよ…」

オジサンは、合わせ鏡で後ろをそぉっと映して見せた。

何てこと!肩に付くくらいの後ろの髪の、真ん中に、真っ直ぐ後頭部半分くらいまで

バリカンが通りました、と言わんばかりの刈り上げ跡…


「ど、どうしてくれるの!」

「どうしてくれるって…今更隠せないしねえ~本当はもっと下だけのつもりだったのに

お姉ちゃん、急に頭上げるから、バリカンが上の方まで入っちゃったし…」

「だって、刈り上げにされてるなんて、判らなかったんですっ!」

押し問答をしていても、刈ってしまった部分が伸びてくる訳でもなく

かと言って、コレで「もう良いです」と終わりにして帰る訳にもいかない…

「どうにか隠せませんか…?」

と言ってみたものの、オジサンもその横の髪を触ったりしつつ

「どうにもならないねえ~」と答える…そりゃそうだろうなあ~

隠すように結ぶにも…髪の長さが足りない…

「じゃあ…じゃあ、何とかおかしくないようにして下さい」

泣きたいような気持ちで、そう言うしかなかった。

「うーん…まあ、他の部分も同じように刈り上げにして、そうだなあ~

後ろをココまでしちゃったら、横だけ長いのは変だし…横も…」

「もう良いですっ、とにかくやって下さい!」

どんな頭にされてしまうのか、バリカンは勢い良く、私の髪を刈り始めた。


「涼しくて良いよ、絶対、お姉ちゃん頭の形も良いから、似合うよ」

バリカンが髪を刈る音と、オジサンの言い訳のような言葉がむなしく響く…

せめて、工事の音がしていたら、バリカンの音も、髪が刈りおとされる音も

聞かなくて済むのに、今は、まったくしない。

後ろの髪を刈り終えて、次は横の髪を、どんどん刈っていく

本当に…涼しい頭になっていく私…

「これなら、シャンプーも楽だよっ!気持ち良いよ~」

何が気持ち良いのよっ!

私は、みるみる変わっていく自分の髪型を見ながら

店を出たら、まず最初に帽子と、日焼け止めを買いに走らなくちゃ…

そう思っていた。

すっかりむき出しにされた襟足や首が、鏡の中で、妙に白く見えた

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 聞こえなかったら聞き返すことって大事ですね。てきとーに返事することは結構まずいことになることが割とよくあるという。主人公はその中でも結構な外れを引いてしまったみたいですね。 [気になる点]…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ