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『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』

 第一回は、つい最近観た『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅(2016)』です。


 この作品はイギリスの作家J・K・ローリングが著した『ハリー・ポッター』シリーズのスピンオフ作品で、世界観を共有していますが、直接的な繋がりは薄いです。何せあの作品より70年前に遡り、まだ「名前を呼んではいけないあの人」は活躍していません。また、原作は小説としての形では存在せず、ファンの要望で脚本集として発売されたとか。


 全五部の作品としての滑り出しは、まあまあ。何と言ってもシリーズ通しての悪役になるであろうグリンデルバルドの関連付けを完璧に失敗しているからだ。正直ラスト戦闘を終えてあのあたりの脚本がヘタクソすぎて口がポカーンだったのである。……こう、ラストで大ポカやらかすって致命的じゃないですかね。だからかな、シアターに観に行った知り合いから「面白かったよ」以外の言葉が漏れてこないんですよね。本当に面白かったら、語るわい! 語り明かすわい!


 とりあえず、はっきり言おう、先の大ポカがなければ、もっとヒットしてた。なんたって、登場人物がよい! 『ハリー・ポッター』が黄金の三なら、こっちは安定の四だぜ。物語を読み解いていく主人公たちの配置はパーフェクトだったんだよ!! おのれ、グリンデルバルド!


 変人専門家ニュート、落ちこぼれ捜査官ティナ姉さん、コメディ担当物理でアタックなコワルスキー、お色気担当クイニーと、実によい配置。しかも男女同数でカップルになるところがまた良いですね。お色気担当の妹ちゃんクイニーは無意識に心を読んでしまうので、それが物語を深めるのに役に立っているし。コメディリリーフかと思いきや魔法で開かない扉を蹴破るコワルスキーさんと、無駄な要素がない。それなのにこんなに魅せることができるのは、キャラクターを演じるアクターの演技力と脚本の賜物だ。



 



 舞台が1926年のニューヨークなので、えらく時代がかった背景が素敵なシーンから入る。でも、最初のここが事件の根本、「グリンデルバルドの野望、オブスキュラスを追え」の部分が蛇足的で分かりにくいので、絶対に視聴者は聞き流してるぞ。しかも、暗示的なのがよくない。それじゃ分かりづらいじゃないか。後で「魔法生物大暴れ!」があるので、視聴者の脳内では情報が錯綜してしまうぞ。だが、こういう「怪事件は事故かそれとも?」的な感じは時代背景もあいまって『ゴーストハンターRPG|(安田均・白川剛とグループSNE アスキー)』というゲームそのものなので大好きだ。モガもいいね。お姉さん(ティナ)はブルネット|(黒髪)のショートボブがよく似合うよ。妹のクイニーの金髪も、トップはゆる巻きなのにうなじは刈り上げるくらい短くて色気が素晴らしいですね!


 最初から楽しませてくれるのが、主人公ニュート(ニートではない)の鞄の仕掛け。この鞄は他の空間に繋がっていて、中では魔法動物を飼っているので覗かれたらいけないんだよね。そっと「マグル(非魔法族)」用のレバーを切り替えてやれば、普通の鞄に大変身。この遊び心がローリング流なのかな。


 銀行の前で全員集合しているのがいいんですよね。魔女嫌いの過激派バアサンに「あなたも探索者なのでしょう?」と聞かれて「いや、どちらかというと追跡者かな」というやりとりをしているのが、なおいいですね。直後モグラ(ニフラー)が逃げ出しちゃうし。


 ニュートは魔法動物学者という、危険生物のスペシャリストなので、それ以外はからっきし。ニフラーを探しに銀行へ入ればすぐさま不審者扱い。早いよ! そしてやった事はといえば、伸縮自在ヘビ(オカミー)の卵を忘れるわ、銀行の扉は開けちゃうわ……おまわりさん、コイツです! しかも後々宝石店で同じようなことしでかしてるんだから、天丼って本当に美味しいよね!


 まあ、そんな間抜けニュートのおかげで、今作のメインヒロイン、コワルスキーさんと出会えるのだから良しとしようか。おばあちゃん直伝のパンを焼いて店を開きたいコワルスキーさん、今は缶詰工場で働いてるの。銀行に融資を断わられて失意の中……お人よしが災いしてニュートの起こした騒動に巻き込まれ、鞄を取り違えたまま逃走!


 ここで現れるのが、落ちこぼれ捜査官のティナお姉さん。ニュートのやっていることがいかに危ないことなのかを視聴者に教えてくれる。仕事と人情の板ばさみになって、結局人助けを優先してしまう彼女は信用に値する人です。後述の妹は美貌で世渡り上手、お姉ちゃんは真面目すぎて損するタイプ。わかるわ~。そんな不器用なヒロインがニュートを引き摺っていくのがアメリカ合衆国魔法議会(メクーザ)です。


 ここにも屋敷しもべが働いていて、『ハリー・ポッター』の銀行のような場所でしたね。規模が小さいのは寂しかったですが、不思議がたくさんあって、魅力的な場所。とはいえ、大人向けを意識しているのかワクワク感は少なめでしたね。靴磨き屋さんじゃなく杖磨き屋さんがあったりと、制作裏話の方が面白そうと思ってしまったのは内緒です。


 ここで本来ならニュートは裁かれてイギリスに送り返されるはずだったのですが、いかんせんティナ姉さんは落ちこぼれ。事件を起こして降格されていたせいでマトモに話を聞いてもらえず、証拠として取り上げたトランクの中身は……コワルスキーさんの自慢のパン。ここで誰かつまみ食いしてれば完璧だったのに!






 もうお分かりですね。鞄から魔法動物が逃げ出してしまってさあ大変、なんですよ。一般人に魔法がバレたら魔女裁判の再来です。暗黒時代です。マクーザのお膝元にも「魔女を許すな」とわめいているバアサンがいるくらいですからね。彼女はいわゆる「キチガイ」枠なのですが、もうちょっと眼力がこもっていてもよかったのではないかと思います。


 監督が提供したかった主題は「グリンデンバルドとニュート、相対す」だと思うのですが、ここからその主題までの流れを一番楽しんでほしいですね。魔法動物たちの可愛さ、ふしぎ、美しさ。これまでどこかギクシャクしていたニュートがとたんに生き生きと、伸びやかな個性を見せ始めるのです。俳優のエディ・レッドメインが実に素晴らしい演技を披露してくれました。


 ティナの間借りしているアパートが、別の空間と繋がっていたり|(推測)、家具たちが勝手にお仕事してくれたりと、この辺りの細かい部分は言い出したらキリがないのですが、ローリングの世界観は健在。特に魔法動物が魅力的過ぎて次回作はシアターで見ようかなと思ったりします。ただ、これが後半バトル一辺倒になったら興ざめですね。『龍のすむ家(クリス・ダレーシー)』もね、一巻は良かったのに二巻からは……。


 ひとまず「変人ニュート、魔法動物を回収する」という大きな流れはここまで。こっちが陽のパートだとすると、陰のパートも注目してみましょうかね。






 

 アメリカ合衆国魔法議会(メクーザ)の捜査官グレイプスは、NYで起こった魔法の関わる事件について調べていた。オブスキュラスという強大な力を持つ魔法生物を生み出すこどもがこの街にいるのだ! 彼らはおよそ十歳までしか生きられず、その上オブスキュラスと一体化してしまうと大変危険なのだ!


 そんなグレイプスさんが協力を求めていたのは、魔女排斥運動の主導者であり孤児院を経営しているバアサンの養子、クリーデンス青年。バアサンから虐待を受けていた彼は、実は魔法の素質があった。グレイプスは、幻視で彼がオブスキュラスを宿すこどもと関係があると知って、捜索の協力を求めた。成功の暁にはクリーデンスを魔法省に入れてあげると…………はい、お分かりですね、こいつです!!


 最初から怪しく、視聴者には丸分かり。そこまではいいんですよ、別に。でも、主人公たちにもそう認識させようとあからさまに怪しい台詞を言わせるとか! 悪役はばれて上等だけどIQが低くていいなんて言ってない!! ラスボスだろ、お前! コメディかよ!


 そりゃあ、グレイプスさんの擬態が完璧&接点のなさで主人公たちには彼の動きは分からないし、怪しいと思わせることは重要だ。けど、それにしたってひどいわ! 周囲の人間はグルなのか! グルなんだとしたらラストの戦闘で助けに来いよ!! そして『ハリー・ポッター』の後半みたいに馬鹿みたいに三下を出しすぎてダレるといい。お家芸なんだろ!?


 クリーデンスにとってグレイプスは唯一の味方だったのに、とか、そういった事情はあれ視聴者にとっては「裏切られた」とはならないんですよね。仕込が足りないんですよ。完璧にね。この辺りはオブスキュラスを生み出すこどもが誰なんだとか、ミスディレクションも仕込んであったし、努力は認めるんですけど……どうして第一作で欲張ったかな。っていう。いい点もたくさんあった。


 例えば。クリーデンスがオブスキュラスだったし、十歳までしか生きられない設定はどこ? っていうのも「彼の力がすごく強かったから」で納得できる。ただ、私はここに「語られなかった設定」があると見ています。彼の力がすごかったんじゃなく、十歳を越えても生き延びることができたから強いんです。


 ここには養母の虐待バアサンが絡んでくるというのが私の推測。『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々|(2010)』でも、パーシーの母がDV夫に耐えつつ十何年と一緒に暮らしていたのは、「彼の足の臭さのせいでパーシーたちを追ってくるヤツらの鼻が利かなくなるから」という理由がありました。魔女排斥バアサンは、クリちゃんの母が魔女だと知っており、だからこそクリちゃんにひどい虐待をしてきたんです。オブスキュラスの特性を考えると、「耐える」というその行為によってクリちゃんは生き延びることができたんじゃないかと思います。


 まあ、バアサンは因果応報で死ぬけど。


 クリーデンス青年の暴走によって、ノー・マジ|(非魔法族)たちに魔法がバレてしまった! NYは破壊され、魔法使いたちはオブスキュラスと化したクリーデンス青年を殺そうとする。それを止めたいティナ姉さんとニュートくん、そして殺されちゃたまらないと頑張るグレイプス。


 善と悪の共闘!


 私はこれが大好きです。グレイプスにもニュート君にも共闘してるつもりはないでしょうけどね。これでもかと言うほどニュート君を痛めつけてるし。でも、ニュート君が止められないメクーザの下っ端をグレイプスが制止したりと、いい働きをしていたんじゃないでしょうか。


 で、結局クリーデンス青年はメクーザの議長のせいで散らされてしまいます。ただ、全部が死んだわけではなく……という希望も見えたところでグレイプス逮捕!! その正体はなんと、グリンデルバルドさんだったのです! ポカーン……。


 そこは腹心の部下でよかったじゃ~~~ん!!!!!


 間抜けを晒したグリンデルバルドさん退場。あほかと。彼は「魔法使いは優秀なのに、なんでノー・マジに気を遣ってこっちの活動が制限されなきゃいけないんだ。恐怖で以ってノー・マジを支配しちゃおうZE」という主張の持ち主で、それに傾倒する魔法使いも一定数いるらしい。……なら素直にグレイプスは部下でよかっただろ!





 エンディング。

 ノー・マジに魔法の存在が知られてしまったと落胆する議長たち。でも、ここですでに提示されていた魔法動物の設定が生きてきます。お上手! 嵐を呼ぶ魔法動物をNYに放ち、彼に「記憶をごまかす」薬を撒いて雨に混ぜてもらったニュート。NYの人々はすべてを夢のうちに忘れていきます。その間に街を修理していく魔法使いたちの技の幻想的な様……。


 そして我らがヒロイン、コワルスキーさんは、ノー・マジなので記憶を消さなくてはなりません。彼と故意に落ちたクイニーは引き止めますが……。彼にとっては、やはり夢だったのでしょう。おとなしく記憶を消される雨に打たれる選択をします。魔法の影響で茫洋となった彼にそっと口づけるクイニー。甘いロマンスが切ないですね。


 ニュートの粋なはからいで、その後、パン屋をひらいたコワルスキーさん。そんな彼が作るのはどこかで見たことのあるような不思議な動物のパン。これは食べてみたいかも。たとえ記憶を失っていても、残っている物があるんですね。そこに訪れたクイニーと見詰めあい、魔法動物に噛まれた首の傷痕に手をやるコワルスキーさん。ノー・マジとの恋愛は禁止されているというのに、気持ちはやはり止められなかった。


 一方、ニュートたちもお別れ。イギリスから来たニュートは帰って本を書かねばなりません。そう、日本でも発売されたホグワーツ魔法学校の指定教科書『幻の動物とその生息地|(初版1927)』をね! 私が買ったのは2005年出版の第52版だそうです。


 ぎこちない別れ。不器用な二人は決定的な言葉もなく……。ただ、「本ができたら送るよ」と言ったニュートが、船に乗りかけて戻って来て「やっぱり直接届けに来てもいいかな」と言えたのは大きな前進ですね!!





 

 結びに。

 素晴らしい小ネタもたくさんあるこの映画。英国人のニュートのちょっと気取った言い方や神経質なところ、ダンブルドアに庇われて放校処分を免れたこと、英国ホグワーツと米国イルヴァーモーニーのどっちが優れているかについての問答など。『ハリー・ポッター』の世界が好きなら、楽しめる一作だと思います!

 

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