15文字で送るアイスのおはなし
1日のPV数が30000を超えて、吉武の胃は嬉しい悲鳴をあげております!
今回は実験的内容です!お楽しみいただければ幸いです!
異世界転移ものではないかと言うことで感想欄でご指摘がありました。運営様からのガイドラインを確認し、異世界転移タグを追加しました。ご迷惑をお掛けしました。
放課後。
俺は高橋さんとアイスを食べに行く予定だった。
なぜ過去形かと言うと、
「学級委員として安全性の確認を!」
「担任教師として安全性の確認を!」
「えーと、一昨日の弁当の補填を!」
とのことで山本さん、このみ先生、時津さんの三人が着いて来たからだ。
高橋さんと俺を含めて総勢5人。
「暦くん以外には奢らないからな!」
高橋さんが怒り顔で宣言するのも当たり前だと思う。
まぁこの世界の女性としては、男と二人きりで遊びに行く機会を潰されたことが大きいんだろう。
俺だって男女比とか性別が反対だったら怒るだろうし。
ちなみに高橋さんはちゃっかり呼び方が変わっている。元々「宇野くん」だったのだが、今では「暦くん」と親しげな呼び方である。
「それで、暦くんは何が食べたい?」
「いや、普通にアイスじゃないの?」
「ああ、ごめん。味の話だよ、味の」
「オーソドックスにバニラとかかな」
答えつつも何が良いか思案する。
正直俺はアイスがかなり好きだ。
渋みが甘みを引き立てる抹茶も捨てがたいし、ラズベリー系の酸味でさっぱりしたものも悪く無い。
だが、何と言っても。
「まぁ一番はチーズケーキだけどね」
俺が答えると、何故か全員が内股になった。
「ギャップ萌え……ちょうかわいい」
「何あの笑顔。ニコって、ニコって」
「ごちそうさまです。おいしいです」
……トイレ寄らせて上げたほうが良いのかな?
主に俺の身の安全的な意味で。
半眼になりながら思案するが、全員なんとか堪えられそうだったのでアイス屋さんを目指すことにした。アイスが待ってる!
「じゃ、とりあえず行こうか。って」
場の空気を変えるためにも声を掛けたのだが、気がつけば両脇を固められていた。
右が時津さんで左が高橋さんだ。
本当ならば両手に華、といった感じなんだろうが、時津さんも高橋さんもガッチリガッツリ掴んでいるので、気分としては捕獲されたリトルグレイの方が近い気がする。
いや、腕にナニが当たって柔らか気持ちいいから問題はないんですけどね?
でも俺が訴えればこの世界では確実に勝てるレベルなんだけど……まぁ訴えないことまで見越しての行動なのかもしれない。
「あー! 時津さん何してるの!?」
「高橋さんも! ずるいですよ!?」
出遅れたことに気づいたらしいこのみ先生と山本さんが不満の声を上げるが、二人はますます俺の腕をつかむ力を強くした。
「暦くんは私を誘ってくれたんです」
「お弁当を放出した補填ですからね」
二人とも動く気はなさそうだったので、諦めて歩き出すことにした。
「……暦くん、嫌がらずに歩いてる」
「ってことはびっちって言うのは?」
後ろで合法ロリと委員長が何か言ってるけど知らない。
二人がごくりと喉を鳴らす音が聞こえたけど知らないったら知らない。
っていうか家に帰ったら本格的に夏希とOHANASHIしないといけないな。
これ以上天然びっちとか言われたら本当に学校行きたくなくなる。
あだ名が「天然びっち」になったら、元の世界の女子ならばそれこそ自殺モノである。これ、遠回しなイジメとかじゃないよな……?
「天然びっち……家庭訪問ですねー」
「先生! それは流石に卑怯です!」
後ろでは剣呑な話が聞こえるが、俺の両脇ではそれと同じくらい剣呑な表情で呼吸をしている時津さんと高橋さんがいた。
「甘い! 甘い匂いがするよ……!」
「これが男の人の香り……くんくん」
絶対病気だろコレ……。
しかも病名つくレベルの。
と思うものの止められる雰囲気じゃない。二人共目が血走ってるし握力マックスで俺の腕にしがみついてるからね。
コレ、変に話掛けたらそのまま腕折られるレベルだと思う。
まぁ歩きにくいから微妙に逃げる方策を考えて見ようとは思うけど。
「そういえば、皆は何味を食べる?」
「耳元! 耳元に暦くんの囁きが!」
「はぁっ……! もう一回お願い!」
駄目だこいつら……。
「先生はクッキークリームですねー」
「私はラムネとか爽やかなのですね」
後ろで剣呑な会話してた二人から返答が返ってきた。
流石に匂いを堪能している二人よりは周囲に気を配れているらしい。しかし二人共いい趣味をしている。
クッキークリームとか濃厚なのはチーズケーキとかぶるからあんまり頼まないが、砕いたクッキーが入っていたりすると食べた時に面白い。
それからゆず味とかラムネ味とかさっぱりするものは箸休めと同じく、濃厚なアイスの間に挟むようにして少しだけ食べたくなるものなのだ。
ちなみに夏希はチョコミントかハニーアンドミルクが好きだ。
元の世界では、どんなにいがみ合っていてもアイスの時だけは分けっこしていたのだが、今はしてくれるのだろうか……。
って、そうだ。分けっこ!
「そうだ! 皆で交換とかしよう!」
「交換って……まさかアイスを!?」
「いや、それ以外にないでしょう?」
言った瞬間、後ろの二人が高速で俺の腕から時津さんと高橋さんをひっぺがし、スクラムを組んで話し始めた。
「誰が間接キス権を得るかが問題だ」
「ここは隣で腕を組めなかった私が」
「いやぁ。元々私が誘われたんだし」
「担任としてここは一つ私が穏便に」
それぞれが不穏な空気を出しながらごにょごにょと話し、それから、
「腕を組む方か、間接キスする方か」
「それが問題だ。BYシェイクスピア」
いや、それは生きるべきか死ぬべきかでしょ。
そんな差し迫った煩悩に支えられた二択じゃないよ。
「ま、とりあえず仲良くやりましょ」
結局。
俺に言えるのはその程度のことだけだった。
あ、ちなみに俺が食べたあとのアイスは山本さん、高橋さん、時津さん、このみ先生の順番で回してました。
スプーンは気持ち悪かったから貸さない。
ガチ舐めされそうだったし。
と、この世界の男性がなぜ女性を嫌うかが若干理解できてしまった俺であった。
***
その日の夜。
俺は買ってきて冷やしておいたアイスを持って、居間で寛いでいる夏希の元へと向かった。
「夏希。アイスとか食べたくない?」
「えっ食べたい! アイス大好き!」
「だと思って買ってきたよ。ホレっ」
近距離から投げるふりをすると、夏希は慌てて受け取ろうと腕をもがかせていた。
可愛いなぁ。
「もう、何するのよおにーちゃん!」
「悪い悪い。ほら、チョコミントだ」
今度こそ本当に渡してやると、夏希の横に座って俺も期間限定のラズベリーチーズケーキを食べる。んー、チーズケーキの濃厚な甘みにラズベリーの鮮烈な酸味がいいアクセントになってる。
素晴らしい。
「あ、おにーちゃん一口ちょうだい」
「良いぞ。俺も一口もらうからねー」
うん。
チョコミントは他のアイスとは一線を画す味がするなぁ。
濃厚なのに爽やかになるっていうのも珍しい。歯磨き粉みたいで嫌いっていう人もいるけれど、俺は口の中が面白いから嫌いではない。まぁチーズケーキとかには負けるけど。
「おにーちゃん、これどうしたの?」
「ああ。放課後友達と寄ったからさ」
「友達……まさかとは思うんだけど」
夏希はそこでアイスのスプーンを止めて、半眼で俺を見た。
あ、機嫌悪くなる一歩手前だ。
「外で女の人と分けあったりした?」
「……した、けど。まずかったか?」
返答代わりにスプーンが投げつけられた。
「本ッ当に天然びっちなんだから!」
夏希の機嫌を元に戻すのは、かなり苦労した。
というわけで会話文の文字数縛りでした。
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