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あべこべ世界へようこそ!  作者: 吉武 止少@8/29「捨てられ社畜」モンスター文庫より発売!


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番外編・ハッピーバレンタイン中編

後編かと思った? 残念ッ! 中編でした!!!

ただし、後編は短い予定です。

リハビリを兼ねて書いてるんだけどもうまくいかねぇ……

 そんなわけでチョコレートを作ることにした。

 もちろん手作りは夏希と、義理で母さん、お世話になっている光さんの分だけで残りは市販のものだ。お小遣い的に大袋の菓子を買って配る予定だったんだけれども、光さんがどこかへ連絡して1時間ほどで大手お菓子メーカーの森短製菓から営業さんがやってきた。


「『男性御用達』のトレンドを頂けるのであれば無料で……!」


 汗だくになりながら説明してくれる営業さんによると『男性が選ぶメーカーといえば森短製菓』というトレンドをつくるために、希望があれば無料で配布用のチョコを用意してくれるらしい。もちろんプライバシーを考慮して顔や名前は一切出さない。

 もし氏名や顔出しがが可能であればスポンサー契約を、と言っていたが、その途中で光さんが懐から抜いた伸縮ロッドを伸ばしたのを見て口を噤んでいた。大々的に活動するならばともかく、中途半端な顔だしは一番危険とのことだったので、スポンサー契約はお断りしておいた。

 光さんが言うなら間違いないしね。


「それでは、このカタログからご希望の品を選んで頂いて、個数をお願いします」


 そう言って渡されたのはお歳暮とかを選ぶときに母さんがよく見てるような厚みのカタログだった。

 中にあるのは色も形も工夫が凝らされたチョコレート。メッセージ付きのものや、変わったところではチョコそのものがシリコン型を使ってメッセージになっているものまであった。

 装丁もリボン掛けのものからキャラクタの形をしたものまで。

 ちなみに本命用と銘打たれた特集ページには、作ったパティシエールの顔写真やら来歴まで載っていた。三ツ星とか凄すぎて無料じゃ頼みにくいよ!

 散々悩みながらも小粒のトリュフチョコレートが並んだものにした。パッケージは青で、中に入れるメッセージカードには『クラスのみんなへ』と印字してもらう。光さん監修なのでこれも問題ないだろう。

 どうやらバレンタインに義理チョコを贈られたことで気があると勘違いし、ストーカーになる女性が一定数いるとのことだった。その点、このメッセージが入っていれば特別なものでないことは示せるし、万が一ストーカーが表れても森短製菓を通したことで送った内容も分かっているので『誤解させるつもりはなかった。有罪。相手は死ぬ』という判決になるとのことだった。

 やっぱり光さんは頼りになる。


「いやぁ、それにしても、光さんでも冗談を言うんですね、相手は死ぬだなんて」

「ふふふ。笑っていただけたなら何よりです」


 ……冗談だよね?


***


「ええと、その、そう。独創的。独創的かつ前衛的で、かなり挑戦的な意欲作です」


 ご主人様がチョコレートを手作りする、と言い出したのは二日前。お望みになったものを買いそろえていざ、と向かったキッチンだったけれど、少し……そう少しだけ想定外の出来事があった。

 例えば、だ。

 アニメや漫画でよくあるだろう。高嶺の花と言われるような、文武両道でなんでもできる男性が料理だけ苦手、というパターン。どんな食材を入れても再現するのが難しそうな『どくのぬまち』みたいな色のナニカに変わるアレだ。

 どうやらご主人様はだいたい(・・・・)それに当てはまるようだ。


「光さん……何が悪かったんですかね?」


 呆然と呟くご主人様だが、流石の私も答える術を持たない。

 そう、目の前にあるのは『どくのぬまち』を超えた逸品。

 名づけるのであれば――


「ただいま……っておにーちゃんどうしたの? 新しいペット(・・・・・・)?」

「ぺ、ペットじゃない……!」


 ああ、しょんぼりなご主人様も可愛い! いますぐ●●を×××してあげたいっ!

 私が妄想を捗らせている間にも、帰ってきたご主人様の妹、夏希さんがチョコレートに指を伸ばした。

 つんつん。

 びくんびくん(・・・・・・)


「かわいい! スライム的な? 新種の生物?」


 そう、ご主人様の作ったチョコレートは、紫色の流動体となり意思をもって(・・・・・・)動いていた。名づけるとすれば毒スライム。

 鍋の中から這い出ようとするそれをつつきながら、夏希さんは残酷な問いかけを続ける。


「どこから拾ってきたの? それとも貰ってきた? うみうしの仲間?」

「……」


 愛する妹からの質問にHPとSAN値をガンガン削られているらしいご主人様は何も答えない。

 ――ッ!

 これはチャンス。『もーっと! 護衛武官ひとみ』第115話のように、ご主人様を華麗に励ますの!


「暦さん、あなたは天才です」

「……?」

「むしろ神とさえいえるでしょう」

「光、さん?」

「あなたは新たな生命を創造したのです。つまり神です」


 ぽかんとするご主人様があどけなくて可愛いので食べちゃいたい。けれど我慢! 我慢よ光っ!

 夏希さんの前だもの! ええ、小姑との仲は良好に保つのが家庭円満の秘訣って『護衛武官ひとみ♭』でも言っていたもの。


「あなたは神になったのです。神になったあなたにできないことはありません。もう一度挑戦してみましょう」

「……励ましてくれるんですね。ありがとうございます」

「いえ。お邪魔かも知れませんが、お手伝いさせていただきます」


 手取り! 足取り! 腰取り! ナニ取り! 取れるモノをすべて取りながらでもお手伝いさせてください!


「これかわいー」

「夏希、触っちゃダメ。捨てなさい」

「えー? 飼おうよー。可愛いよー?」


 その後、夏希さんの部屋でチョコレートを飼うという話も出たが、お義母さ――お母様によって却下されていた。ご主人様がチョコレートを見るたびに少し悲しそうな顔になるので、お母様と相談して私が処分することになった。


「この子、何食べるのかしら……?」


 一人暮らしの我が家が、少しだけにぎやかになった。

きっと『護衛武官ひとみ ドッカーン!』もあるんだろうなぁ。

ちなみに光さんは空の水槽の中でペットを飼育しています。

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