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あべこべ世界へようこそ!  作者: 吉武 止少@8/29「捨てられ社畜」モンスター文庫より発売!


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番外編・ハッピーバレンタイン前編

しばらく間を空けるといったな、あれは嘘だッ!


いやまぁこの番外編のあと空くんですけども。

「夏希、チョコとか好き?」


 リビングにて。

 スマホゲームをしていた夏希に問いかけた。思わずスマホを取り落としそうになった夏希だが、


「ちょちょちょッコレ↑ートぉ↓? うん、好きだよ」


 分かりやすく動揺しながら答えてくれた。どうやら、俺からの(・・・・)チョコレートを期待しているらしい。そんな様子の夏希に、俺は思わず笑って頭を撫でる。

 んぅっ、とくすぐったそうな声を上げながらも、夏希は動かない。調子に乗ってしばらく撫でていると、


「せくはら! おにーちゃんのばか! だいすきっ! たべたい!」


 精神年齢3歳くらいの口調で支離滅裂なことを言われて逃げられた。耳まで真っ赤になっていたのでどうやら恥ずかしかったらしいけど、最近うちの妹、情緒不安定じゃないですかね? 食べたいってチョコの話だよね?


***


 ことの発端は2日前に遡る。学校に登校してすぐのことだった。教室のドアを開けるとともに、黒板に書かれた日付が2月になったのを見て、


「もうすぐバレンタインデーか」


 と呟いたのが切っ掛けだ。

 がたん、と大きな音を立てて椅子から立ち上がったのは委員長を務める山本さん。それからイケメンムーブが眩しいスポーティ女子の高橋さんだ。

 二人は油が切れたロボットみたいな動きで俺の方に近づいてくる。


「「おおおおおおおおはよう暦くん!」」

「おはよう」


 若干の恐怖を感じたものの挨拶を返す。


「さっきバレンタインって言ってたりした?」

「あ、うん。14日でしょ? バレンタイン」

「そそそっ、そう言えばそうね! 全然忘れてたけど!」

「そうだね! まっっっったく意識してなかったけど!」


 あ、うん。

 なんとくなく理解した。

 インターネットで調べたところ、元の世界とは逆に『男性から女性に』チョコレートを渡す日であるらしく、貰える・貰えないの悲喜交々(ひきこもごも)は元の世界と同じとしても、この世界では男性の数が少ない。つまりもらえる可能性が非常に低い。

 そのため、貰えると一家でお祝いをするほどのものになるらしい。SNS上では真偽不明の『男性からもらったチョコレート』の画像が出回ったり、真偽不明の『男性が作ったチョコレート』が高額で売りに出される日らしい。

 大方、二人は俺から義理チョコか何かを貰えるかもと一縷の望みを掛けつつも欲しいと言えずに悶えているというところだろう。

 まぁクラスメイトだし普段からお昼ご飯用意してもらってるから大袋のチョコレートくらいなら配るのはやぶさかではない。とか考えていると、


「もしチョコレートに興味あるならパティシエ雇おうか!?」

「カカオを輸入するかい!? それとも専用キッチンが欲しいのかね?!」


 斜め上な発言が飛び出した。

 そういやこいつらメチャクチャお嬢様なんだった……ポンコツ過ぎて忘れてたよ。


「えーと、とりあえずは大丈夫かな」

「そ、そう……分かったわ」

「もし必要になったらいつでも声を掛けてくれ。力になろう」


 しょんぼりしながら席に戻る二人に、追い打ちが掛かる。


「暦くん、気にすることないですよー。どうせ二人は『ついでだしお世話になったから』とかそういう理由で義理チョコもらえないか画策してるだけですからー」


 外道ロリ教師のこのみ先生だった。


「そそそそそそそそそんなことはないよ???」


 高橋さんはわかりやすく動揺していたし、山本さんに至っては耳まで真っ赤にして俯いていた。

 分かりやすすぎる……分かりやすすぎるけど、


「このみ先生は何も企まないんですか?」

「何を言ってるんですかー。先生は先生ですよー? たくらむとか人聞きの悪いことを言わないでくだいよー」


 このみ先生はどうやらバレンタインにはタッチしない方針らしい。


「暦くんは気にせず行事を楽しんでくださいー。先生は気にしませんからねー」

「……?」


 まるで教師のようなこのみ先生の物言いに不信感を覚えるが突っ込みどころがない。いや、教師のようなっていうか教師なんだけど普段の言動が……ね。

 二人も同じことを思ったらしく、このみ先生へと詰め寄っている。


「先生」

「はいなんでしょー?」

「チョコレートアレルギーだったりします?」

「しませんよー」

「没収したり、担任権限でチョコを用意させたりするつもりですか?」

「そそそそんんなことないですよーう?」


 オッケー。目的がハッキリ分かった。

 別に面倒だしチョコを贈らないって手もあるんだけど、


「このみ先生……先生のせいでチョコもらえなかったら、刺しますよ?」

「暗闇、背後……次の新月は……」


 高橋さんと山本さんが暗黒面(ダークサイド)まっしぐらな表情でこのみ先生に詰め寄っているので何とかせねばなるまい。一番簡単なのはこのみ先生にもチョコを渡すことだが、この外道にフツーに渡すのはちょっと癪だなぁ。

 仕方ないので二人を呼んで少しだけ相談する。

 流石にお嬢様なだけあって俺のお願いはさらっとOKされたので、改めてこのみ先生に向き直る。


「このみ先生」

「なんですか暦くん」

「チョコレート。欲しいですか?」

「!? くくくっくれるんですか?!」

「良いですよ。タバスコ入りとキャロライナリーパー入り、好きな方を選んでください」


 そう、俺が二人に訊ねたのは、キャロライナリーパーを入手できるか、ということだ。

 二人は二つ返事で答えてくれた。『良いよ! 何トン?』って単位おかしかったけど。

 ちなみにキャロライナリーパーは辛さでギネス記録に認定されたこともある唐辛子である。辛さを表すスコヴィル値で言えば、タバスコが2500なのに対してキャロライナリーパーは220万。

 880万倍辛いってどういうことだろうか。桁が違い過ぎてわからん。


「ちなみに、キャロライナリーパーを選べば、『俺が一番(辛いの)を贈った女性』になれますよ」

「い、いちばん……!」


 このみ先生は生唾を飲み込む。


「ああでも、無理はしなくていいですよ。(辛さ的に)ランキング圏外のタバスコ入りの方が食べやすいでしょうし」

「け、けんがい……!」


 このみ先生はだらだらと汗を流しながら必死に思案している。ブツブツと『男の人の一番になれる……?』『最悪、胃は摘出……』などと言っている辺り狂気を感じるが、きっと、キャロライナリーパーを食べたときのダメージと俺から(辛さが)一番のチョコを贈られた女性になることを天秤に掛けているのだろう。


「……きゃ、きゃろらいなりーぱー、食べたいです」

「分かりました」


 その後、クラスメイト全員にチョコレートを配る予定だが一切の文句をつけない、と確約させた。高橋さんと山本さんはくるくる回って喜んでいたし、まぁ良いだろう。

ちなみに現在の唐辛子スコヴィル値ランキングは、

1位 ペッパーX

2位 ドラゴンブレスチリ

3位 キャロライナリーパー

とのことですが、ギネスを引き合いに出すためにキャロライナリーパーにしました。スコヴィル値220万とか言われても分かんないし。「13kmや」とか言われても分かんないし。

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