The Nightmare Side N ※夏希視点
別視点で書いたけどダレそうなので早めに投下。
「た・だ・い・まー」
レアアイテムをゲットしたことでルンルン気分でコンビニから帰ってくると、玄関にはおにーちゃんの靴。
つまりおにーちゃんは家にいる!
しかも靴の中敷きがちょっと温かい!
帰ってきたばっかりのはず!
帰りにコンビニで買ってきたアイスを分けるチャンス!
「おにーちゃん。期間限定の『冷凍ブロッコ――」
リビングに行くとソファに寝そべって目を閉じた美の男神が一柱。
尊い、尊いよおにーちゃん!
とりあえず冷凍ブロッコリー味のアイスは冷凍庫にしまって、ソファにもたれ掛かるようにしておにーちゃんの寝顔を眺める。
はぁーっ、もうかっこいい! 何コレ! 神? 神なの? それとも悪魔?
私を堕落させようとする悪魔に違いない!
ああでも神様だったら普段おにーちゃんに手を出さないように頑張ってる私へのご褒美かも知れないし……
ご褒美、そう、ご褒美だったら良いよね!?
駄目なら駄目っておにーちゃんも言ってくれるだろうし! 寝言で!
言わないってことはOKってことだよね!
「おにーちゃん……」
口パクで呼んでみるけど起きない。
「おにーちゃーん……」
サイレントモードで呼んでみるけど起きない。
「起きないとイタズラしちゃうよー?」
微風のような囁き(推定4db)にもおにーちゃんは反応を示さない。つまりコンディションオールグリーン!
「ふへへ。ヤってやる」
空気すら動かさないように慎重に慎重を重ねてゆっくりと手を伸ばしていく。
第一目標、おにーちゃんの汗! 首筋にうっすら浮かぶえっちな汗!
「なぁに、大人しくしてりゃ痛くない。天井のシミを数えてる間に終わる」
「ん……」
「~~~ッ!?!?」
急に寝返りをうったおにーちゃんにビックリして口から脳みそ吐き出すかと思った!
びっくりした! もう本当にびっくりした!
「……寝てる、よね……?」
おにーちゃんからは相変わらずすうすうと小さな寝息が聞こえてくる。
セーフ! 完全にセーフ!
セーフだけどさすがに危ないから流石にお触りは駄目。
ああでも神様からのご褒美がッ!
心のなかで血を吐くほどの葛藤が渦巻く。
おにーちゃんの側でモダモダしていると、不意におにーちゃんがごろんと寝返りをうった。
「……ッ!?!?!?」
ななななにににににコレコレコレ?! ご褒美!? ご褒美なの!? それとも私死ぬの!?
何をどう間違えたのか、おにーちゃんは私の首を抱き込むように腕を伸ばしてきた。
しっとりとした美しい腕とちょっとしめったおにーちゃんのシャツに挟まれて……あああ、頭が、頭が!
頭がフットーしちゃうよおおお!!!
「キュウ……」
***
私は暗闇の中にいた。
これ、夢だ。多分だけど明晰夢ってやつ。
ふふん、探偵少女夏希ちゃんがしっかり分析しちゃうもんねっ!(※)
暗闇の中に浮かぶ私はチュールスカート付きのレオタードを身にまとっている。
白を基調にピンクのラインが入ったそれは……マッシブ☆はるかのコスチューム! それも映画第二弾の限定コス!
つまり今の私はマッシブ☆なつき!
はるかの代名詞でもあるダブルバイセップスを決めていると、バンッ、という音とともに暗闇にスポットライトが当たった。
蹲っている男の子……あれは、ケンタくん……じゃない!?
おにーちゃん! それもショタバージョン!
つまりコヨミくん!
「コヨミくん! おねーさんの母性の塊に飛び込んでおいで!」
「くくくっ、そうはさせないぞ!」
そこに現れたのはワルイーン。うーん、どっかで見たことあるような……
「コヨミくんはこれから私好みのオトコノコに教育していくのさ! そしてコヨミくんから逆プロポーズされて結婚! 紫の下計画!」
「そんな羨ま……かわいそうなこと許さないわ! 解放しなさい!」
「ふん。お前はそこで一人寂しくコヨミくんが教育されていく様子をみているがいい!」
そういうと突然横に現れたお風呂にコヨミくんを入れていく。
ちなみにワルイーンは紺色の股引に同色の前で縛る甚平のようなものを着た三助スタイルだ。
「さーコヨミくん、キレイキレイしましょーねー、まずはシャンプーしてあげるから目をつむって?」
「うん!」
「ちっちゃな男の子とお風呂なんて羨……けしからん! しかもシャンプーなんて! 地肌にお触りするつもりね!?」
「細くてツヤツヤの髪の毛……かゆいところはありませんかー?」
「ないでーす」
「ああっ! コヨミくん! 駄目ッ! それは罠よ!」
「さ、風邪引いちゃうといけないから一旦沈みましょ。ゆっくり100数えるのよー」
「えー? あっついよー?」
「だーめ。きちんと入りなさい」
くぅっ!
思わず血涙が穴という穴から出そうになるがこれは夢、と自分に言い聞かせて必死に我慢する。
そう、これは夢。
きっとフロイト先生の精神分析を駆使すれば私の本当の気持ちが分かるはず。
コヨミくん……これはきっとおにーちゃんへのリビドーね。
お風呂……これはきっとおにーちゃんの汗を舐めたり吸ったり眺めたりしたいリビドーね。
三助……これはきっとおにーちゃんの背中を流してあげたいリビドーね。
……つまり全部リビドー!
「燃え上がれ! 私のリビドー!」
カッ!
「うさぎ座流星拳!」
私の拳から放たれたリビドーが一秒間に100発以上の怒涛の勢いで飛んでいく。
ワルイーンが吹き飛んだことで一人になったコヨミくん。
「さぁ、あっついお風呂から出ておねーちゃんの母性の塊に飛びこんでおいで」
「わーい!」
無邪気なコヨミくんがお風呂から飛び出してきて――
***
「――きろ。起きろ、夏希。夜寝られなくなるぞ」
軽く揺さぶられて目を開けると、そこには水も滴る良いおにーちゃんが!
シャワー!? シャワー上がりなの!? 艶っぽい!
どきっとする私を尻目におにーちゃんは手に持ったアイスの個包装を剥いていく。
「私の冷凍ブロッコリー味!」
「安心しろ、夏希が買ってきたのは取っておいてある。これは俺が買ってきたセンブリ茶&タピオカ味だよ。食べないか?」
「食べる!」
うーん……何か夢を見ていたような。
すっごく惜しいことをしたような、あとちょっとだったような。
分かんないから、まぁ良っか。
「凍ったタピオカが固くて歯が欠けそう……新感覚!」
「でも口の中で溶かすとぷにゅぷにゅ系だね。センブリ茶ゾーンは全部溶けてるから無味だけど」
あ、今のおにーちゃんの『ぷにゅぷにゅ』って言い方がちょっとえっち! 耳が幸せ!
「夏希、幸せそうな顔してんなぁ……」
「うん? 幸せだよ?」
おにーちゃんに頭ポンポンされた。突然そんなことされたら、頭がフットーした。
明確にキャラ出てないワルイーンだけど普通にしっかりショタを入浴させているだけなんだよね。
デシベルの話が出たけど蚊の羽音で20dbくらいとのこと。ピンクノイズだから耳につくけども。
※夏希は明晰夢と夢分析をごっちゃにしています。
明晰夢=夢を見ていることを自覚している夢
夢分析=無意識の働きを意識的に把握するための深層心理学における技法。




