ムシャムシャしてやった。後悔はしていない。
ががががが!
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学校に着くと、まず俺が遅刻しなかったことに驚かれた。
普段は昼辺りに来て、クラスの女子に買わせた食事を食って、保健室のベッドでスマホいじりながらダラダラするのが恒例らしかった。
どんだけクズなんだよ俺。
「おおおお、おはよう! 今日のお昼ごはん係、私だからね!」
クラスに行くと、三つ編みメガネといういかにも図書委員な女の子がいた。
元の世界ではいなかった娘だと思うけれど、台詞から察するにRINEで昼食の準備をするように命じられていた娘だろう。
たしか、時津さん、だったかな?
「ああ、時津さんおはよう。お昼ごはんありがと。買わせちゃってごめん」
流石に同級生に買わせるとかいたたまれないにも程があるので一言謝罪をすると、時津さんは自分の体を抱きしめながらうずくまった。
「どうしよう、私今日死ぬかも知れない……」
「ちょ、時津さん? どうしたの?」
「暦くんがおはようって、おはようって、おはようって」
挨拶くらい……しなかったんだろうなぁ、以前の俺。
「しかもごめんって、ごめんって、ごめんって……謝らせちゃった。どうしよう、暦くん何も悪くないのに謝らせちゃった、どうしよう」
いや、完全に悪いでしょうよ。
どうしたもんか、と思っていると、クラスメイト――もちろん全員女子だ――が嫉妬の視線を時津さんに向けていた。
多分、俺が挨拶するとかきちんと言葉をかわすとかがレアだったんだろうな。
仕方ない。
「みんなもおはよう!」
場を収めるために声を上げる。
嫉妬の原因が俺ならこれで収まるはず。いや、ただの自意識過剰で俺以外に理由があるならわからんけども。
そんなことを考えながら周囲に視線を向けた瞬間。
瞬間。
――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!
もはや言葉とは言えないような、轟音に近い歓声が響き渡った。
「朝から宇野くんの声が聞けた!」
「暦くんかっこよすぎる!」
「おはようって! 私におはようって!」
「もう死んでもいい!」
「暦くんと同じクラスになっただけでも幸運だと思ったのに!」
「何? ドッキリ!? 何で!?」
「もう……ダメ! トイレに……!」
一部変なのもいたけどきっと朝から捗るつもりなんだろうなー。
っていうか俺、どんだけ人気あるんだよ。明らかに鬼畜の所業を行ってた筈なんだけどなぁ……。
きゃあきゃあと黄色い歓声が響き渡るのをいいことに時津さんを助け起こして席に着いた。
時津さんは「触ってもらっちゃった、温かくて大っきな手……」とか言いながらふらふらとトイレへ向かっていった。
きっと時津さんも捗るんだろうな。
そんなことを考えながら授業を受けることになった。
ちなみに朝のホームルームでは朝から俺がきちんと挨拶したことに担任の三戸このみ先生が10分近くフリーズする一場面もあった。
ちなみに三戸先生は今年で29歳になるというのに148センチメートルでランドセルが似合いそうなおかっぱの女性だ。口調も舌足らずなら胸もぺたんこでロリコン御用達、といった感じなのだが、朝の挨拶で頭を下げる俺を見て教卓に思い切り頭をぶつけて涙目になっていた。
その後の授業でもほとんど同じ感じだった。一応真面目に授業を受けたつもりだったけど、どの先生も俺の存在を超意識してカチンコチンになってた。
酷い先生になると問題を解くのに俺を指名しようとして、名前を呼ぶのにどもりまくった挙句舌を思い切り噛んだり授業の途中だと言うのに俺と視線を合わせた途端にトイレに立った教員もいた。
何やってんだ教師。
そんなこんなで昼休み。
俺の雰囲気が違うことにクラス中が興味津々なのを感じるけれども、とりあえず時津さんとご飯である。
ちなみに昼飯は持ってきていない。
RINEの感じだとガチで弁当持ってきてくれそうだったし、無駄にするよりは感謝して頂きたいからね。
まぁ流石に悪いから明日からは断ろうと思っているけども。
「時津さん」
「ひ、ひゃいっ!」
もうそういう反応は飽きたから。
「お昼なんだけどさ、」
「持ってきてるよ! 暦くんにお願いして貰えたから四越のデパ地下まで買いに行ったの! あ、でも口に合わないようなら残してもいいからね!」
四越ってあの超有名高級デパートの四越のことだよな……。
「お金使わせてごめんね。明日からは自分で用意するから」
俺がそう宣言した瞬間、時津さんの後ろの席にいたボーイッシュな少女ががたんっ、と席を立った。
「待って宇野くん! 明日は私が用意できる番なのに!」
明るい栗色の髪をショートカットにまとめた女の子は鬼気迫る表情で俺に迫ってきた。ブレザーに着いているネームプレートを見ると、高橋要、と書いてある。
「宇野くん! 何が不満なんだ! なんでも言ってくれて良い! だからお昼ごはんを用意させて欲しい! この通りだ!」
高橋さんは土下座しそうな勢いで俺に近づいてきて、時津さんに止められていた。
同意なしにタッチするとこの世界だと重犯罪のセクハラになるからね。
「いや、不満っていうか……流石に申し訳ないっていうか」
「申し訳なくなんかないよ! 私が買ったものを宇野くんが食べてくれるだけで幸せなんだ! 頼む! この通り!」
どうやら俺に貢ぐこと自体がステイタスらしい。
というか親御さん的にも「うちの娘が男の子とお近づきになれるなら」と、乗り気らしく、経済的な負担は気にしなくていいらしい。
いや、気にするよ。
四越のデパ地下とか普通に四桁後半だからね。
いくらここが富裕層中心の私立高校だとはいえ、気にせざるを得ないでしょうよ。
「うーん……それじゃ、安いものでお願いできる? あんまり負担かけるの心苦しいし」
「分かった! じゃあ明日は用意してきて良いんだな!?」
「うん。よろしくお願いするよ」
高橋さんはヒャッホウと叫びながらどこかへと走り去っていった。
つ、疲れる……。
「えと、暦くん? ご飯、出してもいいですか?」
俺が嘆息していると時津さんがおずおずと切り出した。ちなみに周囲で様子を見ていたクラスメイトも誰一人としてご飯なんて食べていない。
俺と高橋さんのやり取りに意識を傾けていたらしい。
なんだろう。この世界の女の子は基本的に貢ぐのが好きなのかな……。
そんなことを考えながら俺は時津さんに了承の言葉を返す。
と。
時津さんが教室後ろのロッカー上に置いてあった風呂敷を運び始めた。
いや、え?
嘘でしょ?
いやいや、流石にないでしょ?
「気が利かなくてごめんね……暦くんが食べたいものだけ食べてくれればいいから」
「いや、流石に多すぎでしょ!? 何で重箱に5段もあるんだよ!」
「ご、ごめんなさい。本当にごめん、気分悪いよね……」
「あ、いや、怒鳴ったりしてごめん……でも流石に食べ切れないよ」
「うん。だから好きなものだけ食べてくれれば大丈夫だよ。残してくれても良いから!」
「もったいなくない?」
「ううん! 暦くんが食べてくれるなら全然気にならない!」
おおう。
もはや何も言えねぇ。
まぁでもせっかく用意してくれた高級惣菜だし食べようかな。
「分かった。じゃあ食べよっか」
「はい。召し上がってください」
「時津さんは一緒に食べないの?」
「えっ」
「えっ」
何それ怖い。
「普段、暦くんって一緒に食べるの嫌がるでしょ?」
俺、どんだけ性格悪かったんだよ。女性不信ってレベルじゃねーぞ。
「良いよ。一緒に食べよ」
「うん!」
そんなわけで四越の高級惣菜をムシャムシャしてやった。
超うまかったからちょっと欲張ったけど、捨てちゃうよりはいいよね?
後悔はしていない。うっぷ。
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