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あべこべ世界へようこそ!  作者: 吉武 止少@8/29「捨てられ社畜」モンスター文庫より発売!


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続々・テスト ※一部三人称

お久しぶりです。気づけば2月です。たくさんイベントあるぞ番外編だやっほい! とか思ってたんですが、忙しすぎてそれどころじゃありませんでした。

とかよく言ってるけど吉武に暇なときって来るんだろうか……パトラッシュ、ぼくもうつかれたよ……

 三戸・このみは焦っていた。

 問題が起きたわけではない。

 否、問題といえば問題だが、それはピンチではなくどちらかというとチャンスだ。

 なぜならば、


「いやー、やっぱり数学難しいわー」

「そうだよね! 難しかったよね! 数学の教科担当ぶっ殺してこようか!?」

「……いや、大丈夫」


 テストで苦しんでいる有象無象に混じって、この学校の――否、日本の財産たる宇野・暦がテストを受けに来ているのだ。

 このみが勤務している学校では、男子がテストを受けるというのは初めてのことであった。

 それだけに、一緒にテストを受験する生徒も平静などとは程遠い心理状態の者が多く、近くの座席にいた生徒に至っては問題用紙を見ている時間よりも暦を見ている時間の方が長い者までいた。

 それを諌めるはずの教員側もかなり動揺しており、テスト監督の教員などはカンニングの監視や問題が起きた場合の対処などそっちのけで宇野・暦の監視に努めている有様であった。

 とはいえそれは三戸・このみには関係がない。

 このみが問題にしているのは、


「健康診断……どーしましょーかねー?」


 テストの日、暇になる男子が受けることになる健康診断のことであった。

 もともと、女子と同じ日にちに実施すると人生を掛けて覗こうとする者が出るために、生徒達を確実に拘束できる日にちをしてあったのである。

 と言ってもそこは世界的に希少な男子への配慮が多く、有名無実と化していた。

 男子ともなれば学校の指定医を嫌がり、小さい頃から付き合いがあったりと信頼のおける医師に頼む場合が多く、何よりも学校に真面目に通う男子などほどんどいないので、


「……指定医に連絡なんてしてないですよー」


 本来ならば大問題になる大きなミスだが、このみはどちらかというと悪い笑顔を浮かべており、余裕さえ伺える。

 そんな彼女が覗き込んでいるのは指定医が行うべき健康診断の内容だ。

 そこには、『身長測定』『体重測定』『視力測定』など割りとメジャーなものが並んでいる他、一番下には『精液採取』の文字が印刷されていた。


「……これをなんとか既成事実と結び付けられませんかねー?」


 世の男性が多くの権利と引き換えに唯一強制されている義務。

 それが『精液採取』であった。

 人工授精に必要な分を確保するために15歳以上、40歳以下の男性は必ず年に1度以上は精子を提出する必要があるのだ。

 余談だが、義務と言いつつも男性尊重の観点から提出一回に付き100万円程度の見舞金が払われるので、男性によっては複数回提供する者もいる。

 そんな『精液採取』だが、


「お手伝い……そう、お手伝いなのですよ! 担任としてお手伝いをするのは当然! となればそのためにセクシーなポーズを取ったり手とり足取りナニ取りするのも仕方のないこと! 勢い余ってそのまま――」


 ぐふふ、と女性としてあるまじき笑い方をしたこのみの背後に、影があった。


「えっと……教頭先生? なにかご用ですかー?」

「ご用というか貴方が御用かしら。聖職者としての意識が足りないようね……」


***


「あれ? ホームルームは教頭先生がやるんですか? このみ先生、今日はお休み?」

「そうなのよー。このみ先生ちょっと頭の具合が悪いみたいだから、今日は代わりに私がね」

「な、ナチュラルに頭の具合が悪いって……!」

「でも否定はできないでしょう?」

「……先生! はやくホームルームしましょう!」


***


 テスト終了後、職員室は騒然としていた。

 よくよく見れば、答案用紙を前に血涙を流している者すらいた。

 教頭を務める教師はそれを見て若干引いたものの、管理職として覚悟を決めて教員へと声をかける。


「どうしたの? 何か問題でも?」

「あ、いえ……」


 血涙を流していた教師は教頭に気づき、スーツの裾で目をごしごしと拭く。赤黒いシミが線状に刻まれ、スプラッタホラーな見た目になるが、そんなことは意に介さず、己が眺めていた答案用紙を指し示す。

 そこにあるのは、宇野・暦と記名された答案である。


「宇野くんね。彼の答案に何か問題が?」

「ここを見てください……」


 そう言って教師は解答欄へと視線を導く。


「この解答……間違ってるんです……でも宇野くんの答案にバツを付けるなんて私にはできません!」


 どうやら他の教科でも同じことが起こっているらしく、教頭と教師のやり取りを聞きながらうんうんと首を振る者が複数いた。


「問題が印刷ミスだったことにして全員マルにするか、それとも――」


 そこまで言ったところで、教頭は教師の言葉を止めた。


「宇野くんはわざわざテストを受けてくれたのよ? つまり彼は己の学力を把握したいと思っているの。それを、貴方の感情で邪魔するの?」

「!?」

「いい? 私達は教育者よ。教え、育てるのが仕事。ならば、育とうとする生徒の妨げになるようなことは絶対にしちゃダメ」

「それから、順位を出すのにも支障が……」

「そうね……それならこうしましょう」


***


「テストの結果、見た?」

「見た見た。さすが宇野くんだよね」

「暦様、本当に素晴らしいわよね」


 朝。

 下駄箱でそんな言葉が聞こえてきた。

 どうやらテストの順位が貼り出されているらしく、廊下の方には人だかりも出来ている。

 ちなみにうちの高校では学年で1位から50位の者と、各教科のトップ3までが貼り出されることになっている。

 元の世界にいた頃は51位が最高だったが、貼り出されないギリギリの順位だったために誰にも信じてもらえなかったのは良い思い出である。

 しかし順位の貼り出しとともに俺のことが話題に上がるってことはもしかしたら50位以内に入れたってことじゃないだろうか。

 そんなことを思いながら廊下へと向かうと、そこにはズラリと名前が並んでいる。

 あるのか、と期待して50位から順に眺めていくが、俺の名前は存在しない。


「……」


 おかしい。30位まで見たけれど俺の名前はやっぱりない。

 そんなに出来てるはずがないから、ここまでで載ってないなら載るはずがない。しかし、だったら俺の話題が上がるはずもないのだ。

 嫌な予感とともに視線を高順位のところへとスライドさせるのと、委員長の山本さんが俺を見つけて声を掛けてくるのはほぼ同時だった。


「暦くんおはよう! 男子1位なんてすごいね!」

「男……子……?」


 言われて順位表の端を見てみると、申し訳程度の文字で『学年女子総合順位』と印字されていた。

 そして、その順位表の隣には、やけに豪華な箔押しの紙に、『学年男子総合順位』と印字されており、そのど真ん中に『1位 宇野・暦』と筆で書かれている。

 いや、この学年って男子は俺だけだし……1位だけどビリでもあるんだよね……。


「全教科1位ってさすが暦さんよね」

「ええ。さっき先生方が、男子の1位を永久欠番にするかどうかで職員会議開くって話ししてたわ」


 なんだろう……ものすごい勢いでさらし者にされている気しかしない。

 っていうか教師暇だなオイ。

 そして全教科1位でビリか……もう順位とか気にするのやめようかな……。

 ちょっとテンション下がった状態で息を吐くと、何を勘違いしたのか山本さんが笑みをたたえて俺の横へと並ぶように立つ。

 同時に順位表を見ていたはずの人だかりから殺意のオーラがゆらりと燃え立つが、


「あ、さっき教頭先生が言ってたけど、来週の全校集会で暦くんのこと表彰したいって」

「こ、このみ先生に相談だ! やめさせないと……!」

「このみ先生ならさっきクラスの皆と『暦くん1位おめでとう打ち上げ』の会場をどこにするかでモメてたわよ」

「……あの人は……」

「教頭先生もそれを聞きつけてこのみ先生の捕獲に動いてたから大丈夫だと思うけど」


 当てにならない担任だな……。


「……普通に教頭先生にお願いに行くか」


 こないだこのみ先生が病気? とかでホームルームしにきたけど、気さくないい人だしきちんと言えばなんとかしてくれるだろう。


「じゃ、教室いきましょ」


 当たり前のように俺と教室に向かう山本さんに、驚異的なヘイトが溜まったのは言うまでもない。


「50位以内貼り出し」と「51位で誰にも信じてもらえなかった」は吉武の高校時代の実話です。本当に51位だったんだよう……

そのテスト以降、俺の友達に自称51位が増えたのは軽く殺意が湧きましたが。


というわけでちょっとキレが悪いんですが、最新話を楽しんで頂けたら幸いです。

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