表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あべこべ世界へようこそ!  作者: 吉武 止少@8/29「捨てられ社畜」モンスター文庫より発売!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/41

ええと、夏、みたいですよ?

いや、あの、夏なんです。

今まで明記しなかったのがいけないんですけど、一応夏服だし、ほら、胸チラとか……だから、あの、えーと、今は夏なんです!(ゴリ押し)


11月11日に発表されたモーニングスター大賞一次選考審査結果ですが、なんと拙作が一次選考を通過しておりました!これも一重に応援して下さっている皆様のおかげです!

これからも「あべこべ世界へようこそ」をよろしくお願いします!

「というわけで、明日プールがあるそうなのでー、皆さん水着の準備を忘れないでくださいねー」


 放置したコーラみたいに気の抜けたこのみ先生の声。

 季節は夏。7月に入ったこともあって気温はうなぎのぼり。もちろん教室内は冷暖房完備だけれど、廊下や外の熱気は強く、窓際の俺は直射日光がガンガン当たるからじっとりと汗を掻いていた。


「プールかぁ……だりぃな」

「くっそー、面倒臭いな」

「生理っつって休もうかなー」


 このみ先生は体育科の教師がアナウンスし忘れたらしい内容を伝えただけだと思うんだけど、なんとなく批判的な声が上がる。

 が、その声も暑さに負けてなんとなくだれた感じになっている。

 って言っても俺としてはプールとか結構好きだし何でそんなにだるそうなのかわかんないんだけど。

 確かに授業でってのは微妙だけど、こんな暑い日は水の中に飛び込んだだけで絶対気持ちいいと思うんだけど。


「あ、暦くん。プールの時は養護教諭に話を通してありますから、保健室で大丈夫ですからねー」

「えっ」


 もしかして俺だけ入れないの?


「あれー? もしかして入るつもりでしたー?」

「ええ。駄目ですか?」


 このみ先生の言葉に逆に問いかけると、


「駄目じゃない! 駄目じゃないよ!」

「そう、授業だし! 参加するべきだもんね! うん!」

「そうそう! 皆で入るときっと楽しいよ!」


 山本さんを始めとしたクラスの皆が超必死に答えてくれた。

 あー、うん。

 元の世界になぞらえるとクラス唯一の女子が水着になるかならないかの瀬戸際だもんね。

 そりゃ必死になるわ。

 っていうかこの世界の女子の肉食さ加減を忘れてた。ちょっと心配になってきたわ。

 唯一、時津さんだけは顔を真っ赤にしてうつむいてるけどそれはそれでむっつりエロスってことなんだよなぁ。


「あーでも、学校指定の水着とか持ってないし、」

「買ってくるよ!」

「私も買ってくる! スリーサイズ教えて!」

「っていうかこの学校、男子に指定水着とかないし!」

「放課後買いに行こう! ほら、女子目線とかあると水着選びも楽しいよ!」


 だから必死すぎるだろ。

 どうやって断るべきか、と首をひねっていると、このみ先生がぱんぱんと手を叩く。


「はーい、そこまでですよー。無理強いは良くないですからねー。皆、諦めて普通に泳いでくださーい」


 ……このみ先生の癖にエロくない、だと!?

 いつもと違うダメ担任の態度に戦慄していると、周囲の女子から舌打ちが聞こえる。


「自分が水泳に参加出来ないからって足引っ張りやがって!」

「汚い、さすが大人汚い!」


 あ、なるほど。

 このみ先生体育科じゃないし、授業があるから俺の水着姿を見れないもんね。そりゃ無理やり俺に水着を着せようとかはしないよね。

 おかしいと思ったんだよ。

 まぁでも担任が味方になってくれそうだし水泳は見学にしよう。

 夏休みにでも夏希と海行けば良いし。

 一人で納得して完結していると、山本さんがスススッとこのみ先生に近づいていくのが見えた。


「協力……さいよ?」

「え? は?」

「だから、……写真……して、……って感じです」

「……ですか!?」

「ええ……アングル……」


 山本さんはこのみ先生とゴニョゴニョ相談を始める。

 と同時、このみ先生が弾かれたように頭を上げて俺を見つめる。


「暦くん! 見学は良くないと思います! ほら、参加することに意義があるって言いますし!」


 俺は異議があるよ!

 っていうか写真って聞こえたけど、つまりそういうことだろ?

 この教師……ホントもうやだ……。


***


「うわ……」

「はう……!」

「もぉダメ……」


 そして水泳の授業。

 クラスの皆が競泳水着を着込んで胸とかおっぱいとか胸部とかをたゆんたゆんしてる中に俺はぽつん、と立っていた。

 ちなみに服装はハーフパンツ型のダボッとした水着に、夏用のパーカー。

 本当ならラッシュガードとかが良いんだろうけど、昨日の今日で準備出来るはずないじゃん。夏希に相談したらパーカーを着るように言われた。

 ちなみにそのアドバイスを貰う前に『良いか、暦。男子たるもの齢7つにして異性に肌を見せるべからずと言ってな、~』と、何故か古武士みたいな口調でお説教を頂きました。

 それも2時間半。

 俺だって入りたくなかったよ。

 周囲を見回せばバルンバルンなおっぱい様から自己主張のひかえめなおっぱいちゃんまでよりどりみどりなんだけれども、全員が俺に視線を向けているので邪な目で見るのもためらわれる。

 っていうか俺が邪な目で見られてるよ!

 女子の大半が内股で前かがみになってるし!

 いやまぁ前かがみだからこそ胸部が強調されてて眼福なんですけど。


「こ、暦くん……」


 肉食獣達の視線からどうやって逃れるか勘案していると、恥ずかしげに胸元を寄せた時津さんに声を掛けられた。真っ赤な顔をして視線を中空に彷徨わせながら、


「えっと、準備体操なんだけど……一緒に、」


 と、言い切る前に猛獣たちが俺に殺到した。


「暦くん! 一緒に準備体操しよう!」

「ちゃんすちゃんすちゃんす」

「合法的にタッチできる……!」

「色々ほぐしてあげるから!」

「カタくなったところとかマッサージもしてあげるよ!」

「こここ暦くんに背中とか押してほしいなッ!」

「っていうか、ラッシュガードならともかくパーカー着て泳ぐのは止めたほうが良いと思うな」

「そ、そうそう、溺れやすくなるし!」

「そうだね! 溺れやすくなるもんね! 脱いだほうが良いんじゃないかなー……?」

「……溺れたら、人工呼吸……!」

「ハァハァ」


 おおう、と若干引いていると、小脇から細谷さんが俺をかばうように現れた。


「皆、どさくさに紛れて暦くんにセクハラするの止めなよ!」


 いきなりのド正論に全員が言葉を詰まらせていると、勝ち誇ったような顔の細谷さんが俺に向き直る。


「触って、とか触らせてとか言われたら断って良いんだよ!」

「あ、ああ。ありがとう」


 あれ? ドMかと思ったら案外いい人?


「あ、でも誰かが(・・・・)溺れてたら棒でつついてあげるくらいはしてあげてよね。ほら、こんなところにちょうどよく棒があるし。あれー、私、なんか足がつりそうだなー」

「オッケ。今お前の目的がハッキリした」


 結局自分の性欲満たしたいだけじゃねぇか!

 ニッチすぎて他の人と要求が違うだけで根本的には何も違いがねぇよこのドドドドドMが!

 っていうか溺れてる人棒でつつくとか本格的にトドメ刺すだけじゃねぇか。


 ……決めた。


「……見学します」


 俺の言葉に、周囲が驚愕の表情を浮かべる。


「ななななななんで!?」

「どどどどどうして!?」


 慌てふためく女子陣から、カメラを片手に構えた山本さんが躍り出た。ちなみにカメラは阻止しようとしたんだけど、「卒業アルバム用だから」とのことで持ち込まれてしまった。山本さん、委員長だけじゃなくてアルバム委員も兼務かよ。有能さが憎い。


「休むって……理由は?」

「そ、そうだよ! 理由もなしに体育サボっちゃダメだよね!?」

「うんうん! サボるの良くない!」

「ほら、パーカー着たままでも良いからプールに入ろうよ! ね!?」

「足の先だけで良いから!」

「そうそう! さきっちょだけ! さきっちょだけだから!」


 野獣たちが必死に俺を説得し始めるが、流石にこんなプール危険すぎて入れない。

 入った瞬間事故(・・)で水着が破けたり、事故(・・)で大勢の人とぶつかったり――主に俺の身体と誰かの手が――しそうだし。

 とはいえ確かに堂々とサボる、とは言いにくい。

 言わせまいとする女子たちのプレッシャーもあるけれど、何より俺自身男であるという、ある種の特権階級だからだ。

 ここで堂々とサボってしまうのであれば学校のルールなんてこの先いくらでも曲げてしまいたくなるだろうし、わざわざ自由登校なのに通っている意味がないからだ。いや、普通にサボりなんだけど、なんていうか、堂々とサボりたくはないんだよね。

 うーん……プールを休む理由……何があったか……。

 あ、そうだ。


「いや、もうプールは見学って決めた」

「ええ!? 理由はー!?」


 女子の一人から理由を追求されたので、真面目な表情でその子を見つめる。


「……プールを休む理由とか、男子に聞いちゃダメでしょ?」

「……えっ?」

「ほら、だから、アレだよアレ」


 混乱してる女生徒に向けてウインクを一つ。

 瞬間。精神的ダメージが大きかったのか、女生徒は内股にしゃがみこんだ。


「ほら、男の子特有のアレだよ。君ならわかるよね?」

「は、はひ……わかりましゅ……」

「ちょっと、アレって、」

「もう、男の子にそんなこと聞くなんてセクハラだぞ?」


 再びウインク。


「だからさ。欠席、って言ったら……分かるでしょ?」

「わ……わかりまひた……」


 よし。

 俺はその後も女子に次々と『分かるよね?』と聞いていく。

 ウインクしたり至近距離で微笑んだりしただけでほぼ全員が落ちた。

 そう、俺の作戦はただ一つ。


『それっぽい言動で相手を手玉に取って、余裕がなくなった隙にゴリ押ししよう』


 と言うものである。

 男子が少ないからなのか、刺激に弱すぎるこの世界の女子ならではの攻略法であった。一度欠席をもぎ取れば後は楽である。

 前例があれば後はそれに倣うだけでなんとかなるからだ。


 案の定、その後も何度かプールの授業はあったけれど、


『ほら、男の子特有のあの日だからさ』


 とゴリ押しで欠席をもぎ取ることに成功した。

 理論派の山本さんは微妙に抵抗してきたけれど、


『男子があの日って言ったら、詳しくは聞いちゃいけないんだよ?』


 と告げたところで顔を真っ赤にしていた。

 チョロい猛獣たちで助かったわ。

そういえば先月、ノーベル文学賞が発表されましたね。






……全裸で待機してたのに呼ばれませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ