続・愛鳥週間 ※一部三人称視点
○ 今日はいつもより長い
✕ 今日はいつにも増してまとまりがない
わかってるんですよ、ええ、はい。でも皆、言わない優しさがあるって信じてる。
朝。
俺は9時30分という時間を前にして、動物園の前にいた。
下野動物園という、都内にある動物園だ。
理由は単純。
「実は、クラスでこういう会を定期的に開いていて……」
「暦くん、男の子だから集まりとか嫌いかな、って思ってなかなか声かけられなかったんだけど……」
「もし良かったら、本当に良かったらたんだけど、来ない?」
「あ、無理はしなくていいよ! でも来てくれるならウチの姉貴が車出してくれるっていうし」
「ちなみに部活に入ってない人はほぼ全員参加するから、気軽に来てね!」
「もちろんお昼は用意するから、手ぶらでいいし!」
「チケットも買ってあるから! 年パスで!」
「あ、ずるい! 私の年パスを使って貰うんだから!」
学校で、こんなやりとりがあったためである。
何でも、うちのクラスでは交流会として、カラオケ・ボーリングを始めとした遊戯から、土日のどちらかを使った日帰り旅行なんかをよく企画しているらしいのだ。
とはいえ今までの性格最悪な俺は誘われる度に、
『馬糞で顔洗って来いブス』
『視界に入るな死ね』
などと断って(?)いたらしい。
いや、クソすぎる俺の断り方も相当だけど、それでも誘い続けていたクラスメイトの鋼のメンタルがびっくりだよね。
んで、今回は偶々下野動物公園に行くことになったとのことで、俺も参加させてもらうことにした。
別に一人で行っても良いんだけど護衛武官の光さんを呼び出してまで、っていうのもちょっと気が引けるし、この世界で行楽地に男一人っていうのはちょっと無防備すぎる気もするからね。
まぁ、言い方は悪いけれどクラスメイトは風よけ――護衛だ。
と言っても俺が考えたのではなく、委員長の山本さんが、
「折角だから皆で楽しみたいし、ナンパとかの風よけはクラス皆でするから一緒に行こうよ」
と提案してくれたのである。
そりゃ行くよね。
だって鳥見られるし。
うー、まずは何を見よう。
やっぱり日本人としてはニホンコウノトリとニホンキジは外せないよな。いやでも先にツルを拝んでおくべきか。
んーでも修学旅行は沖縄らしいから予習としてアカリュウキュウガモとかリュウキュウガモを観るのも悪くない……どうするべきか。
***
~第一班~
「あ、暦くん! 見てみて、パンダだ……よ? あれ?」
「暦くんならさっき競歩みたいな速度で鳥舎に突撃してったよ」
「颯爽と歩く暦くん、カッコ良かった……!」
~第二班~
「ふおー! アジサシ先輩チワッス! ああっ、インカアジサシ先輩も!」
「ええっと……暦くん……?」
「あ、暦くん、あっちにヤマヒメコンゴウインコとコミドリコンゴウインコがいたよ? 一緒にいかない?」
「行く! 超行く!」
「え、あの子、インコの名前とか超詳しくない?」
「なんか、今日のために寝ないで覚えたって言ってたわよ」
「そんな手段があるとは……しっかし」
「ええ」
「うん」
「「「ちっちゃい子みたいで可愛いわ」」」
~第三班~
「ハシビロコウさんマジ半端ないッス……」
「ええっと……変わった、鳥だね?」
「……」
「動かないね……」
「うん」
「暦くんも動かないね……」
「うん」
「「「あ」」」
(((今なら写真取り放題……!)))
~第四班~
「暦くん、今日のお昼ごはんは……」
「しっ!」
「えっと、暦くん?」
「アイス片手にどうしたの?」
「溶けちゃうよ?」
「……あぁ!? カモメがアイスを!?」
「えっ、大丈夫!?」
「今新しいのを買ってくるから! ちょっと待ってて!」
(((あ、でも何か満足そうにしてる……)))
~第五班~
「鳥舎の展示面白かったね!」
「うん。カンムリシギダチョウとか超イケメン! っていうかあの冠マジカッコイイよね!」
「そうだね! (いや、暦くんの方がずっとかっこいいよ!)」
「次は何見よっか。……あ、あそこの建物も何かやってるみ、」
「チッ」
「「「?!」」」
「……? どうしたの?」
「い、いや、何でもない」
「あ、爬虫類館……」
「小鳥とか食べるもんね、蛇……」
「猛禽類の方々なら蛇も食べるし! 全然負けてないし!」
***
「あー、楽しかったー」
こきこきと肩を鳴らしてコリをほぐす。
うーん、やっぱり展示を観るときって力が入っちゃうよね。
アルビノのハシボソガラスとかめちゃくちゃレアなのも見れたし!
と、周囲を見回すと、何故かぐったりしたクラスメイト達がいた。
「あれ? 皆、疲れちゃった?」
聞くと全員が大丈夫、と返してくれたが明らかに疲れている。やっぱりクラスメイトだからって護衛までしてもらうのは少し大変すぎたかなぁ……。
まぁ皆から言い出したことだし良いか。
それに鳥画像フォルダも充実したしな!
ニヨニヨしていると、クラスメイトの一人が俺に近づいてきた。ふわっとしたくせ毛を肩の辺りまで伸ばした、どことなく陰のある子だ。例によって例に漏れず美人ではあるが、アンニュイな雰囲気がする。
ちなみにどこが、とは言わないけれどかなり大きそうな感じである。
越後屋先輩?
俺は人類の話をしてるんだ。スイカは関係ない。
たしか細谷さん、だったかな?
ボソボソとした話し方で、俺を方を見ないで喋りだす。
俗に言う、コミュ障というものだろうか。
「暦くん……五班と見学してるときに、舌打ちしたって聞いた」
「舌打ち……ああ」
鳥類の天敵である爬虫類が目に入ってしまって思わず舌打ちをした気がする。
「そういえばしたかも。皆にじゃなくて爬虫類にだけど……まぁどっちにしろ良いことじゃないよね、ごめん」
少なくとも一緒に回ってくれていた子達は嫌な思いをしただろうから後で謝りに行くかな、と考えていると、細谷さんは首を左右に振った。
「いや、そうじゃなくて」
「?」
もしかして、細谷さんは爬虫類が好きなのかな?
嫌わないであげて欲しいとか、そんな感じ?
「えっと、その、あの」
もじもじと胸の前で指を組んだりつついたりする細谷さん。
いや、別に腕で挟み込んだオパーイが強調されて眼福とか思ってないですよ。
だって俺のナンバー1は夏希だし。
いや、別に夏希が貧乳って言いたいわけじゃなくて、えーと、まぁ、そんな感じだ。
二の腕とか肘とかを使って上手におっぱいをこねていた細谷さんは、意を決したのか顔を上げて半笑いというか、なんとも言い難い表情で俺を見つめてきた。
何となく熱を帯びた、潤んだ瞳で俺を見つめると、
「私にも、お願いできません、か……?」
「……えっと。……何を?」
「し、舌打ちとか。あと、罵詈雑言とか」
……?
「あ、あの、殴るとか蹴るとかも、良かったら。ほ、ほら、私って殴りやすそうな見た目してるし!」
殴りやすそうな見た目って何だ。
胸部のショックアブソーバーのことか?
「あ、でも私なんかに触るのやだよね……汚いし」
「いや、汚いとかは思ってないけど」
思わずフォローすると、細谷さんは泣きそうな表情になる。
「違うの……そうじゃないの……汚いって思って! むしろ蔑んで! 昔の暦くんみたいに!」
「えーと、あれ?」
つまりアレですか。
SでMな感じですか。
過去の俺のクソドSな発言を糧にしていたんですかね……。
どうしたもんか、と思っていると、異変に気づいたクラスメイト達がわらわらやってくる。
「細谷ェ……!」
「ちょっとアンタさすがに洒落になんないわよ!?」
「こっち来なさい! 暦くんに何かあったらどうするのよ?!」
「あ、手を引くとかじゃなくて! せっかくなら手錠で! それが無理ならせめて縄で!」
ドナドナされて人混みに消えていった。
……うん、見なかったことにしよう。
「暦くん。大丈夫?」
「あ、山本さん。……んー、まぁ、うん」
「コメントし辛いよね……こっちで処理しとくから忘れて良いよ」
「あっ、はい」
山本さんから、これ以上聞いてくれるな、というオーラを感じたので話題を打ち切ることにした。
まぁ、全体的にみれば楽しかったし、こういう交流会もたまには悪くないな。
***
『今日の暦くん超可愛かったね』
『ね! もう目がキラキラしてた!』
『おい三班! 今日写メ撮ってだろ! はよ! はよ!』
『そして出入り担当の私達……次回は優遇してください!』
『次回……あれば……ね……orz』
『戦犯:細谷・美樹』
『さすがにあれはない』
『あの後どうなったの?』
『忍池に沈めときました』
『( ̄人 ̄)ちーん』
『でも昔の暦くんも悪くないよね。汚物を見るみたいな冷えた目はちょっとゾクゾクする』
『えっ』
『えっ』
『えっ』
『まぁ、なんだ……その……暦くん優しいし、次回があると良いね!』
『強引にまとめた!』
***
ぐっぐっぐっ、プハァ……!
「んー……仕事の後の一杯はたまりませんねー。このために働いているって言っても過言じゃないですよー……あ、大丈夫です、ちゃんと成人してます。はい、免許です、ほら。偽造じゃないですよーう。本物ですよーう。
あ、焼き鳥盛り合わせお願いします。ええ、もちろん塩で。レバー? ああ、それも塩でお願いします。私、鳥大好きなんですよねー」
ちなみに吉武は鳥類も好きですが、爬虫類も好きです。
あとレバーを塩で行くのは酒飲みとして通らしいです。※諸説あります




