後ろ暗い取引 * メタな作戦会議
バカみたいに体調悪くてご迷惑をおかけしております。
今回は後半、メタなネタが出てきますのでご注意下さい。
私の名前は宇野・笑子。
年齢は36歳で、二児の母。
長男――そう、長『男』!――の暦も年頃になってきて、ようやく護衛武官を付けることにも納得してくれたのだけれど、今、ちょっとした問題に悩まされている。
否、ちょっとではない。
かなり大きな問題だ。
「ご主人様ァッ!!!」
それは、ハウスキーパー兼務の護衛武官である前島・光さんが暦の洗濯物の匂いを嗅ぎながらモジモジしていることだ。
今日は私の仕事が休みということもあって家に居た。
そして洗面所でいろいろしてたんだけれど、光さんが来て、つい隠れてしまったのだ。
光さんは若いながらも護衛武官の国家資格を持っている才女で、私としても油断していた。
しかし。
「ご主人様、ご主人様、ご主人様、はぁくんかくんか。すぅ~はぁ~すぅ~はぁ~クンカクンカッ! 甘い、甘い匂いに包まれて! 私はエクスタシィでございますご主人様ぁ! ああ! こんな悪い護衛武官にはお仕置きが! そうお仕置きが必要ですよねご主人様ぁ!」
どう表現すれば良いかわからない。
どうコメントして良いかもわからない。
そこには、恍惚の表情で暦の洋服に頬をうずめる光さんがいた。
「……ええと、光さん」
「くんかくんかすぅ~はぁ~……奥様っ!?」
私の姿を認めた光さんは顔色を真っ青にして、手に持った洗濯物を背後へと隠す。
……クビにすべきだろうか。
息子の貞操を考えればもうクビにするしかない。
しかし、あの優しい息子のことだ。こんな変態相手でもクビとなれば心を痛めるに決まっている。
夏希に相談しようかしら。
でもあの子も大概ブラコンだから、下手をすれば刃傷沙汰になる可能性もある。
どうしようか、と思案していると青い顔をした光さんが言い訳を始める。
「えっと、違うんです。あの、その、そう! これは汚れ具合をですね! そう、汚れ具合を確認してたんです!」
「……床にある水たまりは何?」
「えっと、ちょっとブシャアしたんです! 護衛武官にはよくあることです!」
あってたまるかッ!
思わず突っ込もうとして、しかし私は固まった。
光さんが、私の手――そこに握られていたものを凝視していたから。
「えっと……ご主人様の下着、ですか?」
不味い。
どうしよう。
「……下着、ですよね?」
「……光さん。雇用三日目で、職を失いたくないわよね?」
後ろ暗い取引が成立した。
とりあえず貞操帯を付けているのは確かなので、光さんがいきなり息子を襲うことはない。
とはいえ貞操帯も鍵さえあれば外せないものではないので、抜き打ちでチェックできるようこれからはスカートで勤務してもらうことにした。
鍵の一本は私が管理してるけど、もう一本は本社に預けてあるらしいしね。万が一のことがあってはいけないもの。
これからは朝晩確認することにしましょう。
「メイド服……これはこれで有りですねッ!」
「言っておくけど、息子に不埒なことをしたらただじゃおかないわよ」
「……下着」
ぐっ。
「違うわ。母として息子の成長具合を確認していたのよ!」
「……歯型ついてますけど」
「テイスティングよ!」
「私もソムリエールの資格を持っておりますので、お手伝いしても?」
「母の特権ですっ」
光さんは油断ならない女であることをよく認識した。
暦は私が守らないと!
あと暦の下着も守らないと!
ええもう! 何か不埒なことをされてないかきちんとチェックして、真空パックに入れたうえで金庫に保管して守らないと!
***
「それでは、作戦会議を始めたいと思う!」
バスケ部のエースでもある、クラスメイトの高橋・要さんの言葉に、私、山本・雫は首を傾げた。
そして、それを代弁するかのように一緒に居た時津・亜希子さんが疑問を口にする。
「作戦会議? 何のですか?」
もっともな質問に、高橋さんはしたり顔で頷くと、
「このままだと、出番がなさすぎてフェードアウトする」
「……ずいぶんメタな発言ね?」
「そんなことを気にしていられる状態じゃないんだ! 私、暦くんとアイス屋さんデートして以降、ろくな出番が無いんだぞ!?」
必死な形相の高橋さんに若干引いていると、隣にいた時津さんが彼女の肩をぽんぽんと叩いていた。
その目からはハイライトが消えており、妙な威圧感がある。
「私も人生15年のほとんどをモブとして過ごしてきました。今更10話や20話でぎゃあぎゃあ言わないでください」
「お、おう……済まなかった」
気圧された高橋さんが思わず謝罪する。
けれど、確かに彼女の言うとおりこのままではまずい。
「暦くんは部活動にかかりきりだし、私達との接点は昼食くらい。確かに良くない状況ではあるわね」
「だろう!? 山本さんも何かいいアイデアが無いか考えてくれないか!?」
「……でも私、夏希ちゃんと遊んだりするからなぁ」
「ガッデム! この裏切り者!」
「高橋さん、キャラがブレてますけど大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないからこんな会議を開いているんだろう!?」
「あ、いえ、そっちじゃなくて――モブの癖にブレブレなキャラ立てなんかして、ますます扱いづらいキャラになりませんか?」
あ、なんか時津さんが黒い。
「良いですか。私なんて15年。15年掛けてようやく三つ編み・敬語・メガネの委員長キャラですよ? 高橋さんにはバスケ部ショートカットっていう立派なキャラが在るじゃないですか。それを突然英語使ってみたりボーイッシュな喋り方になってみたりと、そんなだから出番が貰えないんですよ」
「まぁまぁ。二人とも落ち着いて」
「「これが落ち着いてなんかいられるか(いられません)!」」
おおう。二人ともヒートアップしてる。
このままだと私に矛先が向きかねないし、仕方ないから舵取りするか。
「じゃあ、二人はどうすれば出番が増えると思うんだ?」
「テンプレな属性を追加してキャラを立てる」
なんてメタな解決法に頼るんだ……!
「ちなみにキャラ立てってのは?」
「決まっているだろう。古今東西メインヒロインと言えばツンデレだ。後は口癖を『アンタ馬鹿ぁ?』にするか髪の毛をピンクブロンドにして暦くんを使い魔召喚すれば完璧だな。無口でクールなキャラでも良いが、出番が減っている以上無口では目立てない。はやりツンデレしかないな。要・高橋ワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールを名乗るのが得策と見た」
安易にパクろうとするなよ。
っていうか高橋ワーズってものすごい違和感だな。やっつけってレベルじゃないぞ。
「ち、ちなみに時津さんはどうすれば良いと思う?」
「イラスト描いてもらえば解決ですよ。他のキャラがノーイメージなのに対して一人だけビジュアル付けば強いです」
だから何でメタな解決法に頼るんだよ……!
メタなネタは長続きしないから止めるようにと二人を説得するのに、この後約一万四千文字掛かった。
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