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護衛武官、前島・光

ブックマーク2000件突破しました!

その上、レビューまで頂きました!

圧倒的感謝っ……!


今回のテーマは「ギャップ萌え」です。

 私の名前は前島・光。

 ヒカリではなくヒカルと読む。

 すこしボーイッシュな名前だ。

 これのせいで、学校なんかでは「男かも!?」と変な期待を持たせてしまうことも少なくなかったが、職に就いてからは、男性から「親しみやすい」「女みたいな名前じゃないのは良い」なんて言ってもらえることもある。

 良い名前だと、そう思う。

 さて、ここまで話すと多くの人がこう思うだろう。


「男性から名前について感想をもらえる仕事ってなんだよ羨ましい死ね」


 実際友達にも言われたことがあるけれど、後半が本音だったら友達やめても良いと思う。逆の立場だったら同じこと言ってるだろうけども。

 答えは単純、護衛武官だ。

 ドラマや小説、挙句のはてにはアニメやらエロゲに至るまで、もはや王道を通り越して鉄板とすら言えるシチュエーションの一つ、護衛武官である。

 目指したきっかけは小学校の頃に拾って読んだ官能小説「護衛武官ひとみ〜護衛対象に心を撃ち抜かれた私〜」である。

 きっかけがアレなのは認めるが、それでも苔の一念で思い続け、そして護衛武官になった。

 護衛武官の試験を受けることができるのは、最低でも専門の学校を卒業してからなので20歳から。

 倍率は200倍超過で合格者の平均年齢は32歳というこの世界なのだが、私は史上四人目となる最年少タイ記録の20歳で合格した。

 もちろん護衛を欲する男性から引っ張りだこに――と思ったのだが、現実はそこまで甘くない。

 男性の家族から「若い女は理性より本能が強くなりやすいからダメ」とケチを付けられたのだ。せっかく名前で気に入ってもらえても、雇ってもらえないのでは意味がない。

 もちろん国家試験を合格している以上、ちっとやそっとのことでは理性を飛ばすなんてありえない。

 何せ国家試験では自分の○○○を✕✕✕した状態で、男性の■■■を□□□したり、あるいは△△△な男性を▲▲▲しないように耐える、などという気が狂いそうになる実技項目があるのだ。多くの受験者が欲望に負けるこの実技でも、私はきちんと理性を保った。

 そんな私が護衛対象に欲情して理性を飛ばすなんて、あるはずがないのだ。

 とはいえ、「若い=欲望の制御が甘い」というレッテルはなかなか剥がすことが出来ず、私が護衛武官として雇われることはできなかった。

 生まれつきの鋭い目つきも、「獲物(だんせい)を狙う猛禽類(おんな)のようだ」と言われてマイナスポイントになっていた。

 そこで腐ってしまっては今までの努力が無駄になる、と考えた私は、船舶免許やら調理師免許、果ては狩猟免許まで取った。

 そして所属する会社で独自に規定していたハウスキーパーの免許も取得した。

 「護衛武官ひとみ」もご主人様に尽くすためにあらゆる技能を身に着けていたので、苦にはならなかった。

 そして今日、私はついに面接までこぎつけた。

 それも、事前情報によると相手は高校生。

 穢れを知らない若い果実だ。

 じゅるり。

 おっと。

 護衛武官はいかなるときも無表情で。

 護衛武官はいかなるときも理性的に。

 妄想は仕事を終えてからすれば良いのだ。

 「護衛武官ひとみ」でも、今までの女性とは違ってビジネスライクなひとみの態度に護衛対象は興味を持ってくれるのだ。

 脳汁が溢れそうになるのをこらえて、私はその家のインターホンを押した。

 ドアが開いた瞬間、脳汁がブシャアしたような錯覚を得た。

 否、ブシャアしたのは私の下半身かも知れない。……貞操帯を付けていなければ危なかった。


「えーと、男性警護サービスの方ですか?」


 アーモンド型の意思の強そうな瞳。

 少しはねていて、硬さの有りそうな髪。

 細身の骨格ながらも、女性ではありえない、筋肉で引き締められた身体。

 それが、私とご主人様との出会いだった。


***


 男性警護サービス株式会社。

 それが、俺が護衛武官を頼んだ会社の名前だ。

 やる気のない、というかひねりのない名前だったが、ネットでの前評判は悪くない。

 平均年齢が高めであることも書かれていたので、俺としては授業参観の時と同じく夏希自慢が出来るのでは、と淡い期待を抱いていたのだが、実際に蓋を開けてみれば来たのは21歳の女性だった。

 若い。

 このみ先生より若い。

 ……なんだろう、急に寒気がしたからこの話題はやめよう。

 閑話休題。

 そんなわけで俺と母さん、夏希が揃って面接をすることになったのである。

 年齢に関して少しだけ心配があった俺だが、そんな心配はいい意味で打ち砕かれることとなる。


「失礼します」


 前島・光と名乗った護衛武官はきちっと揃えられたショートカットの女性だった。見た感じは華奢ですっきりした感じなのだが、きっちりとセットした髪や黒のパンツスーツが宝塚の男性役を思い起こさせる女性である。

 見た目は例によって例に漏れず、それこそ舞台でもトップを飾れるような美人。

 無表情にも見える冷たそうな雰囲気と、さすがはプロだと思わせるような鋭い眼光が、そっちの趣味の人の背筋をゾクゾクさせるような、ある意味需要が高そうな人だった。むしろ女性にモテるタイプかも知れない。

 俺?

 俺は妹萌え一択なのでそこまでではない。

 いや、美人なんだけどね。


「それでは、面接をお願いします」

「面接って言われても初めてだから困っちゃうわね。……雑談みたいな形で良いのかしら?」


 母さんの問いかけに光さんはこくりと頷き、


「もちろんです。……ご子息様はこれまで護衛武官を雇用なされなかったので?」

「ほら、護衛武官も女性だから、気にしちゃって」

「なるほど。それはご家族の方々も気をもんでいらっしゃったことでしょう」


 落ち着き払った光さんの態度はこれまで接してきた女性とは大きく違う。

 有り体にいって、かなり安心できる。

 これまでは事あるごとに身体を狙われている感じがして何となく休まらなかったのだ。

 やはり倍率200倍超過の国家試験を抜けてくる人は違う。


***


 この子のハジメテの護衛武官……!

 ハジメテって言い響きよね……!

 やっぱり童貞なのかしら?

 それとも経験済み?

 どっちでも良いわ!

 童貞を優しく絆していくのも美味しいし、経験豊富なテクニシャンに翻弄されるのもジャスティスッ!

 どちらにせよハジメテっていうのは「護衛武官ひとみ」と同じシチュエーションだもの!

 もう汁が! 汁がッ!

 いいえダメよ光。ここで汁をブシャアすればせっかくのチャンスを不意にしてしまう。

 しかもこんな、誰がどう見てもSSS級の美青年の護衛武官になれる機会を潰すなんて、死んでも死にきれない。

 耐えろ。

 耐えるのよ光。

 逆に考えなさい。

 少しぐらい汁が出ちゃってもいいじゃない!

 堂々としていること。それこそが大切なのよ!


***


 冷徹なまでの視線で俺を見つめた光さん。

 俺も負けじと見つめ返すけれど、クラスの女子みたくトイレに立ったりもしなければ、登下校で出会う人達みたく鼻を摘んだり、赤面してもじもじしたりもしない。

 すごい。やっぱりプロフェッショナルってのは違うんだな。


「えーと、光さん、でしたっけ? おにー……じゃなかった、兄は男性としてはかなり不用心なんで心配なんすけど、実際暴女に襲われたとして、光さんはどのくらいまで対応できるんですか?」

「襲撃者が一桁なら、全員を無傷で制圧します。二桁ならば、たとえ武器を持っていたとしても護衛対象を安全な場所に逃がすまでは保証できるでしょう。三桁だと、――相手を殺してしまうかもしれませんね」


 !?

 三桁相手に勝てるの!?

 いや、今のって「三桁相手だと手加減はできないよ」的な宣言だよね!?

 どんだけ強いんだよ!


「お強いんですね。ちなみに何か得意な武術を?」

「柔道と剣道は必修なのでどちらも二段までは取得しております。あとはロシア軍隊格闘術(システマ)を――趣味で少々」


 趣味で!?

 いや、趣味は自由だけど、この人めちゃくちゃストイックだ!

 っていうか三桁の暴女――暴漢の女バージョン――相手でも守る自信があるとか、本当に強いんだな。

 いや、信頼できるわ絶対!

 っていうかシステマって良いな。

 名前がかっこいい。

 こう、なんていうか、俺の厨二心をくすぐる……!


***


 よし! アピールは完璧ッ!

 これならきっと「護衛武官ひとみ」みたいに護衛対象に、

「そこまで強いなら、護身術の指導してもらおうかな」

 とか言ってもらえるのよ!

 そして組んず解れつ! もう擦った揉んだ有りの濃厚なやり取りを!

 ああもう! 借金してまでシステマ教室に通って良かった!

 柔道教室とか剣道教室でやり過ぎて出禁になるくらい頑張って良かった!


***


「もし時間が空いたら、護身術としてシステマを教えてもらえたりも……?」


 俺がおずおずと訊ねれば、鷹のように鋭い視線で俺を見た光さんが、こくりと頷いた。


「護衛対象の安全が少しでも担保されるのであれば当然です。粉骨砕身、お教え致します」


 ビジネスライクに徹するクールな美女。

 尊敬できる人だ……!


***


 国家試験受かって良かった……!

 本当に良かった……!

 私を見つめる純真な少年の瞳。

 もうゾクゾクする。

 手取り足取りナニ取り教えてあげたい……!

 いいえダメよ光。

 「護衛武官ひとみ」でもお触りは第7話からだったもの。それまでに信頼関係を築いてちょっとしたボディタッチなんて気にならないようにしておかないと……!

 そのためには平常心。平常心よ光。

 大丈夫。

 下半身がブシャアしてることはまだ気づかれていない。

 ええ、大丈夫よ。何も問題はないわ。


***


 その後、母さんや夏希が中心となって雑談もとい面接をして、無事に光さんが護衛武官になることで落ち着いた。

 信用できそうな人だし、俺としてもこないだのデートの時みたくナンパに悩まされなくなるなら完璧だ。

 ……光さんの座ってた辺りが濡れてるんだけど、緊張してたのかな? それとも多汗症?

 ま、細かいことはどうでも良いか!

 いやー、かっこ良かったなー。

というわけで、ギャップ(のある光が暦に)萌えてる話でした。

護衛ということでSPっぽくパンツスーツだけど、ここはメイド服がジャスティスだよなぁ……


お読み頂きありがとうございます!

感想、批評、ブクマ等が原動力になっております!

作者のモチベーションになりますので気に入っていただけたら是非!

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