生徒会
今回は少しだけ長めです。
もしかしたら改稿するかも……ご迷惑をお掛けします。
「おおおおおはようっ!」
「おはよう、時津さん」
朝。
最早恒例となった行事がある。
俺への挨拶参りだ。
ホームルーム前に俺に挨拶をすれば、きちんと返事が返ってくるというのが快感らしく、クラス全員が参加して長蛇の列を作っている。
ああ、面倒臭い。
いやまぁアイドルレベルの美少女たちがこぞって俺に挨拶に来るっていうのは悪くはないんだけど、流石に毎日だと、ねぇ?
気分は48人いるアイドルグループを牛耳る大物プロデューサーだ。
この挨拶会、ホームルームで中断されて暴動が起きそうになったことがあるので俺が自主的に登校時間を早めることで対処している。ホームルーム前に挨拶できなかったクラスメイトがこのみ先生相手にガチ切れしてたからね。
そう考えると俺のせいで授業もホームルームも思う通りに行かなくてこのみ先生も不憫だよなぁ……。担任としては挨拶だってして欲しいだろうに半分放置されて生徒の大半が俺のとこに集まってる状態だしね。
「おはよう暦くんっ」
「……このみ先生、何してるんですか?」
「何って挨拶ですよー?」
いや、学生に混じって並んでんじゃねぇよ。
不憫じゃねぇわ絶対。
「そうそう。暦くんにはおしらせがあるんですよー」
このみ先生は肩掛けにしていたトートバッグからごそごそと紙を取り出す。
そこに書かれているのは。
「生徒会の体験入会?」
「そうです。保留って言ってくれたしせっかくなので一度体験してから決めてもらおうと思いましてー」
簡単な仕事内容のまとめと生徒会役員の一覧表である。
仕事内容はこないだ説明してもらった通りなのでともかくとして、メンバーは気になるものがある。
会長『三年 越後屋・薫子』
副会長『同上』
会計『同上』
会計監査『同上』
書記『同上』
顧問『三戸・このみ』
そう、顧問がこのみ先生なのだ。
この教師、職権乱用して自分が顧問やってる活動に俺を引きずり込みたいだけじゃないだろうな?
合法ロリな見た目は純粋に見えないこともないけれど、俺を前にして『自然妊娠したい』とか言い切る剛の者でもあるしなぁ。
この程度の職権乱用は当たり前のようにしそうで少し怖い。
っていうか生徒会メンバーも一人しかいないんだけど本当に活動してるんだろうか……。顧問だけじゃなくて全部が問題な気がしてきた。
「とりあえず今日の放課後、メンバーに紹介したいんですけど、暦くんの予定はどうですか?」
「ええっと、別に構いませんよ」
「じゃあ放課後一緒に行きましょう」
ニコニコしながら胸の前で手を合わせるこのみ先生に、ビキィッ、と何かが砕けるような音が聞こえた。
慌ててクラスを見回すと、
「あの年増暦さん誘ってデート気分だ絶対」
「貴重な朝の挨拶の時間まで出しゃばりやがって」
「勤務時間外なんだから職員室で大人しくしてろよ」
「いちいち言動があざといんだよ合法ロリのくせに」
殺意の波動を隠そうともせずにこのみ先生を睨む坂口さんやら平静な顔をしながらもシャーペンを握りつぶしている時津さん他、クラス中のヘイトがマッハでこのみ先生に向かっているのが分かった。
隣にいるだけで俺へのプレッシャーも半端ないレベルだ。
家帰って夏希撫でたいなぁ……。
現実逃避しつつ、長い一日になりそうだとため息を吐くのであった。
***
放課後。
俺は学校の端っこ、四階にある生徒会室にお邪魔していた。
とはいえ俺の他にいるのはこのみ先生だけで、正直あまり落ち着かない。
「えっと、会長は?」
「まだみたいですねぇ。まぁホームルームが終わったらくる予定でしたし、待ってれば来ますよ」
とりあえず座っててください、と続けられたので目の前にあった革張りのソファに腰掛ける。
流石に私立だけあってこういう調度品はいいものが揃っているな。
「けっこう広いですね」
「まぁ事務作業とかでも場所とるし、体育祭とか文化祭に必要なものの一時保管とかしますからね」
言われて見れば、部屋の片隅に文化祭用らしき立看板やら何やらがごちゃごちゃと置かれている。生徒会って言われても何してるのかよくわからないイメージしかなかったけど、結構頑張ってるんだなぁ。
その脇に豪華なカウチが置かれていたり箱買いしたらしい駄菓子系チョコがドンと置かれていたりと雑然とした感じは拭えないが。
「それでこのみ先生」
「やだなぁ暦くん。2人きりのときは好きに呼んで良いんですよ?」
「ええと、三戸先生」
「あれー、距離感ー?」
「……話、進めて良いですかね?」
「……はい」
若干気落ちした様子だが知らん。
「生徒会のメンバーって、会長一人でしたけど、どんな人なんですかね?」
「おお、興味を持ってくれたんですね!?」
「まぁ、話を聞くだけなら」
予防線を張ってはおくけれど、このみ先生はうんうんと訳知り顔で頷くと、まずは、と前置きをした。
「とても有能な方ですよ。会長のみならず全役職を一人でまっとうするだけの能力がありますー」
「すごいですね……ってそうだ。他の立候補者とかいなかったんですか? 生徒会が一人だけとか、正直普通じゃないですよね?」
「まぁ、なんて言うんですかね。灰汁がつ……少し個性的で、空気読めな……自分の意見がしっかりある子なんですけど、ちょーっとほかの人と歩調合わせるの苦手みたいで、合わなかったんですよ」
今、明らかに灰汁が強くて空気読めないって言おうとしただろ。
「まぁでも、すごく育ちが良くて上品な方ではありますよー」
このみ先生の謎のフォローによって俺の不安は大きくなっていく。
落として上げるとか何の作戦だよ。
そして、カラリとドアが開くのを聞いた。
ドアから現れたのはモデルみたいに姿勢の良い、ビシっとした感じの女性。
学校指定のブレザーを着用しているはずなのに何故かモデルみたいに見える、ちょっとオーラのある人だ。
特徴的なのは髪。
明らかに自然な、染髪とは違って自然な金髪を縦ロールにして左右から垂らしている。
ロココの女王とか、チョココロネとか、縦ドリルとかそんな感じである。
確かに育ちが良さそうな感じがする。
というかオホホとか笑いそうな、テンプレも真っ青なお嬢様みたいに見える。
うーん、現実にこんな人がいるんだな。
「このみ先生、こちらの殿方はどなたですの?」
うわ、ですのって言ったよ。キャラ濃いな。
「あ、薫子さん。こちら、私が生徒会に勧誘した宇野・暦くんですー」
「初めまして、越後屋・薫子と申します。貴方のような素敵な殿方に入っていただけるなら、私と合わさって生徒会もますます華やかになると思いますわ。生徒会を代表して歓迎いたします」
「えーと、暦くーん? どうしたんですかー?」
……確かに灰汁が強い。
どんだけ自分に自信があるんだろう……いや、別に迷惑掛けられてないからいいんだけどさ。
「あ、いえいえ、すみません。どうも、宇野です。まだ入るかどうかはわからないですけど、よろしくお願いします」
無難に自己紹介を終えるが、俺の視線は薫子先輩が来てから一点に注がれている。自然と目がいってしまうそこは、女性において貧富の差がはっきりと出る場所である。
胸。
そこにはまさに魔乳としか呼べないものがそこには存在した。
マッシブ☆はるかもびっくりなレベルの母性の塊である。具体的に言えばスイカ2つ分である。
たしかにこのみ先生の言うとおり育ちが良い。もはや栄養満点でバルンバルンに育っている感じだ。
「ええと、宇野くん? 流石にそこまで見られると恥ずかしいんですけれど……」
「あ、ごめんなさい!」
薫子先輩の言葉に慌てて頭を下げるが、当の本人は恥ずかしげな笑みを浮かべたまま俺に近づいてくる。
「いえ、いくら男性でも、そういう気分になることはありますものね。良いんですよ? 生徒を代表して私がこの胸で貴方を満たして差し上げます!」
セクハラ! セクハラですよコレ!
何堂々と俺が見たがってる体にして既成事実作ろうとしてんだよ!肉食系女子しかいないとは思ってたけどこれは酷い!
いや確かにそのサイズのおっぱい様は見てみたいと思いますけど!
夏希第一な俺としては貧乳も希少価値なのでそこまで惹かれてるわけじゃないんだよ。どっちかっていうか見たいっていう欲望じゃなくて「どーなってんのそれ」的な疑問だよ。
本当に中にスイカ入ってるんじゃないだろうな?
「薫子さん、ダメですよー! いくら冗談でも暦くんが出るとこ出れば有罪ですからねー?」
「いいえ、このみ先生。このみ先生のような持たざる者には分からないと思いますが男性は母性の塊に惹かれると聞いたことがあります」
言った瞬間、ビシッ、と何かが割れるような音がした。
このみ先生の背後に般若のオーラが見える。
ナチュラルにこのみ先生のこと煽ったけど、わざとじゃないよな?
「ほほう、持たざる者ってどういうことですかねー?」
どす黒く渦巻く般若のオーラに俺が引いていると、薫子先輩は可愛らしく小首をかしげた後に、
「胸の話ですよ?」
火に油を注いだ。
いや、油っていうかガソリンとかニトロレベルの何かを注いだ。
空気読めよっ!
本当にわざとじゃないよな!?
「無駄な脂肪塊を胸にぶら下げて何言ってるんですかー? 摘出しちゃいますよー?」
「あら、このみ先生は摘出したんですの? あまりにもまっ平らなのでおかしいと思ったんですのよ」
ビシリ、と空気に亀裂が入って般若が顕現した。
いや、この世界って召喚とかそういうファンタジーな感じのは無かった……よね?
ただ男女比とか価値観がおかしいだけの世界だったよね?
冷や汗が流れだした俺に、このみ先生が般若ごとくるりと顔を向ける。
「暦くん。申し訳ないんですけど、これから薫子さんとOHANASHIしないといけないことがあるので今日は見学中止でお願いしますー。薫子さんは私が処理しときますので先に帰って良いですよー」
しょ、処理って言った。処理って言ったぞこの教師。
まぁでもこんなギスギスした空間にはいたくないのでおとなしくこのみ先生の言葉に従うことにした。
何が怖いって、このみ先生があれだけキレてるオーラを出しているのに、薫子先輩がガチで気づいて無いことだよ!
なんでナチュラルにあんな煽れるんだよ!?
俺が退出するときも、笑顔で「ごきげんよう。また来てくださいまし」とか言ってたし。もう行かないっす……。
……あそこまで空気読めないって、ある意味凄いな。
一人でぶらぶら下校しながら、生徒会には入るまいと固く誓ったのであった。
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拙作ではありますが、これからも頑張りますのでよろしくお願いします!