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デートと妊娠、手が当たっちゃう事故

感想でご意見を頂いていた天然びっち発言ですが、ここで落ち着く予定です。ご意見ありがとうございました!

 明けて翌日。

 俺は夏希を待っていた。

 場所は学校と家の中間くらいのところにあるショッピングモール。かなり大型のそこは元の世界ではデートスポットとして定番の場所で、元の世界でぼっちだった俺には多少敷居が高かった。

 しかし夏希がわざわざ指定してきたのだから否はない。


「しっかし、わざわざ別々に家を出て待ち合わせとか、本当に気合入ってるなぁ」


 一人ごちると、休憩用に用意されていた室内用のベンチに腰掛けて天井を仰ぐ。

 吹き抜け4階建てのモールに圧倒されそうになるが、この後夏希とデートだと思えばそこまで嫌な気持ちにならないから不思議なものである。

 ちなみにこうやって夏希を待っているのは、朝、夏希から「デートだし待ち合わせしたいから先に出てて!」と指示があったからである。

 俺とのデートに気合を入れてくれているらしく、昨日は午後を丸々使って洋服選びをしていた気配があった。

 いや、部屋に入らせてくれなかったから多分、なんだけどさ。

 そんなことを考えていると、不意に周囲が騒がしくなった。


「男? 嘘でしょ?」

「いや、もしかしたら本当に男かもしれない……!」

「やばい、しかもイケメンだ」

「こんなところに何で……護衛とかいないよね?」

「いないっぽい。もしかして……OKなのかな?」


 ちょっと待て。

 何がOKなんだ。

 俺が思わずそちらを見れば、ギャルっぽいメイクをしたこんがり肌の二人組と視線が合ってしまった。

 どうやらこの人達が騒いでいたらしい。


「ちょっと声掛けてみよっか」

「待って。悲鳴あげられたら逮捕だよ?」

「……それでも、ワンチャンあるなら……!」


 いや、ねぇよ。

 っていうかナンパで人生棒に振ろうとすんなよ。

 俺の心の突っ込みも虚しく、目を血走らせて鼻息を荒くしたこんがり系女子二人組が俺に近づいてくる。


「えっと、その、」

「あの、もし良かったら、その、ご飯とか、どうですか……?」

「あ、大丈夫! 健全な店しか行かないし、嫌なら断ってくれていいから!」

「あ、そもそも予定大丈夫ですか!? 突然話しかけちゃってごめんなさい!」


 本当に人生棒に振るかもしれないのに声かけてきたよ。

 テンパりながら必死で誘ってくる感じと、チャラそうな見た目とのギャップが激しい。

 この世界の女性、前から男性関係だとムチャクチャすると思ってたけど、お縄になる可能性を踏まえて声掛けてくるとか正直、まだ舐めてたのかも知れない。

 とはいえ男性が立場的には優位なのでうろたえることはない。


「ごめんなさい。待ち合わせしてるんで」


 きちんと話せば分かってくれ――


「うわ! 生で男の人の声聞いちゃった! ろ、録音! 録音しなきゃ!」

「今私に向かって喋りかけてくれたんですよね!」


 いや、分かってくれそうにないわ。

 俺の声を聞いただけでフィーバーしてる二人組は、もはや何を言ってもご褒美状態だろう。

 仕方ないので最後の手段に出ることにする。


「……警察呼びますよ?」


 男は法律でガッチガチに守られてるからこれで安心だ。

 そんなことを考えながら二人に冷たい視線を送ると、案の定二人とも「失礼しましたッ!」と頭を下げて脱兎のごとく逃げ出した。

 うーん、強引なナンパとかじゃなかったしちょっと悪い気もするけど、意思疎通できなそうだったし仕方ないよね。

 何より、ナンパしてくる女性と話してるところを見られたら夏希になんて言われるか分からないし。

 そう思ったのだが。


「……おにーちゃん、今の人たちは?」


 その一部始終を見ていたのか、不機嫌な眼差しを俺に向ける夏希がいた。

 OH……。

 思わずアメリカナイズされた吐息が出てしまうくらい最悪なタイミングだ。

 ……これは夏希のご機嫌取りが大変かもしれない。

 そんなことを考えて、モールの天井を仰いだ日曜だった。


***


「なっちゃん、おはよう」


 月曜日、私はおにーちゃんを振り切ってなんとか一人で登校することに成功した。

 なんで振り切らないといけないかって?

 決まってるでしょ。

 理性がもたないからだよ!

 日曜日のデートでも思わせぶりなことばっかり言うから、思わずおにーちゃん襲っちゃいそうになったし! 夜もおかーさんが泊まり込みで仕事だったからおにーちゃんと二人きりでムラムラが収まらなかったし!


「なっちゃん」


 ああもう!

 何なのおにーちゃんは!

 私のことをどうしたいわけ!?


「――なっちゃん?」

「ふえ、あ、え? ああ、しーちゃん、おはよう」


 気がつけば目の前に私の親友、しーちゃんこと山本・詩織が立っていた。しーちゃんはお姉さんがおにーちゃんの同級生なんだよね。兄姉が同学年ってのもあって喋りやすいし、何でも相談できる親友なのだ。お姉さん経由でおにーちゃんの学校での様子とかも聞けるしね。


「なっちゃん一人ですごい百面相してたけど、やっぱりお兄さんのこと?」

「そう! そうなの! 聞いて!」


 私が声を荒らげると同時、しーちゃんに肩を押さえつけられた。


「なっちゃん落ち着いて。お兄さんの天然びっち情報とか激萌えだし実用性満天だから一刻も早く聞きたいけど、ここじゃ衆目を集めすぎるよ」

「あ――」

「とりあえず空き教室いこっか」

「うん!」


 朝のホームルームが始まるまではまだ少し時間があるので、今は使われていない教室に行くこととなった。

 ガラリと戸を開けると中に誰もいないことを確認して、私としーちゃんは雪崩込むように突入した。

 扉を閉めると同時、私は我慢できずにしーちゃんに抱きついた。


「聞いてしーちゃん! 日曜日、おにーちゃんとデートしちゃった!」

「デートってことは、2人きりでお出かけ!?」

「そうなの! しかも、おにーちゃんめっちゃ優しくて、手まで繋いでくれた!」

「えええ!? 外なのに!?」

「そう、外なのに!」


 今までの私ならここでびっち扱いしちゃうところだけど、もうそんなことはしない!

 もう私はおにーちゃんのことを天然びっち扱いすることはやめにしたのだ。怒られたし本当に嫌がってるからね。

 いや、でもおにーちゃんのお説教とかちょっとご褒美なところもあるんだよね……目を見ながら真剣な顔で話してくれるし……まぁおにーちゃんに嫌われたくないからびっち扱いはしないけど!

 心のなかで決意を新たにしていると、しーちゃんが不思議そうな顔で私を見つめていたので、しーちゃんに右手を見せた。


「これがおにーちゃんと繋いだ手です」

「おおお!」


 ノリノリになるしーちゃん。

 触りたそうにしているのだけれど、さすがにおにーちゃんの手汗が付いているかもしれない激レアな状態を崩すわけにはいかないので触らせはしない。これのおかげですごく捗ったし、これがあったから昨日はおにーちゃんを襲わずに済んだと言っても過言ではないのだ。


「ね、ね。やっぱり男の人の手って違う!? 大きさとか触り心地とかどうだった?」

「……私、右手が妊娠したかもしれない」

「触っただけで!?」

「触っただけで!もう指同士を絡めた濃厚なディープ手繋ぎでした!」

「良いなぁ……。ね! その話、ウチのお姉にも伝えたいんだけど、良い?」

「良いけど、天然びっち扱いはもうしないようにするから、しーちゃんも止めてね。おにーちゃんに怒られちゃった」

「わかったわかった。――もしもし、お姉? ああうん、そうそう。大事件なんだよ、実はね――」


 勢い込んで話し始めたしーちゃんだけど、気づけば予鈴まで残り1分となっていた。


「しーちゃん、急いで! ホームルーム始まっちゃう!」

「あ、ごめんお姉! 時間ないから! また後でちゃんと説明するから!」


 二人で急いでクラスに戻った。昼休みにしーちゃんが、


「お姉から鬼電来てる……怖くて出られない」


 とか言ってたけど何かあったのかなぁ。


***


「わ、好きなものばっかり! 坂口さん、ありがと」

「お、おう。気にすんな」


 昼休み。もはや恒例とも言える車座になっての昼食会。

 そこで、俺は坂口さんから弁当の差し入れをもらっていた。

 俵型のチーハンが2つにエビフライはおっきいのが3尾。ドライパセリで彩られたエビフライの横にはタルタルソースと中濃ソースまで添えてあって完璧な配置だ。

 ……俺が食べきれないことを覗けば。


「夏希がざざっと言っただけの好み、ちゃんと覚えててくれたんだね」

「当たり前だろ」


 坂口さんとそんなことを言いながらあみだくじが終わるのを待っていると、山本さんスマホを片手に近づいてきた。


「……ダメね。繋がらないわ」


 俺の前まで来てスマホをしまった山本さんは、真剣な表情をしていた。


「えーと、どうしたの?」


 剣呑なものを感じ取った俺は思わず引き気味になるが、その後の山本さんの言葉でそれが間違いでなかったことを知る。


「暦くん! 妹さんの右手を妊娠させたって本当!?」

「はああああああああああああああああああああ!?」

「「「「「「「「「「「はぁ!?!?」」」」」」」」」」」


 クラス中から驚嘆の声があがるが、山本さんはそんなこと気にせずに激しい身振りとともに言葉を続けた。


「ウチの妹が言ってたの! 妹さんの右手が妊娠したかも知れないって!」

「自然妊娠ですかー!?」


 唐突に現れたこのみ先生にクラス中からブーイングが起こる。


「いや、常識的に考えて手を握っても妊娠はしないでしょ……」

「わ、ワンチャン!」

「いや、ノーチャンスだよ」

「……そうだよね、分かってる」


 そんな気のない相槌とともに俺の手をギラギラした視線で見つめるクラスの猛獣たちを尻目に、俺はRINEで夏希にメッセージを送った。


『今夜、帰ったらちょっと話したいことがある』


 何をどう話したら右手が妊娠したことになるのか知らないけれど、夏希にめしべとおしべの関係をきちんと教える必要があると強く感じた。

 ちなみに昼休みから放課後までの二時間半、『偶然俺の手と誰かの手が当たっちゃう事故』が大量発生したのは言うまでもない。

 トップはこのみ先生で57回。仕事しろよ教師。

このみ先生ェ……

そして妊娠するかも知れないディープ手繋ぎ。


いつもお読み頂きありがとうございます!

皆様の感想、批評、ブクマ等が励みになっております!

拙作ではありますが、これからも頑張りますのでよろしくお願いします!

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