第七魔界 不安を抱いて光の中へと…… 前編
「これからの事を色々考えなきゃいけないけど、とりあえず『魔力自体』を失ったユウナちゃんが浄化魔法の影響を受けないようにする事を考えなきゃね!」
「そうだね。いつまでも病院に居続ける事も出来ないもんね。」
「マホと私でも浄化魔法を遮断する魔法って使えるのかな?」
ユウナの魔力を取り戻す為に三人は話し合っていた。これからどうすればユウナの魔力は元に戻るのか?っというより『魔力自体』ユウナの中に在って使えないように封印されてしまっているのか?それとも別の所に何らかの形で在るのか?考えれば考えるほど三人はどうすれば良いのか分からなくなった。
「うぅ~ん・・・全然良い方法が思い浮かばない・・・チサは何か浮かんだ?」
「私も全然・・・こんな事滅多に起きるもんじゃないしね。」
「二人共色々考えてくれてありがとうね。でも今日はこれくらいにしてゆっくり休んでからまた考えようよ。」
「確かにそうだね。私は良いとしてもユウナとマホは昨日心も体もボロボロになっているんだから、もう少し落ち着いてからまた考えた方が良さそうだね」
「じゃあ今日はこれくらいにして帰ろうか!ユウナちゃんはまだ今日一日は病院に居られるんだよね?」
「うん。本当は今すぐにでも帰りたいんだけど、浄化魔法で外に出られないんだよね。だから看護婦さんが明日知り合いの『聖魔』の人を病院に呼んでくれるって言ってるんだよね。」
ここジンマカイでは高度な魔法が使える者ほど高い階級を与えられる。階級は下から、準魔、権魔、燈魔、鳳魔、聖魔、銘魔、綜魔となっている。ちなみに召還魔法が使えるほどの魔力の持ち主は聖魔以上となっている。
「ユウナ!その『聖魔』って信用出来る人なの?もし国守警備とかに見つかったら国外追放されるかもしれないのよ!」
「『聖魔』って階級を与えられているくらいだからお城に出入りはしているだろうね。何だか心配だなぁ・・・本当に大丈夫なのその『聖魔』?」
「・・・多分大丈夫だと思う。一応看護婦さんの知り合いみたいだし・・・」
マホとチサは顔を向かい合わせ心配そうな表情をしていたが、今は最善策も思い付かない為その『聖魔』を頼りにするしかなかった。
「それじゃもし何かあったら連絡するのよユウナ!」
「チサ!何かあってからじゃ連絡出来ないに決まってるじゃん!」
「じゃあ何かありそうだったら連絡するのよ。すぐに来るからね!」
「うん!ありがとう!二人も気を付けて帰ってね!」
「それじゃまた明日ね!」
病室を出て行く二人だったが、チサが何かを思い出したかのように立ち止まった。
「あっ!!」
「どうしたの?チサ?」
チサはマホの腕を掴んでユウナのところに戻ってきた。そして鞄の中に手を入れて何かを探しているようだった。
「昨日とか今日とか色々あり過ぎて忘れてしまうところだったよぉ!本当は昨日ユウナに渡そうと思っていたんだけど・・・」
「えっなに?」
鞄なら取り出したのは手の平に乗るくらいの小さな箱にピンクのリボンがしてあった。
「開けても・・・いい?」
「うん!」
箱を開けると真っ白で菱形の魔法石のペンダントが入っていた。
「ユウナ誕生日おめでとう!!」
「え・・・あっ!そういえば昨日は私の誕生日だった!!覚えてくれてたの?」
「そりゃ~まぁ~ね!昨日はたくさん歩かせちゃったのはコレを探してたんだ。白色の魔法石って何処にも無くって困っちゃったよぉ・・・でも白はユウナの魔法色だから譲れなかったんだ!」
「この為だったんだ・・・それなのに途中で居なくなってごめんね!」
「もう本当だよ!カフェに戻ってもユウナ居なくなっちゃってるんだもん!誰かさんの後を追いかけてるし・・・」
チサは横目でマホを見た。それまで静かに見ていたマホだったが
「私だって街にユウナちゃんとチサが来てるなんて思わなかったし、まさかユウナちゃんが私の後を追いかけてるなんて気付かなかったもん!」
「もう二人共!すぐ言い争わないのぉ!仲良いのか悪いのか分からないよぉ!!」
言葉だけだと言い争いに聞こえるが三人は笑顔だった。チサがまた誕生日プレゼントの話に戻した。
「ユウナ!その菱形の魔法石を取り出してみて!」
「えっコレを?うん、分かった」
そう言うとユウナは白い菱形の魔法石を取り出した。すると更に中から二つの小さな魔法石が入っていた。ユウナは不思議そうにチサに聞いた。
「コレは・・・?」
「それはね。ユウナへの物なんだけど、ちょっと違うんだよね。実はそれも探すのに苦労しちゃったんだよね。その菱形のペンダントの魔法石と中に入ってた小さな魔法石は元々一つの魔法石なんだよ。」
「そうなんだ!」
「魔法石ってそれぞれに特別な魔力が込められていて持っている人はその特別な魔法で守られるんだよ!そして白い魔法石の魔法言葉は『途切れる事のない絆』・・・だからユウナがその菱形の魔法石を持って、あとの小さい二つの魔法石をユウナ自身が大切だと思う人に渡すとその人との絆が永遠に途切れる事はないの。だからそういう意味を込めて無理矢理にでもマホに渡そうと思ってたんだけど、今のマホなら普通に受け取ってくれるよね?」
「私が貰ってもいいの?そんな大変な思いまでして見つけたものなのに・・・」
「ずっとユウナはマホとの関係を取り戻したいと思っていたからマホが持ってくれると嬉しいかな。でもまぁユウナにプレゼントした物だからユウナが誰に渡すかは自由なんだけどね!」
少し意地悪そうに微笑みながらチサはユウナの顔を見た。ユウナはその思いを受け止めるかのように答えた。
「チサ・・・本当に素敵なプレゼントをありがとう!一つの魔法石はマホに、そしてもう一つの魔法石はチサに受け取って欲しい。私から『途切れる事のない絆』を二人に受け取って欲しい!」
「マホと私で良いんだね!ありがとうユウナ!!・・・でも『途切れる事のない絆』っていうくらいの魔力が込められてるんだから私にじゃなくて誰か好きな人にあげても良いんだよ!!」
「そ、そんな人居ません!!!」
「あ、真っ赤になった!!」
マホはユウナの変貌にびっくりした。
「もう~そんな事で照れるなんてユウナ可愛い~~~~!!」
顔を真っ赤にするユウナを見て二人は楽しそうに笑っていた。マホは調子に乗って茶化しているとユウナから枕が飛んできて見事に顔面にヒットした。
「・・・うぅ」
「もうっ!そんな事言うならチサにはあげない!捨ててやる!!」
「あっ!ごめんなさいごめんなさい!どうか私に下さい。お願いします!!」
「ユウナちゃ~ん。チサも反省してるみたいだから許してあげなよぉ。」
「へへへっ・・・怒ってないよぉ~~。チサが意地悪したからお仕置きだよ!」
「もう~ユウナ本気で怒ってるかと思ったよぉ~」
「へへっ。それじゃ二人共手を出して。」
マホとチサは言われたように手を出した。まずはマホの手の中に魔法石を置いた。光を反射しているのかキラキラと輝いているように見えた。次にチサの手の中にも魔法石を置いた。次の瞬間三つの魔法石が光を放ち出した。優しい白い光に三人は驚いたが何だか心地良さそうにも見えた。ユウナが光を見ながら言った。
「こ、これって三つの魔法石が共鳴してるって事なのかな?」
「きっと私とチサとユウナの絆が繋がったって事じゃないかな!」
「きっとそうだね。」
しばらくすると光はゆっくりと消えていった。それを見てマホとチサは魔法石を鞄に入れた。ユウナも首に掛けて服の中に魔法石を入れたのだった。
「それじゃ無事にユウナに渡せたし、今度こそ帰るね。」
「うん、ありがとう」
「また明日の朝来るからね!」
マホとチサはそう言いながら病室から出て行ったのだった。ユウナは魔法石を服から取り出し見つめながら
(でもこの魔法石何か不思議な感じがするんだよね。懐かしい感じ・・・っていうのかな?)
一方、病院から帰っているマホとチサは歩きながら話をしていた。マホが不安そうな表情で
「ところで明日来るっていう『聖魔』、本当に大丈夫かなぁ?」
「確かに心配だけど、私達も一緒に話を聞く為に明日も朝からユウナちゃんのところに行くんでしょ?」
「うん、そうだけど・・・いきなり『聖魔』がユウナを連れて行ったらどうしよう!さすがに止められそうにない・・・」
「一応、お城から称号を得てる人だから無茶苦茶な事はしないとは思うんだけどね。」
「もし、いきなり変な生き物とか召還されたらどうする?」
「例えば?」
「ヘビとか・・・」
「召還魔法よわっ!!」
「ゴキブリとか!」
「明らかにそんなの出してきたらただの嫌がらせだね・・・」
「ゴリラとか!」
「何でいきなり野生動物を出すんだよ!!」
「・・・。」
「・・・まぁ、とりあえず明日会ってみてからかな・・・」
「うん、そうだね・・・」
あまり納得した感じではなかったチサだったが、その場になってみないとどうする事も出来ない事くらい分かっていただろう。二人は少しの間黙り込んでいたが、マホが何かを思い出したようだった。
「そういえばチサがユウナちゃんにあげた魔法石なんだけど、凄い高価そうに見えたんだけど大丈夫なの?」
「まぁあれだけ純度の高い魔法石、普通だったら手に入らないんだけど色々あってね・・・」
そう言うとチサは、ユウナをカフェに残して出て行った後の出来事を話し始めた。
「魔法石を扱っているお店は色々知っていたんだけど、ユウナの魔法色自体が特別な色で全然見つからなかったんだよね。でもそれなら魔法石を売っているところじゃなくて、作ってるところに行けば何とかなると思って魔石場に行ったの。だけどやっぱり純粋な白色は無くって、諦めてユウナのところに戻ろうとしたらお爺さんが道に迷っていて事情を聞いたら塔までの行く道を聞かれたの。それで何度も教えたんだけど、どうしても逆の方に行こうとするんだよね!」
「・・・どうしようもない方向音痴だな。」
「だから仕方ないからユウナ待たせちゃってたけど、塔まで連れて行ってあげたんだよね。それでお爺さんが持っている魔法石の中で欲しい物をあげるって言われて・・・実はお爺さん魔法石の商人らしくって旅をしながら魔法石を売っているんだって!っで、その中になんと真っ白な純粋な魔法石があったの。さすがに高価な物だしタダで貰う訳にはいかないと思って、持っていたお金で売ってもらったの!」
「いくら持ってたの?」
「三百円!!」
「・・・。」
「お爺さんはお金は大丈夫って言ってくれたんだけど、渡して帰ってきちゃった。」
(それ本当に大丈夫かな・・・この魔法石持ってたら呪われるって事無いよね・・・?)
「良いお爺さんに会えて良かった!!おかげでユウナに念願の物を渡す事が出来たよ!!・・・でも何かあのお爺さん・・・どこかで・・・?」
「っで、その後カフェに戻ったけどユウナちゃんが居なくて魔力を辿って行ったら私達のところに来ちゃった感じかな?」
「うん!そうそう!」
「とりあえずちゃんとお金は払ったみたいだし、そのお爺さんも悪い人じゃなさそうみたいだから良いって事にしとこうかな。」
ちょっと不思議な入手経路だったがチサは念願の物を手に入れ、ユウナに渡す事が出来てご満悦のようだ。そんな感じで白い魔法石を手に入れた話をしているうちにマホとチサは分かれ道にさしかかった。
「じゃあ私の家はこっちだからまた明日ねマホ!」
「うん、また明日ね、あっそうそう!明日は寝坊して遅れたりしないように気を付けるんだよ!」
「分かってるよぉ~。何かマホの今の口調、お母さんみたい!!」
「こんな大きな娘を産んだ覚えはない!!」
何か二人の会話が漫才テイストになってきているのは気のせいだろうか。そんな会話をしながら二人は分かれて帰っていった。一方、ユウナは浄化魔法の影響なのか怪我と疲れの影響なのか病室で静かに眠っていた。そんな中怪しい足音が病院内に響く。その足音はゆっくりとしているが確実にユウナが眠っている病室に近付いてきていたのであった。次第にその足音の大きさは増し、ユウナも異様な感じに目を醒ました。
コツ・・・コツ・・・