第六魔界 夢にまで見た広がる先には…… 後編
全てを話す前にこんな話から入ったのに相変わらず優しく信じてくれてるチサの気持ちがマホには嬉しかった。そしてマホは全てをチサに話した。力を失い魔力の補充の為にユウナにとり憑いていた皇魔の事、その皇魔からユウナを救う為に自分の体に取り込んで魔力を与え続けていた事、皇魔を自分の中に取り込んでいた為ユウナや周りの人への影響が無いように孤独に過ごしていた事、皇魔が完全体になれるだけの魔力を捧げれば大人しく魔界に帰るという約束と裏切りの事、ユウナが並外れた魔力を兼ね備えていた為に皇魔に狙われた事、そして完全に『魔力自体』を失い浄化魔力にさえも耐えられない体になってしまった事・・・
「ユウナを守ろうとした事でユウナを余計に不幸にしてしまっているの。ユウナは何も悪くないのに皇魔に狙われたり、私達を守ろうと『許容範囲以上の魔力』を使ってバルテさんを召還してしまったせいで『魔力自体』を失って今のユウナは普通の人間になってしまった。全て私が引き金になってるの。皇魔を取り込んだ時に私が命を絶ってしまっていればこんな事にはならずに・・・」
パシッ!!
「バカ・・・何言ってるの!!」
チサはマホの頬を思いっきり叩いた。突然の事でマホはびっくりしていたが自分の言っていた事を思い返し、無言で目を逸らした。
「何で・・・そんなに自分を責めるの!死んでしまえば良かったなんて思っちゃダメだよ!マホ・・・ユウナの代わりになってたくさん辛い思いしたじゃん。そんな思いまでしてユウナを助けたのにまだ自分が悪いだなんて思っちゃダメだよ!ユウナが『許容範囲以上の魔力』を使って『魔力自体』を失ったのはマホだけじゃなく私も守ろうとしてなったんだから私にも責任がある!だからもう・・・自分を責めないであげて・・・」
チサはボロボロと涙をこぼしていた。その姿を見て自分の為にこんなにも心配して泣いてくれている事が嬉しくてマホの目にも涙が浮かんでいた。そしてチサは優しく話した。
「バルテさんが言っていた事覚えてる?」
「え~っと・・・『これからがユウナにとって辛く厳しい日々になるじゃろう。』?」
「それがきっと今の状況の事を言っているんだろうね。その後かな。」
「確か・・・『じゃがお前達のようにユウナの事を思っておる者が傍で力を貸してやれば全て乗り越えて行けるじゃろう。ユウナの事頼んだぞ。』」
マホはバルテの言葉を思い出して何かに気付いた感じだった。それを諭したようにチサが言った。
「ユウナにとって今は凄く辛く厳しい状況だけど私達がユウナの力になって助けてあげればきっと今の状況を切り抜ける方法が見つかると思うの。ユウナが『魔力自体』を失う事をバルテさんが分かっていたように乗り越える方法がある事もバルテさんは分かっていたから私達に力を貸すように言ったんだと思うの。だからユウナを助ける為にも今は絶望してないで希望を信じてユウナの傍でマホの力を貸してあげて欲しいの。」
「本当に・・・私・・・ユウナの傍に居ても・・・大丈夫なの・・・?」
「当たり前でしょ!私一人でユウナを救う事なんて出来ないよ。でもマホが一緒に居てくれれば必ず助けられるはずだもん!」
まだユウナを助けてあげられると分かったマホは絶望しかなかった気持ちに一筋の希望を見出せた。一瞬は償いの為に傍に居ようと思っていた絶望の気持ちがユウナにとって助かる為の力になってあげられるという希望に変わったのだった。
「チサありがとう・・・私、全力でユウナの力になるよ!でも具体的にどうしたらユウナを助けてあげられるか分からないけど、チサも一緒に考えて貰えると凄く助かるんだけどいいかな?」
「もちろん私は最初からそのつもりで話しているよ。マホもいつまでもそんな弱気なままじゃダメだよ!皇魔を取り込んでいた時のような強いマホは何処に行っちゃったのかな?」
「あの時は・・・周りを近付けない様にする為に必死で・・・酷い事をしたと思って・・・。」
「そうじゃなくてあの時のマホは気持ちをしっかり持てて迷いが無く自信に溢れていたよ。またあの気持ちを取り戻してユウナを助ける事に自信を持って欲しいの。」
「私に自信なんてあったのかなぁ・・・。」
「きっとあったはずだよ。ユウナを助けたいって思う一筋の気持ちに迷いなんて無かったはずだよ。きっとそれが自信となってた。もしも助けられなかったら?なんて気持ち無かったよね?」
「確かに皇魔に魔力のエネルギーを与えて力が満ちたらちゃんと魔界に帰して全てが無事に終わるって信じてた。でも全てが考え通りにならないって事も分かっちゃったから、どうしても不安が頭をよぎっちゃうんだよね。」
「それは一人で考えて一人で解決しようとしたからだよ!悪魔相手にたった一人で解決する方が難しいと思うよ!」
的を得た意見をチサにすんなり言われてしまってマホは言葉を無くしてしまった。痛いところを付かれた感じで落ち込んだ。だがマホは言葉を続けた。
「でも今はマホは一人じゃない。私も協力するし、ユウナ自身も何とかしようとするはずだから。みんなで力を合わせれば必ず思いは成し遂げられるはずだから!」
どんな状況になってもチサの前向きな笑顔がマホには眩しく見えた。
「チサってどうしてこんな状況になっても変わらずにそんな笑顔で居られるの?」
「だって私はいつだって信じてるから!どんな状況になっても、どんなピンチになっても必ず負けないって信じてるもん!ユウナはたまに抜けてるところもあるけど人一倍強い子だもん。それはマホも一緒だよ。この数年間ボロボロになりながらも助けたいって気持ちだけで耐えてきたんだもん。私だったらそんな苦痛耐えられないと思う。だからマホも強い子だよ。私はそんな強いユウナやマホを信じてるから笑って居られるんだよ。」
信じるという事がこれほど人を強くするんだとマホは感じた。どんなに絶望的な状況でもチサはきっと絶望なんてしないに違いない。必ず何とかなる、必ず切り抜けられると信じているからだ。確かに皇魔の時もあんなに絶望的な状況でユウナでさえも諦めていたのにチサ一人だけ助かると信じる事を諦めていなかった。その結果チサの思いはマホの力になりユウナを魔界に行かせる事を阻止し、チサの思いはユウナの力になりバルテを召還し何とかみんな助かる事が出来た。信じるという力が時には何ものにも勝るという事の証明になったに違いない。
「そっか。チサの笑顔って何だか見ていると力が湧いてくるんだよね。そんな笑顔が出来るチサも十分強い子だよ!!」
「もう~~~子だなんて子供扱いしてぇ~~~!!」
「チサだってユウナと私の事、子って言ったじゃん!!」
「私は良いの~~~!!」
「何?その自己中心的な意見?」
「・・・プッ」
「あはははっ」
「何だか久し振りにマホと言い争った感じがする。」
「本当本当!久し振りのような感じがするけど実は昨日も言い争っていたんだよね。」
このやり取りで弱っていたマホの気持ちがいつもの感じに戻った気がした。笑う事によって自信や勇気が湧いてきたのだ。きっとまだ心が通っていなかった昨日までの二人の言い争いもぎこちない心のやり取りだったに違いない。
「それじゃもうそろそろユウナの病室に戻ろうか!」
マホはそう言うとチサの横を通り過ぎて病室に戻っていった。その後ろをチサが振り返ってついて行ったがマホが病室のドアに手が掛かった時、
「マホ。さっきはありがとうね。」
とっさにマホは振り返った。
「えっ!何が?」
「私の事を強い子って言ってくれて・・・私も不安だけどユウナを助けられるようにマホと一緒に全力で支えるから!」
その時僅かではあったがチサも不安を感じている事が分かった。誰もが完璧な強さを持っている訳では無く、弱いからこそ不安を感じながらも心で誰かを信じ、信じるからこそ助け合って本当の強さを手に入れているんだと感じた。
(チサだって本当はどうしようも無く怖くて不安で自信が無いんだ。でもそれを表に出す事によってユウナや私までも怖くて不安になって自信を失ってしまう。だから自分からみんなへ自信や勇気を湧かせようと気丈に振舞っているだけなんだ。本当にチサは強い子だな。)
「うん!一緒にユウナを助けようね!!」
笑顔でマホはそう答えると病室のドアを開けた。するとチサが突然驚いた表情になって病室内に指を指した。
「マホ・・・あれ!」
そう言いながらチサの指差す方向に体を直すとそこにはベットの上のユウナが起き上がって外を見ていた。
「ユウナ!!」
マホとチサは同時に声を出した。その声を聞いて驚いたようにユウナが振り返った。
「あっチサ!マホ!おはよう!!」
ユウナの寝惚けたような声を聞いた二人はユウナのベットまで駆け寄ってユウナを抱き締めた。
「ユウナ!大丈夫なの?どこか痛いところとか無い?」
「うん!どこも痛くないよ。ただちょっと・・・」
「ただちょっと・・・どうしたの?」
「ちょっとまだ眠くて頭がボーッとしてるぅ~~~。」
まだ寝惚けながらあくびをしているユウナ。その姿を見て二人は拍子抜けした感じだった。
「ちょっとユウナ!私達がどれだけ心配したと思ってるの!皇魔を倒した後、いきなり気を失って今の今までずっと起きなかったのよ!!本当に大丈夫なの?」
「うん。いっぱい心配させちゃってごめんね。でも本当に大丈夫だから。」
それを聞いて二人はやっと安心した感じだった。そしてユウナのベットを挟む感じで両側にチサとマホが座った。ユウナはベットに体を倒すと
「何だか長い夢を見てたような気がする。」
「まぁ信じられない事ばかり起きちゃったから無理もないよね。私も途中からだったけど全然現実味がしなかったもん。」
「私なんて三年間現実から離れてた・・・」
ユウナとチサは目を合わせて同時に謝った。
「ごめん・・・」
マホは慌てて
「いや!大丈夫だよ!そんな謝らないで!!」
「マホごめんね。私のせいで苦しい思いさせちゃって・・・」
「だから大丈夫だって!ユウナのせいじゃないよ!とにかくみんな無事で居られて本当に良かったんだからね」
笑顔でマホが答える。ユウナはマホのその笑顔を見て安心したように
「でも夢じゃなくて良かった。」
ユウナのその言葉の意味が分からず二人は不思議そうな表情をした。
「だってマホが笑ってる。そしてチサも一緒に笑ってるから・・・」
やっとユウナの『でも夢じゃなくて良かった。』の意味が分かった。ずっとこうしてユウナ自身が大好きな友達で笑い合える時間を夢描いていたからである。ユウナもマホもチサも優しい笑顔だった。だがユウナの次の言葉に二人は凍りついた。
「あ~あ~・・・やっとマホが戻ってきて三人で仲良く過ごせると思ったのにこれから魔力を失くしちゃった私はどうなるんだろうなぁ~・・・」
「そうそうやっと三人仲良く出来るのにユウナの魔力がね・・・って何でその事知ってるの??」
「だって二人で廊下で話してる時に起きちゃったから全部聞こえちゃったんだもん・・・」
「全部ってどこから?」
「え~っと・・・パシッって音がして『バカ』って言った声で目が醒めちゃったからそこから全部。」
マホがチサを睨んだ。チサはごまかすように目を逸らして頬を人差し指で掻いた。マホはまたユウナの方に顔を戻すと
「ユウナ・・・ごめんね。私達を守る為にこんな事になってしまって・・・でも、私達全力でユウナの・・・」
「力を貸してくれるんだよね?それも聞こえてたよ。だから安心出来てるんだよね。正直私に魔力が無いて知った時は怖くて仕方なかったけど、二人が助けてくれるって言ってくれたから勇気が出たよ。だって私、二人の事信じてるもん!!」
きっと不安で仕方無かったに違いないのにユウナはいつもと変わらない笑顔で笑っていた。それは決して不安や恐怖が無くなった訳でなく、その不安や恐怖を感じなくなるくらいマホとチサの事を信じていたからであった。これから幾多の困難や障害がユウナに降りかかってくるだろう。幾度も心が折れそうになるだろう。でもきっと大丈夫信じ合える友達がここに居るから。