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第五魔界 夢にまで見た広がる先には…… 前編

皇魔との戦いの後、マホとチサはユウナを病院に連れて行った。夜遅くに女の子が傷だらけで訪れた事に看護婦が驚いて少しの騒ぎになってしまったが、自転車で二人乗りしていて転んだと説明した。幸いチサは皇魔から直接的なダメージが無かった為、無傷だったから二人を連れて来た事にしたのだった。看護婦は不審に思いつつも納得してもらえたみたいですぐに医者の先生を呼び出してくれた。これでなんとかユウナとマホの怪我の処置は施してもらえた。意識を失っていたユウナは一晩様子見の為、入院する事になった。病室のベットで未だ目醒める事無く寝ているユウナの傍でマホが椅子に座ってユウナの手を握っていた。突然意識を失ってから一晩中一度も反応が無いユウナの事が心配でチサと話し合った結果、病室に二人共居ては病院側に迷惑が掛かるという事で一人が残る事にした。そして今回の事は自分が引き金になったから傍に居させて欲しいとの願いでマホがユウナに付き添う事になった。だんだんと外が明るくなって日が昇ってきた。季節が夏という事もあって時計の針はまだ五時を回ったくらいだった。普通なら早い夜明けのように思うが、昨日の皇魔との戦いなどがあった為にきっとマホにとって果てしなく長い夜に思えただろう。それに今でもあの皇魔の言葉が頭に焼き付いて離れないでいるはずである。


・・・必ずまた戻ってきて今度こそお前らに地獄を 味あわせてやるからな!・・・


(このまま・・・このまま空間の歪に消えたままでもう二度と私やユウナの前に現れないで欲しい。)


マホは心で強くそう願った。でもきっともう大丈夫なはずと自分に言い聞かして表情を和らげた。


(皇魔はバルテさんがもう戻って来れないように空間の歪みに消してくれたんだもん。きっとこの先は何も不安に思う事は無いはずよね。でもバルテさんが言っていた『辛く厳しい日々』って何だろう?

でも、まぁ確かに学園に昨夜の事がバレるのも時間の問題だし、停学とかになっちゃうのかな・・・

はぁ~考えただけでも『辛く厳しい日々』だぁ~・・・だけどユウナと一緒ならどんな困難だって越えて行けるよね!!)


そう思いながらユウナの顔を見て頭を撫でた。するとユウナの額には汗が出ていた。


「少し暑いのかな?じゃあハンカチを濡らしてきてあげるからちょっと待っててね。」


まだ目を醒まさないユウナに優しくそう声を掛けてマホは立ち上がり病室を出て行った。ハンカチを濡らして病室に戻る途中、廊下を歩いていると後ろから声を掛けられた。


「早いね!もう目が醒めちゃったの?」


マホは振り返ると昨日処置をしてくれた看護婦が居た。


「おはよう。まだ昨日の今日だからあれだけど、傷の具合はどんな感じかな?」


「まぁ~まだ痛みますけど手当てしてもらえたお陰で楽にはなりました。昨日は遅い時間にすみませんでした。」


「ううん。怪我しちゃったんだから遅い時間とか関係無いからね。それともう自転車で二人乗りなんて危険な事したらダメだよ!女の子なんだから!!」


「はい・・・すみません。もう無茶な事はしないです。」


看護婦さんは本気の心配を冗談っぽい感じで説教した。マホも叱られている状況だったがその表情は何処かしら笑っているようにも見えた。そんな感じで笑いながら話してくれていたが、急に看護婦が真剣な顔をして尋ねてきた。


「ところでユウナちゃん・・・だったかな?彼女はまだ目を醒ましてないかな?」


「まだ目は醒まさないですね・・・それに全然反応も無いみたいですし・・・本当はどこか悪いって事は無いですよね?」


「傷の具合からみたらユウナちゃんよりマホちゃんの方が酷かったからね。それにどこか強く打って意識がない訳じゃないみたいなんだよね。ただねぇ~・・・」


看護婦は何か疑問でもあるかのような表情をして言葉を止めた。マホはもちろん気になり看護婦に言葉を投げかけた。


「ただ・・・どうしたんですか?やっぱりどこか悪いんですか?教えて下さい!!」


「いや。ただ、ユウナちゃんってジンマカイの人間だよね?」


マホは質問の意味が分からなかった。当然の事を疑問にする意味が分からなかった。そこに存在する人間が異次元や別の世界から来ていると思って話す人はまず居ないはずだ。マホは不思議に思いながらも答えた。


「はい・・・そうですけど、それと何か関係あるんですか?」


それを聞いてますます看護婦は疑問的な表情になって話し始めた。


「マホちゃんも知っていると思うけど、ジンマカイで生まれた人間は魔力というエネルギーを元々兼ね備えているの。その魔力を使って魔法が使えたり、色々な機械の動力の源となっている魔源石まげんせきを作り出せたりしている訳だよね。そしてもう一つなぜジンマカイの住人が魔力を兼ね備えているのか。それは元々ジンマカイが魔界の上にある事が原因となっているの。悪しき気が満盈し切っていた所にそれを浄化する為に強い魔力がジンマカイを覆っているの。だからこのジンマカイではその浄化している強い魔力で身を滅ぼさないように住人全員が体内に順応する為の魔力を持っている訳なの。だからジンマカイで生まれ育った人にとっては過ごしていても何にも問題無いんだけど、もし魔力を兼ね備えていない人間には浄化している魔力を浴び続けているのはとても苦痛な事になってしまうの。」


ジンマカイの住人のメカニズムを説明している看護婦が何を言っているのか理解出来ないマホだった。看護婦が話している内容は誰もが知っている当たり前の事だったからだ。なぜ今その事について説明しているのか疑問だったマホは話を遮った。


「あの・・・そのジンマカイのメカニズムとユウナの状態にどんな関係があるんですか?ユウナは生まれも育ちもジンマカイだし魔力を使っているところも何回も見ています。むしろ兼ね備えている魔力が大き過ぎるくらいで・・・それに今この時まで普通にジンマカイで過ごしてこれてるじゃないですか?すみませんが、よく意味が分からないのではっきり言って貰えますか?」


マホはこんな言葉を言いながら本当は看護婦が何を言いたいのか分かっていたはずである。でも現実を受け止められないマホもそこにはあった。むしろ十四歳の女の子がその現実を冷静に受け止められるはずも無い。看護婦は少し言い出すのをためらったが意を決して話した。


「ユウナちゃんに魔力が無いの。体力や精神力が弱っている時に魔力が弱まるって事はあるけれど。全くユウナちゃんから魔力が感じられないの。どんな事があったのかは知らないけどユウナちゃんは普通の人間よ。だから一応、病室内に浄化魔力が入らないように遮断しているけど、全てを遮断するのは難しいの。私がどうこう言えないけど正直この先ユウナちゃんはジンマカイには居られないかも知れないわね。」


看護婦は言い辛そうにそう話してマホから目を逸らしてしまった。皇魔との事にユウナを巻き込んでしまったが何とか解決出来、ユウナとまた平穏な日々を過ごせると思っていた矢先、またユウナを苦しめる事になってしまったとマホは消沈してしまった。そしてある言葉が脳裏に浮かんだ。


『これからがユウナにとって辛く厳しい日々になるじゃろう。』


(バルテさんが言っていた事はこの事だったんだ!無事にユウナが助かったと思っていたのに私達を助ける為に『魔力自体』を失ってしまうなんて・・・ユウナの笑顔を守ろうと思っていたのに結局私がしている事は酷い事をして傷付けて、皇魔との戦いに巻き込んだ挙句、ユウナから『魔力自体』を失わせてしまうなんて・・・悲しませてばかりじゃん・・・不幸にしてばかりじゃん・・・)


マホは看護婦に背中を向け、ユウナの病室へとゆっくりと歩き出した。


「あっ・・・マホちゃん・・・」


とっさに看護婦が声を掛けたが、マホは無反応のまま立ち去ってしまった。マホの頭の中はユウナへの罪悪感と自責の念で一杯になっていた。ユウナの病室のドアに手を掛けると中に人の気配を感じた。恐る恐るドアを開けるとそこにはチサが居た。


「あっおはよう!やっぱりユウナの事が心配で夜も眠れずにこんな早くに来ちゃった。もしかしてマホも全然眠れなかったとか?」


いつも通り元気で明るいチサだったが、ユウナの状況を知ってしまったマホにとってその明るさは胸が痛んだ。ユウナはマホにとってかけがえなく大切な存在であると同時にチサにとってもユウナは大切な友達である。ユウナの状況を話してしまえばチサはどんな言葉を言うのだろう。全ての引き金となったマホを責めるのだろうか。複雑な気持ちの中、チサはぎこちない笑顔になってしまったがユウナの傍まで行き、濡らしたハンカチでユウナの額の汗を拭きながら答えた。


「うん。私も全然眠れなかったよ。っで、ユウナがちょっと暑いみたいで汗をかいていたからハンカチを濡らして来たところなの。」


「そっか。眠れてないなら疲れているよね?それにマホは三人の中で一番怪我してるんだから無理したらいけないよ。ところでユウナはあれから一度も目を醒ましてないの?」


「・・・うん。」


二人はお互いに言葉を閉ざした。ちさにとっても途中からとはいえ皇魔に引き込まれそうになっていたユウナの姿は衝撃的な光景だっただろう。マホの心も全てを分かった上に簡単に人に話せる内容でない為、胸が張り裂けんばかりに辛かっただろう。少し時間が流れた時、マホがチサに言葉を投げかけた。


「ところでチサは普通に私と話しているけど、私ユウナばかりかチサに対しても酷い事たくさん言ったのにどうして普通で私と居られるの?ムカついてるとか嫌われてても仕方ないと思うんだけど・・・」


気まずい感じで言うマホに対してチサは笑顔で明るく答えた。


「正直すっっっごくムカついてるし、大大大っっっ嫌いだよ!!」


「ええっ・・・」


そんな事笑顔であっさり言うのかよみたいな顔でマホが驚いていたが、チサは優しい表情で


「でもね!もう今までのマホと違うんだなって分かってる!私がユウナの手を必死で掴んでる時にマホも一緒になって必死になってくれた。あの時のマホの表情凄かったんだから!!あとそんなにボロボロになってもユウナの事を守ってくれた。それだけで十分これまでの事は何か理由があったんだと思うし、これからもマホを嫌いで居続ける理由が無いしね。ユウナを守ってくれてありがとう。やっぱりマホはユウナがいつまでも大切に思っているだけあって優しい女の子だね。」


「そんな・・・全然私なんて優しくないよ・・・」


マホは胸の奥がズキズキ痛んだ。ユウナを傷付け、巻き込んでしまった事ばかり気にしていたがチサも同じように傷付けてしまっていたのに許してくれたばかりか優しく受け止めてくれた。こんなにも嫌いだった相手の事を考えて理解しようと思ってくれた事が凄く嬉しく思えた反面、自責の念で押し潰されそうになっていた。なぜなら今のユウナは魔力を失いジンマカイに居られない状態になっていたからである。その原因の発端は自分だとマホは感じている。チサはその事を知った上でもマホ自身を優しく受け止める事が出来るのだろうか?


「それに三人一緒にこんな大変な思いを共有しちゃったんだから私達もこれで友達同士でしょ。ユウナが大切だと思う友達は私にとっても『大切な友達』だから。」


チサが言ったその言葉はマホにとって涙が出るほど嬉しかった。今まで『大切な友達』と思うのも思われるのもユウナだけだった。他にも『大切な友達』と思えたり思われたり出来るなんて想像にすら出来なかったのである。だが、その言葉によってマホの迷いは断ち切られたのだった。


(チサには全てを話そう!!だってあの場にチサだって居たのだから全てを知る権利があるもん。せっかく私の事を『大切な友達』と呼んでくれたのに話を聞いたら、もうそんな風には呼んで貰えないんだろうなぁ・・・)


マホは決心をしたような表情でチサの方に振り返り廊下へと誘った。


「チサ・・・ちょっと大事な話があるんだけど、廊下に出て話さない?ユウナの前だと大きな声で話せないしね。」


マホの真剣な表情を見てそれまでずっと笑顔だったチサも空気を悟り真剣な表情になった。そしてゆっくりと返事をした。


「うん・・・いいよ。」


二人は立ち上がりマホを先頭に静かに病室を出ていった。夏場だが時間も早い為、廊下はひんやりとしていた。それに起きている患者も少なくまだ廊下を歩いている人は見当たらなかった。二人はドアから少し離れるとマホは立ち止まりチサの方に振り返って向かい合う形になった。話す決心が出来ていたマホはすぐに話を切り出した。


「これからする話を聞いてまた私の事を嫌いになってしまうかも知れないけど、私はユウナの為に精一杯出来る事をしていこうと思うの。だからこれからもユウナの傍に居させて欲しい。だけどチサがそれは絶対に許さないと言うならもうユウナの傍にもチサの前にも現れない。そういう思いを持っているって事を踏まえた上で話を聞いて欲しい。」


「うん・・・分かった。どんな話でもマホのユウナへの気持ちは信じるよ。」

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