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第四魔界 強い想いが呼び起こしたものとは…… 後編

皇魔は恐怖を感じているようだった。余裕に満ちていた表情をしていた皇魔の姿はもうない。そうしている間に空に浮かび上がった魔方陣の光の中からゆっくりと姿が見えはじめた。ユウナ達は徐々に姿があらわになるにつれて言葉を失った。大きな体から首が伸び、広げると全てを包み込んでしまいそうなほどの翼、太い四本足の先には四本の指に黒い鋭利なツメ、そして一撃で何でも壊してしまいそうなほどの尻尾。その姿はまるで・・・


「まさかこんな生物が本当に居るなんて・・・」


「マンガや映画でしか見た事無いよ・・・」


マホとチサが驚きを隠せないように口々に言っていた。だが次に放った言葉は一緒だった。


「・・・ドラゴン!!」


悪魔を見た後でもそのインパクトは凄かった。架空の生物だと思っていたものが目の前にあるのだから。言ってみれば悪魔なんて誰でも心の中に一、二匹くらいは飼っているんじゃないのだろうか?ふとした瞬間に魔が差して後から後悔なんて事よくある事。だが、心の中にドラゴンを飼ってるって人は未だ見た事がない。もしかしたら居たのかも知れないけど、そんな単純に飲み込めるほど人間って頭が柔らかい生き物じゃないんだと思う。こうやって話していても悪魔が居ても別に驚きはしないし、世間話でも出てきても変じゃない。けどドラゴンって言葉を日常で使う事があるだろうか?きっと特別な事があるか、ファンタジーや映画でも作ってる時しかきっと創造しないだろう。ユウナ達の驚きは並大抵じゃなかったであろう。しかも・・・


「もう二度と悪さが出来んように今度こそお前を完全に消滅させてやるわい。その前に大人しくその子  を離してあげなさい!」


「・・・。」


ユウナ達と皇魔は言葉を失った。なぜならちょっと前に説明した通り姿、形、威圧感、どれをとっても恐ろしく震えるほどなのです。ですが、そんなドラゴンが喋った事にユウナ達と皇魔は意表を突かれてしまったのだった。しばらくしてマホが小さな声で言った。


「喋った・・・。ドラゴンって言葉話せるんだったの・・・?」


その疑問にチサが恐る恐る答えた。


「いや・・・ドラゴンって吠えるってイメージがあるんだけど・・・。もしかしたらドラゴンじゃなく  て、龍なのかも?」


その答えにマホが更に疑問をぶつける。


「じゃあ龍は喋るの・・・?」


「えっ・・・龍は・・・」


チサはもう答えられなかったが、確かな事は分かっていた。マホは絶望状態だった表情から希望が沸いたかのように少し笑いながら言った。


「とりあえず何にしてもユウナを助けてくれる為に出てきてくれたって事は確かだよね!!これでみんな 一緒に生きて帰れるんだ!!」


「でも、あの姿なのに喋り方がアレだよ・・・皇魔の強大な力に本当に対抗出来るのかな・・・?」


チサが夢も希望も無い事を言い放った。だが、マホは言い返せなかった。皇魔の力を目の当たりにして手も足も出せないほど強大だった事を知っているからだ。それと違ってドラゴンの方は見掛けは強大以上の力を持っていそうな感じがするが、間の抜けた喋り方が皇魔以上の力を持っているようには思えなかったからだ。


「お、お前は・・・まさか・・・」


一方、皇魔の方は未だに体を強張らせて恐怖を感じているようだった。


「あの時、お前も無事では居られなかったはずだ!それにその姿は力を失ってはいないという事か!!」


ドラゴンは落ち着いた感じで答えた。


「いやいや。おかげさんで無事じゃなかったわい。あの時の戦いでわしは命を落としかけたというより、 きっと落としたんじゃろうな。だが、魂だけが進化をして召還獣となったわけじゃ。そして今しがたユ ウナに召還されてお前の目の前に現れたという事じゃ。」


「ユウナがお前を召還しただと!!確かにユウナの秘めた力はとてつもないが今のユウナにそんな膨大  な魔力を出せるなんてあり得ない!!例え出来たとしてもタダでは済まないはず・・・」


「ふぉっふぉっふぉっそうじゃな。今のユウナではわしを召還するなんぞ出来るはずがない。だからタ  ダじゃ済んどらんよ!!」


その言葉にマホとチサの表情が凍った。目の前に居るドラゴンはユウナを助ける為に自ら来たのではなく、ユウナに召還されて来たのだという。自分の『許容範囲以上の魔力』を使って召還を行う事はジンマカイではタブーとなっているからだ。身が砕け散り消滅する可能性もある事をジンマカイの住人は小さい頃から教わっているし、今日の授業でも言われていた。マホとチサが希望を感じていたところにまた絶望が襲ってきた。自分達を助ける為にユウナはタブーとされている『許容範囲以上の魔力』を使ってしまったんだと、マホとチサは膝から崩れ落ちて両手をついた。そして心で自分達を責めた。


(ユウナを魔界に行かせないように引き止めた事によってユウナを余計に追い込んでしまったんだ・・・ あそこで引き止めなければユウナは生きてた・・・でも魔界には行ってしまう・・・必死に引き止め  た事でユウナは魔界に行かせずに済んだ・・・けれど逆に私達を助けようとタブーの『許容範囲以上の 魔力』を使ってしまった事によって体が消滅してしまうかもしれない・・・もうユウナを助ける術はな いの・・・?)


ドラゴンは尻尾を地面に叩き付け、その場の雰囲気を断ち切った。そして魔力を一瞬にして高め、一息ついて言った。


「さて、そろそろお喋りはこれぐらいにしてユウナを離して貰おうかのぅ。それとお前達二人、よくユウ ナを空間に飲み込まさないように頑張ったなぁ。もう手を離しても大丈夫だからこっちに来ていなさ  い。」


恐る恐る手を離してみるとユウナの体は浮いているだけで空間に引き込まれなくなっていた。少し安心した二人はドラゴンの言う通りにして尻尾辺りまで下がっていった。それを見ていた皇魔が怒りをあらわにした。


「そんな事が出来ると思っているのか!俺とお前が戦えばこのジンマカイごと破壊してしまいかねないん だぞ!!タダで済まないんだぞ!!」


皇魔は地響きがするくらい魔力を放出して声を荒げた。だが、何かを焦っているように見える。ドラゴンは相変わらず落ち着き払い皇魔の言った言葉に動揺すらないようだった。


「タダで済むとも。今のお前はわしに攻撃するどころかわしの攻撃すらも避けられん。なぜなら今、魔界 とジンマカイの空間を繋げる術を出しているお前は無防備にならざるを得ん。そうなればお前とユウナ を離す事くらい容易いわい。」


そう言うとドラゴンは呪文を唱え始めた。そうするとユウナの体が光の粒に変わり消えていった。


「なっ!!」


皇魔はびっくりして声を上げてしまった。その驚きは皇魔だけでなくマホとチサも同じだった。だが、二人には『許容範囲以上の魔力』の代償で消えてしまったように見えたのだった。悲しみで顔を落とした二人にドラゴンが話し掛ける。


「どうして悲しんどるんじゃ?ユウナを皇魔の手から救ってやったんじゃぞ?」


それに絶望をあらわにしたようにマホが答える。


「ユウナが消えちゃったら意味無い・・・生きて助けてくれないと意味無いじゃん!!」


「安心せい!ちゃんと助けちょるわい。」


泣き崩れてる二人の目の前に光が集まりだし、その光の中からユウナが現れた。ユウナ自身も自分に何が起こったのか分からなかった。気が付いたらマホとチサの目の前に立っていた。状況が飲み込めていないユウナにマホとチサが抱き付いた。


「本当に・・・良かった。もう二度とユウナの事をこうして抱き締めれないかと思ったよ・・・もう一人 で無茶したらダメだからね!!」


チサはユウナが皇魔の手から離れられた事に安心して涙が止まらなかった。もちろんマホも同じようにユウナが無事に戻って来れた事に安心して素直な思いを口にした。


「ユウナ・・・良かった!!私、凄く不安で・・・ユウナを巻き込まないつもりだったのに・・・こん  な事になっちゃって本当に・・・ごめんなさい。たくさん怪我させちゃって・・・本当にごめんなさ  い。それと・・・あと・・・」


マホは顔を落として言葉を詰まらせたように少し黙り込んだ。一方、皇魔はユウナを失い混乱に陥っていた。


「何て事だ!!いとも簡単にユウナを奪われてしまうなんて俺とした事が!!全てお前のせいだあぁぁ!!バルテ!!」


「ふぉっふぉっふぉっ覚えてくれちょるようじゃのぅ。さてお前にはもうそろそろ魔界に帰ってもらう事 にするかのぅ。」


そう言うとドラゴンのバルテは呪文を唱え始めた。そうするとさっきまで引き込む力が弱まっていた空間の歪みが皇魔の体を強烈な力で引き込み始めた。


「ぐうぅぅぅっ!!このままで済むと思うなよ!必ず・・・必ずまた戻ってきて今度こそお前らに地獄を 味あわせてやるからな!それまでユウナよ!俺の為にたっぷりと力を蓄えておくがいい!!!あははは っ・・・」


その言葉を残して皇魔は空間の歪みに引き込まれていった。歪みはすぐに何も無かったように消えていったのだった。皇魔を帰す事に成功し、不安が消え去った。全てを終えた頃マホがユウナに話の続きをしようとしていた。マホは落としていた顔を上げると目から大粒の涙をこぼしながら話した。


「ずっと冷たい態度をとったりして・・・ごめん・・・ね。私が勝手に秘密にしてユウナを傷付ける事ば かりして馬鹿だよね・・・本当は入学した時にユウナを見つけて凄く嬉しかったんだよ・・・あの頃と 変わらずに優しく話し掛けてくれた時、私も話したくて話したくて仕方が無かった・・・でも口にする のは酷い言葉ばかりで胸の奥が苦しかったよ・・・こんな私なんて嫌いになっちゃったよね・・・?あ の頃みたいにもうユウナの笑顔見れないよね・・・?でもこれだけは言わせて!私はユウナが助けてく れたあの時から今この瞬間まで忘れた事なかったし、ずっと大好きだよ・・・ユウナちゃん!!」


マホは笑っていた。あの頃と同じ無邪気な笑顔でユウナを見つめながら笑っていた。ユウナは片手でマホを抱き締めながら思いに答えた。


「やっと私の顔を見ながら“ユウナちゃん”って呼んでくれたね。教室から出て行く時も呼んでくれたけ ど後ろ姿だったからね。私の怪我なんて擦り傷程度だけど、マホはこんなにボロボロになってるじゃ  ん。私の怪我の心配の前に自分の体を心配してよ・・・毎日苦しい思いをしていたのに気付いてあげら れなくてごめんね。マホの事、嫌いになったりしないよ!だってこんなに辛い思いをして一人で悲しん

 でこんなになるまで私の事を守ってくれたのに嫌いになんてならないよ!・・・それにありがとう!私 との思い出忘れないでいてくれて・・・正直マホに毎日冷たくされてた時は変わっちゃったのかな?忘 れちゃったのかな?って思っちゃったけど、やっぱりマホはマホのままだね。これからも私はマホに笑 顔を見せ続けるし、マホもあの頃と同じ笑顔を見せて欲しいな!・・・おかえりマホ!!」


閉ざしていた心を再び開けてまた無邪気に笑い合える時だった。大切な人を守る為に孤独に傷付き、嘘の気持ちを振りかざして誰も巻き込まないようにしていた。そんな苦しい思いをする時間は終わったのだった。友達の温かさ、心のままに笑える気持ち良さ、そして孤独じゃないという事の安心感がそこにはあった。全てを終えて気を抜いていた時、突然ユウナの意識が無くなった。


「ユウナっ!ユウナっ!」


何度呼び掛けてもユウナからは反応が無い。慌てるマホとチサに対し、相変わらず落ち着いているドラゴンのバルテが二人に話し始めた。


「心配せんでもユウナは死にゃせん。だが『浄綜澪珠』を今のまま体内に宿しておく方が命の危険が出て きてしまう。強大な力を持って生まれてきてしまった故の結果かも知れんな。これからがユウナにとっ て辛く厳しい日々になるじゃろう。じゃがお前達のようにユウナの事を思っておる者が傍で力を貸して やれば全て乗り越えて行けるじゃろう。ユウナの事頼んだぞ。」


そう言って魔法陣の中にバルテは姿を消した。これからユウナにとって始まる辛く厳しい日々とは何か?『浄綜澪珠』とは一体何の事なのか?マホとチサはユウナの状態が心配でバルテに聞く事も出来なかったのである。すっかり夜遅くなってしまった二人はユウナを病院に運んで行ったのだった。

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